368 イチャラブカップルのシチリア強襲記(後編)
先ほど投稿した話の続きとなっています。
ところで桜は単独でマフィア組織に向かっているのに、なぜシチリア公爵邸には聡史と美鈴というペアが向かっているのか? この点について少々疑問が残るかもしれない。
この原因を作ったのは、前述した通りカレンたち一行がベオグラードで拉致された挙句に人身売買組織をその場で叩き潰してしまったことが直接的な原因となっている。
学院長とカレンの電話での遣り取りにもあったように、このセルビアの人身売買組織を壊滅に追い込むために派遣されるのは元々はジジイの分担と決まっていた。その理由は「仮に孤児院に何らかの手出しをするとしたらこの組織が直接動く可能性が最も高いだろう」という量子コンピューターの回答によるところが大きい。
要は「直接行動する敵方の部隊は真っ先に徹底的に潰しておこう」という論理の元に、何も言わなくとも草木の一本も生えない勢いで殲滅してくれるジジイの派遣が決められていた。
ところがそのジジイの分け前が急になくなってしまったものだから、学院長としても作戦計画の練り直しをせざるを得ない。その結果、美鈴が受け持つ箇所をジジイに振り向けて、その美鈴は聡史と一緒に行動させるというプランに変更を余儀なくされる。
もちろん美鈴としては、聡史と一緒というなら何の文句もなく首を縦に振るのは当然の話。
かくして作戦前に聡史と美鈴のラブラブタイムが繰り広げられるよいう結果に繋がっている。このような人員配置を決定したのは学院長ではあるが、大元の原因を手繰っていくとカレンが大いに関わっているというのは、ちょっとした運命の皮肉なのかもしれない。
そんなことはさて置いて、相変わらず浮かれ気分で聡史に腕に絡みついてラブラブ状態のまま公爵の屋敷の正門前に立つ美鈴。
「美鈴、そろそろ気持ちを切り替えてもらわないと困るぞ」
「仕方ないわねぇ~。本当にもったいないけど、任務がある以上はしばらくは我慢するわ」
不満タラタラで聡史の右手に絡めている自分の左腕を離す美鈴がいる。本当に渋々といった様子は、この場面を見ている人がいたら百人中百人がそう証言するはず。
ようやく美鈴がガッチリとホールドしていた右手を解放された聡史は…
「さて、どうやって内部に侵入するかなんだけど」
「ねえ、聡史君。正面玄関に向かって左右に並んでいる像なんだけど、なんだかイヤな感じがしない?」
中世の城と呼ぶにはやや近代的な造りに映るが、それでも地方領主の館にしては壮麗で大規模な建築物が敷地の奥に聳えており、その手前側には芝生が敷き詰められた広大な前庭が広がっている。そして門から屋敷の正面玄関に通じる石畳の左右にはそれぞれ10体ほどのギリシャ様式の彫刻が列をなして据え付けられている。
一見するといかにもな貴族趣味のように映るが、美鈴の目には居並ぶ彫刻の列がどうにも違和感を醸し出しているように感じられるらしい。
「確かに剣呑な雰囲気を感じるな。どうせだったらこの正門ごと彫刻も叩き斬っておこうか」
「頼もしいわね。聡史君に任せるわ」
「それじゃあ、美鈴は建物の全面に強力な物理シールドを展開してくれるか」
「あら、どうしてそんな必要があるのかしら? どっちみち叩き潰すんだったら屋敷ごとでもいいんじゃないの?」
「ターゲットは確実に仕留めておきたいからな。屋敷が崩壊した瓦礫の跡地で死体を探し回るのはちょっと御免蒙りたい」
「わかったわ。物理シールド」
「オーケーだ。ちょっと下がっていてくれ」
美鈴が数歩後方に下がると、聡史はアイテムボックスから魔剣フラガラッハを取り出して鞘から引き抜くと…
「空斬刃ぁぁ!」
多少気合いは抑え気味に右斜めに魔剣を振り下ろすと、返す剣で反対方向からもうひと振り空斬刃を放つ。聡史が放った二振りの斬撃は、若干のタイムラグを発生させながら正門の鉄製門扉をⅩ印にぶった切ったのちに、前庭に並ぶ彫像へと向かっていく。
