230 急展開
桜と学の関係が……
魔法学院の校舎をさらに奥に進んだ場所に体育館や屋内演習場が並ぶ一角があり、そこにはひっそりと武道場が構えられている。なぜひっそりなのかというと立派な施設であるにも拘らず利用される機会が極端に少ないのが理由。学院では部活動は行われておらず、柔道部や剣道部は存在しない。部活をやっている暇があれば生徒たちはダンジョンに行ってしまうので部員が集まらない。従って体育の授業で時折使用されるだけで、ほとんど使用者がいないという武道場の物寂しい実態がある。
小規模な体育館程度の大きさの建物内部には、手前から畳敷きの柔道場、板張りの剣道場、ウレタンマットが敷かれている多目的に使用可能なレスリング場が並んでいる。聡史たちが館内に入ってみると、やはり人の気配は感じられない。
ちなみに今この場にいるのは、聡史の他に美鈴とカレン、そして食堂でパフェを食べるためにコッソリ教室を抜け出そうとして確保された明日香ちゃんとクルトワ。二人は楽しみのオヤツが先延ばしされてかなり不機嫌をかこっている。あれだけ桜の大スキャンダルに興味津々だった明日香ちゃんだが、今はすっかりパフェの魔力に軍配を上げているのがパッと見で明らか。
「美鈴、女子更衣室を見てきてもらえるか。俺は男子更衣室を確認してくる」
「ええ、いいわ」
二人がそれぞれの更衣室に入っていくと、一人分の着替えた制服が置いてある。どうやら桜と学がここで着替えたは間違いなさそう。それにしても武道場で着替えて何をしているのか、その辺が気になるところ。
様子を窺いながら中を進んでいくと、一番奥にあるレスリング場から物音が聞こえてくる。聡史が耳を澄ませると…
バーン!
「もう一本お願いします」
バーン!
「まだまだ、もう一本」
何かを叩きつける音と共に、男子生徒の声が聞こえてくる。
「やはり予想だ通りだな。逢引きとは程遠い雰囲気だぞ」
武道場にいると聞いた時からこの流れを聡史は予期していた。「武道場にいるんだから、武道をやっているんだろう」という発言があったのを覚えているだろうか。そしてその言葉通りの展開が繰り広げられているよう。
「奥から何か聞こえてきますね」
「もうちょっと近づいてみましょう」
カレンと美鈴も物音に気が付いている。そして通路を奥に進んでいくと、閉め切った扉の向こうで何が繰り広げられているのかよりはっきりと聞こえてくる。これは明らかに二人が稽古をしている様子に間違いない。
「はぁ~… せっかく付いてきたのに、まったくの期待外れですよ~」
「やっぱりパフェを食べに行けばよかったです」
友達の心配よりも3時のおやつが大切な明日香ちゃんとクルトワ。どこまでもマイペースで我が道を突き進んでいる。桜と学の動向が気になって訓練が手に付かない他のクラスメートとは一線を画しているのは間違いない。いくら何でも友達甲斐がなさすぎだろう。
「どうする? まだこれ以上何か確認することがあるか?」
「もうちょっとこのまま様子を見ましょうか」
聡史としてはもういいような気がしているのだが、美鈴の意見に従ってレスリング場の外で聞こえてくる音に耳をそばだてている。しばらくそのままでいると物音が止んで、ガラッと音を立てて入り口の扉が開く。
そしてそこに立っているのは、もちろん桜に他ならない。
「皆さんお揃いでこんなところに集まって何をしているんですか? 気配で丸わかりですわ」
桜の気配察知を誤魔化すのはやはり不可能だった模様。聡史たちが武道場に足を踏み入れた瞬間に、すでに彼らがやってきていると桜は把握している。そのせいかどうかはわからないが、呆れたようなジト目で聡史たちを見ている。
「いや、急に桜がいなくなったから探しに来たんだ」
「ずいぶん正確に私の居場所がわかりましたね」
もちろんクラスメートが様々な箇所に張り込んでいたのも桜はきっちり把握している。ここまでバレていると余計な誤魔化しは不可能となる。
「そのね… 桜ちゃんが学君と何をしているのか調べてこいってクラスのみんなが騒いだのよ」
