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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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220 古代遺跡 3

いよいよ魔族の国、最終章になります。

 古代遺跡の内部は、地下深くだというのに人口太陽に照らされた明るさに満ちた空間が広がっている。地中深くの岩盤の内部にも拘らず、天井には青空が広がり、ある種の解放感に溢れる空間こそが、レプティリアンがこの地に残した古代遺跡であった。これだけの規模の地下施設は、日本の技術をもってしても造成するのは甚だしく困難であろう。


 硬質なメタリック製の壁によって周囲とは完全に隔絶されており、高い天井からは柔らかな光が降り注いでいる。だが一行が足を踏み入れたこの場所は、ガランとした何もない空間だけが広がる。おそらくはエントランスに相当する場所で、仮に隔壁の外から侵入者があった場合に備えて敢えて何も置いていないのであろう。


 

「私たちの世界に、このような近代的な場所があったなんて…」


 日本での生活経験があるクルトワが、この光景を見て声を失っている。彼女が絶句するほど、この場所はこの世界にあってその見た目からして異様であった。このエントランスに用いられている素材の材質や建築技術は日本の科学技術すら相当上回っており、もしレプティリアンたちがかつて彼らが持ち得ていた文明レベルを維持していたならば、聡史たちは手も足も出なかったであろうと容易に想像が難くない。


 人口減によってレプティリアンたちの文明が大幅に衰退していたのは、ある意味聡史たちには僥倖であった。



「ここには何もないようね。あの扉の先に進みましょう」


 美鈴に付き従って、一行はエントランスの奥にある扉へと向かう。この扉にはパスワードなどのセキュリティーは施されておらず、美鈴が近づいただけでスムーズに開いてくれた。


 次の空間は、どうやら外敵に備えた防衛機構が置かれているようだ。倉庫と思しき場所にはすでに用をなさなくなった武器類が山積みにされており、ずいぶん前に地下都市の防衛機能すら喪失していたであろうと推察できる。



「聡史君、このガラクタは回収してもらえるかしら」


「日本に持ち帰るのか?」


「ええ、解析すれば、新たな武器の方向性が発見できるかもしれないし」


 という美鈴様のご命令に従って、聡史は倉庫の内部にあるガラクタを一切合切アイテムボックスかに収納していく。日本の科学技術で解析がおぼつくのかは現時点では不明ではあるが、美鈴が協力すれば何とかなるのではないかなどと、聡史は漠然と考えながらガラクタの回収を急ぐ。仮にこれら使用不能になった武器の解析ができるならば、それはガラクタなどではなくて大変な価値を生み出す宝の山なのだ。


 続いて大きな扉を抜けると、どうやらそこは居住区のようであった。硬質的なメタリックで出来上がった日本の小規模都市とも呼べる広さを誇っており、ここが地下にあるとはとても信じられない。



「せっかくこれだけの都市を築きながら、現在は機能が停止しているのは惜しいな」


 聡史がポツリと漏らした言葉の通り、整然と区画された街並みのどこにも通行人の姿はなくて、巨大な未来都市の廃墟が広がっているのみであった。もちろん頭上には人口太陽の明るさがあって、動力源からエネルギーの供給が継続されている様子が窺える。建物や交通システム等の最低限の維持はいまだ自動で行われているようだ。だが所々にすでに長い年月の間に朽ち果てて崩壊している建物や施設があるのを見るにつけ、やはり都市全体が放棄された廃墟と呼ぶべきかもしれない。


 だがその一角に何らかの宗教施設と思しき建物があって、そこだけは内部から明かりが漏れている様子が目に映る。



「あの建物には人の気配がありそうだな」


「人ではなくてレプティリアンたちだと思うけど、ひとまずは行ってみましょうか」


 一行はその宗教施設の門を潜り抜けて、敷地の内部に入り込んでいく。この敷地の内部だけは未来都市の面影はなくて、古びた教会の風情を思わせるようないくつかの建物が並んでいる。そのうちの一つの建物の扉が開いて、中からは一人の老人と思わせるようなレプティリアンが出てくる。



