288 交差する人間関係
定期テストといえば、例のアレがつきもの……
週が明けて4日間の定期試験が無事に終了。Eクラスの大半の生徒は精魂尽き果てた表情になっているが、この娘だけはやけに明るい。
「桜ちゃん、やっと試験が終わりましたから、美味しいデザートを食べに行きましょうよ~」
「終わった瞬間にコレですか… 先々が思いやられますわ」
こんな感じで生徒たちはテストが終わった解放感に浸っているのだが、職員室では各教科担当が真剣な表情で答案の採点に取り組んでいる。
ことにEクラスの担当教員は毎度毎度腹筋崩壊の危機に晒されているだけに「今回こそ笑わないぞ」という固い決意のようで、それはあたかも〔絶対に笑ってはいけないテスト採点〕が開始されたかのムードが漂う。特に罰ゲームは用意されてはいないが、教員の勤務態度として生徒の答案で笑ってしまうのはいかがなものか… という職業意識が働いているせいであろう。
だが時折「プッ」とか「ブフォ」とかいう我慢の限界を超えて吹き出してしまう奇妙な声が上がるのも事実。
さて今回の答案は果たしていかがなものだったか、生徒のプライバシーなど一切無視してこの場で公開しよう。
【体育】
問題 陸上競技のリレーで、バトンの受け渡しを行う範囲を何と呼ぶか?
正解 テイクオーバーゾーン
頼朝の回答 〔テイクアウトゾーン〕
持ち帰り専用ですか? (教員の添削コメント)
横田の回答 〔テイクオフゾーン〕
どこに向かって離陸するんですか? (教員の… 以下略)
問題 水泳競技の自由形で、折り返しの際にプールの壁に手を付かずに水中で体を前転しながら方向を変えるターンの名称は?
正解 クイックターン
明日香ちゃんの回答 〔 ハッピーターン 〕
テストの時くらいはお菓子のことを忘れましょう。(笑)
桜の回答 〔フフフ、ここから先は〕全部私のターン
回答欄を無視しないでください。(以下略)
【現代国語】
問題 「どんより」を使った文章を作りなさい
正解例 どんよりとした空模様が続いて…
横田の回答 〔 うどんよりソバが好き 〕
香川県民に謝りなさい
美晴の回答 〔親子どんよりガッツリとカツ丼大盛り〕
男らしいな。先生はかつ屋に行きたくなったぞ。
足立の回答 〔 どんより証拠 〕
「論より」の間違いでは?
問題 〇頭〇尾 丸の中に漢字を入れて四字熟語を作りなさい
正解 徹頭徹尾 竜頭蛇尾
絵美の回答 〔 打頭山尾 〕
パーティー内で何か揉め事でもあったんですか? あと「打倒」ですよ。
元原の回答 〔 亀頭交尾 〕
あとで職員室に来なさい。
【世界史】
問題 ルネッサンス期にミケランジェロが制作したこの像の名前を答えなさい(画像あり)
正解 ダビデ像
真美の回答 〔 ダビデ像 〕
渚の回答 〔 ダビデ像 〕
ほのかの回答 〔 ダビデ像 〕
絵美の回答 〔 ダビデ像 〕
千里の回答 〔 ダビデ像 〕
美晴の回答 〔 露出狂 〕
芸術作品ですから、誤解しないように。
【生物】
問題 有袋類の具体的な名称を挙げなさい
正解 コアラ カンガルー
足立の回答 〔 ドラえもん 〕
ネコ型ロボットでは?
横田の回答 〔3円 5円 10円〕
それは有料レジ袋です。
問題 キツネやタヌキは( )類に属する
正解 哺乳(類)
足立の回答 〔 麺類 〕
赤でも緑でもありません。
問題 食物連鎖について、次の選択肢のア~オから正しいものを選びなさい
正解 イ
美晴の回答 〔 マ 〕
選択問題の基本から考え直せ!