「そうですか、まあいいですわ」
桜のジト目はいまだに続いているが、ひとまずは納得してくれたよう。さらに桜は続ける。
「学君とは古武術の稽古をしていただけですわ。ああ、そうでした。学君をちゃんと紹介していませんでしたね」
ということで、桜はメンバーをレスリング場に招き入れる。マットの上では汗びっしょりの学が大の字になって倒れている。だが彼は聡史たちの姿を見て慌てて体を起こして、その場に正座する。
「聡史先輩、二宮先輩、西川先輩、お久しぶりです。魔法学院に入学しましたので今後ともよろしくお願いします」
「私の弟弟子の中本学君ですわ」
「ええぇぇ! 弟弟子? ということは、桜ちゃんは学君と付き合っているわけじゃないの?」
「稽古には付き合っていますわ。ねえ、学くん」
「はい、桜ちゃんに稽古をつけてもらおうと思ってお願いしたら、またこうして色々と教えてもらうことになりました」
美鈴の驚きがこもった声が響く。カレンたちも同様。殊に明日香ちゃんは…
「まったく、紛らわしい言い方をしないでくださいよ~」
こんな感じで小声でブツブツ呟いている。こんな面白くない話だったら食堂でパフェを食べていれば良かったという心の声まで聞こえてくる。
両者の発言をまとめると、どうやら先日学が第3訓練場で「付き合ってください」と桜に言ったのは稽古に付き合ってくださいという意味だったと考えるのが正しいよう。ともかく真相が明らかになると、聡史を除いた他の女子たちのガッカリ感が半端ではない。思いっきり期待を裏切られてどうリアクションしたらいいのか… とにかくそんな表情。
「学君、俺も顔見知りの後輩が出来たのは嬉しいぞ。どうか頑張ってくれ」
「聡史先輩、ありがとうございます」
「それじゃあ、桜、邪魔したな。稽古を続けてくれ」
「言われなくても続けますわ」
こうして思うような結果を得られなかった一同は肩を落として教室に戻っていく。教室ではクラスメートがワクテカしながら聡史たちの報告を待っていた。
「聡史ぃぃぃ! ど、どうだった?」
真っ先に詰め寄ってきたのは頼朝。他の生徒たちも呼吸すら忘れたかのような表情でじっと聡史を見つめている。
「古武術の稽古をしていた。あの1年生は桜にとっては弟弟子だそうだ」
「ヘッ?」
「付き合ってくれという発言は稽古に付き合ってくれという意味だったらしい」
「「「「「「「なんだってぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」」」」
クラス全体から真顔で驚きの声が上がる。徐々に状況が飲み込めてくると、次第に生徒たちの表情から力が抜け落ちていって、全員が呆けた顔で虚空を見つめ始める。
こうしてEクラスを巻き込んだ大騒ぎは大したことない結果で終わりを告げる。クラスメートたちは何とか精神を立て直して再び訓練やダンジョンでの活動に戻っていった。
◇◇◇◇◇
そんな騒ぎが過ぎて次の週末… 土曜日はダンジョンに向かった桜であったが、日曜日の朝は何やら様子がおかしい。普段は歯を磨いて顔を洗うと外に出る準備が終わるはずが、驚くことに鏡に向かって髪の毛のブラッシングなどをしている。多少の寝ぐせなど気にしない桜にしては、絶対に考えられない変化がこの日に限って起きている。
「桜、今日は出掛けるのか?」
「ええ、お兄様。学君とお出掛けしてきますので、本日のダンジョン行きはお休みいたします」
今までの桜からすると絶対に有り得ない発言が飛び出てくる。三度のメシよりも好きなダンジョンを桜が自ら休むというのは、空から槍が降ってくるよりも驚天動地の出来事かもしれない。サクラと学の間で、久しぶりに会えたので二人で出掛けようという話がいつの間にかまとまっていたよう。中学の頃もたまに二人で出掛けていたので、まあそれもアリかと聡史は考えている。それよりも…
(こいつ、口ではなんだかんだ言いつつも、学君の登場に相当浮かれているんじゃないのか?)
