226 保護者の怒り
倉庫に現れた人影は……
重たい扉を押し開いて倉庫に踏み込んだ人物は内部の明るさに一瞬目を細める。すぐに目が慣れると、周囲の状況が明らかになって目の前に展開し始める。
(どうやら待ち伏せされていたようだな)
自分の動きは相手に筒抜けになっていたようで、武装した一団がこちらに余すことなく銃口を向けている。だが合計10丁のマシンガンを目の当たりにしても、この人物にはひと欠片の動揺も見当たらない。
「よく来たな。神殺し」
「アンドレイ=ナヒモフか。ずいぶん我が国で好き勝手なことをしてくれたようだな」
敵地に単独で踏み込んだ人物を出迎えたのは、旧ソ連区域での武器の横流しを一手に引き受けている死の商人ことアンドレ―=ナヒモフ。そして彼の言葉通り倉庫にやってきたのは神殺しこと魔法学院の学院長。学院室にいる時分のパリッとしたスーツ姿とは違って、本日は迷彩柄の戦闘服を着こんでの直々の出動。その表情はいつになく嬉しそうなのは内緒にしておこう。
「貴様が新世紀創造会と関わる目的はなんだ?」
「単なる依頼だ。大掛かりなテロを仕掛けて日本国内に混乱を引き起こす」
「どこからの依頼だ?」
「あいにく依頼者の名前は外部に明かさない方針でね… まあいい、特別に少しだけ話してやるか。依頼者はここ最近の日本政府の出方に腹を立てているらしいぞ。今まで通り大人しく言いなりになっていれば良かったものを、藪から顔を覗かせる馬鹿な真似をしたウサギはいずれにしても撃たれるのがオチだ」
「そうか。大体こちらの予想通りの回答だな。さて素直に投降するか、この場で死体になるか、どちらか好きな方を選ばせてやるぞ」
「馬鹿め。いかに神殺しと言えどもいつまで強がっていられるかな? これを見ろ」
ナヒモフの背後にあるドアが開いて、内部から新たに数名の男が出てくる。それだけなら単に敵が増えただけの出来事で学院長にとってはさしたる問題ではない。だがその男たちは、一人一人が両手を拘束して目隠しをした人質を連れている。しかもその人質は全員が魔法学院の制服に身を包んでいる。
容易に想像はつくと思うが、その人質とは新世紀創造会に逆スパイとして送り込んだ元信者の生徒たち。彼らは教団にその目的を勘付かれて、こうしてナヒモフの元に送られて人質として囚われの身になっていたよう。
「さて、どうするんだ? 可愛い生徒の命が風前の灯火だぞ」
「なるほど… 人の生き血を食らいながら金儲けをする最低の人間らしい手口だな。ハイエナのほうがもっと気高い生き方をしているぞ」
「まだそんな口を叩く余裕があるのか。お前の目の前にいる人質をひとりずつ殺してやろうか」
「生憎だが親御さんから預かった大事な生徒だ。手出しはさせない。知っているか? 魔法学院というのは全寮制だ。ということは、私は学院に在学中の全生徒の保護者でもある。その保護者の前で生徒たちを人質に取ったんだ。覚悟はいいんだな?」
「抵抗するつもりか? 人質の命はお前の行動如何に懸かっていることを忘れるなよ」
「私が抵抗を止めたとしても、その生徒たちにはロクな運命が待っていないんだろう」
「よく知っているな。こいつらは貴重なサンプルとして某国で実験材料となってもらう予定だ。遺伝子データを採取した後は、モルモットとしてあらゆる実験を繰り返えされる明るい未来が待っている」
「どちらに転んでも生徒たちの未来はないな。では、別の選択をさせてもらおうか。おい、始めていいぞ」
その瞬間、人質を取り押さえていたひとりの男の耳に風を切る音が聞こえる。
ドサッ ガシャン
床に何かが落ちる音が響く。それは男の肘から先とその手が握り締めていたナイフ。男が人質として抱えていた生徒の顔に生暖かい何かが降り注ぐ。その正体は肘から先を切り落とされた男の腕から迸る鮮血に違いない。
「ギャァァァァァ!」
