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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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234 1年生主席

学たちのダンジョン紀行は、もうしばらく続いて…

「テヤァァァ!」


 ミスリルの籠手を装着した学のコブシがゴブリンの顔面を捉えると、小柄な体が軽々と吹っ飛んでいく。だが致命傷を与えたわけではないので、倒れ込んだゴブリンは両手をついて上体を起こしにかかる。とはいえそんな大きな隙を学は見逃すはずもなく、学は前進しつつ顔面蹴りを叩きこむ。真正面から食らわせる某プロレス選手の必殺技であるシャイニングウイザード張りに鮮やかな膝蹴りが炸裂した瞬間ゴブリンは絶命。



「まだパンチ1発ではゴブリンを倒せないようですね~」


「僕はまだ非力なのかな~?」


「レベル7ではこんなものかもしれないですわね。ただしパンチの打ち方がなっていないのも事実ですわ」


「自分ではしっかりと踏み込んだつもりなんだけど」


「それだけではダメですの。まずコブシの握り方ですが、中指と人差し指から力を抜いてください。小指と薬指は握ったままで大丈夫ですから」


「こんな感じかな」


「そのまま二本の指に力を込めたり緩めたりしてください」


 学は言われるままに、中指と人差し指を動かしてみる。これがどのような効果があるのか、まだ彼自身何もわかっていないよう。



「学君、何か感じませんか?」


「握り込むと腕全体に力が入るみたいだけど」


「腕だけではありませんわ。大胸筋や広背筋にも力が入りますの」


 学は胸と背中を意識しながら2本の指を動かしてみる。すると確かに桜が言う通り、背中や胸部の筋肉にまで影響が伝わっているのを自覚する。



「本当だ。たった指2本を動かすだけでも、こんなにあちこちの筋肉を使っていたんだ」


「ええ、その通りです。何事も脱力が肝心だと何度も繰り返し教えましたが、最初からコブシを握り込んでいると無意識に上半身の筋肉が緊張するんですの。本当は全ての指の握りを緩めておくのがいいんですが、コツを掴むまでは指2本を緩めつつパンチを打ち出しましょう。それから、パンチの始動は常に肩甲骨からですよ」


「ちょっとこの場で試してみるよ」


 学は桜から受けた注意を頭の中に思い描きながら何度か右のコブシを繰り出していく。すると今まで以上にスムーズに腕が前に出ることに気が付いたよう。



「さすがは桜ちゃんだよ。まだ僕が知らない体の動きがいっぱいあるんだね」


「徐々に教えていきますから今日の所は今注意した二点をモノにできるように頑張ってください」


 懇切丁寧に学に指導する桜。その様子にカレンは盛大に胸焼け気味の表情。もうお腹いっぱいで入りきれません状態に陥っている。だが明日香ちゃんは別の感情を抱いているよう。なぜだか知らないが、両肩をワナワナと震わせている。



「桜ちゃん、ちょっとおかしいじゃないですかぁぁぁ!」


「おや、明日香ちゃん。急にどうしましたか?」


「なんで学君にはこんなに親切なんですかぁぁ! 私の時は倒れるまで走らされて、それからポーションを流し込まれて、また走らされての連続だったのに」


「ああ、そんな細かいことを言っているんですか」


「細かくないでしょうがぁぁぁぁ! 何回三途の川をこの目にしたか、もう数えきれないですよぉぉ!」


「ところで明日香ちゃんの場合は何も武術の心得がなかったですよね」


「それはそうですが…」


 あれだけ威勢が良かった明日香ちゃんが、ちょっとだけトーンダウン。



「しかも魔法少女に憧れていて、頭の中はお花畑でしたよね」


「な、何の話だか、記憶にありません」


 ついには自分の黒歴史を突き付けられて、その目が宙を泳ぎ始める。



「学君には私と同じ古武術の心得があります。とっても繊細な技の数々ですが、どれも簡単に人の命を奪えますわ。それを明日香ちゃんと同じような強引なやり方で身に着けさせたら、とんでもない戦闘マシーンが出来上がります」


「そ、そうなんですか」


「ええ、そうですの。弟弟子にはしっかりと教え込まなければなりませんわ。明日香ちゃんのように粗雑には扱えません」


「結局粗雑じゃないですかぁぁぁ!」


 と突っ込んでいるものの、明日香ちゃんは桜の口車にまんまと丸め込まれているのに気が付いていない。横で見ているカレンはというと…



(頼朝君たちだって立派な戦闘マシーンのような気がするんですけど)


