219 古代遺跡 2
予告で今回辺りで異世界編が終わるとお知らせしましたが、結論を申し上げると終わりませんでした。これはもうお約束のようなものですので、どうか笑って許してください。
聡史たちから見て約2キロ先に停止していた大戦鬼車が、その数百本にも及ぶ気味の悪い触手を動かしながら、時速30キロ以上の速度で移動を開始した。当然内部に搭乗するフォン=ファウストは、聡史たちに対する並々ならぬ殺意隠しきれない様子で、射程距離に到達次第何らかの攻撃を仕掛けてくるのは明白。だがそんな相手を前にしても、デビル&エンジェルの面々は平常営業であった。
「よ~し、美鈴ちゃん。いよいよ私の時間がやってきましたよ」
「桜ちゃん、もうちょっと待ってくれるかしら。まずは私が、魔法で対処してみるから」
「何ですってぇぇぇ! またお預けなんですか」
桜は頬を膨らませて、不満を露にしている。長々と偉そうなフォン=ファウストの演説を聞かされてジリジリしながら待っていただけに、再び美鈴に待ったを掛けられるのは大いに不満であった。だが依然として聡史に襟首を掴まれている。手足をバタバタさせて聡史の拘束を逃れようとするものの、両手は空を切り足は無駄に地面を蹴るだけだ。
「桜ちゃんが待ちきれないようだから、早めに片付けないとね」
あっという間に距離を縮めてくる大戦鬼車に目を凝らしながら、美鈴は胸の前に翳した右手に魔力を集めていく。その量は十分に街一つを滅ぼしかねないとんでもない規模に上る。魔族が目にしたなら、「これぞ大魔王」と、称賛の声が止むことはないだろう。
「ヘルファイアー」
つい先程5両の戦鬼車をまとめて焼き尽くした漆黒の炎が渦を巻きながら宙を飛ぶ。万物を白い灰に変えてしまう炎は真っ直ぐに大戦鬼車に殺到して、とぐろを巻いた蛇のように巨大な車体を取り囲む。
だが美鈴のヘルファイアーは、大戦鬼車本体までは届いていなかった。炎に取り巻かれた車体はその場に停車するが、漆黒の炎が消え去ると全く無事なままの姿で、再び前進を開始する。
「馬鹿め、そのような魔法攻撃がこの大戦鬼車に届くものか」
勝ち誇ったようなフォン=ファウストの声が響く。美鈴の魔法を撥ね返した自信からか、すでに勝ちを確信しているかの態度だ。
「どうやら強力な魔法シールドを展開しているようだわ。本来ヘルファイアーは、シールドごと焼き切るはずなんだけど、無傷で耐え切るとは予想外の結果ね」
美鈴はやや自信喪失気味なのか。自慢のヘルファイアーが無効化されたのが、大魔王的にはショックのようだ。あれだけ的が大きければ被弾しないように何らかの対策を講じているだろうとは思われたが、想像以上に強固なシールドに魔法を撥ね返されたのが相当悔しいらしい。
やっと出番が回ってきたと目を輝かせる桜だが、その前に無情な兄の言葉が響く。
「桜、俺に先にやらせてくれ」
「まったく、私の順番は一体いつになったら回ってくるんですか? それよりもお兄様、その手を放してください」
桜はジタバタをやめて、渋々兄に譲っている。そんな桜の様子を確認すると、聡史はアイテムボックスから魔剣を引き抜いて構える。
「断震波」
真一文字に振るったオルバースから、空間すらも絶ち斬る刃が飛び出していく。だが難なく聡史の必殺技すらも無効化する大戦鬼車のシールド。さすがは古代文明の遺物というべきであろうか。聡史にも理解不能な何らかの魔法工学技術によって、斬撃の波動そのものを中和するかのように打ち消している。
「ハハハハハ、どのような攻撃も、この大戦鬼車には効果はないぞ」
