235 裏山の事件
平和なゴールデンウイークだと思いきや……
ゴールデンウイークの2日目、朝食の時間にデビル&エンジェルはいつもの席で思い思いの食事を取りながら、本日の予定を決めるための簡単な打ち合わせをしている。
「お兄様、本日はどうしましょうか?」
桜が問い掛ける横では、いつものように天狐が夢中でキツネうどんに箸をつけ、その隣では玉藻の前が皿に山盛りに載せられた柏餅に目をキラキラさせている。
「昨日は美咲のレベル上げが順調に進んだから、今日も一緒にダンジョンの1階層を回ってみようかと思っている」
「まあ、お兄様は美咲さんがすっかりお気に入りのようですね」
桜の不用意な発言に美鈴とカレンの瞳が危険な光を帯びる。特に美鈴の場合は事の次第によったら今すぐ抹殺してくれようかという危ない光が宿っている。
「お気に入りというよりもなぁ… 美咲の魔法スキルが少々厄介なんだ」
「どのように厄介ですの?」
「美鈴と一緒だ。闇属性の魔法スキルを最初から持っていると判明した以上、放置はできないだろう」
「なるほど… どおりで闇落ちした厨2キャラから脱却できないわけですわ」
桜が変な方向に感心している。美咲のコジらせ具合に合点がいった模様。
「魔法属性と厨2キャラは直接関係ないだろう。現に美鈴だって… あっ」
聡史の意味深な言い様に美鈴以外のメンバーは思い当たる節があるようで、視線を宙に彷徨させ始める。カレンに至っては口元を隠して忍び笑いを始める始末。当の美鈴は…
「聡史君、『あっ』って何なのよ」
「いや、たぶん全員ルシファーさんの意識が表面に浮かび上がった時の美鈴を思い出しているんだ。厨2病のご本尊みたいのものだからな」
美鈴の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。改めて聡史から厨2扱いされて、ルシファーさん状態の自分の言動がかなりヤバい点に考えが及んだよう。
だがそこは持ち前の精神力で何とか挽回を図ろうとする美鈴。このようなシーンで最も有効なのは話題の転換だと心得ている。
「そ、それはともかく、確かに闇属性は扱い方によっては甚大な被害を及ぼす可能性があるわね。たぶんこの先私が中心になって色々と教え込まないと下手をするとあの子は自滅するかもしれないわ」
心の内はともかくとして、闇属性に関する真実は概ね美鈴の言う通り。重力を操ったり地獄の炎を召喚したりと、扱いが可能な魔法術式は熟達しないとかなり危険な属性なのは間違いない。ちょうどそこに…
「桜ちゃん、先輩方、おはようございます」
「おや、学君。調子はいかがですか?」
デビル&エンジェルの席に挨拶をしに学が顔を出す。だが今日は彼だけではなくて、同じクラスの生徒が後ろに付き従っている。彼らの登場に一番救われたのは美鈴だと断言してもいいだろう。あからさまにホッとした表情を浮かべている。
「昨日の夜は力加減に戸惑って箸が上手に使えなくて苦労したけど、今朝はもうだいぶ慣れたよ」
「それは良かったですわ。ところで後ろの皆さんは?」
「僕のパーティーメンバーなんだ。桜ちゃんと先輩方に挨拶したいっていうから連れてきたよ」
学の紹介に合わせて、パーティーのリーダーと思しき生徒が一歩前に出て、45度に腰を曲げながら口を開く。
「1年Eクラスのブービートラップです。今後ともどうぞもよろしくお願いいたします」
「元気のある1年生ですわ。こちらこそよろしくお願いしますの」
「「「「よろしくお願いします」」」」
桜から声を掛けられた生徒たちは緊張しながらも声を揃えて頭を下げている。デビル&エンジェルのメンバーたちからは温かい視線が彼らに注がれている。
「あ、あの… 先輩方にご迷惑を重々承知でお願いするんですが」
ここでリーダーがかなり躊躇いがちに声を上げる。
「学だけじゃなくて僕たちも鍛えてもらえないでしょうか?」
どうやらパーティー丸ごと面倒を見てもらいたいという申し出のよう。遠慮がちになっているのは、自分たちの都合で先輩たちを困らせていないかという気持ちが働いているせいもあるだろう。