「人族と思しき方々、よくぞあの扉を超えて我らの住処においでなさった。して、目的はついに我らを皆殺しにすることか?」


 おそらくは地下都市に生息するレプティリアンの生き残りであろう。何かすでに覚悟を決めた目で聡史たちを見遣っている。



「そなたらが手出しをせねば、こちらから攻撃を仕掛けるいわれはない。すでに地上においては、人族の上層部を操って支配しようと企んでいたそなたらの同胞の運命は潰えた」


「そうですか… あなた方はあの連中を追って、ここまで来たわけですか」


「まあ、そうだな」


 美鈴が代表して、レプティリアンの老人に答えている。



「我らはもう争いを好みませぬ。静かにこの場で生きると誓った者たちです。地上に出た者たちとは袂を分かち、彼らがどのような運命を辿ったかなど今更です」


「ほう、レプティリアンにしては殊勝な心掛けだな」


「我らは本星と切り離されて十数万年この地におります。もうこの惑星の一部と呼んでも差し支えない。他の種族と争うなどという考えは、とうに捨て去っております。一部の撥ね返り者はあの扇動者の甘言に惑わされて地上に出る道を選びましたが、我らは彼らに対して努めて無関心を貫きました。例え古代の技術の一部が復活可能と言われても、一部では役にも立たない。文明の復活などとうに諦めて、ただ静かに暮らしたいのです」


「なるほど、レプティリアンにおいても、ごく少数光の世界で生きたいと望む者が存在する。彼らは長い年月をかけて、自らの内なる闇の渇望を捨て去って、いわば解脱した存在。そなたらもいずれは、そのような方向に進む道があるやもしれぬな」


「我らは大望は致しませぬ。ただただこの地で静かなる暮らしをしたいと望むばかり」


「いいだろう。二度と地上に出ぬという条件を守る限りは、この地で生き永らえるがよい。誓約が守られる限りは、そなたらはこの地を自由にいたせ」


「それはありがたい申し出、感謝いたします」

 

 あくまで上から目線の大魔王様ではあるが、老人は不満一つ表情には表さずに受け入れている。もしこれが演技であるならアカデミー賞物の役者だが、どうやら本心からこのように述べているようだ。


 ともあれ、この地下都市に居住しているレプティリアンは、すでに野望も支配欲も失われている状況が確認できたのはいいことであった。さらに美鈴は老人に続ける。



「その撥ね返り者たちが復活させようとしていた太古の技術はどこにあるか、案内を頼みたい」


「では私がご案内します」


 老人は教会の内部に何か一声かけると、一行に先立って案内を始める。相当な高齢に見えるが、意外にもその足取りはしっかりとしている。


 宗教施設の外に出ると、老人は何やら端末のようなスマホ状の物体を取り出して操作をする。するとどこからともなく路上を滑るように、浮遊式コミューターとでも呼べるような数十人乗りの未来型の乗り物が姿を現す。目的地は地下都市の規模からいって、徒歩では相当に時間がかかる場所にあるのだろう。



「お、おい… 何だこの馬が引かない馬車は?」


「俺に聞くなよ。それよりも宙に浮いているぞ」


「もしかしてこれに乗るのか?」


 浮遊式コミューターを見るなり、一緒にここまでついてきた騎士たちが心底情けない声をあげている。初めて東京に出てきた地方出身者でもここまでビビらないだろう… というくらいに顔色が悪い。だが情けない体の彼らを、フィリップが一喝する。



「案ずるでない。我らは大魔王様についていくだけ。恐れずに心を決めるのだ」


「「「承知いたしました」」」


 顔色が悪いままの騎士たちも、なんとか自らの心を奮い立たせてコミューターに乗車する。もちろん彼らは、動き出したその速度に生きた心地がしないまま、ガタガタと体を震わせるのであった。


 見知らぬ乗り物に怯える騎士たちを尻目に、浮遊式コミューターは滑るように通りを進んでいく。植物育成プラントや工業プラントが立ち並ぶ区画を抜けて、20分ほどで目的の場所に到着する。そこは厳重にロックされた区画で、老人の話によると長年封印されていた場所らしい。フォン=ファウストたちが入り込むまでは、誰も近づく者もなく打ち捨てられた区域であった。



「この扉の奥が、あの連中が封印を破って入り込んだ場所になります」


「私たちが入って問題はないか?」


「問題がないわけではありませんが、今更とやかくは言えますまい。我々の同胞が自ら封印を破ったのですから」


 自嘲気味に語る老人、その表情の奥には得も言われぬ苦悩が隠されている。おそらくは隠し立てしたところで無駄だと悟っているのであろう。もはや大した戦力すらないこの地下空間の住人たちにしてみれば、聡史たちに全てを曝け出して一刻も早くお引き取り願おうとしているのであった。