 などというご認識のよう。だがその表情はポーカーフェイスというか… 天使の微笑みで誤魔化している。内面を上手に隠しきる意外と怖い性格なのかもしれない。



 こんな遣り取りがありつつも、再びゴブリン狩りを再開。学は桜から与えられた注意を守りながら、通路に登場するゴブリンを右のコブシで迎撃していく。先程よりも明らかに威力が増したパンチによって、ゴブリンは一撃で戦闘不能に陥る。



「あとはレベルが上がれば簡単に仕留められるようになりますわ」


「桜ちゃん、ありがとう。もっと打撃技も磨いていくよ。何しろ桜ちゃんからの直伝だから中途半端にしたくないんだ」


「ええ、自分のものにできるように、どうか頑張ってください」


 こうして午前中いっぱいをかけて学はゴブリンとの対峙を繰り返していく。最初に比べて効率的に打撃でダメージを与えられるようになったので、さして苦戦もせずに次々と倒していく。ダンジョンに入った時点で彼のレベルは5であったが、現在は8まで上昇するという順調な成長ぶり。



「午前中にレベル10を目指しましょう。その後は一旦事務所に戻ってお昼にします」


「桜ちゃん、デザートはありですか?」


「明日香ちゃんは、ご自分の体重と相談してください」


「それなら、思いっきり食べられますよ~。このところ体重はしっかりキープできていますから」


 おいおい、まだ危険水域にしっかり留まっているだろう。それから明日香ちゃん…「キープできてる」というのはなんだ? 一刻も早く減らせよ。ほんの少しでいいから自分から減らす意思を見せようよ。


 お気楽な明日香ちゃんに呆れながらも、一行はゴブリンの姿を探して1階層を歩き回るのであった。




   ◇◇◇◇◇




「ファイアーボール」


 聡史率いる班も順調にゴブリンを倒していくが、何しろ美咲の魔力量が限られている。そのため時折美鈴やクルトワが手を貸しながら、久しぶりのゴブリン退治に当たっている。そのおかげで美咲のレベルは6まで上昇。



「午前中に7までレベルを上げておこうか。美咲の魔力はまだ大丈夫か?」


「クックック、悠久なる大魔導士が魔力の心配をされるとは」


 ペシッ


「い、痛い」


「だからそういうのはいいから」


 またまた聡史から頭をはたかれて涙目になる美咲がいる。もうこの遣り取りもすっかりお馴染みになったようで、美鈴とクルトワは生暖かい表情で見つめるだけ。



「ああああ、あと2発ファイアーボールを撃てそうです」


「そうか、もう美咲は魔法を使用するなよ。また魔力切れでフラフラになるからな」


「は、はい」


 突発的な事態に備えて魔力に余剰を残しておくのは冒険者としての鉄則。聡史たちは美咲の魔法は封印して、残りのメンバーによるパワーレベリングに移行する。だがその時、美鈴が意外なことを言い出す。



「聡史君、何か鈍器はないのかしら? どうも私の魔法だと1階層では威力が強すぎて近くにいる1年生を巻き込んでしまいかねないわ」


「それもそうだな」


 聡史はアイテムボックスを漁って何か適当な鈍器がないな探してみる。その結果出てきたのは…



「聡史君、これは何かしら?」


「ヒノキの棒だ。これしか見当たらなかった」


「カレンにはミスリルのメイスで、私にはヒノキの棒なの?」


「使い捨てるにはちょうどいいだろう」


 やや頬を膨らませ気味の美鈴。自分に対するぞんざいな扱いに抗議の目を向けている。だが仕方がないとばかりに、受け取ったヒノキの棒を魔力で強化していく。いい具合の対ゴブリン向けの鈍器が完成した模様。



「美鈴様は魔法を使わないで戦うんですか?」


「肉体労働は苦手だから普段はやらないけど、たまには気分を変えてみないとね」


 大魔王の変貌ぶりにクルトワが目を白黒している。ヘルファイアーで魔物を骨まで灰に帰す美鈴の姿を見慣れているだけに、ヒノキの棒を手にする美鈴の姿が斬新だったよう。



「ちょっと試してみようかしら」


 美鈴は3回素振りをしたのちに、ヒノキの棒でダンジョンの壁を叩く。


 ビシッ  ガラガラガラ…


 軽く腕をしならせて叩いただけにも拘らず、ダンジョンの壁が広範囲に崩れ去る。その光景を目の当たりにして美咲は目を見開いて大声を上げる。



「かかかかかかか、壁がぁぁぁ!」


「さすがは美鈴様でございます。まさに大…」


 クルトワが何か言い掛けるのを美鈴が口に人差し指を当てて止めている。さすがに美咲がいるこの場で「大魔王」と口にするのは憚られる状況であろう。


 ということでデモンストレーションが終わった美鈴はゴブリンがやってくるのを待ち構える。


 ギギャー


「おあつらえ向きに来てくれたわね。それでは死になさい」


 真上から振り下ろしたヒノキの棒はゴブリンの脳天を直撃する。その結果…


 ゴブリンの身長が半分になっている。冗談抜きで体高130センチほどあったゴブリンが、70センチ程度の得体の知れない塊と化している。魔法での戦闘に特化した美鈴ではあるが、ゴブリン程度ならヒノキの棒でも十分すぎる破壊力。というか、オークやオーガ相手でも真っ向から叩きのめせるであろう。