「お兄様、いかがいたしますか?」
「特に問題はないだろう。来る者は拒まないからな。連休が明けたら放課後に第3訓練場に来てくれ」
「本当ですか! ありがとうございます」
再び全員が深々と頭を下げている。これが地獄の釜の蓋が開いた瞬間とも知らずに…
「それじゃあ、僕たちはこれからダンジョンに行ってくるよ。先輩方、話を聞いてもらってありがとうございました」
学もペコリと頭を下げている。
「無理をしないで身の丈に見合った探索を心掛けるんですよ」
「桜ちゃん、ありがとう。戻ってきたら色々と報告するから」
こうして学たちは、ヒラヒラと手を振るデビル&エンジェルのメンバーに見送られてダンジョンに向かっていく。
ブービートラップのメンバーが去るのを待っていたかのように、今度は美咲がやってくる。大勢が話をする様子に気圧されて、声を掛けづらくてしばらく離れた場所で待っていたらしい。いかにもコミュ障持ちの特性が顕著に表れている事例だといえる。
「おおおおお、おはようございます」
「今日は普通に挨拶できているじゃないか」
「でででで、できるだけ皆さんと、ふふふ、普通に喋れるようにと」
どうやら美咲自身も色々と考えて努力をしているよう。この調子なら近い将来ドモリ癖も克服できるかもしれない。だが聡史以外の面々と喋ると、いまだにその顔が大幅に強張っている。緊張感はいまだに解けていない模様。
「美咲、今日も俺たちと一緒にダンジョンに向かうから装備を整えて管理棟前に集合だぞ」
「ははは、はい」
返事をするなり、美咲はクルリと背を向けて逃げ出すように去っていく。その背中にはやはり温かい視線が向けられる。
ともあれこんな感じで、連休2日目がスタートするのであった。
◇◇◇◇◇
連休の2日目はさしたる出来事もなく、翌朝、男子寮の自室で学は目覚ましの音に叩き起こされる。
「ふあぁ~… よく寝たなぁ」
ベッドから上体を起こしてひとつ大きくノビをすると、隣のベッドから声がする。
「学… 今日も早いんだなぁ~」
「ああ、ゴメン。また起こしちゃった?」
「いいよ、俺はあと30分寝てから食堂に行くから」
もう一度布団に潜り込みながら寝惚け眼で返事をしているのは、学と同室の稲垣亨。同じEクラスの生徒で、彼もまたブービートラップの一員。
二度寝した亨を起こさないように気を遣いながら学は身支度を整える。すっかり着替えを終えると、静かに部屋のドアを開けて外へと向かう。彼が向かう先は裏山で、男子寮と校舎の間を抜けて駆け足で整備されていない山道に踏み入っていく。睡眠中のルームメートを起こすと申し訳ないので、もう部屋に戻らなくてもいいように装備を完璧に整えている。演習服にプロテクターを装着しているだけでなくて、背中のリュックからは左手用の肩まで覆うミスリルの籠手がピョンと飛び出ている。
まだ早朝の5時半なので校内には人影が見当たらず、誰にもすれ違わずに学は目的の裏山の麓に到着する。
彼が朝っぱらからこんな場所に来ているのには理由がある。先日桜と一緒に祠まで大妖怪2体を迎えに行った際に中々いい感じのトレーニングコースだと気が付いて、以来毎朝斜面を駆け上がるのを日課としている。何しろ木々が生い茂る大山の斜面だけに、駆け上がりながら巧みなステップワークで木の枝を掻い潜ったり地面に無数にある木の根に注意を払って進んでいくのはいい訓練になる。慎重かつスピードを殺さないように斜面を登るのは、上昇したレベルに合わせて体の使い方に慣れていくのにちょうどいいよう。
(うん、昨日も一つレベルが上がったけど、この調子なら問題はないな)
体の隅々まで注意を払いながらデコボコの山道をかなりの速度で登る。始めたばかりの頃とは比べ物にならないくらいに、その足取りは確かなものになっているのを本人も感じ取っている。
だが突然、順調に駆け上がっていた学の足が止まる。
(人の気配がする。こんな場所に一体なぜ?)