目に見えない斬撃が通り過ぎると像の表面に極細の斬り跡が刻まれたかと思ったら、その斜めに刻まれた線に従って像の上部が台座から滑り落ちるように崩壊していく。ガラガラと音を立てて芝生の上にパーツとなって転がっている塑像の一部からはパチパチと音を立てて火花がスパークする様子が見て取れる。
どうやらマフィア組織の本拠地にあったガーゴイルと同様に、この屋敷にも同様の防犯システムが設置されていた模様。というか、なにを隠そうこの彫像の内部には、侵入した招かざる客に対して容赦なく高熱を浴びせるレーザービームを発する装置が仕込まれていたというのが事の真相。
いまだ世界各国の軍が実用化に向けて悪戦苦闘しているこのような未来兵器が、なぜ実用レベルでこの屋敷に設置されているのかといえば、当然ながらそこにはレプティリアンの影が付きまとうのは誰にでも容易に察せられる話だろう。
正門に至る道がクリアになったところで美鈴がシールドを解除すると、大きな音を立てて正面の大扉が開け放たれたかと思ったら、そこから大勢の人間が武器を手にして飛び出してくる。
「侵入者だぞ! 発見次第血祭りに挙げろ!」
「手加減するな! 見つけ次第発砲しろ!」
「同士撃ちに気をつけるんんだ!」
屋敷の正面入り口を守るように散開すると、横一列になってこちらに向けて銃を構える光景が展開されている。
彼らは一様に迷彩服を身にまとってはいるが、体のどこにも所属する国家を示す記章や部隊内の地位を示す階級章の類が見当たらない。つまりここにいる銃で狙いを定める男たちは、どこからどう見ても不法に武器を所持するテロ集団と断じて差し支えない。
「聡史君、私に任せてもらっていいかしら?」
「ああ、この場は大魔王様にお任せする」
「それでは、お楽しみタイムの再開に向けて奮発するわ。ダークウインド」
「お楽しみタイムって…」
聡史のツッコミが終わらないうちに美鈴の右手から漆黒の風が放たれたかと思ったら、あっという間に一列に並んだ男たちの元に届けられていく。
ダークウインド… それは以前異世界のアライン砦において、大量に産み付けられた怪物アリの卵に向けて発せられた生命力そのものを奪い去る恐ろしい闇の術式。もちろんこの魔法を体に浴びた男たちは、その場で生命力を根こそぎ奪われて地面に倒れ込む。
だが…
「あら、二人だけ私の闇魔法が効かなかったみたいね」
「美鈴にしては珍しい取りこぼしだな」
「聡史君、それはちょっと失礼じゃないかしら。これは取りこぼしなんかじゃないわよ」
「何が違うんだ?」
「相手が闇の波動を打ち消す力を持っていたということね。つまり、今立っているのは人間ではなくってレプティリアンだということよ。これでダークウインドが人間とレプティリアンを見分ける時に役に立つとわかったわ」
「いやいや、人間のほうを殺してしまったら意味がないだろうに」
確かに聡史のツッコミには一理ある。せっかく人間とレプティリアンを見分けたところで、生きているのがレプティリアンだけというのは何とも意味がない。
そんな聡史は横において、美鈴はレプティリアンの攻撃に備えて対処を開始。
「物理シールド」
聡史のツッコミが終わるや否や、残った2名がこちらに向けて小銃に引き金を引いて即座に発砲してくる。もちろん美鈴のシールドに阻まれて効果はないのだが、全弾撃ち切る勢いで発砲してくるので少々面倒になってくる。
「美鈴、俺に任せてくれ。シールドから出るぞ」
「ええ、気を付けてね」
聡史は美鈴のシールドの端に回るとそこから全力ダッシュを敢行。その様子を見た2名の射撃手が小銃を聡史に合わせようと銃の向きを変えると、今度は別方向に向かってダッシュ。こうして何度か敵が照準を合わせるのをあざ笑うかのように翻弄しながら、聡史は両手の平に何かを集め始めている。
「さあ、食らってみるがいい」
小さなモーションで射撃手に投げ付けたのは、黒い靄のような実体が有るのか無いのかなんとも判明が難しい物体。なにを隠そう、それは学院長との血の滲むような訓練で会得した暴走魔力に他ならない。
