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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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289 久しぶりに最下層

歩美を引き連れた防衛大生のパーティーは……

 大山ダンジョンの8階層に転移した防衛大生で構成されるA班パーティー。隊列は斥候役の東口を先頭にして前衛を務める班員と案内役の明日香ちゃんが並んで歩く。真ん中には指揮を執る光弘と魔法職、最後方に勇人と歩美という並び。



「オークの上位種が相手か。久しぶりに腕が鳴るな~」


「油断はするなよ。こちらは1か月ぶりなんだから、焦らずにじっくり立ち回って勘を取り戻すのを優先してくれ」


「了解」


 何度も来ている手慣れた8階層とはいえ、光弘がパーティーの楽観ムードをキッチリと絞めている。本来このような注意喚起を行うリーダー役は勇人が適任なのだが、今の彼は先輩に混ざった1年生の立場。指揮は光弘に任せた上で後方の警戒に専念しつつ、傍らの歩美をしっかりとガードする態勢を固めている。


 反対に歩美といえば、勇人と色々喋りたい心情を押し殺して周囲を見渡しながら進む。すべては茂樹から口を酸っぱくして「ダンジョンの中は何が起きるかわからない。浮ついた気持ちで歩くな」と教え込まれた賜物であろう。もちろんカレンからは神聖魔法の扱いを丹念に伝授されているので、いざとなれば自ら攻撃魔法を放つ心積もりも出来ている。


 通路を歩き始めてから3分も経過しないうちに、斥候役の東口の声が通路に響く。



「前方からオーク上位種3体、武器を手にしているぞ」


「二宮さん、前衛のフォローをお願いします。魔法の援護はナシでいけるか?」


「わかりましたよ~」


「ああ、大丈夫だとは思うが、万一のために準備だけは頼む」


 明日香ちゃんは髪留めに扮していたトライデントを手に取ってサッと構える。実に堂に入った構えで、見据える先には3体のオークジェネラル。革鎧のいでたちで剣を構えてこちらを睨む鼻息が荒い。


 東口は素早く退いて、代わって前に立とうとするのは剣士と槍士。だがその横合いから…



「私が行きますよ~」


 ひと声を掛けると、明日香ちゃんは前衛二人の間をすり抜けてあっという間にオークの首筋にトライデントを突き立てている。その素早さは防衛大生が目を疑うレベル。どうやらダイエット作戦のおかげで体のキレが戻っているよう。いつになく俊敏な動きでまずは1体。


 さらに明日香ちゃんはもう1体を突き倒しながら素早く最後のオークが立っているさらに向こう側に回り込む。挟撃の陣形を作った上で、いまだこちらに振り向いていないオークの背中にひと蹴り。いきなり背後から蹴り付けられてバランスを崩したオークはたたらを踏みながら前衛の前に。



「チャンスだ」


「おう」


 剣を振り被る暇のないままに前衛の前に飛び込んだ形のオークはまさに絶好のカモ。剣士は右側に踏み込んで首を掻き切り、槍士は心臓を一突きしてあっという間に仕留めている。



「二宮さんが大サービスしてくれたおかげで楽勝だったぜ」


「次からはもうちょっと自分たちの分を残しておいてもらえると助かる」


「えへへ、再会限定のサービスですよ~」


 ファーストコンタクトを終えた前衛と明日香ちゃんがハイタッチ。だがその時、勇人の声が響く。



「後方からも来たぞ。自分が相手をするから、岡山先輩は彼女の保護を頼みます」


「近藤、ひとりで大丈夫なのか?」


「見ておいてください」


 一言いい残した勇人は大剣を引っ提げて、新たに現れたオークの元へ大股で向かっていく。魔物は先程同様にオークジェネラル3体で、手には武器を構えているのは言うまでもない。だが勇人の表情には何ら怯えた気配はない。そのまま自ら魔物に向かって進むと、ギアを切り替えるように急に接近する速度を速める。


 ブモォォォォ!