ますます勢いに駆られて接近してくるフォン=ファウスト、今後はこちらの番とばかりに主砲の脇に取り付けられている小型の10門の副砲から魔法弾を飛ばし始める。副砲とはいっても並みの戦鬼車の主砲よりも大型で、しかも連射性能が高い。無数の魔砲弾が、カレンが展開する天使の領域に雨あられのようにぶつかっては、大爆発を引き起こしている。内部は無事だが、聡史たちの耳には轟音と地響きが伝わってくる。
「フッフッフ、美鈴ちゃんもお兄様も、意外とだらしないですのね。どうやら時代は私を必要としているようです。あんなシールドくらい、この桜様が叩き割って御覧に入れます」
単に順番が来ただけで、時代が必要としているわけではない。桜の後ろでは、退避し損ねた明日香ちゃんが「私の順番が来ませんように」と、真剣な表情で何かに祈っている。
ともあれ、自信満々の表情で天使の領域を飛び出していく桜。その後ろ姿は、あっという間に小さくなる。飛び交う魔法弾を身軽にヒョイヒョイ避けながら、大戦鬼車に向かって一直線。
目の前に躍り出てきた桜に向かって大戦鬼車からは連続して魔法弾が発射されて、さらに足元に向かって無数の触手が伸びてくる。魔法弾は拳で対処可能だが、桜にとって厄介なのは足元に伸びてくる触手であった。桜の手が届きにくい地面の近くを這うようにして、足を絡め捕ろうと次々に襲い掛かってくるのだ。
これには桜も迂闊に接近できなくなっている。魔法弾を避けながら一旦後退すると、アイテムボックスから〔妖刀鬼斬り〕を取り出す。普段拳で戦うスタイルの桜ではあるが、まったく他の武器を用いないわけではない。必要であれば遠慮なく武器を手に取るという選択も吝かではないのだ。
「調子に乗ってるんじゃないですよぉぉ」
再び大戦鬼車に向かって突進していく桜。先程よりもさらに距離を詰めると、その前方には透明な壁が立ち塞がる。どうやらこれが美鈴の魔法や聡史の断震波を阻んだシールドらしい。
「こんな物はこうしてやります」
左手の拳を一閃すると、高い壁のようにそびえているシールドを一撃で粉砕。どうやら魔法攻撃や波動に対する防御性は極めて高いが、直接攻撃に対する備えは不足しているようだ。いや、ひょっとしたら、桜の攻撃力が美鈴や聡史に比べて群を抜いて高いことが原因かもしれない。
至近距離まで迫ると、左手で飛んでくる魔法弾を迎撃しながら、右手の鬼斬りで足元に伸びてくる触手を斬り払っていく。大仏のような本体にはさらにもう1枚のぶ厚いシールドが展開されているようだが、どうやら触手には何ら防御機能は付与されていないようだ。自由自在に動いて同じ箇所に一瞬も留まっていない触手の一本一本にまでシールドを展開するのは、さすがに技術的に困難なのであろう。
「チョロチョロと動く忌々しい奴め。こうしてくれる」
フォン=ファウストは魔法弾の弾種を切り替える。今までは威力重視で爆裂系の術式を組み込んでいたのだが、動きが尋常でなく素早い桜に全て迎撃されてしまっていた。そこでさらに早く射出可能な雷撃弾に替えたのだ。なぜ雷撃のほうが早く射出できるかというと、いちいち魔法術式によって爆裂魔法を撃ち出すよりも、動力バッテリーから直接電気を引き込んで副砲から発射すれば、圧倒的に工程を簡略化できるからだ。ただし動力に用いる電力を攻撃に回すので、小型モーターが一本一本に仕込んである触手の動きはやや鈍るという弊害はある。
「これは厄介です」
さすがの桜も、1秒間にマッハ440で移動する電流の雨を完全に避けるのは不可能だ。ある程度の被弾は覚悟のうえで、体を包む闘気のバリアーで撥ね返す方針に切り替える。そのうえで、動きが鈍った触手をさらに斬り払って、大戦鬼車に向かって肉薄しようと鬼気迫る勢いで攻勢を強めていく。
