222 魔法学院幽霊事件簿
本日2話目の投稿です。このお話の前に221話を投稿しておりますので、まだご覧になっていない方はそちらのお話から先に目を通してくださいませ。
所変わって、こちらは学生食堂。視聴覚室を追い出された三人とポチタマが放課後のおやつの時間を迎えている。ついさっきまで恐怖映像にビビりまくっていた明日香ちゃんもすっかり元気を取り戻してパフェに舌鼓を打っている最中。そこに美鈴とカレンが姿を現す。
「あら、みんな揃ってお楽しみね」
「きっとここにいると思いましたよ」
飲み物のカップを手にする美鈴とカレン。二人は桜たちが陣取る右隣に腰を下ろす。だがよくよく見ると二人とも単に休憩のため食堂を訪れたのではない様子。何かいわくありげな表情でどちらが用件を切り出すか目で押し付け合いを始めている。
やがて美鈴が、観念したように口を開く。
「実は学院長から女子寮で困った問題が発生しているという相談が私たちに持ち掛けられたのよ」
「おやおや、なんだか面白そうなニオイがしてきますね~」
すわトラブル発生と聞きつけた桜が敏感に反応する。女子寮内のイジメか、それとも先輩からのパワハラか、いずれにしても力尽くでの解決も吝かではないという眼光。なんでこうも暴力的なのだろうと、美鈴とカレンはやや引いている。
「その問題というのがねぇ…」
美鈴がしばらく口ごもる。どうやら相当切り出しにくい話のよう。やがて踏ん切りがついたような表情の美鈴が本題を打ち明け始める。その内容とは…
「女子寮の一室に出るらしいのよ」
「出るって、何が出るんですか?」
「決まっているでしょう。幽霊よ」
その瞬間、ガタっという音を立てて明日香ちゃんが立ち上がる。つい今までパフェを食べていた幸せそうな表情はどこへやら… 真っ青な顔でガタガタ震え出している。ただでさえお化けが怖いところにもってきて、食堂に来る前に散々怖い画像を見せられたおかげで、今や明日香ちゃんのライフは限りなくゼロに近い。
「さ、さあ、しばらく学院を離れていましたから、授業の遅れを取り戻さないと。お部屋に戻って勉強しましょう」
取ってつけたような言い訳をかましながら、立ち上がった勢いで特待生寮に戻ろうとする明日香ちゃん。だがその右手をガッシリと掴む人物がいる。それはもちろん桜。先日のレプティリアン討伐で明日香ちゃんにデカい顔をされたお返しのチャンスとばかりに、その表情はテカテカに光っている。
「まあまあ、明日香ちゃんはちょっと落ち着きなさいませ。美鈴さんのお話をもうちょっと聞いてからでもいいでしょう」
「絶対にお断りですよ~。桜ちゃん、すぐにその手を放してください」
「まあまあ、いいから一度座って、さあどうぞどうぞ」
穏やかな口調とは裏腹に、握り締めた手を絶対に離すまいと力を込めて強引に座らせる桜がいる。この娘は本当に容赦がない。明日香ちゃんがビビっていることなんて百も承知なはずなのに…
「それでは美鈴さん、お話を続けてください」
「ええ、いいわ。現在1年生が生活している女子寮のとある部屋で夜中に物音がしたり、女子生徒が金縛りにあったりしたらしいのよ。どうやらそれが原因で2名の生徒が体調を崩したんですって。それでちょうどいいから、戻ってきたばかりの私たち二人に学院長から直々に調査の依頼が舞い込んだの」
適役といえばこれほどの適役は見当たらないかもしれない。かたや大魔王にして暗黒と深淵の支配者ルシファーさん。もうひとりは、そのまんま天使様。除霊などするまでもなく、この二人が部屋に踏み込んだだけで浮遊霊など直ちに逃げ出してしまうであろう。
「さ、桜ちゃん、私は今猛烈に勉強がしたいんですよ~。早くその手を放してください」
「明日香ちゃん、怖い映像を見て鍛えた成果を発揮する時が来ました。ジタバタしないで諦めてください」
「絶対に嫌です!」
桜は明日香ちゃんの懸命な訴えに耳を貸そうとはしない。それどころか、ますます身を乗り出して美鈴に話を聞こうとしている。明日香ちゃん、危うし…
「中々面白そうな話が舞い込みましたねぇ。それで、続きがあるんですか?」
「ええ、私にとっては面白い話ではないんだけど、その部屋というのは私が使っていた部屋なのよ。特待生寮に移る前に約半年生活していた部屋が今回の幽霊騒動の舞台なの」