一拍遅れてようやく焼けつくような痛みに気が付いた男の絶叫が響く。だがそれは長くは続かない。再び男に向かって虚空から出現したナイフが振るわれていく。その大ぶりのサバイバルナイフは顎下から差し込まれて口蓋を抜けて鼻骨を突き破って脳にまで達する。白目を剥いて痙攣しながら、男は床に崩れ落ちていく。
その後も姿のない敵に男たちはごく短時間で倒されていく。空間から突如現れるナイフに男たちはなす術もない。これまでは人質を取って優位な立場だと思い込んでいたのが、一瞬にして狩られるだけの獲物と化している。
◇◇◇◇◇
時間を遡って、この日の放課後。クラスの生徒に戦術を教えていた聡史は学院長に呼び出されている。
「楢崎中尉、貴官が人質を取られた現場に向かうと仮定しよう。安全に人質を救出する方法はあるか?」
聡史はしばらく考え込んでから学院長に返事をする。
「2つ考えられます。1つは妹を突入させる方法です。スピードで相手を攪乱しながら敵の殲滅が可能なはずです」
「それは私も考えた。だが今回は却下する」
「なぜでしょうか?」
「人質は学院の生徒だ。自衛隊諜報部によって本牧の倉庫に連れ込まれたことが確認されている。仮に桜中尉を突入させると、かなり高い確率で人質にも被害が出かねない」
「確かにその危険は想定されます」
「先日私は桜中尉と共に新潟に赴いただろう」
「はい、貨物船が全焼して大型コンテナ船が沈没した大惨事ですね」
「馬鹿を言うな。ちょっとした事故だ。それはいいとして…」
「学院長は始末書の束をダンジョン対策室に提出していましたよね」
「何の話だかもう忘れたな。さて、話を戻そうか。あの時私は確信した。桜中尉は間違いなく私と同類だ。人質の安全よりも敵の殲滅を優先するだろう」
「確かにそのような傾向は往々にして見受けられます。否定できない事実として」
「だから今回のように確実に人質がいるとわかっているデリケートな作戦には桜中尉は連れていけない。ということで、もうひとつの案を聞かせてくれ」
「納得いたしました。もうひとつの案は手持ちのマジックアイテムを利用します」
「マジックアイテムだと?」
「はい、これです」
聡史はアイテムボックスから1枚のマントを取り出す。外見上はややくたびれ気味の古めかしいマントに過ぎない。
「そのマントに一体どんな効果があるんだ?」
「ちょっと着てみます」
聡史はそのマントを羽織ってフードを深々と被る。そして魔力を流すと… 彼の体は見えなくなっている。魔力の流入が止まると聡史の姿は学院長の視界内に先程と同じく起立した姿勢で再び映り込む。
「なるほど、便利なアイテムだな」
「特に名前がないので〔プレデターマント〕と呼んでいます。役に立ちそうですか?」
「大丈夫だろう。私には気配で丸わかりだが、一般の人間相手なら十分な効力を発揮しそうだ」
プレデターマント… このアイテム自体名前がなかったので、聡史が勝手に命名している。そのいわれは、例の映画に出てくる目に見えないエイリアンを指している。敵に姿を見られないというのは容易に接近可能ということ。それを人質の救出に生かそうというのが聡史の目論見であり、学院長はこのアイテムの効果を認めたよう。
ということで、聡史はマントを被って姿を消したまま学院長と共に倉庫に入り込んで気配を消して佇んでいた。それから学院長の合図とともに人質にナイフを突きつける男たちを次々に屠っている最中。
何もない空間からシュッという音を立てて切り付けてくるナイフに、八人の男たちはなす術ないままに床に倒れていく。
聡史は手早く男たちの呼吸が止まっているのを確認すると、その場に結界を展開。安全を確保してから学院長に通信を入れる。
「人質は無事。敵はオールクリア」
「了解。ご苦労だった。その場の安全確保に努めてくれ」
「了解」
短い遣り取りが終わると学院長はナヒモフに視線を向ける。
「さて、どうするんだ? 肝心の人質はこちらが取り戻したぞ」
「クソッ、こうなったら生かして帰さぬぞ。おい、ありったけ撃ち込んでやれ! 人質諸共殺せ!」
「「「「「イエッサー!」」」」」