「愚か者め。そうそういつまでも耐えられるわけがなかろう」
空気中を進む稲妻というのは、進行方向が運任せになるので実は狙った方向に誘導しにくい。だが一度電流が通った大気中には、次の雷の通り道が出来上がる。この通り道を計算しながら徐々に収束していくと、かなり正確な照準が可能となるのだ。そして大戦鬼車に搭載されている量子コンピューターは、桜を仕留めるための最適解を導き出す。
「食らえぇぇぇ」
収束した10筋の高圧電流は、大きな雷鳴を轟かせて一瞬で桜に到達する。眩い光が青白く光り、桜の黒髪が全て真上に逆立つ。
「こ、このぉぉぉ」
なおも攻撃を続けようとする桜だが、さすがにこれだけの規模の雷の直撃受けると、一瞬体が硬直する。そこに第2波の雷撃が殺到する。
バリバリバリバリ
声も上げずに倒れ込む桜。このような姿など、今まで一度たりとて見たことがない。そう、誰も見たことがない信じがたい光景が、たった今目の前にあるのだ。
「桜ちゃん」
「桜」
「「主殿」」
桜が負けた… その信じられない光景に、思わずメンバー全員が大声で呼びかける。だが、地面に倒れた桜はピクリとも動かない。聡史が助けに出ようと足に力を込める。だがそれよりも早く桜に向かって駆け寄る二つの影があった。
「桜ちゃん、今回復します」
「桜ちゃん、寝ている場合じゃないですからね。すぐに立ってください」
その二つの影は、カレンと明日香ちゃんであった。カレンは桜を抱え起こして、天使の力であちこち黒焦げの体を回復させる。その間明日香ちゃんは、トライデントを地面に突き刺して避雷針代わりに全ての電流を蓄積させている。トライデントの特殊効果には〔雷魔法吸収〕があるので、そのスキルを利用しているのだ。
「う~ん、なんとか体のシビレが取れましたわ」
「桜ちゃん、普通は死んでますからね。あまり無茶はしないでください」
「ああ、カレンさんでしたか。助かりましたわ。さて、第2ラウンドを始めましょうか。やられっ放しで引っ込む程、この桜様は甘くはないですからね」
スクっと立ち上がる桜、だがそこに明日香ちゃんが声をかける。
「まったく、桜ちゃんは危なっかしくて見ていられません。私がいないと何にも出来ないんだから」
「う~む、明日香ちゃんに大きな顔をされるのは最大の屈辱のような気がしますが、今回は助けられました」
「お友達を見捨てられませんからね。それよりもさっさとあの大きな鬼を片付けましょう」
桜に対して上からモノを言えるのが嬉しいのか、珍しく明日香ちゃんがヤル気になっている。カレンは万一の際の回復役として一歩引いた場所に構える。
「どうやらあの三人に任せておけば大丈夫みたいね」
「まさか明日香ちゃんまで、桜のピンチに一目散に駆けつけるとは思ってもみなかったな」
「それだけ仲がいい証拠よ」
「そうだな」
聡史と美鈴はドラマの微笑ましいシーンを見たかの表情で、元の場所から動かずに余裕で眺めている。その後ろでは大妖怪2体が…
「さすがは主殿であるな。あれほどの雷を食らってもまだ闘志を失わぬとは」
「ほんにその通りなのじゃ。妾たちは今さら出る幕もなかろうて」
こちらも桜を信頼しきっている様子。
「それでは明日香ちゃん、雷は頼みましたよ」
「トライデントがあればバッチリですよ~。任せてください」
飛んでくる雷撃は全てトライデントが吸収してくれるので、桜は触手の動きだけに専念できる。鬼斬りで邪魔な触手を払いまくって、次第に数を減らしていく。