【化学】
問題 実験の際、引火性が高かったり人体に有害な試薬を取り扱う時の必要事項や注意事項を挙げなさい。
正解 換気を十分に行う スポイトや薬さじなどを用いて直接触れないようにする
真美の回答 〔しっかりと換気をする〕
渚の回答 〔 他人に任せる 〕
絵美の回答 〔 遠巻きに見ている 〕
ほのかの回答 〔 近づかない 〕
千里の回答 〔 黙って部屋を出る 〕
美晴の回答 〔 運! 〕
人任せにしないように。それから運だけでは乗り切れない場合もあります。
問題 次の化学式を完成させなさい
Hcl + ( ) → H2O + Nacl
正解 NaOH
クルトワの回答 〔 マンドラゴラ 〕
錬金術ではありません。
問題 水を電気分解すると気体が発生します。陽極と陰極それぞれから発生する気体を答えなさい
正解 陽極 … 酸素 陰極 … 水素
ほのかの回答 陽極〔 濃厚なきたい 〕 陰極〔 淡いきたい 〕
期待と気体の違いに気付いてくれ。
【現代社会】
問題 バイオ燃料として注目を集めるトウモロコシやサトウキビなどから創られる燃料を答えなさい
正解 エタノール
頼朝の回答 〔 テキーラ 〕
足立の回答 〔 泡盛 〕
横田の回答 〔 度数高め 〕
安田の回答 〔 ストロングゼロ〕
元原の回答 〔 ボラギノール 〕
全員寮の個室を抜き打ちで検査する。元原だけは許す。
当然採点をする教員の腹筋がいつものように崩壊して今回の試験は終了している。
もちろんその結果、元原と美晴が5教科赤点をマークしたのを筆頭に、名前の挙がった他の面々も2~3教科来週1週間は補講と追試に明け暮れる日々を送る羽目となる。さすがはEクラスクオリティ。学習面において他のクラスの追随を許さない絶対的な頭の悪さが露呈。将来、本当に大丈夫なのだろうか?
◇◇◇◇◇
試験が終わったあくる日の金曜日、明日香ちゃんのスマホにメールの着信。ホルダーを開いてみると、発信者には〔岡山光弘〕の文字。俄然明日香ちゃんの瞳が光り輝く。
ともあれ浮かれていては話は進まないので、メールの中身をチェック。その文面は…
〔二宮さん、いつもお世話になります。先日お伝えした通り明日と明後日の2日間、ダンジョン攻略でそちらに伺います。前回の実習同様に一緒に行動していただけるのを楽しみにしております。今回は1名新たなメンバーを連れて行きますので再会をお楽しみに。追伸 片野さんにも知らせてもらえると助かります〕
防衛大生のダンジョン実習開始から此の方、光弘たちが大山ダンジョンにやってくるのは2回目となる。今回は正式な実習ではなくて1泊2日の自主訓練となっており、先週のうちに明日香ちゃんと渚の元に事前の予定が届けられていた。今回のメールはいってみれば確認のため。明日香ちゃん自身も「そろそろ確認がくる頃では…」という具合で心待ちにしていた節が窺えるのは言うまでもない。
その明日香ちゃん自身といえば、いつものように定期試験は全科目ギリギリでクリアしており、補習や追試の予定は入っていない。光弘の誘いを拒む理由がないので、速攻でメールに返信開始。
〔岡山さん、こちらはいつでも用意できていますよ~。朝の9時に管理事務所でお待ちしています〕
普段デザートにしか興味を示さない明日香ちゃんが、何やら怪しげな雰囲気を醸し出しながらメールを送っている。なにも事情を知らないクラスメートが見たらすぐさま医療棟に強制連行するかもしれない程度にはニヘラ~っとした気持ち悪い顔の明日香ちゃん。さすがに年頃の女子としていかがなものかと思うが、桜とは別種の鋼の神経を持っている明日香ちゃんは他人の目など一切気にする様子がない。
すかさず桜の元に駆け寄ると…
「桜ちゃん、やっぱり土日は桜ちゃんとは別行動しますから」
「おや、明日香ちゃんが用事なんて珍しいですね。泊りがけでデザート食い倒れツアーですか?」
「桜ちゃん、ナイスアイデアですよ~。将来絶対に実現させましょう」