そんな疑念を思い描きながら周囲に視線を配っていくと、木々の間から覆面をした五人が姿を現す。
「やっと来やがったか」
「朝早くから待っているのは退屈で仕方なかったぜ」
「ゴミの分際で朝のトレーニングですかぁぁ?」
口々に学に対して嘲り見下した口調で汚い言葉を投げつける五人。彼らが何を目的にしているのか、学にはとんと見当がつかない。だが覆面で被った下にあるその表情からは、いかにも険呑な雰囲気が伝わってくる。
「トレーニングの邪魔になるから、そこを退いてもらえないか?」
「ハハハハハ、『退いてもらえないか』だってよ。おい、どうする?」
「そんなに退かしたければ、力尽くで何とかするんだな。わざわざお前の行動パターンを調べて一番人気のない場所で待ち伏せしてやったんだぜ」
どうやらこの連中は、昨日丸1日かけて学の行動を秘かに調べていたよう。これだけの用意周到さを違う場面で発揮しようと思わなかったのだろうか? いずれにしても彼らの言動から窺い知れるのは、他人を見下すことで自らの優位を保とうとする傾向が強い人間ということだけ。
どういうわけだか、魔法学院では毎年学年ごとに生徒の傾向がガラリと変化する。現3年生は比較的大人しい思慮深いタイプの生徒が多く「お坊ちゃま世代」と教員の間で呼称されている。そして2年生は表向きの「奇跡の世代」とは別に「脳筋世代」とも呼ばれている。では1年生はどうかというと、考えがなくて本能的な「DQN世代」と後に命名されるほど、自らの力を振りかざしたり能力の高さに溺れやすい傾向の生徒が多数在籍している。ちなみについ先日卒業した近藤勇人の学年は「正統派世代」と呼ばれている。これは勇人の並々ならぬ統率力によって創り出された、現2年生とは違う意味での「奇跡の世代」でもあった。
さて、話を元に戻そう。五人の襲撃側の生徒はさらに学に向かって口々に罵り続ける。声高に罵倒を浴びせて相手を貶めるのが大好きらしい。
「ゴミのEクラスが、2年の先輩とつるんでるんじゃねえよ」
「ゴミの身分をわからせてやるための制裁だ。しばらくは入院生活を送ってもらおうかな」
「先輩の能力を受け継ぐのは俺たちの役目だ。ゴミは引っ込んでいろ」
「いや、受け継ぐだけじゃねえな。近いうちに上回ってやるから、ゴミは指を咥えて見ていろ」
ここまで言われると、さすがに学にも話の方向が見えてくる。どうやら自分が桜や聡史と一緒にいるのをやっかんでこのような襲撃を企てたよう。こうなると相手が無傷で自分を解放するとはどうにも考えられない。温厚な学とはいえどもヤルしかないと心の中で覚悟を決める。
「僕も痛い思いをして色々と学んだから『はいそうですか』と受け入れるわけにはいかないよ。全員とはいかないまでも、誰かひとりくらいは確実に道連れにするからね」
その言葉を発すると同時に学は斜面を真横に駆け出す。
「コイツ、逃げ出すつもりかぁぁ!」
学が相手の機先を制して動き出したために五人の反応が一瞬遅滞する。それでもこの機会を逃すものかとばかりに、やや遅れて学を追いかけ始める。
(今のうちに山の上側の位置を取ろう)
学は逃げ出すために動いたのではない。待ち伏せ側は彼を見下ろす高い位置に立っていた。ただでさえ人数的に圧倒的に不利な上に、上の位置を取られるのはさらに舞台状況の悪化を招く。せめて五人よりも高い場所に陣取って、立ち位置的な優位を取りたかったというのが学の本音。
斜面を横方向にダッシュしながらも、学は五人の右側に回り込んで徐々に高い位置を目指す。位置的状況をほんの少し好転させられたので、できるだけ足場のいい場所を選んで学は構えの形を取る。
「ゴミがチョロチョロ動きやがって」
「やっと観念したか」
「食らえぇぇぇ!」
ようやく追いついた三人が、いきなり拳を振り上げて殴り掛かってくる。だが学の体は桜と何度も繰り返した稽古通りの反応を見せる。スッと体を開いて腕を取ると、捻りを加えながら下方向に引っ張る… これだけの動作で、最初の一人の体が宙に浮いていく。そのまま投げ飛ばされて背中から木の幹に激突して白目を剥く。どうやら先日の公園で襲われた際の教訓が生きているようで、まったくの手加減なしの投げ技が炸裂。
「なんだと」