「美鈴様、お見事です」


「クルトワ、たかがゴブリンでそんなに褒めないでね」


 ガクブルしている美咲をよそに、大魔王と魔王の娘主従の遣り取りが行われている。これには聡史も苦笑せざるを得ない。



「さあ、午前中あと一頑張りしよう」


 こうして美咲のレベルが7になるまで美鈴による撲殺劇場が繰り広げられるのであった。




   ◇◇◇◇◇

   


 

 ちょうどお昼時に差し掛かる時刻に、予定通り桜たちはレベル上げを終えて一旦ダンジョンから退出してくる。



「学君は、体の動きに何か変化はありますか?」


「なんだか体が軽いというか… 普通に歩いているつもりが大股になっているような感じがするかな」


「やはり今日はこれ以上のレベルアップは好ましくないですね」


「そうなの? レベルって上がれば上がるほどいいんじゃないの?」


「程度問題ですわ。レベル5の人間がいきなりレベル10になると、上昇した筋力や反射神経に脳が慣れる時間が必要なんですの。自分の力を制御出来るように日常生活でも注意を払ってください。でないとコップを掴んだ瞬間に握り潰しかねませんから」


「そういうことか。注意するよ」


 こんな話をしながら事務所の奥にある食堂に向かおうとすると、ダンジョンの出入り口からこちらに向かってくる人影を見つける。もちろんその人影とは聡史たち。



「お兄様たちも午前中のレッスン終了ですか?」


「ちょうど今出てきたところだ」


 ここで桜はちょっと考える。何かいいアイデアが閃いたよう。



「どうせでしたら1年生を歓迎する意味で、デビル&エンジェル恒例のバーベキュー大会にしませんか?」


「もしかして森林階層に行くのか? 道具や材料はアイテムボッスに備蓄してあったかな?」


「調べてみてください」


「どれどれ… うん1回分だったら十分残っている」


「それでは皆様、12階層まで足を延ばしましょうか」


 急な桜の提案に焦り出したのは明日香ちゃんとクルトワ。



「桜ちゃん、デザートの持ち込みはアリですよね」


「すぐに売店で調達してきますから、待っていてください」


 大慌てで併設されている売店に姿を消す二人。絶対に食後のお楽しみを奪われてなるものかという執念すら感じさせている。いつもの5割増しの素早い動きで売店に姿を消すその後ろ姿を見送る聡史たちは、生暖かい空気に包まれている。



「飲み物くらいは追加しておこうか」


 そう言いながら聡史が売店へ向かうと、残ったメンバーも彼の後に続くのであった。




   ◇◇◇◇◇




 大山ダンジョンの階層転移魔法陣だが、当初は5階層刻みで移動が可能だった。ところが美鈴が魔法陣に描かれている魔方式をちょっと書き換えたおかげで、今ではどこの階層へも自由に移動可能となっている。とはいえあくまでも自分が過去に足を踏み入れた階層に限定はされているが… もしこの制限をなくしてしまうと、レベルひと桁の1年生が最下層を見に行くといったような大事件が勃発しかねないので、敢えて取っ払わずに残してある。


 ということで、初めて転移魔法陣で森林階層にやってきた学と美咲は…



「うわ~… ダンジョンの中にこんな広々とした場所があるなんてなんだか信じられないよ~」


「クックック、悠久の大魔導士が力を振るうには、まだまだこの程度の場所では狭すぎる」


 素直な感想を述べる学と、厨2キャラ全開の美咲という対照的な反応。もちろん両者とも同じクラスなので、互いの顔は見知っている間柄なのは言うまでもない。



「ところで長谷川さんは、どうして聡史先輩たちと知り合ったの?」


「クックック、我が力を見初めた者がいたというわけだ」


「ふ~ん、なんだかよくわからないけど、これからはクラスでもよろしくね」


「クックック、悠久の大魔導士と直々に言葉を交わす許可を与えよう」


 どうにも変な具合にしか会話が進行していかない。いまだ美咲がまともに会話できるのは聡史だけという状況が続いている。何しろ色々とコジらせていた期間が長すぎて、美咲自身急に他人との関わり方を変えるには時間が足りなさすぎる。