「なんでそっちに食い付くんですか。土日の件がすっかりどこかへ飛んじゃっていますわ」
「ああ、テンションが上がってすっかり忘れてしまいました。土日にまた防衛大の方々がダンジョンに来るので、私と渚さんが案内を務めるんですよ~」
「なるほど、先週その話は聞いたような気がしますわ。それではお兄様や美鈴ちゃんには私から伝えておきます」
「私がいないからって、桜ちゃんは寂しがったらいけませんよ~」
「誰が寂しがるんですか? 余計な体重管理に気を回さないで済みますから気楽に過ごせますわ」
桜に向かって正面からこんな憎まれ口を叩けるのは、世界中を探しても明日香ちゃんひとり。もしかして真の勇者はこの娘かも。そのまま明日香ちゃんは渚の元に向かって、明日明後日は予定通りに防衛大生とダンジョンに同行する旨を伝えるのであった。
◇◇◇◇◇
翌日の朝、約束に合わせて大山ダンジョンに向かった明日香ちゃんと渚は、待ち合わせの駐車場ですでに到着している光弘たちの姿を発見して駆け寄ってくる。
「皆さん、おはようございます。今回もよろしくお願いします」
「おはようございます。2日間ご一緒させていただきます」
明日香ちゃんと渚の姿を見て手を振って出迎える防衛大生たち。
「二宮さん、片野さん、どうぞよろしくお願いします」
「楽しみにしすぎていたせいで寝つきが悪くて、ちょっと寝不足気味だよ」
「今回も思いっ切りレベルアップして帰るつもりだから、お二人にはお世話になります」
光弘を筆頭にして各自が挨拶。一度顔を合わせている面々だけに、極々自然に軽口も叩ける和やかムードが漂う。その話の最中に明日香ちゃんが何事かに気付いた表情。
「岡山さん、そういえば新しい人がくると聞いていましたが、その方はどちらにいらっしゃるんですか?」
「ハハハ、ちょっとしたサプライズでね。車の中に隠れていてもらったんだ。お~い、外に出ていいぞ~」
イタズラっぽい笑みを浮かべる光弘。その声に促されるようにしてやや離れた場所に停車するタクシーのドアが開く。中からヌッと出てきたのは、明日香ちゃんからしたら見上げるくらいの大男。彼は迷彩服を着こんだまま実に自然な表情を明日香ちゃんと渚に向ける。
「二宮、片野、久しぶりだったな」
「近藤先輩だったんですか。お久しぶりですよ~」
「近藤先輩、ご無沙汰しています」
明日香ちゃんと渚が一礼しながら出迎える大柄な男… そう彼こそこの3月に魔法学院を卒業した近藤勇人に他ならない
「ずっと基礎訓練漬けの毎日だったから、今日は久しぶりに思いっ切り暴れるつもりだ。ひとつよろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いしますよ~」
「近藤先輩がいらっしゃるのなら、私たちの案内など不要では?」
「そう言うなって。俺にもブランクがあるから、今回はお前たちにおんぶにだっこで頼り切るつもりだ。ハッハッハ」
もちろん勇人の冗談に決まっている。相変わらずその豪放磊落ぶりは健在で、そこにいるだけで周囲に安心感をもたらすキャラクターは在学時とまったく変わらない。それどころか防衛大の訓練を通じて、人の上に立つ役割としての存在感が増しているように感じられる。
ちなみに勇人と明日香ちゃんは、校内の模擬戦で引き分けて以降時折声を掛ける合う間柄。渚は八校戦の折に顔見知りとなっている。それにしても頼朝よりもさらにもう一回り体格が大きな勇人と、体重はちょっとアレだが普通の高校生女子のサイズに過ぎない明日香ちゃんが引き分けを演じたなど、何も知らない他人から聞いたら絶対に信じられないであろう。
こんな話をしている間にも、駐車場から見渡せるダンジョン管理事務所に入っていこうとする集団の姿が続々と現れる。ところがその集団うちのひとつがどうやら勇人の姿を発見したようで、こちらに向かって歩いてくる。
「近藤先輩、お久しぶりです。防衛大の訓練はいかがですか?」