 オークは雄叫びを上げながら迎え撃とうと試みるも、勇人の大剣の前に振り下ろした剣を弾かれて、返すひと振りで首を刎ねられる。さらに次の個体には喉元に突きを叩きこんでから、胴体を足蹴にして剣を引き抜く。勇人によるたった一息の動きで仲間を失った最後の1体には、満足に剣を構える暇を与えずに頭上から唐竹で真っ二つに斬り裂くように振り下ろしてジ・エンド。


 その剣技は重厚にして流麗、勇人自身の巨体から繰り出されるとは思えない程シャープな動きであっという間に3体をその手に掛けている。


 もちろん勇人自身弛まぬ訓練を自らに課しており、防衛大学入校後も暇があれば剣の素振りを欠かしていない。それだけではなくて魔法学院の卒業式が終わってから防衛大の入校式の前日までの間、毎日仲間を募ってはダンジョンに入っていた。その結果、勇人のレベルは72まで達している。光弘たちが先日の3週間に及ぶダンジョン実習で何とかレベル60に到達したが、勇人は自らの努力だけでそれをはるかに上回っていた。



「凄い… 浜川先輩とはタイプが全然違うけど、一点の無駄もない剣の技術…」


 光弘の隣に立っている歩美の目が見開かれている。勇者の称号を持つ茂樹の剣技は何度も目にして「さすが…」という感慨を抱いている。だがその歩美の目からしても、勇人の剣技はまた別格に見えてくる。なんというか、膨大な基礎を積み上げてその上に築かれた堅固で隙のない剣の運び… もちろん歩美は剣に関しては素人ではあるが、その素人目にしても勇人の技量の程は圧倒的に映る。



「さすがは近藤だな。オークごときはもう敵ではないようだ」


「岡山先輩、久しぶりの実戦でしたからやや動きに不満を残しますが、結果的に3体仕留められましたからこの場は良しとしておきましょう」


 あれだけの戦いを見せてもなお、勇人自身はまだ満足がいかないよう。この男は先々どこまでもストイックに剣の道を追求していくに違いない。


 と、ここで歩美が我に返った表情に…



「近藤先輩、どこかお怪我はないですか?」


「ああ、かすり傷ひとつないから大丈夫だ。他のメンバーも確認してもらえるか」


 ついつい勇人に気を取られていた歩美は、思い出したように前衛の方向を振り返る。



「皆さんお怪我はありませんよね」


「「「大丈夫で~す」」」


 前衛組から応えが返ってくる。だがその声の響きには「俺(私)たちはついでか」というニュアンスが含まれている感は否めない。あの空気を読まない明日香ちゃんでさえ、歩美の中での勇人と自分たちの待遇の違いに気が付いている模様。


 この8階層は防衛大生のパーティーからするとレベル的には楽勝で、あくまで肩慣らし程度の階層に過ぎない。こうして1か月ぶりのブランクを埋めながら徐々に勘を取り戻して、一行は本日の攻略予定を順調に進めていくのだった。




   ◇◇◇◇◇




 こちらは明日香ちゃんを除いたデビル&エンジェルのメンバーだが、話は学院を出発する際まで遡る。


 本日はやや遅めの出発で9時過ぎに校門を出ようとしている。そんな彼らの前にはどこかで見かけた人影が… いち早くその存在に気付いたのは聡史。



「美咲、なんで校門にひとりで立っているんだ?」


「クックック、我が同胞よ、待ちかねたぞ」


「なんで俺たちを待っているんだ? お前はブービートラップに入ったんだろう」


 重篤な厨2病を発症した上にコミュ障持ちの美咲は所属するパーティーがなくボッチ生活を満喫していたが、先日聡史の口利きでメンバーが一人抜けた学のパーティーへの所属が無事に決まっていた。それなのになぜこうして朝から校門でボッチのまま待っているのかと、聡史が疑問に思うのも当然だろう。