左右の手からそれぞれに向けて投げ付けられた暴走魔力は、盛んに銃をぶっ放していた男たちをボンという爆発音と共にあっという間に包み込んでは、その体を侵食し始めていく。
「ウギャ~!」
「か、体がぁぁぁ!」
あっという間に体を覆う外殻が分解され始めると、2名のレプティリアンは慌てて外殻を脱ぎ捨てて脱出を図ろうと試みるが、その努力は虚しい結果に終わる。そもそも体全体を暴走魔力が覆っているのだから、外殻を脱ぎ捨てたら今度は本体が分解される番なのは当然だろう。
こうしてあっという間に暴走魔力の餌食となった2名のレプティリアンは、得体の知れない粉末状の物質を地面に残して消え去っていく。
「やっと静かになったな。美鈴、内部に踏み込むぞ」
「ええ、いきましょうか」
門と屋敷の中間地点にいる聡史が呼び掛けると、美鈴は小走りで彼の元に近づいていく。そのまま周囲を警戒しつつ進んで開け放たれた扉の影から様子を窺うと、そこには外に飛び出してきたのと同数の男たちが銃口を出入り口に向けて立っている姿が目に飛び込んでくる。
「私がやるわ。同じ手で行くわね。ダークウインド」
再び死を呼ぶ闇の波動が放たれると、先程と同様に2名の男だけが生き残って、他の者たちはその場で息を引き取る様子が聡史の目に映る。
「残った連中は俺に任せてくれ」
聡史はフラガラッハを手にしたまま屋敷の内部に突入。銃の照準を絞らせないようにジグザグに走ってあっという間に真横から接近すると、あまりのスピードに完全に聡史の姿を見失った男は反応が遅れてまだ入り口方向を向いたまま。
「まずはひとり目」
聡史の剣は水平方向に振り切られて、そのまま外殻ごとレプティリアンの首を叩き斬っている。
レプティリアンの防御の基本は体の表面を覆う固いウロコと、そのウロコの表面に敵の攻撃を中和する特定の波動を纏うことだが、現在美鈴の魔法に周波数をチューニングしていたため聡史が繰り出す剣による物理的な攻撃にはまったくの無防備状態。
もっとも高々レプティリアンのクローン程度では、どんなに頑張ったところで聡史の剣をまともに受けてしまえば体を真っ二つにされるのがオチなのだが…
かくしてもう一体も同様に一撃で首を刈られて床に沈んでいく。一階のフロアーには夥しい死体が散乱する惨状だけが広がって、先程までとは打って変わって夜も更けた静けさだけを取り戻していく。
「どうやら二階にかすかな気配を感じるな」
「だったらさっさと行きましょう」
ぶっちゃけ言うとこの時点で、美鈴としては「お楽しみタイム」は現在は最優先事項ちなっているよう。その瞳には「多少手荒い手段を用いてでも、いち早くこのミッションを終わらせる」という極めて物騒な光を宿している。その魂の根本はルシファーを内包する大魔王様だけに、単純なヤバさだけなら桜すら凌ぐかもしれない。
聡史を先頭に正面階段を昇って一階と二階の中間にある踊り場に差し掛かって上方を見上げると、そこにはお仕着せのメイド服を身にまとった2名の若い女がこちらを見下ろしている。
「ダークウインド」
美鈴の手から魔法が放たれるが、メイドたちは涼しい顔でやり過ごすと、妙に口角が吊り上がった表情で言葉を発してくる。
「我等にとっては家畜同然の分際でお館様に牙を剥くとは片腹痛い。この場で立場を弁えさせてくれるぞ」
「家畜には家畜に相応しき死を」
なんともヒドイ言い草だが、美鈴は表情ひとつ変える様子がない。彼女にとってはレプティリアンごときはゴキブリ以下の滅ぼして然るべき存在と認識されている。ゴキブリが人間相手に多少の暴言を発したところで気にも留めないのは当然だろう。もちろんこの考えはルシファーさんの大いなる影響を受けているのは言うまでもない。
「薄汚い羽虫の分際で生意気に人間の言葉を使用するなんて不敬にも程があるわね。ねえ、聡史君。どうやら公爵の周辺の使用人たちはすべてレプティリアンだと考えたほうが良さそうだわ」
「いや、むしろ公爵自身もどうだか。それよりも相手が女だからといって手心を加える必要はいらないようだな」