ナヒモフの手下たちは相当手慣れた傭兵上がりの男たちのよう。仲間が殺されてもまったく無表情のままで構えたマシンガンの引き金を引いていく。激しい連続音が響き、夥しい銃弾がマシンガンから吐き出されていく。辺りにあった貨物やコンクリートの壁をこそげ落としながら、数の暴力ともいうべき弾丸が空間を埋め尽くしていく。
だが男たちの銃口の先に学院長はいない。いつの間にか目にも止まらない動きで位置を変えると、アイテムボックスから愛用の小銃を取り出し1発発砲。ひとりの男が額を撃ち抜かれて倒れていく。さらに目まぐるしく位置を変える学院長、男たちの照準がまったく追いつかない。必死で位置を探る男たちを嘲笑うかのごとくに、狙いすました魔力の弾丸が男たちの頭部を撃ち抜いていく。
そして1分もしないうちに、全てのマシンガンが沈黙する。
小銃を肩に担いでトントンする学院長。どこのランボーさんかと突っ込みたくなってくる。不敵な笑みを顔の表面に張り付けつつも、その目は立ち竦むナヒモフを思いっきりロックオンしている。猛禽類が地上の獲物を発見したときにおそらくこんな目を向けるのではないだろうか。それほど相手の生殺与奪を完全に掌握した目がそこにある。
「何か言い残すことはあるか?」
「ま、待ってくれ。俺が悪かった。話し合おう」
「見苦しいぞ。イッパシの悪人なら最後は華々しく散れ」
「何でも言うことを聞く。どうか交渉に応じてくれ」
「交渉? 立場が分かっていないようだな。話くらい聞いてやってもいいが、対価は貴様の命だぞ」
あまりにも聞く耳を持たない学院長の態度にナヒモフの両手が上がる。彼自身そうせざるを得ない。逆らえば確実に床に転がっている男たちと同様の姿になるのは明々白々。
「感心な態度だな。当分眠ってもらおうか」
その言葉の直後、遠くにいたはずの学院長の姿がナヒモフの目の前に… そして腹部に重たいパンチが入ると、ナヒモフの体が床に沈んでいく。
「楢崎中尉、生徒たちの拘束を外してやってくれ」
「了解」
拘束されていた生徒たちは両手をロープでグルグル巻きの上に目隠しをされている。聡史が敢えて拘束を外さなかったのは、下手に動かれると戦闘に巻き込まれる恐れがあったから。もうひとつ理由があるとすれば、生徒たちの精神衛生上の問題だろう。ダンジョンで魔物を倒す経験はあるものの、人間が簡単に死んでいく本格的な戦闘は一般生徒たちにとって刺激が強すぎると配慮したのだろう。
聡史は手早くナイフでロープを切って目隠しを外していく。助けられた男子生徒はしばらく明るさに慣れるために目をしばたいていたが、ようやく目の前に見えた光景に息をのむ。そこには戦闘服姿にフェイスペインティングで顔を真っ黒に塗った聡史が立っている。
「ヒッ、た、助けてぇぇぇ!」
「落ち着け。助けに来た」
まあ、誰でもいきなり目の前に顔を黒塗りした迷彩服が立っていれば驚くであろう。仮にこれよりも驚くような状況があるとすれば、顔を白塗りにした麻呂が立っているとか… うん、これはこれで相当精神に来そうな気がしてくる。多分、そんな感じではないだろうか。
聡史の言葉にやや落ち着きを取り戻した男子生徒は周囲を見回して再び大声を上げる。
「ひ、人が倒れているぞ!」
「安心しろ。ただの死体だ。何も危害は加えてこない」
「ほ、本当に死んでいるのか?」
「だからただの死体だといったはずだ。お前たちはたまたま巻き込まれただけだ。この件は忘れろ」
「も、もしかして君は楢崎君か?」
桜ほどではないにしろ、聡史の顔と名前は同じ学年の生徒全員に知れている。黒塗りで判別がつきにくかったが、ようやく男子生徒は目の前にいる人物が何者か閃いたよう。
「俺がここに来たことは国家機密に属する。口外したら逮捕される。忘れるな」
「は、はい」