 厳重に他の区画と隔てている隔壁に老人が手の平をかざすと、音もなく開いて内部の様子が明らかになってくる。どうやら内部は研究区画と武器保管庫に分かれており、今聡史たちの目の前に現れたのは多数の小部屋が並ぶ研究ブロックであった。



「一通り部屋を確認しながら進むわ」


 美鈴の言に従って、通路の両側に並ぶ部屋を一つ一つ確認していく。内部はコンピューターが並んでいたり、データシステムのサーバーのような物が置いてあったりする部屋が多い。中には休憩室のような一角や仮眠用のベッドが置かれている部屋もある。ここで一体何を研究していたのかは、今となっては謎のままであった。コンピューターやサーバーを押収しても、そもそも言語の解析から始めなければならないので、聡史からすると面倒事が増える予感しかしなかった。だが美鈴は…



「聡史君、コンピューター類は全部押収するわ」


「ええええ、全部持っていくのか?」


「よろしくね」


 右目でパチリとウインクをする美鈴。聡史には逆らいようがない。仕方なくコンピューター類は片っ端からアイテムボックスに放り込んでいく。老人はそんな聡史の行動を見ても、敢えて止めようとはせずにやりたいようにさせている。


 研究エリアには他にも何らかの材質の金属を用いた実験の跡や、様々な試作部品などが無造作に置かれているが、美鈴の命令で聡史が全て回収していく。こうして目ぼしい物品はほぼアイテムボッスに収納すると、一行は老人に案内されていよいよ武器保管庫へと向かう。


 再度厳重にロックされている隔壁をくぐると、そこには大小様々な物品で溢れ返っており、用途が何となく見当がつく物から、どうやって使用するのか皆目見当がつかない物まで、種別に沿って整然と管理されている。最も数が多いのは、惑星探査車両といった形状の地面を走行する車両であった。その他にも、おそらくはこの地下都市建設に用いたであろう工事車両なども目立つ。その奥には戦闘型の車両であろうか。年代ごとにまとめて置いてある。



「ついさっき戦った戦鬼車とはだいぶ形状が違うな」


「多分こちらのほうが、年代が古いのよ」


「性能的には上みたいな気がするが」


「きっと古いほうが性能が高いのよ。その分失われた技術が用いられているから、フォン=ファウストたちの手では蘇らせるのが不可能だったんでしょう。だから一番簡易な性能の戦鬼車で戦わざるを得なかったという結論ね」


「そうか… 時代を経るにしたがって技術が劣化していった証明だな」


 地球では、年代を経るにしたがって技術が向上するのが当たり前となっているが、ここでは人手が足りなくて新しい物ほど性能が悪くなるという欠点を抱えていた。もちろんこの地下都市に居住するレプティリアンは、なんとか技術の劣化を食い止めようと懸命に努力をしていたのだろうが、時の流れは残酷なほどに彼らの努力をあざ笑い、技術の伝承を困難にしていったのであろう。フォン=ファウスが言っていた古代における他の惑星から来た種族との戦争がなかったら、ここに保管してある物品はいまだに現役として稼働していたかもしれない。


 様々なタイプの走行車両を見て回っている聡史たちは、今度は保管庫内の別の区画に向かう。そこにはマニアにはたまらない大空を航行する例のあの物体が多数置かれている。



「UFOは、本当に存在したんだな」


「あるんじゃないかとは思ったけど、こうして実物を目にするとなんだか奇妙な感じね」


 円盤型、葉巻型、正三角形など、様々な形態の大気圏内だけではなくて宇宙空間も航行可能な飛行体が合計20機近く。その光景を見た明日香ちゃんは、口をポカンと開いて圧倒されている。



「どうやらこの3角形の機体が、一番性能がいいみたいね。1機もらっていきましょうか」


「そんな勝手に決めていいのか?」


 傍から見ると強欲すぎではないかと言われそうな勢いで、美鈴は接収をしていく。聡史が大丈夫なのかと老人を見ると、彼は黙って頷くだけなので、それでは遠慮なくとアイテムボックスに収める。