聡史の瞳が美鈴に負けず劣らずの冷酷な光を宿し始める。自らを上位に位置する存在として人間を家畜扱いするような種族に対しては、何ら同情する気持ちすら起きないのは至極当然だろう。
メイドたちは右手に短剣を構えている。だが、彼女たちが剣を振り上げることはない。なぜなら聡史が信じられない速度で階段を駆け上がると、そのまま二体まとめて首を落としているから。
それは桜はしょっちゅう見せる瞬間移動並みの素早さに引けを取らない目にも留まらない動き。もちろん聡史としては少々スキルを用いただけなので、この程度で自慢するような話ではない。とはいえかつてアライン砦でジジイからアドバイスを受けた結果、試行錯誤しながらではあるものの徐々に聡史の剣技が何かしらの方向性を見つけたように見えなくもない。
こうして待ち構えるメイドを排除すると、聡史と美鈴は二階の廊下へと到達する。当然ながらメイド軍団の襲撃は一度では終わらずに、廊下脇の部屋から躍り出ては繰り返し脅かそうと試みるも、冴え渡る聡史の剣によって悉く退けられていく。
そして公爵の執務室と思しき部屋の前に立ちはだかるは、先日カイザーの元に先触れとして姿を現した執事。いや、正確には現在は執事服をまとったレプティリアン・ナイトとして聡史に対峙している。
「上位種が守護をしているということは、この部屋にお前の主君がいるということで間違いないようだな」
「人間風情がよくぞここまでやってきたものだ。その点は褒めてやりたいが、我らとしても貴様らがもたらした損害はさすがに看過できぬ。クローンはたやすくく手に入っても、メイドとしての教育には相応の時間をかけておるのでな」
どうやらこの執事には仲間の命が多数失われた感傷など一切無いよう。その口が「メイド教育に要した時間が惜しい」と言ってのけているのだから、レプティリアンにとってはクローンなど所詮は使い捨ての便利な道具に過ぎないのだろう。
「そんなセリフを口にするお前だって、どうせクローンだろうに。本物のレプティリアンは地下から出てこないことはわかっているぞ」
「何をバカなことを申すのだ。我は誇り高きレプティリアン・ナイトの血を引く者。そこいらに転がっている安っぽいクローン共とは違うのだ」
「俺からしたらレプティリアン・ナイトだろうがロイヤルだろうが、薄汚いトカゲにしか見えないぞ。大人しく地面を這い蹲って虫でも捕食しているのがお似合だ」
「貴様ぁぁぁ! 絶対に許さんぞぉぉぉ!」
往々にしてレプティリアンの上位種はそのプライドの高さゆえにちょっとした煽りで我を見失う程にキレてくれる。もちろん聡史としては相手が冷静さを欠いてくれたほうが仕留めやすいのは言うまでもない。
短剣を大振りに振り被って向かってきたところ、その斬撃をやり過ごして後方に回り込むと、心臓部に背中からフラガラッハを突き立てている。もちろんトドメとばかりに少量の暴走魔力を流し込むのも忘れてはいない。
「ウギャァァァァァァァ!」
体の内部に流し込まれた暴走魔力が内側から組織を分解していく痛みに断末魔の叫び声をあげる執事服のレプティリアン・ナイト。そしてその体はあっという間に分解されて、服とわずかな粉末状の痕跡をカーペットに残すのみ。
「あとは親玉だけか」
「ええ、そのようね」
聡史と美鈴が執務室に踏み込むと、予想通り万物を分解するレプティリアン特有の波動が二人を目掛けて襲い掛かってくる。
「甘い!」
だが、聡史がフラガラッハを上段からひと振りすると、その斬撃が引き起こす衝撃波によって跡形もなく消し飛ばされていく。それだけではなくて、執務室にあった調度品や窓ガラスなどが衝撃波によって一切合切破壊されて、この部屋だけが一気に戦場になったような有様。
「あら、聡史君。ずいぶん調子が出てきたみたいね」
「なるべく建物に被害が及ばないように気を遣っていたけど、面倒になってきただけだよ」
「何でもいいわよ。私がウットリするくらいに完膚なきまでにやってちょうだい」
どうやら美鈴は、すっかりこの場は聡史に任せっきりになっている模様。それどころか、聡史の暴れっぷりに大きな期待を寄せている心情を隠す様子もない。どうやら相変わらずデレ状態は継続中らしい。