「美鈴さんがいた頃はおかしな点はなかったんですか?」
「特になかったわね。同じ部屋だったAクラスの子にも聞いてみたけど、彼女はカレンがいた部屋にすぐに引っ越したらしくて、あの部屋は半年間空室だったのよ」
「そうですか… これはますます面白くなってきましたわ。さっそく調査に向かいましょう」
桜が女子寮に向かおうとする。もちろん右手は明日香ちゃんの手首を握りしめたまま。涙目で桜にされるがままにドナドナされていく明日香ちゃん。だがそこで、美鈴が止めに入る。明日香ちゃんにとっては天の助け… いや、暗黒と深淵からの救済であろうか。
「桜ちゃん、私たちも学院長から話を聞いただけであまり詳しいことはわからないのよ。まずはその部屋で生活していた1年生の話を訊きに行きましょう」
「なるほど、それは当然ですね。さあ明日香ちゃん、行きますよ」
「早く自分の部屋に戻りたい」
とはいうものの、幽霊騒動が起きている部屋に向かうわけではないと知った明日香ちゃんは渋々桜に手を引かれながら付いてきている。向かった先は、学院内に設けられている医療施設。怪我がつきものの学院の生徒たちのために入院設備が整った病院が設置されている。もっともここ最近はカレンが大抵の怪我を簡単に治癒してしまうので、念のため検査を受ける生徒が1日2日滞在するだけとなっている。
「初めて来ましたが、ここが療養病棟ですか」
「私は怪我人を治しに毎日訪れていますよ」
鉄筋コンクリート造り2階建ての病棟に足を踏み入れる面々。最も顔馴染みのカレンが受付の担当者に事情を説明すると、事務員と思しき女性はやや困惑した表情を浮かべる。だが学院長からの依頼を断るわけにもいかず、やや俯き加減で声を潜めて病室と連絡を取っている。
「今担当の看護師がまいりますので、そちらの椅子に座ってお待ちください」
カレン以外はこの建物に足を踏み入れるのは初めて。何しろ桜を筆頭にして怪我にはあまり縁がない面々が揃っている。物珍しそうに普通の病院と変わらない建物の内部を見ていると、病棟の奥から足音が聞こえてくる。
「お待たせしました。入院している女子生徒の病室に案内します。先にお断りしておきますが、彼女たちは事情によって面会謝絶となっています」
「状態が悪いのですか?」
「はぁ~… それが医学的な検査では特に問題は見当たらないのですが、一言では言い表しにくい状態です」
奥歯に物が挟まったような言い方をする看護師。やや胸騒ぎを感じながらも一行は病室へと向かう。エレベーターで2階に上がって、廊下の突き当りの部屋が女子生徒が収容されている部屋だという。看護師はその部屋の前に立つと、慎重な手つきで手にするカギでドアのロックを外す。
カチッ
ドアノブを回して数センチドアが開いただけで廊下には重たい空気が流れ出す。隙間から部屋の中を窺うと、カーテンを閉じて電気を消してある部屋はまだ夕暮れには大分時間がるにも拘らず妙に薄暗い。まるで光そのものを拒絶しているかのような、人の心に不安を掻き立てる暗さがそこには存在する。
不必要な物品は一切置かれていない部屋の内部には2つのベッドが置かれており、そこには上半身を起こして虚ろな表情で視線を彷徨わせている女子生徒が二名。彼女たちの腕には点滴のチューブが取り付けられて、その他にも心電図や脳波計など色々とコードが繋がれている。精巧な作りの人形がその場に置かれているのではないかと勘違いしてしまうほど、女子生徒は身じろぎひとつせずにベッドの上に佇んでいるだけ。
「これでは事情を訊くのは無理みたいね」
「美鈴ちゃん、こういう時には私のペットが役に立ってくれますわ。ポチとタマ、ベッドにいる二人はどのように見えますか?」
「主殿、どうやらあれなる娘たちは、つかれておりますな」
「疲れている? 疲労だけでああなるとは思えませんが」
「主殿、それは違うのじゃ。あの娘たちは、取り憑かれておるのじゃ」
「ギヤァァァァァ!」
玉藻の前の説明を聞いた明日香ちゃんが、白目を剥いてその場で気を失う。慌てて体を支える看護師さん。仕事を増やしてどうするんだい、明日香ちゃん?