先頭のひとりが呆気なく学の技に沈んだ様子を見た残りの生徒はその場で急停止。互いに目配せしつつ、様子を窺いながら後続を待つ。四人揃ったとみるや、今度は腰に取り付けてあった木剣を引き抜く。
「マグレとはいえ、よくもやりやがったな。絶対に許さねえぜ」
学からすれば、「待ち伏せした挙句に、勝手に襲い掛かってきて許すも何もないだろう」と言いたい気分だが、剣を手にして四人にジリジリと迫られる状況ではそんな軽口を叩く余裕はない。
(せめて籠手さえ装着する時間があれば…)
そう考えるが、生憎ミスリルの籠手は背中のリュックに入ったまで、木剣を手にする四人を相手にして、素手で立ち向かわなけれなならない不利を改めて悟っている。ちなみにこの時点で学のレベルは11で対して襲撃側の生徒は13。レベル的にも相手が上回っており、なおかつまだ四人が健在のまま目の色を変えて学を狙っている。
「死ねぇぇぇ!」
四人のうち二人が木剣を大上段に振りかぶって学に襲い掛かる。学はサッと身を躱して剣を避けざまに片方の脇腹にパンチを入れる。確実に入ったパンチであるが、相手の防御力が高いせいでまともなダメージとはならなかっよう。逆に相手の怒りにガソリンを注いだようで、なおも繰り返し執拗なまでに剣を振るってくる。二人組の剣による猛攻が一段落すると、待機していた別の二人組が新手となって襲い掛かる。学の体力は徐々に削られていく一方となっていく。
学は足元に最大限の注意を払いながら、二人から繰り返される剣戟を辛うじて避けていく。だが足元に注意を払うあまり、真後ろに木の枝が張り出しているのを見落としている。枝にぶつかった学の体が一瞬バランスを崩す。
ガキッ
上段から振り下ろされた木剣がが学の脳天を捉える。その衝撃で学の体が地面に崩れていく。頭には大きな傷が生じており、地面に赤い血が流れだす。そのまま学は数秒間だけ藻掻こうと手を動かしたが、やがてその手も力なく動きを止めていく。
「いい気味だぜ」
明らかに大怪我を負っている学を見下ろすように四人が集まってくる。さらにダメージを与えるべく、倒れている体を蹴り上げたり踏みつけたりと残虐なまでに暴行を加える。
そのうちのひとりが、こんなことを言い出す。
「おい、リュックに入っているのはなんだ?」
学が使用しているミスリルの籠手に目がいったようで、その生徒が籠手を取り出して手に取る。
「ゴミには不釣り合いだな」
「売ったらいい金になるんじゃねえか?」
「ドロップアイテムだと言って事務所のカウンターに持ち込もうか」
「いいな、ちょうど小遣いが足りなくなるところだったんだ」
こうして襲撃した生徒たちは、ノビているひとりを叩き起こして肩を貸しながら裏山を下りていく。学から奪ったミスリルの籠手は着ている演習服で包んで目立たないようにして、その足でダンジョン管理事務所に持ち込むのであった。
◇◇◇◇◇
学が襲われてから30分後、裏山に人影が現れる。
「お~い、ポチとタマ。迎えに来ましたよ~」
祠の前で呼び掛けるのは、いつものようにペットを呼びに来た桜。その声が全部終わらぬうちに、2体の大妖怪が転がり出るように姿を見せる。
「主殿、わざわざお迎え忝く存しまする」
「ほんにありがたきことなのじゃ」
恭しく挨拶をする天狐と玉藻の前。だがその時、天狐の鼻がヒクヒクと動き出す。その表情は何らかの気配を掴んだよう。
「主殿とご一緒に稽古を積まれている小童がどうやら山の上におるようですな」
「まことのその通りなのじゃ。はて、面妖な。血の臭いも混ざっているのは、どうしたことなのじゃ?」
キツネの嗅覚は人間が嗅ぎ分けられない匂いでもはっきりと捉えられる。学がいて血の匂いが漂っていると聞いて、桜の頭には嫌な予感が閃くのは当然といえば当然。
「学君がいる場所に案内してもらえますか」
「主殿の命とあらば、お安い御用なり」
「もしや、主殿の背の君の一大事かえ?」
大急ぎで匂いを辿って桜たちが向かった先には、案の定というか、頭から血を流して倒れている学の姿がある。
「まだ息はあります。ポチはなるべく静かに学君を下に運んでください」
「承知いたしました」
天狐が学を背負ってゆっくりとした足取りで裏山を下りていく。その間に桜はスマホを取り出すと…