それはそうとして、荒れ果てた室内に入り込むと、そこには剣を構えたかなり年老いたレプティリアン・ナイトが立っている。
「まさかセバスまでが倒されるとは。貴様らを少々見くびっていたようだ」
「へぇ~、あの執事はセバスという名前だったのか。わかりやすすぎて何のヒネリもないな。零点だ」
「なんだと! せっかく我の後継者として長く育てておったのが、貴様らのせいで水泡に帰したではないか。この償いはその命で果たしてもらうぞ」
「いや、そんなのもういいから。お前たちのような連中の顔を見るのはもう飽き飽きしているんだよ。いずれはアメリカのように地下の拠点を滅ぼしてヨーロッパ中からレプティリアンを駆逐してやるぜ」
「な、何だと! その口振りからすると、アメリカにいた我が同胞を死に追いやったのは貴様らかぁぁぁぁ!」
「ああ、そうだ。だからどうした?」
「許さぬ! 絶対に許さぬぞ! 今こそ同胞の仇をこの場で晴らしてくれよう」
奥歯をギリギリと鳴らしながら、レプティリアン・ナイトは手にする剣に力を込めている。
「だから、もうそういうのはいいんだって。ヨーロッパの地下拠点を叩き潰すのは極めて近い将来の決定事項だ。お前たちは定められた運命に逆らえないんだよ」
「バカを申すでない! 愚かな人間共の運命を創ってきたのは他ならぬ我ら。その栄光ある我が種族が人間ごときに運命を決められてたまるものか」
「バカはお前のほうだよ。お前らが表立って地球の支配に乗り出してから1万年以上が経過しているんだ。そろそろそのカビの生えた頭を切り替える時期に来ていると気付いたらどうだ?」
「この人間風情が! 神にも等しい我らに歯向かうとは、あまりにも愚かな行為だとまだわからぬのか?!」
「だが、お前らレプティリアンは神ではない。強いて言えば、長い時間神を僭称して不当に人間を支配してきた詐欺師だ」
「何をバカな! 我らは人間共を導いてきた偉大なる種族。人間共など我らからすれば取るに足りない存在に過ぎぬ」
このレプティリアンはまだ気づいていない。自らを「神に等しい種族」とは呼ばわっているものの「神そのもの」とは断言していないことに。というか、人類を創造したのは自分たちとは別の存在だとわかっているせいで、自らを「神だ」とは言い切れないのがある意味致命的な弱点でもある。
「だから、もういいと言っているだろう。レプティリアンの時代は終わりに差し掛かっているんだよ。すでに俺たちの周囲では真の神々の存在が明らかになっている」
「そんなはずはない! 我らの伝承によれば「真の神々は月に去った」と伝えられている」
「ほら、自分で言っているだろう。所詮お前らは神のフリをして人間を騙すしか能がない薄汚れたトカゲなんだよ」
「い、言わせておけば…」
どうやらこのレプティリアン・ナイトは言葉に詰まっているよう。ここでさらに聡史がダメ押しに入る。
「それじゃあ、お前らが神などではないという真の証拠を見せてやろうか。ルシファーさん、どうぞご登場ください」
聡史のひと言で美鈴の眼光が変化する。その明らかな様子は、当然ながらレプティリアン・ナイトも目撃している。だがあまりにも強烈なルシファーさんの眼光を、このレプティリアン・ナイトは直視できない様子。
「何の騒ぎかと思うたら、我の目の前に立つは悍ましき銀河の汚泥の中から生み出されたまことにけがらわしい生き物ではないか」
「な、な、な、何者だ?」
「銀河の闇の支配者に対して、口にするも憚られるべき薄汚れた生物がまともに口を開くでない。さもなくばその命、この場で即刻捻り潰してくれようぞ」
「あ、あ、あ…」
このところあまり出番がなかったので、ルシファーさんはいつにもまして大張り切り。当社比2倍の勢いで強烈な眼光と威圧感でレプティリアン・ナイトを押し黙らせている。かつて比叡ダンジョンの最下層に登場したアスクレーと名乗ったレプティリアンと対峙した際に比べてもはるかに強烈な神の息吹バリバリで、人には非ざる途方もない力を前面に押し出している。