「クックック、悠久の大魔導士たる我が長き眠りについたのちに、いつしか我が配下の者共は旅立っておった」


「寝坊したのか?」


「長き眠りゆえに…」


 ペシペシッッ



「もうそういうのいいから」


「い、痛い。しかもダブルで」


「ちゃんと白状しろ。寝坊して置いていかれたんだな?」


「そ、そ、そうとも言う」


「何時の約束だったんだ?」


「7時半」


 出発予定時刻からすでに2時間近く経過している。これでは置いていかれるのも無理はなかろう。



「どうして朝起きれなかった?」


「深夜アニメ!」(キリッ)


「なんでそこだけ滑舌が良くなるんだ。要はアニメを見ていたせいで寝坊したのか。自業自得としか言いようがないな。録画しとけばよかったんじゃないのか?」


「ほ、ほ、放送予定を見過ごすなど、アニメファンの名が廃る」


「アニメよりも約束が大事だろうが。それよりも誰も起こしてくれなかったのか?」


「ス、ス、スマホには10件のメールと20件の着信」


 どうやら学たちも可能な限り努力はしたようだが、待ち切れずにダンジョンに向かったらしい。今回の置いてきぼりの一件、どうやら責任のすべては美咲に在りそう。



「心底呆れたヤツだな。俺も見放したくなってきたぞ」


「い、いや」


 聡史にここまで言われると、美咲の目がウルウルしだす。厨2病でも女子最大の武器〔女の涙〕は使えるよう。



「子供じゃないんだから泣くな。仕方がないから今日は俺たちと一緒にダンジョンに入るぞ。美鈴、美咲は闇属性を実戦で使えるのか?」


「まだ初歩の練習しかしていないから、今日はみっちりと実戦で仕込みましょうか」


 デビル&エンジェルと同行と訊いていつの間にか美咲の涙は引っ込んで頬が緩んでいる。コミュ障のくせに中々切り替えの早いヤツだとしか言いようがない。



「桜、今日はどこに行く予定だ?」


「お兄様、27階層からスタートして一気にラスボスを倒す予定ですわ。強敵が勢揃いですから、美咲ちゃんには頑張っていただきましょう」


「ヘ、ヘェェェ! ラ、ラ、ラ、ラスボスなんてムリ~」


「無理だろうが何だろうが今日のスケジュールは変わりませんから。美咲ちゃんは精々頑張ってください」


 桜の無情な返答が響いて、美咲は引き摺られるようにダンジョンに連れて行かれる。寝坊したのが運の尽きと諦めるしかなかろう。今の心境は、デビル&エンジェルによってアリ地獄の巣の中へ放り込まれた力のないアリンコの心地に違いない。気の毒に… 寝坊さえしなければよかったのに。





   ◇◇◇◇◇




 朝寝坊が祟って27階層に連れてこられた美咲は完全に落ち着きを失っている。現在彼女が所属するパーティーは9階層を攻略中で、それをいきなり20階層近く飛び越してこんな深部に入ったとなれば、誰でも不安を覚えるのは致し方なし。当然ながらこの階層にウヨウヨしているレッサードレークは小型であってもドラゴンの一種で、その外見から与える威圧感は相当なもの。


 現在この階層で魔物とのファーストコンタクトをしているデビル&エンジェルだが、レッサードレークの威容を目の当たりにした美咲は生まれたての小鹿のように膝がガクガクブルブル。



「美咲、しっかりしろ」


「クックック、あ、あ、あのようなドラゴンを相手にするとあっては、我が内に眠る龍殺しの封印を解かねばなるまい」


「偉そうな厨2セリフの割には、思いっきり声が震えているぞ」


 聡史に突っ込まれているが美咲は恐怖のあまり瞳孔が開いており、これ以上の会話の続行は不可能な様子。見るに見かねた美鈴が助け舟を出す。



「いきなりでは美咲ちゃんも荷が重たいでしょうから、最初は桜ちゃんが相手をしてもらえるかしら。徐々に慣れてから闇属性魔法を使ってもらうから」


「仕方がないですねぇ~。ちょっとトカゲが大きくなっただけの相手にビビっていたら、この先が思いやられますわ」


 桜はブツブツ言いながらもレッサードレークに向かって前進開始。口からブレスを吐こうとして思いっきり息を吸い込んだレッサードレークだが、桜は予想外の速度で接近するとその腹部に強烈な一撃をお見舞いする。


 ギュオォォォォン!