「楢崎、卒業式以来だな。元気そうで何よりだ。訓練自体はこの学院にいた頃と大差はないが、新入生は3か月間外泊禁止だったから、ダンジョンに戻ってくるのに時間がかかった」
「近藤先輩、お久しぶリです」
「西川、生徒会はまだやっているのか?」
「色々と忙しくなってしまったので、今は暇な時に顔を出す非常勤役員です」
やってきたのは明日香ちゃんを除いたデビル&エンジェルのメンバー。聡史と勇人は剣を打ち合って親しくなった仲、美鈴は1年生の時分は新米生徒会役として何度も相談に乗ってもらった間柄。桜とカレンはこの二人ほど関わりがないので、ちょっと離れた場所から会釈をしている。
「楢崎、すっかり立派にやっているようだな」
「先輩、自分はまだまだです。学院長から事あるごとにダメ出しされっ放しですから」
「バカを言うなよ。俺が在学中ですら、あの学院長から声を掛けられたのはホンの2、3回だぞ。それだけお前は見込まれているんだと自覚しろ」
「ありがとうございます。近藤先輩にそう言っていただけると自信に繋がります」
「そうだ、その意気だ」
聡史と勇人の会話が弾む横から、別の人物が聡史に対して話し掛けてくる。
「楢崎君、先日の顔合わせでは満足に話も出来なかったが、君のことは父から聞いているよ。改めて自己紹介させてもらうが、僕は岡山光弘。防衛大学の2回生だ」
「父から…?」
聡史が頭の上に???を浮かべていると、横から明日香ちゃんが解説。
「岡山さんのお父さんは、ダンジョン対策室の岡山のおじさんですよ~」
「ああ、そういうわけか。失礼しました。自分は楢崎聡史です。こちらこそよろしくお願いします」
「父からだけではなくって近藤からも君の話は聞いていたよ。近藤がそこまで高く買っている人間がいるなんて信じられなかったが、こうして実際に言葉を交わしてみると納得できる。もしかしたらここにいるメンバーは、君の将来の幕僚かも知れないな」
「岡山さん、冗談はやめてください。自分は将来を語るには程遠い若輩者です」
「ハハハ。そうだね、将来の可能性は無限に存在する。楢崎君が先々国防の道に入ると決めつけてしまった点はお詫びするよ。でもこれだけは肝に銘じてもらいたい。僕の父、神崎学院長、そして近藤勇人… この人たちは伊達や酔狂でひとりの人間をここまで見込む性格ではない。君自身はこの傑物たちが寄って集って期待を寄せ得るひとかどの人物だということを忘れないでもらいたい」
「それはプレッシャーがかかりすぎますよ」
「そうかな? むしろ楢崎君はその重圧を自分の力に変えていけるような気がするよ。僕自身も今後の君には大きな期待を寄せるとしよう」
「楢崎、俺も岡山先輩と同意見だ。魔法学院などという小さな入れ物には囚われずに、自分が活躍できるフィールドをもっと広げていくんだ」
光弘の話を継いだのは勇人に他ならない。聡史自身、現状でも学院での生活以外に自衛隊予備役としての任務や異世界での活動、そして最近は伊勢原駐屯地に停泊している銀河連邦の輸送艦との折衝など、活動フィールドは実に多岐に渡っている。それを「さらに広げろ」とは勇人の無茶振りが過ぎるように感じているが、さすがに声には出さない。
「ありがとうございます。お二人の期待に応えられるか自信はありませんが、自分なりに精一杯精進します」
「それでいい。楢崎の長所はその謙虚さを失わない態度だ。他人の意見に耳を貸しながらも適宜取捨選択して自分が信じる最善の道を歩め」
確かに妹の唯我独尊な態度に比べると、聡史は他人の意見に耳を貸す性質が強い。だが勇人が言う通りなにがなんでも人の意見を聞き入れるというわけではなくて、その中でも最適解を選びつつ自分の進む方向性を得ていく… 聡史としては、勇人らしい含蓄のある助言だと感じざるを得ない。
実は聡史の心の中では、仮に将来的に自分が自衛隊の一員としての生活を選んだら、その時の上官は勇人にあたってもらいたいと考えている。もっと遠い先には、現在の岡山室長の後継者になってもらいたい… そのくらい聡史にとって勇人の存在は大きなものといえる。もちろんそれはレベルなどを抜きにした組織の指導者に必要な人間性において、という部分の話ではあるが。