 この場で最も目を引くのは、さらに大型の宇宙航行が可能な… それはまさに宇宙船であった。全長500メートル級、これでも広い宇宙を旅するには小型かもしれない。だがそこにあるのは、紛れもないスペースシップだ。ロマンに溢れる逸品に、聡史の目はくぎ付けとなる。



「ま、まさかこれも持っていくのか」


「今回はやめておくわ。こんな代物、修復するだけで日本の国家予算の3年分は必要になってくるでしょうから」


「そ、そうだな。それが妥当だ」


 聡史はホッと胸を撫で下ろしている。「異世界土産に宇宙船を持って帰りました」などと市ヶ谷のダンジョン管理室に報告するのは、彼にとっても気が重たい業務なのだ。



 こうして楽しい乗り物エリアの見分を終えると、一行はフォン=ファウスたちが実際に武器の修復を行っていたと推定される個所に向かう。そこには整備中の戦鬼車などが放置されており、彼らは整備の途中にその業務を放り出して、取り急ぎ出撃して二度と戻らなかった様子が窺える。


 工具類やデータを採取していたであろう計器類などが並ぶ工房のような場所、そこに奇妙な物体が置かれている。長さ3メートル程度の長方体で高さは1.5メートルほど。透明のアクリルカバーに覆われたその物体は、治療カプセルとか冷凍睡眠装置とでも呼べばいいのだろうか? 内部には人が横たわるスペースが設けられており、バイタル状況を確認可能なモニターなども備え付けてある。


 そして実際その内部には、人影があった。一体誰だろうと近づいて確認する聡史たち… その横たわる人影を見たクルトワが、目を見開いて叫ぶ。



「父上、父上。大丈夫ですか」


「父上? ということは、行方不明だった魔王なの?」


「美鈴様、私の父上に間違いありません。どうか助けてください」


 両目に涙を浮かべるクルトワ。必死の形相で美鈴に助けてほしいと訴える。



「クルトワ、ひとまず安心しなさい。あなたの父親はまだちゃんと生きています。今からこの装置から出してあげるから、落ち着いて待っていなさい」


 美鈴から「生きている」と聞かされて、胸を撫で下ろすクルトワ。フィリップたちや騎士団も同様に、一安心の表情だ。


 美鈴は手っ取り早くルシファーさんと意識を繋いで、機器の取り外し方を検索する。すぐに回答があったようで、テキパキとした手順で装置の解除を開始する。



「どうやらこの装置は、魔王の魔力を吸収して戦鬼車に移し替える用途ね。対象者を死なせないように、生命維持が完璧になされていたのは幸運だったわ」


 やがてブーンという音を立ててカプセルの蓋が開く。内部に横たわる魔王は、顔色は良くないものの健康状態はそれほど悪くないようだ。しばらく様子を見ていると、うっすらと目を開く。



「ワシはどうしたのであろうか… おお、そこにおるのはクルトワか」


「父上、私がお分かりになるのですか」


「実の娘を見間違うわけがなかろう」


「父上、良かった…」


 クルトワの目から一気に涙が溢れ出す。父親の手を取って、顔がグシャグシャになるのもお構いなしに泣きじゃくっている。魔族たちも父娘の感動の体面に、涙する者が続出の有様。


 何か月もカプセルの中に横たわらされていた魔王は、全身の筋肉が衰えており立ち上がることもままならない。ちょうど脇に置いてあったストレッチャーに身柄を移し替えて、騎士たちが丁重な態度で運び出す。



「我が同胞が、ご迷惑をかけたようで申し訳ない」


「今更詫びても詮無き事ゆえ、もう何も申さずともよい。それに悪辣な企みを実行した者たちには、すでに神の鉄槌が下っておる」


 まだルシファーさんの意識が若干残っている美鈴が、老人に上から目線で語りかけている。寛大な御心ではあるが、その態度は尊大と呼ぶに相応しい。



 こうして一行は、多くの戦利品を獲ると同時に、行方不明であった魔王を救い出して城に帰還するのであった。





   ◇◇◇◇◇





 魔王城に戻って5日後、救い出された魔王は自室で静養中だが、今朝になって侍従の手を借りてベッドの上で起き上がるまでに回復している。この分だとひと月もすれば歩けるようになるのではないかと、お付きの医者が太鼓判を押している。