「小癪な。こうなったら主砲で一気に粉砕してくれる」
始動時の魔力の充填具合からいって、大戦鬼車が主砲を撃ち出すには約15秒間全ての動きを停止しなければならなかった。しかしそのようなことは言っていられないジリ貧状態のフォン=ファウストは、一か八かで付近一帯全て吹き飛ばす手段に出る。
だが大戦鬼車が一切の動きを止めるという、この絶好機を見逃す桜ではなかった。
「明日香ちゃん、一気に畳み掛けますよ~」
「はい、付いていきます」
二人は動かなくなった触手を踏み越えて一気に台車の上に飛び乗る。さらに桜は大きくジャンプして鬼の形状をした本体部分を覆うシールドを拳で破壊する。バリンという音を立ててシールドが消え去ると、すかさず明日香ちゃんに合図を送る。
「明日香ちゃん、今です」
明日香ちゃんは思いっ切りジャンプしながら、トライデントの穂先から今まで散々ため込んだ電流を一気に主砲の内部に流し込む。砲口の内部は帯電して、不気味にバチバチと音を立てている。さらに主砲の奥では巨大な魔力が充填されている最中で、魔力と電流が合成されてあたかも火薬庫になる勢い。
「最後の仕上げですよ~」
桜も明日香ちゃんと同様に、今一度半身の姿勢でジャンプする。そしてその左手には、ヤバいくらいの量の闘気のカタマリを握りしめている。
「太極破ぁぁぁぁ」
桜の手から発せられた闘気は、吸い込まれるようにして主砲の内部に侵入していく。魔力が大量に充填されている場所に大量の電流を流し込んで、さらにそこに太極破などという破壊的な爆発を引き起こす火種を放り込んだら、一体どうなるかは明らかであろう。そして…
「明日香ちゃん、カレンさん、ダッシュで逃げますよ~」
「「はい」」
3人が大慌てで遠ざかっている最中に、主砲の内部で大爆発が引き起こされた。とんでもない勢いの火柱が、主砲の発射口から噴出する。もちろん主砲内の爆発は、大戦鬼車の内部構造にも破滅的な影響を及ぼして、あちらこちらに火の手が回っていく。その炎がさらに新たな爆発を起こして、大戦鬼車は内部から破壊される。
「こ、これは一体どうなっているのだぁぁぁぁ」
もはや制御不能に陥った大戦鬼車の内部で次々に誘爆が引き起っていく光景は、搭乗しているフォン=ファウストにとっては悪夢としか言いようがなかった。繰り返される爆発によって大戦鬼車は完全に沈黙して、ついには頭部にある搭乗部分にまで誘爆が及んでいく。
「ば、馬鹿な! 我がこんな場所で命を落とすだと? 有り得ぬ。そのような間違いなど絶対にあり得ぬ」
いまだ自分の身に起こっている状況を理解しようとはせずに、必死におのれの描いた輝かしい栄光に溢れた未来に縋ろうとするフォン=ファウスト。だがその甘っちょろい思い上がりは、搭乗部分を巻き込んだ巨大な爆発によって何も言い残す間もなく消えっ去っていった。最後の爆発によって鬼を模った上半身部分が粉々に吹き飛んで、方々にその残骸が散らばっている。
「あんな面倒な兵器は、念のため次元の狭間に捨ててしまいましょう」
まだ煙を上げ続けている大戦鬼車だが、その原型をとどめた触手の部分だけが、美鈴が創り出した次元のポケットのような空間に吸い込まれるようにして消えていく。
「最初から異次元に捨てればよかったんじゃないか?」
「あの戦車の機能がわからなかったから、この手は使えなかったのよ。もし次元すらも超えて元に戻ってくるような性能を有していたら、元も子もないでしょう。この世界の古代文明がどんなレベルまで発展していたのか、私たちは知らないんだから」