一応の話の区切りがついたと思ったら、今度は意外な人物が光弘の近くに歩み寄る。
「光弘お兄さん、この前はゆっくり喋る時間もありませんでしたが、見るからにお元気そうですね」
「カレン、色々と君の活躍は聞いているよ」
なんとカレンと光弘が親しげな模様。これには傍に立っている明日香ちゃんが、得体の知れないショックを受けている。
「カ、カレンさんと岡山さんは知り合いだったんですか?」
「ええ、母が学院長に就任してここに引っ越してくるまでは、防衛省の官舎で光弘お兄さんの隣の部屋に住んでいたのよ。母が出張の時や学校の夏休みはしばらく岡山家に預けられたりしていたから、本当のお兄さんのようだったの」
「うちで預かったなんてとんでもない話だよ。カレンは行儀が良くて手がかからないどころか僕の母親をよく手伝ってくれたから、我が家でも大助かりだったんだ」
「おかげさまで私の料理は母親仕込みではなくて、光弘お兄さんのお母様が授けてくださったんです」
カレンの母親がこの学院に赴任する以前は、岡山室長の下で事務職の他にたまに特殊任務で出張するという生活を送っていた。その際まだ子供であったカレンを放置するわけにはいかないので、上官の岡山室長がカレンを家庭で預かるという配慮をしていた。それもカレンが小学校時分の話で、今となっては懐かしい想い出に過ぎない。
思いの外色々と話し込んでいるうちに15分以上経過しており、このまま喋ベり続けて時間を無為に過ごすこともできないと気付いた面々。全員ひと塊になってダンジョン管理事務所へと向かう。
◇◇◇◇◇
ダンジョン管理事務所の内部は定期試験明けということもあって、久しぶりに思いっ切りダンジョンの攻略を進めようと意気込む魔法学院の生徒の姿が目立つ。というよりも一般冒険者の姿はほとんどない、相変わらずの不人気振り。
防衛大生とデビル&エンジェルのメンバーの混成集団が事務所内に入ってくると、その姿を目ざとく発見した別の人物が近づいてくる。
「近藤先輩、お久しぶりです」
「おう、浜川か。元気そうで何よりだ」
勇人の元に駆け寄ったのは、勇者にして現生徒会長の浜川茂樹。彼も他の生徒と同様に生徒会メンバーで構成されたパーティーで大山ダンジョンに来ている。そしてなぜか当然のような態度で茂樹の隣にはクルトワの姿が… 最近ずっと茂樹がダンジョンに赴く際は同行しているらしい。魔王の娘は自らの恋愛成就のために日々積極的に行動しているよう。
「先輩に色々と教えてもらった結果、自分は生まれ変わることが出来ました。おかげさまで今は生徒会長を務めさせてもらっています」
「そうだったか。浜川が生徒会長なのか… なんとも感慨深いものがあるな」
「近藤先輩には、昨年の八校戦で落ち込んでいる自分を励ましていただいて感謝しています」
「気にするな。年長者として当然の行いだ」
「いえ、でも自分はいつか先輩にあの時の恩を返したいです」
「浜川、誤解するな。先輩から受けた恩は後輩に返せ。今のお前が生徒会長として同期や後輩のために縁の下の力持ちに徹する… それこそが最大の恩返しだぞ」
茂樹は勇人の言葉を訊いてハッとした表情を見せる。それはかつて先輩勇者のマリウスから授けてもらった教えと共通するものが感じられたからに他ならない。
「近藤先輩、ありがとうございます。たった今いただいたお言葉をしっかりと胸に刻みました」
「うん、そうだ。それでいい。お前は勇者として課せられた重い十字架に苦しんでいたが、今はずいぶん自然体でいられるようになったな。それでいいんだ。思う通りに前に進め」
「はい、これからも何かあったらご指導よろしくお願いいたします」
一礼して勇人の前を去ろうとする茂樹。この遣り取りを目の前で見ていた人物がいる。その人物は感動に満ちた表情で勇人の目の前に駆け寄っていく。