 わずか1発のパンチで絶叫を上げながらレッサードレークは吹き飛ばされて絶命する。相変わらずではあるが、桜の桁違いの攻撃力に美咲は驚きのあまり目を見開いている。



「ボケッとしている暇はないぞ。先に進まないとすぐに次の敵が現れるからな」


「ふへぇ~」


 奇妙な返事をする美咲を聡史が叱咤しつつ、デビル&エンジェルは前進開始。2体目のレッサードレークを桜がブッ飛ばした直後…


 ピコーン


 美咲のレベルが上昇する合図が脳内に響く。現在50をちょっと超えたあたりの人間がこんな深部にやってきてレッサードレークを討伐となると、獲得できる経験値は格段に大きい。2~3体討伐するごとに、美咲の脳内ではレベル上昇の合図が鳴り響いていく。



「クックック、悠久の大魔導士に相応しき相手。竜種と相まみえるならば、我も本気を出さねばなるまい」


 ペシッ


「い、痛いってば」


「本気も何も、ただ歩いているだけだろうが」


 頭を押さえて聡史に涙目を向ける美咲。やがてレベルが5段階ほど上昇する頃には、手足の震えが収まってくる。とはいえいまだ精神的な余裕があるわけでもなさそう。ここで頃合いを見計らっていた美鈴が…



「美咲ちゃん、そろそろ闇属性魔法を試してみましょうか」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。まだムリです~」


「そんな弱気でどうするの。次のレッサードレークが出てくる前にダークフレイムを試し撃ちしてみましょう」


「か、帰りたい~」


「帰りたいって… 仮に私が許しても桜ちゃんが絶対に認めないから、今のうちにしっかり練習しておいた方が身のためよ」


「も、も、もう絶対寝坊はしません」


 どうやら美咲は、知らずに自分から火中に飛び込んでしまった原因の寝坊を心底後悔しているよう。こんな恐ろしい目に遭うくらいだったら「深夜アニメは午前0時までにしよう」と固く決意している。0時以降に放映される番組はもちろん録画予約するのは言うまでもない。


 ということで闇魔法の詠唱開始。何分不慣れなもので長めのフレーズをしっかり口に出さないとまだ魔法の発動が覚束ない状態らしい。



「悠久なる大魔導士がここに闇の炎を召喚いたす。我が呼びかけに応えていでよ、ダークフレイム」


 美咲の掌に浮かび上がる漆黒の炎は、美鈴が操るヘルファイアーに比べると一段階下のランクに相当する闇魔法。とはいえ真っ暗な闇を凝縮したかのように燃え上がる炎は大概の物体ならば簡単に焼き尽くす威力。



「宙を駆け巡りて万物を焼き尽くせ」


 最後の詠唱に合わせてサッと右手を伸ばすと、闇の炎は宙に飛び出して通路の先に飛んでいく。一連の魔力のコントロールはしっかりと出来ており、通路の先で壁を焦がす威力も申し分なさそう。



「ちょっと詠唱に時間が取られるけど、魔物がこっちに来るまでに何とか間に合いそうね。レッサードレークを相手にする時には、今の2倍くらいの魔力を込めるとちょうどいいわ」