ひとまず明日香ちゃんは粗雑に廊下に横たわらせておいてから、美鈴がポチタマに問い掛ける。
「カレンの力で体から追い出せそうなのかしら?」
「さほど強き霊ではありませぬが、入り込んでからかなりの時間を経ておりまする。祓いは長丁場になるのは必然かと」
「これだけ体を侵食しているなら、それなりの抵抗もあるのじゃ」
「確かにその通りのようです」
さすがは大妖怪、一目見ただけで女子生徒たちの現状を見抜いている。カレンも同意しているように、その辺の悪霊などと比べればこの2体の霊格ははるかに高い。大妖怪2体から見れば所詮は吹けば飛ぶような邪霊に過ぎないよう。だが入り込まれている生徒の体を気遣えば自ずと慎重な対処が必要というのは当然。
ところでなぜそんな霊体が美鈴の目に映らないかといえば、それはルシファーさんはあまりに途方もない霊格の持ち主に他ならないという理由。人間の目にはバクテリアの姿が映らないのと同様と考えてもらいたい。
「看護師さん、この部屋にある機器を全部廊下に出してもらえますか。それから点滴も外してください」
「きゅ、急に何をするつもりですか?」
「医学的にはあり得ない話でしょうが、今から除霊を行います。邪魔な物品や彼女たちが怪我をする恐れのある物は全て撤去してください」
うっすらと開いたドアの外で美鈴は看護師に依頼をしている。ちょっと前までは「除霊なんて馬鹿らしい」と一笑に付される話だが、ここは魔法学院。魔法が存在すれば、当然陰陽術も当たり前に認知されている場所。美鈴の要請に看護師は頷いて、応援を呼んで脳波計や心電図計を取り外して外に運び出す。点滴も外すと、これで除霊の準備は完了する。
霊能力者が除霊をする場合はたいてい祭壇を用意してその前で呪術や祈祷を用いるであろうが、ここには本物の天使がいる。なにも用意しなくとも、カレンひとりでその役目は充分。
「それでは行ってきます」
ドアを開いてカレンが一歩病室内に踏み込んでいく。天使が室内に入り込んだ… その効果は驚くべきもの。今まで身じろぎひとつしなかった女子生徒が目を吊り上げて髪を逆立てながら暴れ狂う。
「来るなぁぁぁぁ!」
「出ていけぇぇぇ!」
これ以上ないほどの憎悪の炎を瞳に滾らせては、カレンを睨み付ける。その口からはとても女子高生が発せないであろう別人と思しき声で絶叫を放つ二人。その様は明らかに彼女たちの人格には程遠かろう。何者かに操られて意図しないままに荒れ狂っている様子が明白。
「静かにしなさい。あなた方は人の中に入り込んではいけないのですよ。あるべき場所に戻るのです。ホーリーライト」
カレンが近づくのさえ拒絶しようと髪を振り乱して暴れる二人。だがその両手から聖なる光が降り注ぐと、彼女たちはピタリと動きを止める。どうやら体の中に潜んでいる憑き物たちは必死にしがみついて追い出されないようにしているのが精一杯のよう。
だがなおもカレンは、聖なる光の照射を継続する。女子生徒たちは、次第に呼吸が荒くなって必死で何かに縋ろうと無意味に両腕を宙に振り回す。
「もう一息かしら」
「中々しぶといですねぇ~」
美鈴と桜が小声で耳打ちした直後、女子生徒の首の後ろ辺りから黒い靄のような邪気を含んだ影が朧げに浮かびだす。カレンがなおもホーリーライトを照射し続けると、その影は徐々に体の外に押し出されるようにして大きくなっていく。それだけではなくて、あたかも苦しんでのたうち回るような仕草を影が映し出している。
「主殿、あそこまで外に引き出せば我らの力にて滅してご覧に入れますぞ」
「おや、そうですか。カレンさん、一旦魔法を中断してください」
「はい、わかりました」