聡史と美鈴が後始末の方法を論じていると、そこに一仕事終えた桜たちが戻ってくる。
「桜、ご苦労だったな。カレンと明日香ちゃんもよくピンチに駆けつけてくれた」
「聡史さん、私は回復役ですから。怪我人がいたら、何を置いてでも駆け付けます」
「お兄さん、私の素晴らしい活躍見てもらえましたか?」
カレンの天使に相応しい心掛けに対して、明日香ちゃんの伸び切った天狗の鼻。まったく好対照な二人であった。この明日香ちゃんの態度に面白くないのは桜だ。
「今回は明日香ちゃんに借りを作ってしまいましたが、単に相性が悪かっただけですからね。明日香ちゃんは勘違いしないでください」
「まあまあ桜ちゃん、私に助けられたのは、紛れもない事実ですから」
桜の肩にポンと手を置く明日香ちゃん、その偉そうな態度に桜はぐぬぬという表情。いつかその伸びた鼻を折ってやると、桜は心に誓っている。
「さて、もう邪魔者はいなくなったから、当初の予定通り古代遺跡に向かいましょう」
「フォン=ファウストを倒したのに、まだ遺跡に用があるのか?」
「聡史君、これはロマンの探求よ。どんな様子になっているのか、ますます興味が湧いてくるじゃないの」
「まあ確かに、あんな兵器がまだ隠されているかもしれないな」
ということで、一行は古代遺跡へと向かっていく。戦闘が無事に終了したので、退避していたクルトワや騎士団も呼び戻されて、当初の予定通りに洞窟状になっている遺跡の内部に入り込んでいく。
「地下に降りる階段は、だいぶ風化が進んでいるな」
「フォン=ファウストの話では十数万年前の遺跡みたいだから、こうして原型が残っているほうが奇跡でしょうね」
傷みが目立つ階段を一行は大した会話も交わさずに降りていく。そしてその先は、向こう側には関係者以外を絶対に通さないと宣告するような、高さ10メートル、幅5メートルはある金属製の大扉で仕切られている。いや、その途方もないサイズは、隔壁とかシェルターの入り口と称したほうが適切かもしれない。
「この扉を何とかしないと、この先には進めないのね」
「大魔王様、我ら魔族もこの扉を開こうと致しましたが、結果はどうにも開かないという結論に落ち着きました」
エリザベスの証言によれば、魔族たちも様々な方法でこじ開けようと努力をしていたらしい。だが魔法も剣も寄せ付けない頑丈な扉は、終ぞ開くことはなかった。
「どうやらパスワードが必要みたいね」
「開けゴマとかか?」
「アラビアンナイトじゃないのよ。こんなことになっているんだったら、フォン=ファウストを生け捕りにしてパスワードを吐かせればよかったかしら」
「あの状況では、生け捕りは困難を極めるぞ」
それもそうかと、美鈴は頷く。桜でさえも一時はあの大戦鬼車にかなり追い込まれたのだから、そうそう簡単に生け捕りなどとはいかないであろう。
「仕方がないから、知っていそうな人に聞いてみましょう」
「知っていそうな人? …まさかあれか」
聡史の言葉が終わらぬうちに、美鈴の表情に変化が現れる。銀色に光るその瞳には途方もない英知を宿すあのお方… ルシファーさんの降臨であった。
「せっかく気分よく微睡んでおったのに、あの娘はなぜこうも毎回我に面倒ごとを丸投げするのだ?」
「ルシファーさん、この扉を開くパスワードなんて、本当にわかるんですか?」
「それが面倒だと言っておるのだ。そこなる男よ、そなたが生きる場所は何次元か知っておるか?」
登場したてのルシファーさんは、聡史に意外な質問を投げかける。一体この問いと扉のパスワードに、どのような関係があるというのだろう?