「もしもし、カレンさんですか。学君が頭に大怪我です。大至急医療棟に来てください」
「わかりました。すぐに向かいます」
こうして朝から大わらわの1日がスタートする。幸い学の頭部の怪我は頭蓋骨には異常はなく、脳震盪を起こしていると判明。その他には体の各所に打撲があるが、今のところは大事には至っていない模様。
「これでもう大丈夫です。頭の傷も塞がっています」
「さすがはカレンさんですわ。助かりました」
「かなりの出血がありましたから。校医の許可が出るまでは安静にしてください」
「せっかく訓練が順調なところで惜しいですわ」
「それよりも桜ちゃん、どう見ても誰かに暴行を加えられたようなんですが」
「ええ、もちろん承知していますわ。犯人を見つけて、ギチギチに締め上げて差し上げます」
カレンすら思わず目を逸らしてしまうような怒りの炎が桜に瞳に宿っている。どうやら学を襲撃した者たちは、史上最大級の超強力地雷を踏み抜いてしまったよう。この時点で死刑宣告に等しいであろう。
「この件は私から母の耳にも入れておきます」
「それは助かりますわ。カレンさんにお任せします」
カレン経由で学院長の耳にも入るとなると、もう只事では済まないであろう。今回の事件は発見が早かったからこそこうして学が事なきを得たものの、そのまま裏山に放置されていたら出血量からいっても生命に危機が及ぶ可能性もあるだけに、その辺も含めてカレンは学院長に報告してくれるという話であった。
◇◇◇◇◇
結局この日、学は目を覚まさないまま過ぎていく。翌朝になって桜が病室に顔を出すと、ベッドに体を横たえたまま身じろぎひとつしない学。だがその目は室内に誰かが入ってきた物音で頼りなさげではあるがゆっくりと開かれていく。
「学君、具合はいかがですか?」
「桜ちゃん、もうどこも痛くないけど、頭がクラクラしてまだ起き上がれないんだ」
「出血がひどかったから貧血を起こしているんですわ。しばらくは大人しくしているしかありません」
「せっかくレベルが上昇したのに残念だよ」
血の気のない青白い顔の学が唇を嚙んでいる。これからさらに訓練を積んで強くなろうという時期に、この入院生活は精神的にも相当応えているよう。
「ところで学君に怪我を負わせた相手は誰だかわかりますか?」
「それが覆面をしていたから、顔がわからないんだ。でも口振りからすると、僕と同じ1年生みたいだった」
「そうですか。監視カメラの映像などを調べていけば裏山に向かった人間を絞り込めそうですわね」
このような話をしている時に、桜のスマホが着信を告げる。学に断って廊下に出ると、桜は通話ボタンを押す。
「楢崎桜様の携帯でよろしいでしょうか?」
「はい、楢崎です」
「こちらはダンジョン管理事務所です。実は昨日楢崎様が登録している装備が買取カウンターに持ち込まれました。扱いを保留にしてこちらで預かっていますが、確認したいことがありますので事務所にお越しいただけるでしょうか?」
「わかりました。30分後に出向きますわ」
こうして通話を終えると、桜は学のベッド脇に一旦戻ってくる。その瞳は奇妙なことにある種の楽しみを見つけたかのように怪しく光る。いくら桜に慣れている学でも直視に堪えなかったようで、その眼光から思わず視線を逸らしている。
「学君、犯人がシッポを出しましたわ。学君から奪ったミスリルの籠手を売ろうとしてダンジョン管理事務所に持ち込んだらしいですの。今から事情を訊きに行ってきますわ」
この発言で学には桜の意図が分かってしまう。それと同時に、先日ダンジョンの森林階層でのロングホーンブルの虐殺劇が脳裏をよぎる。ダメで元々と考えながらも、震えがちに声を掛けてみる。
「さ、桜ちゃん。どうかお手柔らかにお願いします」
「さあ、死体がいくつ転がるでしょうかねぇ~」
「殺すのは禁止だからね。ダメ、絶対!」
「善処しますわ」
こうして桜は学の病室を出ると、その足でダンジョン管理事務所へと向かうのであった。
桜が動き出した。襲撃犯の運命は…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!
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