もちろん兄としての考えは努めて顔に出さないようにしている。実際聡史が考える証拠として、本日の桜は一番お気に入りのショートパンツに水色のブラウス、薄手のパーカーというスタイル。玄関には新品の革製のハーフブーツ(爪先に鉄板入り、蹴られただけで大概の人間はほぼ即死する)まで置いてある念の入りよう。
この状況を控えめに表現しても、これから彼氏とのデートに出かける女子高生のように映る。妹にこんな日がくるとは思っていなかった聡史は娘を嫁に出す父親の気分を心の中で嚙み締めている。
「お、おう。まあせいぜい楽しんでこい。気をつけてな」
「いってきますわ」
普段は見せないとってもいい表情で兄に振り返ると、桜は玄関を飛び出していくのであった。
◇◇◇◇◇
研究棟のエレベーターを降りていくと、ちょうどそこに学が待っている。ドアが開いて桜の姿を発見すると、学も嬉しそうな表情を向ける。なんだか怪しい。
「桜ちゃん、おはようございます」
「こちらこそ、おはようございます」
「なんだか私服姿の桜ちゃんはいつもとちょっと雰囲気が違うね」
「そうですか? 普段から大体こんな感じの服しか着ないんですよ」
嘘だ。一番お気に入りを着込んでいるのに、なぜかこんなちょっとした見栄を張る桜がいる。これが桜の女心なのだろうか?
「でも桜ちゃんは美人だから、何を着てもよく似合うね」
「お世辞でも嬉しいですわ」
学は思ったことを遠慮せずに口に出す、とっても素直な性格らしい。そんな彼の性格をよく知っている桜はずいぶん嬉しそうな顔をしている。つい先日再会したばかりなのに、もうここまで言い合える仲に進展しているというのだろうか?
「学君、私は朝の勤めがありますから、ちょっと裏山まで一緒に来てもらえますか」
「うん、いいよ」
二人して校舎裏の山をちょっとひと登りすると、そこには祠が二つ並んでいる。
「お~い、ポチとタマ~。迎えに来ましたよ~」
祠の扉が開いて中から天狐と玉藻の前が転がるように飛び出てくる。
「ワワッ、急に出てきた!」
「学君、ポチとタマは私のペットですわ。大人しいですから怖がらなくても大丈夫ですの」
いやいや、過去には人も食っていた恐ろしい大妖怪なんだけど。現在は飼い犬に成り下がっているとはいえ…
「これは主殿、わざわざ忝く存じまする。して、そちらの小童は先日見かけたような」
「おやおや、主殿は朝から背の君と睦まじく、良きかな良きかな」
天狐が普通に朝の挨拶をするのに対して、玉藻の前は「何でもお見通し」という表情を浮かべている。さすがは封印される前に帝を誑かそうとした大妖怪、人間の色恋沙汰にも造詣が深いよう。
「こちらは学君です。仲良くしてくださいね」
「主殿、承知いたしました」
「見れば未だ力なき存在の様子なのじゃ。事によっては妾たちがお守りいたすのかえ?」
「もしかしたらそんな時があるかもしれませんが、いずれはお兄様くらいに強くなってもらいますわ」
「ほほう、兄殿であられるか…」
「主殿のお力があらば、一概に不可能ではないのじゃ。そこなる小童、主殿にしっかりと鍛えてもらうがよい。まことそなたにとっては吉祥なのじゃ」
さすがは桜のペットたち、ちょっと話をしただけで桜の事情を汲み取っている。これだけ物分かりのいいペットがいると桜も楽であろう。
「あの、もしかして噂の妖怪のお二人ですか? 初めてお会いしますが、どうぞよろしくお願いします」
学はやや恐々した顔で頭を下げている。一年生の間でも天狐と玉藻の前の噂はかなり触れ回られているらしい。
「フム、主殿が目を掛けておられるだけあって中々殊勝な態度だ。ということならば、現在はともかくそれなりに見込みがあるのだろう」
「ポチの体術は中々のレベルですからね。いずれは学君と手合わせする日も来るでしょうね」
「ど、どうかお手柔らかにお願いします」
「良いであろう」