「は、はい」


「桜、なるべく早めに発見してくれるか」


 美鈴のように即発動とはいかないので、早期発見で美咲が詠唱する時間を稼ぐ必要がありそうと判断した聡史の声。



「善処いたしますわ。おっと、言ってる傍から接近してきます」


 聡史が振り向くと、通路の先50メートルの角を曲がってレッサードレークがこちらに向かってくる姿。



「美咲、落ち着いて詠唱しろよ」


「は、はい。悠久なる大魔導士がここに闇の炎を召喚いたす。我が呼びかけに応えていでよ、ダークフレイム」


 美咲の右手に漆黒の炎が召喚される。咆哮を上げて接近してくるレッサードレークとの距離は40メートル。その巨体に似合わない素早さであっという間に距離を詰めに掛かる。



「今だ」


「宙を駆け巡りて万物を焼き尽くせ」


 魔力を2倍込めた分先程よりも大きく燃え盛るダークフレイムは真っ直ぐにレッサードレークに向かって進む。だが何分初めての実戦使用という緊張感から、美咲の狙いがわずかに逸れて左側の翼に着弾。翼はあっという間に焼け落ちていったが、レッサードレークにはさしたるダメージはない。それどころか怒気を含んだ咆哮をあげると口を広げて大きく息を吸い込み始める。



「ブレスがくるぞ」


「任せて」


 オレンジ色の炎の塊がレッサードレークから吐き出されて高速で聡史たちに向かう。その夥しい熱量は通過した通路の壁をガラス質に変質させる勢い。



「あ、ああぁぁ」


 美咲の口から絶望に満ちた悲鳴が響く。自分の失敗がパーティー全体の危機を招いた… そんな慙愧に堪えない思いが口から迸るかのよう。



「万能シールド」


 だが結果的にレッサードレークのブレスは通路いっぱいに張り巡らされた美鈴のシールドで呆気なく防がれている。ブレスが効果なしと悟ったレッサードレークは、今度はその牙と爪を振りかざして肉弾戦に打って出ようと突進開始。



「美咲ちゃん、このトカゲを倒すには、ブレスがくる前に先手必勝で一撃叩き込むのが鉄則ですわ。それでは片付けてきます」


 美咲への忠告を残して桜はレッサードレークに一直線。途中で通路を遮っている美鈴のシールドを「邪魔だ」とばかりに拳の一撃で粉々に砕くと、そのままジャンプして首元にケンカキック。ゴキリという音を立ててレッサードレークの首が折れている。



「美咲、多少失敗しても俺たちがフォローしてやる。コツを掴めるまで何度でも闇魔法を放つんだ」


「は、はい」


 初撃の魔法を失敗して動きが止まってしまった自身に比べて、状況に応じて適切な対応を取れる美鈴や桜の臨機応変さ。そのあまりのギャップに落ち込みながらも、聡史に励まされつつ彼女はその後も懸命にダークフレイムを放っていく。そのまま同じような攻防を繰り返すこと15回目にして、美咲の右手から会心のダークフレイムが飛び出すと、一息でレッサードレークを飲み込んでその体を焼き尽くしていく。



「今の魔法は十分合格よ。上手く発動できたイメージをしっかりと覚えておくのよ」


「み、み、美鈴さん、ありがとうございました」


 ペコリと頭を下げる美咲。ドモリ癖は中々改善はみられないが、こうして素直に礼を述べる姿はコミュ障から徐々に脱却しているよう。なんとかレッサードレークを仕留めた自信もあって、その瞳にはいつになく明るい光が溢れている。


 だが本日のダンジョン探索においては、この程度はいまだほんの入り口に過ぎない。デビル&エンジェルに連れ回された美咲は散々レッサードレークとの対戦を重ねて、ついには30階層の階層ボスの部屋に辿り着く。



「またあのガイコツですわね」


「もう見飽きたから、カレン、簡単に片付けてもらえるかしら」


「はい、わかりました」


 桜、美鈴、カレンが喋っている通り、この場の階層ボスは美鈴の中に眠っていたルシファーさんが覚醒するきっかけとなったスケルトンキング。ただしあの出来事以降すっかり大人しくなって、消滅の間際に呪いをかけるような真似をしてこなくなっている。おそらくは初回限定の大サービスだったに違いない。