カレンがホーリーライトの手を止めると、天狐と玉藻の前がズカズカと病室に入り込んでいく。何をするのかと思っていたら、2体の大妖怪は女子生徒の背後から姿を現した影の頭部と思しき部分を鷲掴み。そのまま強引に体から引き出していく。
「「ギャァァァァ!」」
叫び声を上げているのは彼女たちではない。引き剝がされていく邪霊が彼女たちの口を借りて最後の絶叫を上げている。だが大妖怪の力には抗う術などなく、霊体は根こそぎその手によって体から分離される。
バタッ
その瞬間、彼女たちは力なくベッドに倒れてそのまま意識を失う。
「さて、このような低級な邪霊はもう改心させるもの無駄であろう。ならば滅するのみであるな」
「ほんにその通りなのじゃ。今更輪廻の輪には戻さずともよいのじゃ」
なんと2体の大妖怪は両手で靄のような影を丸めるとそのまま口に中に放り込む。そのまま何事もないような表情で飲み込むと、桜に向き直る。
「主殿、邪霊ゆえに滅しましたぞ」
「ほんに不味いのじゃ。口直しにパフェが食べたいのじゃ」
なんというか、大妖怪ならではの解決方法なのだろうか? 二人に取り憑いていた悪霊を食べてしまうなんて、さすがに桜も想定外。
「ポチタマは、悪霊を飲み込んで大丈夫なんですか?」
「主殿、古来より鬼に食われた人間はその魂ごと消えてしまうと伝えられておりまする。ましてや怨念をため込んで成仏できぬ霊など、このようにして数限りなく消し去ってまいりました」
「その通りなのじゃ。妾も村人からの供え物があらば時折こうして悪霊を討伐しておったのじゃ」
改めて聞いてみると、やはり大妖怪としか言いようがない。人間のような外見をしていようとも、その実は闇に生まれた生き物。千年の歴史の中で人智では計り知れない行為を繰り返してきたのであろう。ただこうした事実を目の当たりにすると、キツネが稲荷神社で崇められるのもなんだか納得がいくような気がしてくる。大妖怪とはいえ半面では神社に祀られる神様でもある。
たとえ現在はキツネうどんと甘味に魅入られて尻尾を振るだらしない姿であっても、その本質は中々に奥深い物がある。
「カレン、二人の回復は可能かしら?」
「はい、お任せください。天界の光」
柔らかな光がベッドで気を失っている二人に降り注ぐ。苦悶に満ちた表情で倒れていた生徒二人だが、次第にその顔は穏やかになっていき、青白かった顔色も赤みを取り戻す。
「もうしばらくは、このまま休ませたほうがよさそうですね」
「そうね… 事情聴取は諦めるしかないわね。それじゃあ、原因を突き止めに行きましょうか」
「原因というと、美鈴ちゃんが入居していた部屋に突撃ですね」
カレン、美鈴、桜の間で話がまとまる。すると桜は廊下に寝かされている明日香ちゃんを見遣る。どうしようかとしばらく逡巡してから…
「看護師さん、この人は目が覚めたら自分の部屋に戻るように伝えてもらえますか」
「はい、わかりました」
廊下に寝かせておくのは不憫に思った看護師さんは、三人掛かりで明日香ちゃんを別室に運び込んでいく。どうにも役に立たない明日香ちゃんを置き去りにして、一行は今度は女子寮へと向かう。
◇◇◇◇◇
「325号室、ここが問題の部屋よ」
「なんだか嫌な気配が廊下に漏れ出ているような気がしますわ」
部屋の前に立つ一同、誰もがそのドアを開くのを躊躇ってしまうほどの怪しい気配が伝わってくる。学院側も影響を考慮して、両隣の部屋共々新学期の8日目に封鎖していた。それでもこの部屋に入居した気の毒な少女たちはわずかな日数であのような状態に陥ってしまったのだから、どれほどの妖気に満ちた部屋なのかは廊下側からは想像もつかない。