その証拠に体から発散ずる無意識な神の力によって、すっかりガラスが飛び散った窓枠や壁の至る箇所がピシピシ音を立てて、まるでポルターガイストでも発生したかのよう。
「さて、かような忌まわしき生命体にいかような最期が相応しいか… ふむ、これまでのすべての因果が痛みとなってその体に撥ね返ってくるというのはいかがかな?」
「あ、あああ、ああああああ…」
レプティリアン・ナイトは反撃しようという気力すら根こそぎ奪われたようで、剣すら取り落として両手で頭を抱えながら意味がわからない叫び声をあげている。
「言葉にならぬ返答は肯定と見做す。それでは汚わいに塗れた薄汚い自らの因果を悔いて霊界の最底辺に堕ちていくがよい。天罰術式・ペイン」
「ギャァァァァッァァァッァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
レプティリアンは人間の苦しみ、悩み、悲しみ、恨み、妬みといった負の感情を成長の糧としている。これは肉体の成長というよりは精神の成長… ひいては自らの強さが増す行為として率先して実行に及んでいる。
人間の社会にこのような負の感情がありとあらゆる場所で必要以上に渦巻いているのは、言ってみればレプティリアンが権力構造やメディアを操ってそうなるように仕向けているからに他ならない。
そんなところにもってきてルシファーさんが放った術式は、これまで自らを成長させてきた人間の負の感情の効果が一気に反転してしまって痛みとして自らに帰ってくる術式。
これまでこのレプティリアン・ナイトが人間社会に紛れてシチリア公爵として思いのままに権勢を振るったその因果がすべて自身の元に戻ってきて、犠牲となった人々の苦しみや恐怖が途方もない痛みとなってその精神と肉体を苛んでいく。言ってみればこの術式は、閻魔様の裁きの前払いのようなモノかもしれない。死んだ後に地獄で味わうべき苦痛を、今この場で味わっているというのが正しいのだろう。
今世の業が深いほどその痛みと苦しみはより強力な物理的な力となって自身を痛め付けるというなんとも恐ろしい神の術式が繰り出された結果、シチリア公爵であったレプティリアン・ナイトは床を転がり回りながら徐々に生命力を奪われていく。
そして最後には世にも恐ろしげな苦悶の表情を浮かべながら心臓の鼓動が停止する。これが神が下す裁きというのだろうか? それはあまりにも恐ろしい死という結果をもたらした果てに、おそらくはルシファーさんの言にあった通りに肉体から脱した魂はおよそ行き着くべき霊界の最底辺の場所へ送られていくのであろう。
シチリア公爵であった者が息絶えた様子を見届けると、ルシファーさんの眼光がスッと消え去って元の美鈴に戻っていく。
「聡史君、急にルシファーを呼び出すからビックリしたじゃないの」
「まあ、何だ… 最後は美鈴に決めてもらいたかったんだけど、俺の心の中で何者かが『呼び出せ』と囁いた気がしたんだ」
「それがルシファーだったというの? もうちょっと事前にひと言くらいあってもよかったと思うんだけど」
「悪かった。お詫びになんでも叶えてあげるから」
「それじゃあ、外に出たらもう一度キスしてよね」
「えっ、なんだってぇぇぇ!」
「リピート・アフター・ミー。キ・ス!」
「わ、わかりました。こんな場所ではさすがにどうかと思うから、ひとまずはこの屋敷を出るとしよう」
こうして聡史と美鈴はミッションを完了してシチリア公爵の屋敷から撤収していく。もちろんその後は、美鈴待望のイチャラブタイムがかなりの時間繰り広げられたのは言うまでもないことであった。
桜に続き聡史たちも途中経過はどうあれミッションを完遂しました。残るは怪物ジジイと学院長。果たして残る二つのミッションは無事に終わるのか? そして孤児院に到着したカレンたちは… この続きは出来上がり次第投稿いたします。どうぞお楽しみに!
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