「ホーリーランス」


 女神様が放つ本物の神聖魔法を食らったスケルトンキングは呆気なく消滅して消え去っていく。魔物が座っていた玉座は消え去って、そこには宝箱が残されている。



「どうやら仕掛けはありませんね。開けてみましょう」


 桜がフタに手を掛けて開くと、中から出てきたのはクラシックなデザインの紺色のローブとツバの大きなトンガリ帽子。今回は古の魔女が愛用していたかのような装束がスケルトンキングを倒したドロップアイテムとして用意されていたらしい。



「どうやら魔法防御の向上と状態異常攻撃を防いでくれる装備みたいだな。特に呪いはかかっていないから、美咲にプレゼントしよう。ほれ、ちょっと羽織ってみろ」


 聡史から手渡されたローブを着てトンガリ帽子を頭に乗せる美咲。本人が「悠久なる大魔導士」と名乗っているだけに、なんとも厨2心をクスグる一品を身に着けた美咲は得意面々の笑顔になる。



「ほほう、この格好ならばまんざら大魔導士もウソではなさそうですねぇ~」


「桜ちゃんそうかしら。どちらかというと魔女っ娘に見えてくるんだけど」


「美鈴さん、本人がその気になっているんだから、ここはもっと煽てて盛り上げていかないと」


 女子三人が声を潜めて囁く声は今の美咲には届いてはいない。聡史から手渡されたコテコテの魔女風コスチュームに、その表情は緩みっぱなし。



「クックック、我が同胞よ。数百年ぶりに我の内から力が漲ってくる心地よ。今なら世界を滅ぼさんとする邪龍すらもこの手で倒してくれよう」


「そこまで調子に乗るんじゃないぞ。まあいいか、先に進もう」


 プレゼントされた魔女っ娘セットに舞い上がって意気揚々と階段を下りていく美咲。だが美咲の元気が続いたのはここまで。


 31階層以降はボスとの一発勝負。最初に登場したデュラハンを目撃して完全な涙目に。27階層に降り立ったあの時のように両足がプルプル震える生まれたての小鹿に戻っている。


 とはいえ、デビル&エンジェルにとっては階層ボスといっても雑魚同然。いとも簡単に討伐すると、怯える美咲を引き摺るように再び階段を下りて次の階層への繰り返し。


 そしてついに最下層のラスボスの部屋の前に立つ。半分白目を剥いている美咲の背中を押しながらボス部屋に入っていくと、そこにはお馴染みの7首のヒュドラが待ち構える。



「ヒィィィィィ」


 どうやらここまでが美咲の精神力の限界だった模様。というよりも、よくぞここまで自分の足で歩いてきたものと褒めてやりたい。ヒュドラの姿を一目見た美咲は泡を吹きながらその場に崩れ落ちている。



「桜、美咲が目を回したから手早く片付けてくれるか」


「はい、お兄様。それではメガ盛り太極波ぁぁ」


 勝負は一瞬で片が付いく。巨大な爆発を引き起こしてヒュドラの体は粉々に飛び散っている。もうここまでくるとたとえ最下層であっても、デビル&エンジェルにとっては単なる作業に過ぎないよう。


 ヒュドラの残骸が消え去ると、ダンジョンの壁の向こう側には宇宙空間が広がっている。ただ本日は異世界に向かう予定はないので、一行はドロップアイテムの大量の金の延べ棒を回収すると転移魔法陣へ。


 だらしなく意識を失っている美咲は聡史が背中に負ぶって歩く。転移魔法陣で1階層に戻ると、いまだ聡史の背中にもたれたままの美咲を連れて一旦ミーティングルームへ。



「お腹が空いてきましたわ。何か注文しましょう」


「いいわね、私はパスタのセット」


「私はBLTサンドとドリンクのセットにします」


 時刻は午後2時半。約5時間で27階層をスタートしてラスボスを倒すなどというとんでもない偉業を成し遂げたとは思ない通常営業のデビル&エンジェル。美咲の昼食は目を覚ましてから注文しようという流れになって、思い思いの品をインターホンで伝える。