「それじゃあ、開けていいかしら?」
「思いっきり開いてください」
もうこの場には幽霊にビビる人間はいない。クルトワも一緒だが、彼女の世界では悪霊の類は当たり前に存在しているのでさして怯えたりはしていない。
桜の返事に従って美鈴は部屋のドアを本当に思いっ切り開く。もうちょっと様子を窺うなりすればいいのに、そのような気遣いはルシファーさんには無用。
「ポチタマには、何が見えますか?」
「主殿、夥しきこの世のモノにあらざる魂が部屋中に漂っておりますな」
「そうなのじゃ。十や二十ではきかぬ迷える魂が集っておるのじゃ」
大妖怪の返答に頷く桜。まずがこの部屋に寄り集まっている霊を除去するのが先決だろうと判断する。
「カレンさん、大雑把でいいですから魔法できれいにしてもらえますか」
「はい、いいですよ。ホーリーライト」
部屋中に白い光が放たれると、行き場を失った魂は浄化されて天に昇っていく。おそらくはより怨念が強い霊がこの部屋の住人に取り憑いたのであろう。居残っている魂は思いのほか簡単に浄化されていく。
「問題はなぜこの部屋にこれだけの霊が集まったかですね」
「主殿、室内から悪しき思念を感じまする」
「そうなのじゃ。こちらから強く感じるのじゃ」
玉藻の前がひとりで部屋に入り込むと、天狐がその後に続く。大妖怪は何を感じ取っているのかと興味を示しながら美鈴たちがついていくと、2体は浴室の中で天井を見上げている。
「この上に強い思念が込められた何某かの物があるに相違ありませぬ」
「そうですか… ポチはそこの天井の羽目板を外して天井裏を見てもらえますか?」
「御意」
天狐は浴槽の淵に足を掛けて天井の羽目板を外して天井裏に顔を突っ込む。すると…
「主殿、どうやらそれらしき小箱がございまする」
「回収できますか?」
「手が届きますれば、今しばらくお待ちを」
こうして天狐の手によってこの部屋に霊を集めていたであろう原因が突き止められる。その原因たる物体は確かに天狐が言う通り小箱のようにしか見えない。だが寄せ木細工で作られた手に収まるサイズのその小箱は、どこから見ても異様な邪気を発している。
「主殿、天井裏にも夥しき霊が徘徊しておりまする」
「そうですか… カレンさん、もうひと働きお願いできますか」
「はい、大丈夫ですよ」
カレンは天狐と同様に天井裏に顔を突っ込んでは、ネズミやゴキも浄化してやるという消毒業者張りの勢いでホーリーライトを大盤振る舞い。一瞬亡者が狂乱状態に陥る慌ただしいラップ音が響いたが、彷徨っていた霊たちはあっという間に浄化されて消え去っていく。
さて、こうなると残された問題は現在天狐の手にある小箱。誰が何の目的でこの部屋の天井裏に置いたのか…
「天狐よ、その箱を寄越すのだ」
急にルシファーさんスイッチが入った美鈴。天狐から受け取った小箱を銀色に輝く目で改める。
「ふむ、どうやらこの箱に張り付けてある呪符は陰陽師が用いるものに相違ない。となると考えらるるはただひとつ」
美鈴は、ポケットからスマホを取り出すと通話ボタンをプッシュ。一体どこに電話を掛けるんだと訝しんでいる桜を尻目に通話が繋がる。
「こちらは伊勢原駐屯地です」
「魔法学院所属、西川少尉です」
あっという間にルシファーさんの意識を引っ込めて、素の美鈴が通話をしている。伊勢原駐屯地に一体何の関係があるというのだろうか。
「陰陽師の件で、そちらに収監されている人物の照会をしてもらいたいんですが、担当の方をお願いします」
「はい、しばらくお待ちください」
通話待ちの音楽が聞こえてくるスマホを手にして美鈴はじっと待っている。しばらくすると…