「妾も力添えするのじゃ。それよりもそこなる小童はパフェは好きかえ?」
「えっ、時々桜ちゃんと一緒に食べたりします」
「主殿、妾は気に入ったのじゃ。然らばこれから一緒にパフェを召したいのじゃ」
「タマは学君に関係なくただ甘い物が食べたいだけでしょうが… まあいいですわ。今日は出掛けますから、朝ごはんの後に好きな物を買ってあげます」
「主殿、我はいつものキツネうどんと稲荷寿司でよろしいですぞ」
「朝からパフェなのじゃ。明日香に見せつけるのじゃ」
こうして学との対面を終えた大妖怪2体は桜に引き連れられて食堂に向かう。この後桜は学と並んで自分でも食事を取って、稲荷寿司やら大福やらシュークリームやらのお土産を大量に持たせてから2体を祠に帰す。
「これでペットの面倒は見終わりましたから、ようやく出発ですわ」
「なんだかすごく強い気配を漂わせていたよ。桜ちゃんはよくあんな妖怪をペットなんかにしているね」
「まあ、色々と事情がありまして。それよりも校門を出てバス停に向かいましょう」
「うん、わかったよ」
桜はポチタマに関して言葉を濁して誤魔化している。いくら何でもペットの正体を明かすには時期尚早と判断したよう。
そのまま二人はバス停に向かう。しばらく待ってバスがやってくると二人は隣合わせの席に腰かけながらウキウキデートっぽい雰囲気を振り撒きつつ最寄りの駅に向かうのであった。
◇◇◇◇◇
バスを降りると、日曜日の朝とはいえそこそこの数の人間が行き交う駅前に桜と学は立っている。
「さて、特に何も決めずに街まで着きましたが、これからどうしましょうか?」
「桜ちゃん、僕はこの街に何があるのか全然知らないんだけど」
「安心してください。私もここから電車に乗るだけで街中を歩いたことはありませんの」
「ええぇぇ! そうなの? 2年生だからちょくちょく街に来ているんだと思っていたよ」
「各地を飛び回っていましたからねぇ~。まあしょうがないですわ。行き当たりばったりで適当に楽しみましょう」
ということで、ひとまずは街に何か目に付く施設がないかと歩き始める二人。どういうわけだか手を自然に繋いでいる。実は中学校時代にもこうして何度かデートらしきお出掛けをした際に当たり前のように手を繋いで歩いた過去がある。あまり馴染みのない街でお互いにはぐれないようしていると信じたい。
「おや、ずいぶん大きなゲームセンターがありますね」
「本当だ。僕はあんまりゲームとかやったことないけど入ってみる?」
「私も初めてですわ。見聞を広める意味で中を覗いてみましょう」
ということで、ゲームセンターに入っていく二人。まだ開店したばかりの時間帯なので、人影はまばらであった。
「ここにいっぱい並んでいるのが噂に聞くプリクラのマシンですね」
「プリクラっていう名前は聞いたことあるけど、これが実物なんだね」
どこか世間ズレしている二人。もちろん地元にはゲームセンターくらいあるのだが、放課後や土日はほとんどの時間を稽古に当てていたためプリクラさえ初体験らしい。ひとまず適当に内部に入ってみる。
「う~ん… いまいち操作が分かりませんわ」
「とりあえず説明をよく聞いて順番にやってみよう」
「何でしょうか? この動物仕様というのは?」
「ネコ耳とかかな?」
「面白そうですわ。私はウサミミ一択ですの。学君は顔が可愛いのでネコ耳が似合いそうですわ」
「じゃあ、そうするよ」
こうして30分近く時間をかけてようやくプリクラを撮り終える。出来上がったプリクラを眺めつつ二人は…
「桜ちゃんのウサミミが、すごく可愛いよ」
「学君もネコ耳がよく似合っていて、まるで女の子みたいですわ」
「その話は、気にしているから言わないでよ」
どうやら学は女の子に間違われるのがコンプレックスのよう。桜からイジられてちょっとだけ頬を膨らませている。だがそんな態度の学は桜から見れば年下らしくて可愛く映るのであろう。もういい加減ちゃんと付き合っちゃえよと外野から突っ込みたくなってくる。