「魔王様、大魔王様がお越しです」


「おお、このような姿でみっともないが、すぐにお通ししてくれ」


 魔王には昨日のうちにフィリップから、美鈴が大魔王である件、クルトワを保護して一時的に魔王城の実権を握った件、宰相が今回の事件の黒幕だった件等々、ここ最近魔王城で起こった出来事についての説明がなされていた。


 美鈴はクルトワを伴って、二人して魔法学院の制服姿で部屋に現れる。



「父上、お加減はいかがでしょうか?」


「おお、クルトワも一緒であったか。昨日よりもだいぶ良くなっているぞ」


「オスカーよ、そう無理をしなくともよいぞ。今は養生に努めよ」


「大魔王様、ありがたきお言葉です」


 一通り挨拶が済むと、美鈴は本題を切り出す。隣にいるクルトワは畏まった態度で父と美鈴の会話を一言も聞き逃すまいとしている。



「私は一時的に魔王城の全権を掌握したが、いつまでもここにいるわけにもいかない。そこでそなたに権限を戻そうと考えている」


「大魔王様、どうか今しばらくその儀はお待ちいただけませぬか。このような情けない身では、臣下の前には出られませぬ」


「案ずるな。魔王城の者たちは、以前と変わらぬ敬愛をそなたに抱いておる。私がいなくなっても、政は万全であろう」


 こうまで美鈴に言われると、魔王としても再び王としての権限を引き受けざるを得ないと覚悟する。



「さて、本日は引継ぎが主な目的だ。いくつかあるから、心して聞いてもらう」


「承知いたしました」


「まずはフォン=ファウストに代わる宰相として、エリザベスを立てる。すでに私から城の者たちには伝えてあるゆえに、全員が納得しておる」


「おお、かの女元帥であれば、頭もキレますし、それは良い人選でございまする」


 美鈴は全員が納得しているといったが、実は一人だけ納得していない人物がいる。それはエリザベス本人であった。ずっと軍事畑を歩んできた彼女は、宰相という仕事はお門違いも甚だしいと固辞したのだが、美鈴の説得に負けて渋々引き受けたという経緯がある。いまだ本人は慣れない仕事に死んだ魚のような眼をして臨んでいるのであった。



「次に人族とは講和をいたせ。今後二度と戦争が起こらないように、日本を仲立ちとした恒久的な平和条約を結ぶのだ」


「人族側は認めるでしょうか?」


「認めさせるから、案ずるな」


 これまで数百年間も続いてきた戦争は、すでに原因などわからないままにいたずらに人員を消耗するだけとなっており、殊に人族側には厭戦気分が漂っている。日本が仲立ちとなれば、条約締結の可能性は高いのだ。あとはこの魔王が、魔族たちをうまく取りまとめて戦争を起こさないように政治を回していけばよい。


 もちろん美鈴の口からも「人族との戦争は禁止」と固く言いつけてある。



「それからクルトワはしばらくの間日本で教育する。せっかくの機会なので、人族の王女と共に席を並べて学ぶのがよいであろう」


「大魔王様の仰せのままに」


 クルトワの顔がパッと綻ぶ。これで当面パフェが食べ放題なのだ。頭の中では様々なデザートが浮かんでは消え、浮かんでは消え… 完全にお花畑状態であった。



「そのほか細々とした件は全てエリザベスに伝えてあるゆえ、あとから聞いて施政方針とするがよい。私も月に一度はクルトワを伴って魔王城に顔を出す」


「心して務めまする。大魔王様のご来訪を心待ちにいたします」


 こうして美鈴の方針が、今後ナズディア王国の政治の柱となっていくのであった。




   ◇◇◇◇◇




 その次の日、いよいよ魔族の国に別れを告げて、一行は日本へ戻っていく。出立する馬車を見送る城内の魔族は、みな笑顔で手を振って総出でしばしの別れを告げている。



「皆の者、大儀であった。また顔を出すゆえに、しばしは自分たちで城を立て直すがよい」


「「「「「「大魔王様、どうか早くお戻りになってくださいませ」」」」」」


 こうして歓声を浴びながら、馬車はゆるゆるとダンジョンに向かって走り出す。



「さあ、やっと日本に戻れるわね」


「日本は日本で忙しいんだろうな」


 聡史のやや疲れ気味の笑顔に、ニッコリと答える美鈴。その顔は一つ自分の使命を果たしたという達成感に溢れているのであった。



日本に戻る聡史たち、戻ったら戻ったで慌ただしい日々が始まり…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


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