こうして同様の説明を繰り返しながら聡史は人質となっていた生徒たちを次々に拘束から解放していく。半数の女子生徒からは感謝とは別の感情がこもった視線を向けられたが、聡史は敢えて無視をする。誰かを助け出すたびに好意を向けられていたら体がいくつあっても足りない。ただし最後に拘束から外した男子生徒が顔を赤らめながら同じような熱い瞳を向けると、聡史は「正気に戻れぇぇ!」と叫びながら彼をビンタする。吊り橋効果にも程がありすぎだろう。
「倉庫内の制圧完了。死体回収並びに人質となっていた生徒の保護を頼む」
学院長は離れた場所で待機する伊勢原駐屯地の部隊と連絡を取る。ちょうどそこに聡史に引き連れられた生徒たちも合流してくる。
「今一度確認する。私と楢崎が救出に来た件は国家機密に属する事項だ。迂闊に口外したら逮捕されるからな」
再度学院長からも注意される生徒たち。もちろん彼らは首をガクガク縦に振るしかない。だがそれ以上に生徒たちはその辺にゴロゴロ転がっている死体にドン引きしている。自分たちが拉致された件とこの場の状況からいって、聡史と学院長の言葉に嘘偽りがないというのを心に刻むしか道はなかった。
◇◇◇◇◇
その後は迎えに来たワゴン車に乗り込んで聡史は一旦伊勢原駐屯地に向かう。今回の一件に関する報告は全て学院長が引き受けたので、与えられた部屋に戻って仮眠をとる。人質となっていた生徒たちも落ち着きを取り戻すまでの間、この駐屯地でしばらく過ごすこととなっている。
朝になって、聡史は学院の制服に着替えてからワゴン車に乗り込む。すでに授業は間もなく開始の時刻で、今からいくら急いでも遅刻は確定している。ということで聡史は一旦特待生寮に戻ろうと、研究棟のエレベーターで最上階を目指す。部屋のカードキーを差し込むとロックが掛かっていない。「あれ、おかしいな」と思いつつも室内に入ってみると、リビングで桜が仁王立ちしている。
「桜、もう授業が始まっているのになんで部屋にいるんだ?」
「お兄様、決まっているじゃないですか。朝帰りする兄の武勇伝を聞き出すためですわ。明日香ちゃんからの情報によると昨夜は美鈴ちゃんとカレンさんも不在だったそうです。お兄様もついに大人の階段を登ってしまったのですね」
「いやいや、ちょっと待て」
「しかも初めての夜が1対2だなんて… お兄様は上級者過ぎます」
「何を言っているんだ? 美鈴とカレンは別行動だったぞ」
「まあ! それでは一体どなたと熱い夜を迎えたのですか?」
「もっと年上の人に決まっているだろう」
聡史は昨夜の件をてっきり桜も知っていて、わざとからかっているのだろうと思っている。だがこの発言に桜は真顔で驚きを表す。
「何ですってぇぇぇ! 初めての夜を熟女と過ごすなんて、お兄様はどこまでも高みを目指すつもりなんですね」
「熟女って… 本人が聞いたらブッ飛ばされるぞ」
だが桜の耳には聡史の呟きなどまったく届いていない。勝手な妄想の世界に身を委ねているよう。
「初めての夜に、経験豊富な熟女に身を任せて… お兄様がなんだか遠くに行ってしまったような気がします」
「いや、確かに指示通りに動いてはいたが…」
「まあ! あれやこれや手解きされたのですね。一夜にしてあらゆるテクニックを伝授してもらったんですね」
「テクニック? ちょっとアイテムを使っただけだぞ」
「アイテム… いけませんわ、お兄様。そこまで行かれてしまうと、私には想像もつかない世界です」
「なあ、桜。さっきから全然話が噛み合っていないような気がするんだが」
「なんと! 互いの耳を甘噛みし合ったなんて、そんなことまで覚えましたの? もうお兄様を、昨日までと同じ目では見られませんわ」
「桜、どうも勘違いしているようだけら、改めて言うぞ。耳の穴をかっぽじって聞くがよい」
「お兄様、私はいつでもお兄様の味方ですわ。たとえ人妻との道を外れた逢瀬であっても」
「何の話をしているんだ? 昨夜は任務で出掛けていただけだ」
「そう、甘い任務で… えっ、任務って何の話ですか?」
急に素に戻った桜を兄はジトーっとした目で見つめている。
「横浜の倉庫急襲が昨夜の任務だ。同行したのは学院長で、美鈴たちは別の任務で違う場所に向かった」