「お~い、美咲と学くん。イスやテーブルの準備を手伝ってくれ~」


「聡史先輩、わかりました」


「は、はい」


 聡史がアイテムボックスから取り出したべーべキューグッズを二人で地面にセッティング開始。美鈴はテーブルで野菜の下拵えに取り掛かっているが、その眉がなぜかやや曇りがち。



「聡史君、この野菜ってもしかしてマハティール王国で入手した品じゃないのかしら?」


「確かに微妙に形が違うな。まあ大した差があるわけではないからたぶん大丈夫だろう」


 聡史の時間停止型アイテムボックスから取り出されたニンジン、キャベツ、トウモロコシ等は、どうやら王宮の昼食会で振舞われた残り物のよう。残り物とはいっても鮮度はしっかり保っており、取れたての瑞々しさをキープしている。


 こうして聡史たちが炭を熾したり、皿を並べたりする感に桜たちはといえば…



「明日香ちゃん、カレンさん、クルトワさん、あちらの方向にロングホーンブルの群れがいますわ。これから肉の調達を開始します」


「桜ちゃん、こちらにおびき寄せるんですか?」


「学君たちにこれ以上経験値が入らないように、離れた場所で仕留めましょう。こちらから出向きますわ」


 という桜の意見に従って、四人が駆け足でロングホーンブルの群れに接近していく。のんびりと草を食んでいたロングホーンブルの群れは、桜たちの姿を発見すると途端に臨戦態勢。雄叫びを上げながら角を振りかざして突進を開始。


 だがこの程度の魔物に怖気づくメンバーではない。カレンのメイスが唸りを上げて、突進してくる自動車サイズの魔物を空に高々と跳ね上げる。


 明日香ちゃんが手にするトライデントが、雷光を煌めかせながら魔物の頭に首にと突き刺さる。


 クルトワが手にするミスリルの剣が、ロングホーンブルを数体まとめて真っ二つに切り裂いていく。


 この様子を遠くから見ている学と美咲は…



「す、すごい… あんな大型の魔物を…」


「ななななな、何が起きている?」


 あまりの衝撃的な光景にこれ以上言葉が出ない様子。入学してまだひと月の一年生にとっては、刺激が強すぎる絵面だったよう。


 さらに狩りは続く。カレンがメイスを振るたびにロングホーンブルが宙を舞う。


 明日香ちゃんのトライデントが次々に黒焦げにしていく。


 クルトワの剣が切り裂き続ける。


 そして真打たる桜が、その無駄に高すぎる身体能力を生かして地面に落ちているドロップアイテムを無駄のない動きで拾い集める。その瞳は美味い肉を一かけらも取り残さないという鋼の意思に満ち溢れている。


 こうしてすっかり群れを全滅させた四人は「ひと狩り終わったぜ」という表情で戻ってくる。



「お兄様、食べきれないほど肉が集まりましたわ。学君と美咲さんは食堂で提供されるステーキを食べましたか?」


 桜から問われた二人は、目の前で起こったばかりの圧倒的な光景に気圧されてコクコクと頷くことしかできない模様。



「あの肉はこうして集められて生徒たちの口に入っているんですの。元手はタダ同然ですから、格安で美味しいステーキが提供されているんです」


 またまた明かされる衝撃の事実に同じように二人はコクコク頷くしかない。


 ともあれお腹がいい具合に空いてきたこともあって、ロングホーンブルの厚切り肉を豪快に焼いたステーキをメインに、デビル&エンジェル恒例のバーベキュー大会が始まる。



「学君、お味はいかがですか?」


「桜ちゃん、こんな素晴らしい環境でバーベキューができるなんて思ってもみなかったよ。やっぱり魔法学院ってすごいんだね」


「学院がすごいわけではありませんわ。2、3年生でも携帯食を齧りながらダンジョンの攻略をしている人たちは大勢います。要は個人の努力次第です」


「やっぱりそうなのか… あんな馬鹿デカい魔物を倒すようになるまで、僕ももっと頑張らないといけないんだね」


「努力は裏切りませんから」


 その横では…



「あああ、あの聡史先輩」


「どうしたんだ?」


「ななな、なんだかご飯を食べているうちに、急激に魔力が回復してきたような…」


 どうやら異世界産のたっぷりと魔力を含んだ野菜類のおかげで美咲の魔力が相当回復したらしい。もちろん聡史たちも一緒に食べているものの、彼らにとってその程度の回復は微々たる量なので、今まで気にも留めなかったということらしい。