その後さらにゲーセン内を見て回る二人…
「これは何でしょうか」
「パンチングマシーンって書いてあるよ」
「学君、試しにやってみてください」
「うん、面白そうだよね」
学もかなり乗り気なよう。先程桜から「女の子に見える」と言われてしまったので、ここで男子としてのカッコ良さを見せようと意気込んでいる。
「えいっ!」
バシッ
渾身の力を込めて放ったパンチは16歳男子としてはまあまあ平均的な103キロを表示する。
「ギリギリで3桁だったね」
「う~ん… これではゴブリンにも通用しないですわ」
魔法学院に入学して約1か月、ある程度訓練を積んでいるとはいえ、小柄な学にはこれが限界なよう。桜に指摘されて学はちょっとへこみ気味。
「私がやってみますわ」
今度は桜が前に立っている。学は期待に満ちた目で見ているが、どうも桜の構えが不自然に映る。なぜ右手をデコピンするように構えているのだろう?
「桜ちゃん、何をするつもりなの?」
「拳で殴ると機械を壊しそうですから、ひとまずはデコピンで試してみますわ」
そして…
バチコーン!
「おかしいですわねぇ~。計測不能って出ていますわ」
「なんだか物凄い音が響いたけど、壊れてないかな~」
「ちょっと力を込めただけですから、たぶん壊れてはいませんわ」
デコピンで人を殺せる女が誕生した瞬間だった模様。
その後は内部を巡っては色々と挑戦していく二人。リズムダンスのゲームでは尋常ではない反射神経を生かした桜があっさりと最高得点をマークしたり、太鼓のゲームではバチを折ったりと… 楽しいひと時が流れていく。
「ずいぶん時間が経ちましたわね」
「楽しくって、いつの間にかお昼近くになったね」
「ファミレスでも入りましょうか。私がご馳走しますわ」
「そんな、悪いからいいよ。お小遣いだってほとんど使っていないし」
「気にしないで大丈夫ですわ。こういう場合は年上に恥をかかせないものです」
「ありがとう、桜ちゃん。じゃあ今日はお言葉に甘えるよ」
ちなみに桜の口座には、百万程度の金額ならポンと出せる残高がほとんど使用されないままに眠っている。自衛隊の給与や出動手当、ダンジョンのドロップアイテムの代金が溜まりに溜まっているせい。その気になったらかなりの豪邸もキャッシュで買える。高校生ながら金には困っていない現状なのが実に羨ましい。
ということで仲良くファミレスに移動。いつものように桜が3人前にデザート付き、学は普通に1人前の料理を注文する。
「桜ちゃんは相変わらずよく食べるねぇ~」
「レベルが上がるとすぐにお腹がすくんですわ」
テーブル一面に運ばれてきた料理の数々が並んでいる光景… 学生食堂では1食ずつアイテムボックスから取り出しているので、こうして全ての料理が並ぶことはない。改めて見ると実に壮観な眺め。学が突っ込むのも已む無し。
料理を口にしながら二人の話題は尽きない。その流れで学の入学試験の話が出てくる。
「僕はどっちかというと魔法技能が認められて入学できたんだと思うな」
「実技系は点数が取れなかったんですか?」
「武器を持っている人との模擬戦に慣れていなかったから、対処できずにやられちゃったよ」
「なるほど… 確かに基礎技術は教え込みましたが、武器を持つ人間との戦い方はまだ何も仕込んでいませんでしたわ。ついウッカリしていました」
「それよりも桜ちゃんの入学試験は、どうだったの?」
「私は事情がありまして、5月にお兄様と一緒に編入試験を受けましたの。あの時は第3演習場を半壊させたり、思えばいろいろな面でまだまだ若かったですわ」
「桜ちゃんは冗談が上手いな~。演習場なんかそんな簡単に壊れないよ」