「えーと、3次元の世界だと言われています」
「知識がまるで足りぬな。そなた、よく聞くがいい。そもそも3次元とは縦・横・高さを有した立体的な空間であるが、完全に静止して何も動かない世界であるぞ」
「勉強不足ですみません」
さすがに聡史も、ルシファーさんにかかるとまるっきり物を知らない子供以下の扱いになっている。神様がアリに世界の道理を説く状況かも知れない。
「3次元に時の流れという新たな事象が加わるからこそ、そなたらは日々を過ごせるのだ」
「3次元に時間を加えて、4次元の世界が、俺たちが生きている場所というわけですか?」
「いや、違うな。そなたらが生きる世界というのは、さらに情報という事象が加わる。情報というのはそこに住む知的生命体の在り方に大きく関わるであろう」
段々ルシファーさんの話が難しい方向に進んでいく。例えば固定電話しかない時代の人間と、スマホを使いこなす現代人とでは、情報における意識の在り方が違うとでも言いたいのだろうか。
「情報が高度になればなるほど、知的生命体は精神の発達を加速させて、次元の限界点に接近する。そしてある程度接近すると、新たな次元がその先に開かれるのだ。それがこの後人類が踏み込むであろう6次元の世界だな」
「つまり現在は5次元で、将来的には6次元まで人間が活動領域を広げるということですか?」
「まあ、そのようなものだと考えて間違いはない。さて、6次元の世界には銀河の過去から現在まで、全ての情報を集積しているデータベースが存在する。この世界では〔アカシックレコード〕として、一部の意識が上昇方向に向かっている人間の間では知られている」
「すいません、俺は聞いたことありませんでした」
聡史はまだ、5次元にしばらくの間留まっている必要があるみたいだ。宇宙とか銀河の話になると、とんと疎い実態がバレバレだ。
「銀河の統合情報意識体にアクセスすれば、必要なパスワードは得られるであろう。娘に伝えるがよい。自らの内面にあるアクセスの手掛かりに集中せよと。色即是空、空即是色。一事が万事、万事が一時だとな。それでは我は去るぞ」
それだけ言い残して、ルシファーさんは美鈴の意識の表層から消えていった。入れ違いに、美鈴の人格が浮かび上がってくる。
「…と、ルシファーさんは言っていたぞ」
「私の内面に意識を向けるのね。それにしても、なんでここに『色即是空』なんて仏教用語が出てくるのかしら?」
「俺に聞かれてもわからない」
「それもそうね。ルシファーは私にやれと言ったんだから、やってみるしかないわね」
美鈴は自己の内面の意識に集中し始める… のは面倒だったので、手っ取り早くルシファーさんと意識を繋いで直接銀河情報意識体とやらにアクセスを試みる。
(やれやれ、我がせっかくやり方を教えたにもかかわらず、実に横着な娘だ)
(今は時間がないから、ちゃっちゃと何とか意識とアクセスしてよ)
自己の意識の中で会話をする美鈴とルシファーさん。だからと言って二重人格というわけではない。生まれた時から住み着いているルシファーさんは店子で、美鈴が大家さんのような関係なのかもしれない。
ともあれ美鈴から「時間がない」と急かされたルシファーさんは、自らの意識を銀河なんちゃらに繋ぐ。
(ほれ、パスワードがわかったぞ。人間の発音器官で言語化するのは困難ゆえ、文字をコピーして扉に張り付けるがよい)
(これが文字なの? なんだかわけのわからない記号の羅列ね)
美鈴の意識に浮かんだ15個の文字列は、〇と線と点の組み合わせで意味を成す文字体系のようだ。初めて目にする美鈴自身も、一体どのように発音するのか皆目見当がつかない。
「我が魔力よ、この文字を形どって扉を開きたまえ」
美鈴の詠唱によって、ルシファーさんから教えてもらった文字列がそっくりそのまま扉の表面に浮かび上がる。その文字列を美鈴が指で全てなぞると、金属製の大扉の表面に幾何学状に亀裂が入ってまるでパズルのピースのようだ。そしてその幾何学的なヒビから光が漏れ出したかと思ったら、複雑な動きをして扉は一瞬で開く。
そして扉が開いたその先には……
聡史や美鈴たちから見ても、未来の世界がそこにあった。
ついに開いた未来の世界。聡史たちはそこで何を発見するのか…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!
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