 しばらく様子を窺っていると、美咲の体が小さく震えてゆっくりと目を開いていく。



「こ、ここはどこですか?」


「もうダンジョンの外だ。最下層のヒュドラを見た途端に美咲が気絶したから、ここまで運び込んだんだ」


「す、す、す、すみませんでした。ありがとうございました」


「気にするな。何か食べるか?」


「の、の、飲み物だけでいいです」


 どうやら最下層の刺激が強すぎたらしくて、美咲自身食欲など湧くはずもない様子。トンガリ帽子を膝の上に置いて椅子に所在なさげにチョコンと腰掛けている。



「美咲ちゃんの闇属性魔法はずいぶん様になってきたわね。あと1、2回私と一緒に実戦で試したら、もう一人で任せて大丈夫よ」


「あ、あ、ありがとうございます」


「それから、そんなに気落ちしなくていいわ。誰でもあんな怪物を見たら気を失うのも無理はないから」


 美鈴が慰めようと声を掛けるものの、美咲の表情に明るさは戻ってこない。ならばと桜が思い切って話題を変える。



「そういえば美咲ちゃんも伊豆の旅行に参加するんですよねぇ~」


「は、はい。一応参加します」


「水着とか服とかの買い物は済んでいますか?」


「い、いえ… そ、その…」


「もしよかったら来週私たちと一緒に買い物に出掛けませんか。今年のモデルの水着をゲットですわ」


 桜がしきりに誘うが、美咲は首をプルプル横に振っている。イヤというわけではないのだが、これまでボッチ生活が長く続いたおかげで誰かと一緒に買い物に出かけるという行為が途轍もなく高いハードルに思えているせいだろう。そこで聡史が…



「美咲は水着を用意しているのか?」


「クックック、この悠久なる大魔導士がまだ幼少の時分、学び舎での水遊びの際に用いた聖なる遺物が残っておる」


「なんで俺に答える時だけ厨2言語に戻るんだ? その答えからすると、中学校の授業で使ったスクール水着は持っているということだな。そんな格好で海水浴に行くのは『ある意味狙っている』と後ろ指を指される原因になるぞ。素直にこの場にいるお姉さんたちに任せろ」


「聡史君、なんで正確に意味が理解できるのか、私にはサッパリなんだけど」


「美鈴、中学時代の友達はみんなこんな奴らばっかりだったから、慣れれば言いたいことはわかってくるぞ」


「そういうものかしら?」


 美鈴は不思議そうに首を傾けているが、聡史のほうは逆になんでこんな簡単なことが出来ないのだろうかと、こちらも不思議に感じている。


 ともあれ知り合いにスク水姿で伊豆の海岸に登場されたら、聡史としても中々立場がないのは否めない。ということで無理やりにでも美咲を買い物に連れ出す意向を固める。



「何でもいいから来週の土曜日は俺たちと一緒に買い物に出かけるぞ。金がなかったら全部俺が買ってやるから心配するな」


「あら、聡史君。私もいいのかしら?」


「聡史さんからのプレゼントとなると、水着を選ぶのにも気合いが入ります」


 なぜだか美鈴とカレンまでがのっかってくる。二人は別にお金に困っているわけではなくて、単に聡史からのプレゼントというスペシャルな企画に食い付いているだけ。



「クックック、ついにこの悠久なる大魔導士も長きに渡る隠遁生活から世に出るに至ったか」


 ペシッ


「い、痛いってば」


「普通に言えないのか。とにかく来週の土曜日は予定を空けておくんだぞ」


「さ、最初から予定なんてずっと空いているから大丈夫」


「言ってて悲しくならないか?」


「も、もう慣れている」


 こうして美咲にとっては生まれて初めての家族以外と一緒の買い物という一大イベントが決定するのであった。 



厄介な厨2病患者の美咲。果たして人生初の仲間との買い物は無事に終わるのか…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


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