(そうか、異世界の食料は、地球の人間にとって魔力の回復に繋がるのか。これは盲点だったな)


 今まで見過ごしていた大事な点に聡史は認識を新たにするのであった。




   ◇◇◇◇◇



 

 話は変わるが、昨年度の魔法学院において新入生主席は間違いなく勇者の職業を持つ浜川茂樹。その後5月に編入してきた聡史と桜というあまりにもイレギュラーな兄妹によって、気の毒ながら第一線での活躍からは程遠い場所に現在は置かれている。とはいえ茂樹は歴代の生徒の中では間違いなく飛び抜けた存在であるのも確か。そして彼は様々な出会いと経験を重ねて着実に成長を遂げている。


 それとは別に、今年入学した1年生の主席の生徒とはどのような人物であろうか?


 その生徒は安部優一といい、もちろん1年Aクラスに在籍している。彼は二重職業ダブルスペルという日本ではまだひとりしか確認されていない特性を持っており、現状では〔ダークナイト〕と〔漆黒の賢者〕という二つの職業を保持している。剣技と魔法においてかなり高位の職業を同時に所持しているので、おのずとその能力が高いのは言うまでもない。


 その上初期数値が他の生徒と比較しても2倍となっており、非常に恵まれた才能でもって周囲から期待を集めている。中には「将来的には、勇者さえ凌ぐのではないか」などという声まで出る有様。


 これだけ並べたのなら、魔法学院の次代を担うエースに相応しいと誰もが考えるであろう。実際に1年生を担当する教員のほとんどは彼こそが新たなエースと信じて疑わない。


 だが優一には裏の顔と呼ぶべき別の一面がある。その本性とは一見誰にでも人当たりがよさそうに見えながら、話をする間に自分のペースに巻き込んで相手を巧妙に支配下に置いていく。他人の忠告やアドバイスには一切耳を貸さずに、逆に自分に意見する人間を徹底的に排除しようとする。仲間や友人という概念を持っておらず、立場の上下でしか人間関係を構築できない。


 挙げればキリはないが、このようにその人間性において大きな問題を抱える生徒だといえよう。それがなまじっか類稀な能力を与えられたことが原因で増長して、今や立派なサイコパスと呼んでも差し支えない厄介な人格に成長している。


 新学期が始まって早々の時期に自主練をしている頼朝たちの元に新入生が押し掛けて返り討ちに遭うという事件が勃発したが、あの事件の陰で糸を引いていたのも優一に他ならない。彼は噂になっている2年Eクラスの実力を知るために、こっそりクラスメートを唆していた。自分は安全な立場にいながら周囲を危険に飛び込ませようとする… それでいて巧みに言い逃れをするものだから、優一自身は一切責任を問われない。他人が自分の犠牲になるのは当然と考えている、どうにも手に負えない性格の持ち主といえる。



 この日の朝、優一は同じクラスの生徒たちと食事をしながらこのような話題を切り出す。



「どうも最近Eクラスの生徒が2年生と一緒に何かしているらしいな」


 優一の意図を知らないクラスメートは彼の前フリに乗っかってくる。



「ああ、確かに俺もその話は聞いたぞ」


「役立たずのEクラスが何のつもりだ?」


 現状では1年生のAクラスとEクラスではその実力に大きな差がある。能力別に生徒をクラス分けしているので、それは当然であろう。同様に昨年も、聡史たちが編入するまではEクラスは他クラスから下に見られる存在であったのは間違いない話。


 単純なバカ共が話に乗ってきたと内心ではほくそ笑みつつも、優一はいかにもさりげなく話題を誘導していく。



「先輩たちに直接指導を受ける立場に相応しいのは僕たちAクラスだと思わないか?」


「その通りだな。Eクラスのゴミが先輩たちから指導してもらうなんて絶対に有り得ないだろう」


「なんだったらその生意気なやつをシメて二度と先輩たちに関わらせないようにするか」


(本当にバカは扱いやすいな。ちょっと煽ってやったら、すぐにその気になる)


 本心を決して悟られないように用心しながら、優一はヒートアップするクラスメートの会話にはこれ以上一切参加せずに黙って成り行きに耳を傾けるのであった。 


突然現れた新たな生徒。彼はこの先、聡史たちとどのように関わっていくのか…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 考えてみたら浜川はわりと普通だったな 出番無いけどさりげなく彼なりの物語が進んでる しかしクルトワとくっつくとは… 明日香ちゃんは相手が出来るのと職業が付くのどっちが早いんだろうか たぶん…
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