「ええぇぇ! まったく何も聞いていませんでしたわ」
「そうだったのか。てっきり知っていると思っていたぞ」
「それでは甘い一夜ではなくて…」
「ナイフで八人殺めてきた」
「違う意味でハードな夜でしたのね。それにしてもお兄様、なぜ私には何の指示も出ていないですか?」
「さあ、学院長の判断だから俺からは何も言えないな」
「むうぅぅ… なんだか仲間外れにされたみたいで逆に腹が立ってきましたわ」
「俺から学院長に報告してもいいぞ。『妹が腹を立てていました』ってな。あと学院長を『熟女』と呼んでいた件も含めて」
「お兄様、何を言っているのだか意味が分かりませんわ。私は全然腹など立てておりませんの。ただ…」
ここで桜は兄の腕に絡みついて、ゴロニャンを始める。普段は上から目線で接していても、都合のいい時だけ甘えん坊の妹を演じる変わり身の早さ。これぞ妹の特権だと言わんばかりに。
「今回のようにお兄様だけに命令が下った場合は私にもひと言教えていただきたいです。お兄様が心配で夜も眠れませんから」
「いわれのない妄想で夜眠れなくなるか、それとも勝手に付いてくるかの二者択一のような気がするな」
「ギクッ、なんでお分かりになりましたの?」
「何年間お前の兄をやっていると思っているんだ? 妹の企みを見破るなど、兄にとって造作もない。というよりも桜、お前は単純すぎるぞ」
「ちょっと悔しいですわ」
ぐぬぬ顔で兄を見つめる桜。どうやらゴロニャン作戦は失敗だと気付いて素早く戦略的撤退開始。体をサッと兄から離す。
「それよりも桜、どうしてあんなしょうもない妄想が閃いたんだ?」
「ああ、その件ですか。夕べ明日香ちゃんと話していて、三人が帰ってこないという話題になりまして… そこから話が膨らんでいったんです」
「ちゃんと友達は選べよ」
「明日香ちゃんと一緒ですととりとめのない方向に話が脱線しますからねぇ~。はぁ~… それにしても大山鳴動ネズミ一匹とはこのことですわ」
桜にとっては、中身が入った死体袋が量産された件よりも、兄が熟女との不倫に走った件のほうが大事だったらしい。一般的なものの見方によればどうも逆な気がするが。まあこの兄妹はその辺の感覚がブッ飛んでいるので、結局こうなるのかもしれない。
「さて、用意して授業に出るぞ」
「はい、お兄様」
こうして始業時間からだいぶ遅れて、兄妹は教室へと向かう。
◇◇◇◇◇
教室に到着すると、すでに数学の教員が前に立って授業を開始している。「事情があって遅れました」と兄妹が告げると、教員は視線で着席を促す。特待生の二人には様々な理由で欠席や遅刻があるのは教員側は百も承知。
だが、ひとりだけ落ち着かない人間がいる。授業も上の空… どうせ普段もボケーっとしながら授業を聞いているのではあるが、本日はいつもにも増して拍車がかかっているよう。もちろんその人間とはもちろん明日香ちゃんに他ならない。昨日桜と二人で妄想に花を咲かせた片割れともいう。
授業の終了と共に明日香ちゃんは怒涛の勢いで桜の席に走ってくる。
「さ、桜ちゃん、報告が待ちきれなかったんですよ~」
「明日香ちゃん、落ち着いてください。どうやら昨夜の美鈴ちゃんたちが不在だった件は自衛隊の任務だったようです。私たちが妄想したようなことは一切ありませんでしたわ」
「チッ」
こうして休み時間の教室には、明日香ちゃんの舌打ちする音だけが響くのであった。
今回のオチも明日香ちゃんでした。次回はちょっとした閑話の予定です。気を緩めて読んでいただくと助かります。出来上がり次第投稿いたしますので、どうぞ、お楽しみに!
読者の皆様にはどうか以下の点にご協力いただければ幸いです。
「面白かった」
「続きが気になる」
「もっと早く投稿して」
と、思っていただけましたら、ブックマークや評価を、是非お願いします。
評価はページの下側にある【☆☆☆☆☆】をクリックすると、簡単にできます。