「はい、お待たせしました。伊勢原駐屯地、刑務課です」
「こちらは魔法学院の西川少尉です。お尋ねしたいことがありますが、よろしいでしょうか?」
「はいどうぞ」
「昨年魔法学院に在籍していた東十条雅美はそちらに収監されていますか?」
「お待ちください… はい収監されております」
「現在どのような状況か教えてもらえますか?」
「はい、収監された当初は普通に受け答えが出来ましたが、次第に心身ともに耗弱して、現在はほとんど植物状態です。自力では何もできません」
「わかりました。ありがとうございました」
通話を切った美鈴は何やら納得がいった表情を浮かべる。
「どうやら原因がわかったわ。と言っても私の想像の域だから正確ではないかもしれない点を承知しておいて」
「わかりましたわ」
桜の返答に美鈴は大きく頷く。
「カレンと桜ちゃんはよく覚えているでしょう。私が去年陰陽師たちに襲われた一件」
「ええ、覚えていますわ」
「あの件があって私は皆さんと知り合えたので、よく覚えています」
桜とカレンにも記憶に残る出来事だったので、二人とも揃って覚えているよう。
「私が東十条雅美にあのお漏らし写真を突き付けて以降、彼女は部屋に引きこもって不登校になったわ。てっきり恥ずかしくて教室に姿を見せないんだと思っていたんだけど、どうやらそれは間違いだった可能性が高いのよ」
「どう間違っていたんですか?」
「あの子は配下と彼女自身が桜ちゃんにコテンパに叩きのめされて、さらに私に対する恨みを募らせていたの。そして登校もせずに一心不乱に呪いの呪具を作ったんじゃないかしら」
「その呪いの呪具というのが、今美鈴さんが手にしている箱ですか?」
「多分そうだと思うわ。詳しいことは私にもわからないけど、隙を見つけて部屋の天井裏に仕掛けた。でも残念ながら私の体の中にはルシファーが眠っているわ。当時はまだ目覚めていないにしても、人間が創り出した呪いくらいは簡単に撥ね返したはずよ。多分私自身も気付かないうちにね」
「なるほど。呪いを撥ね返されると、行き場のない呪詛は術者に戻る… というわけですね」
「そうね。話によると現在、東十条雅美は寝たきりで自分では何もできなくなっているそうよ。自分で放った呪いを自分の身に受けてそうなったと考えるのが妥当じゃないかしら」
東十条流の陰陽師一派は、学院長と桜を主体としたガサ入れで抵抗が激しかった約半数がその場で殲滅、残りの半数が捕縛されて伊勢原駐屯地に厳重に拘留されている。その中のひとりに雅美も含まれている。すでに魔法学院を除籍されており過去の人間だと思っていたら、まさかこのような置き土産をしていたなどさすがに想像の埒外であろう。
「それでこの箱だけど、呪いの効果がなくなってもどうやら邪な霊を集める力があるみたいね。学院長に許可をもらってさっさと処分したほうがいいわね」
「そうですねぇ~。下手に保管しておいても、ロクなことにならないでしょうね」
こうして学院長に連絡を取ってから、校舎裏で美鈴がヘルファイアーで灰になるまで箱を燃やし尽くしてこの一件は解決を見る。何よりも恐ろしいのは、人間が内に秘める業の深さだと痛感させられる事件であった。
ちなみに明日香ちゃんは夕食前にはしっかり起き出して、ケロッとした表情でもりもりデザートを食べていたのは言うまでもない。
これまでとはちょっと毛色の変わったお話となりました。次回からお話が急転する予定です。出来上がり次第投稿しますので、どうぞお楽しみに!
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