学の記憶の中での桜は、あくまでも中学生の段階で止まっている。例の黒歴史を完全に冗談だと受け取っているのはサクラにとってはありがたい。
「桜ちゃん、午後はどうしようか。映画とか?」
「う~ん… 映画はドラゴンさんとかジャッキーさんしか見ないですからねぇ~」
「僕はセガールさんが好きだよ。アクションシーンの動きがなんだか聡史先輩の雰囲気に似ている気がするんだ」
「ああ、あの最強のコックさんのお話ですね。もしお兄様主演でリメイクしたら空前の大ヒットになりそうですわ。特にアクションシーンは必見でしょうねぇ~」
「そうだね。聡史先輩はカッコいいからね」
「そのようなお話があったら、私たちのパーティーも総出で友情出演しますわ」
学はまったくピンと来ていないが、仮にそのような作品が出来上がったら映画の歴史がひっくり返るであろう。ただしロケ地は何もない砂漠限定となるかもしれない。下手に街中で撮影しようものなら周辺を巻き込んで街が全壊しかねない。
◇◇◇◇◇
話の流れで映画館を覗いてみたものの、あまりこれといった作品は見当たらないよう。二人ともアクション系しか興味がないため諦めて、適当に服など見ながらブラブラする。
「これなんか桜ちゃんに似合いそうじゃない?」
「そうですか? ちょっと試着してみましょう」
「いい感じだよ。活動的な桜ちゃんにはピッタリじゃないかな」
こんなセリフをあっさりと口にできる学はひょっとしたら恋愛上級者かもしれない… 実際はとっても素直な性格で思った通りを口にしているだけなのだが。
「学君が褒めてくれるのは嬉しいですわ。それでは購入いたしましょう」
なぜか桜が嬉しそうな表情でいそいそとレジに向かう。待っている学の元に来た時は元の手ぶらの状態。
「あれ、桜ちゃん。買った服は置いてきちゃったの?」
「アイテムボックスに収納しましたの」
「ええぇぇ! そんな便利なスキルがあるの?」
「ええ、便利に使わさせておりますわ」
またひとつ、桜の秘密を知った学がいる。だがまだまだ教えていない秘密は大量に残っている。果たして本日中にどこまで明かされるのだろうか? というよりも学は驚きはするものの、自然に受け入れている。この何も疑わない素直さが桜が気に入っている点かもしれない。
◇◇◇◇◇
ショッピングの後は適当に街を歩いて過ごす二人。ところが道を間違えて、飲み屋や怪しげな店が集まる一角に来てしまっている。
「大通りを外れるとずいぶん雰囲気が違うんだね」
「こんな雰囲気も嫌いじゃありませんわ」
桜的には何かトラブルの種がその辺に転がっている場所というのは、はっきり言ってしまえば大好物。だが学はやや心配顔で桜に告げる。
「この先の角を曲がろうよ」
「しょうがないですねぇ~」
いかにも残念そうな口ぶりの桜。渋々角を曲がるとそこには公園がある。
「良かった、公園があったよ」
「一休みしましょうか」
こうしてややボロボロになりかけたベンチに腰を下ろして夕暮れを見上げる二人。ずっと手を繋ぎ合っているその姿は初々しいカップルのよう。
だがこの時二人は知らなかった。この公園はガラの悪い連中が集まって違法薬物の売買などの噂が絶えず、近隣の住民は絶対に近寄ろうとしない場所であると。それだけならまだしも公園で何が起ころうとも関わり合いになるのを恐れて誰も警察に通報しないというおまけまでついてくる。実にいわくつきの公園ということになる。
「今日は1日楽しかったですわ」
「僕もすごく楽しかったよ」
隣同士で語り合う二人、だが危機の予兆はひたひたと桜と学に迫ってくるのであった。
公園に佇む二人に忍び寄る危険…… 果たして無事に済むのか? この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!
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