「こ、近藤先輩、はじめまして。私は現生徒会副会長の鴨川歩美と申します。たった今の会長とのお話にはとっても感動させていただきました。今後私自身も先輩から色々と教えていただきたいので、どうかメアドを交換していただけませんか?」
歩美の口振りは生徒会関係の様々な事項を学びたいという申し出に聞こえるが、その頬は上気して真っ赤で両の瞳はウットリした様子。
実はこの歩美という少女、勇人の姿を見た瞬間あたかも雷に打たれたような衝撃を感じていた。この衝撃は、いわゆる世間一般で言うところの「一目惚れ」という状態に該当すると考えて差し支えなさそう。それにしても歩美はその外見こそおっとりした奥ゆかしげな雰囲気だが、行動そのものは勇猛果敢。以前カレンへの師事を求めて美鈴にアタックした際も、今思い返してみればかなり思い切った行動に出た節がある。
「そうか、相談事程度ならノッてやるぞ。これが俺のアドレスだ」
「ありがとうございます。何かあったらメールさせていただきます」
実は勇人も聡史に負けず劣らずのニブチンな固い頭の持ち主。突然登場した歩美がどんな思いでアドレスを聞き出したかなど、もちろん想定の範囲外。
中々勉強熱心な一年生だなと頷いている男子一同を尻目に、桜、美鈴、カレンの三人は揃ってニヤニヤした笑い顔を浮かべて、完全に歩美の心情を察している様子。その中で美鈴が明日香ちゃんに向かって声を掛ける。
「明日香ちゃん、歩美さんは聖女として色々と吸収しないといけないから、もし良かったら今日と明日は防衛大の皆さんと一緒にダンジョンに入るのはどうかしら? きっといい勉強になるわ」
「そうですね。治癒魔法を用いる場合は慣れない方々とのコミュニケーションも大切ですし」
カレンまでが同調して乗っかる始末。当の歩美は、この突然の横からの意見に思いっきり戸惑って「えっ… えっ、わ、私が…」という具合にしどろもどろになっている。ちなみに彼女が所属するパーティーのリーダーである茂樹といえば、美鈴とカレンから「お前は黙って頷け」という視線に射竦められており、首を縦にガクガク振っているだけ。
「岡山さん、どうしましょうか?」
「いいんじゃないのかな。それでは一旦ミーティングルームでメンバーの振り分けをしようか」
今回防衛大生は勇人を含めて十一人。一応前回同様A班とB班に別れてはいるが、そこに明日香ちゃんと渚が加わるのは当然加味していた。ところが予定外の歩美をどちらが受け入れるかを改めて相談する必要が生じている。
ということで一旦ミーティングルームに入って相談開始。その結果、明日香ちゃん、勇人、歩美が一緒のA班と、渚が案内するB班に分かれて活動と決定。
「歩美さんは聖女ですから、直接戦闘には不向きですよ~。近藤先輩は彼女をフォローしながらしっかり守ってあげてください」
「おう、任せておけ」
「近藤先輩、ご迷惑をおかけします」
「いいんだ。その代わりに誰か怪我をした場合はよろしく頼む」
「はい、最近治癒魔法がだいぶ板に付いてきたので、その際はお任せください」
パーティーに回復役がいるというのは何とも心強い。ある程度の怪我を負ってもその場で回復可能となれば多少の無理も効く。ダンジョンの内部では小さな怪我でも動きに支障が出かねないから、聖女の歩美が同行するのは防衛大生にとっても願ってもない話であろう。
「それでは転移魔法陣に乗りますよ~」
かくして急遽同行することとなった歩美を含めたA班が先に転移魔法陣に乗って、まずは肩慣らしにとばかりに8階層へと向かっていくのであった。
1年生聖女の歩美が近藤先輩に一目惚れ。果たして彼女の一途な思いは勇人に届くのか、それとも…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!
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