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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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216 魔王城凱旋 3

クルトワ回の予感が……

 魔王城では、午後の一番で謁見の間に主な貴族や高官が集まるのが毎日の慣例となっている。これは魔王が姿を見せなくなっても以前と同様に行われており、この日も魔族たちが続々と集まって所定の位置について、主のいない謁見が始まるのを待っている。


 ずらりと出席者が勢揃いした謁見の間に最後に入ってきたのは、魔王の代理を務める宰相だった。彼は先程もたらされたクルトワ帰還の報告に関する対策がいまだまとまらないままに、焦りと怒りが微妙に入り混じった表情で大勢の貴族たちに埋め尽くされた広間に入場してきた。


 

「各貴族の方々、本日もご列席ありがとうございます。魔王陛下は事情によってお姿を現しませんが、定例の報告と陛下のご伝言をお伝えいたします」


 宰相は謁見の間全体を見渡す。列席している貴族たちの様子には特段変わった点はなく、まだクルトワの件は他者には漏れていないと判断する。貴族たちの態度に彼は少しだけ胸を撫で下ろすが、できるだけ表情には出さないように気持ちを引き締める。こうして努力しないと平静を保っていられない程に、宰相は追い詰められているのであった。


 いまだクルトワの件が漏れていないのであったら、いつものように「魔王陛下はいつになったらお姿を現すのだ」という追及を煙に巻けばこの場は収まるであろう。このようなやや楽観的な見通しを持った宰相は、なるべく手早く謁見を終えようと、かなり早口になって伝えるべきを伝える。



「…以上が陛下からのご伝言となります」


 宰相がこのように告げると、いつものように列席する貴族たちはあたかも弓矢を司る地獄の使者アスガルドが獲物を射すくめるような視線で彼を睨み付けながら、声を荒げて魔王の所在の追及を始めるのが常ではあった。だがこの日は普段とはやや状況を異にしている。魔族たちが声を荒げ始める前に、閉ざされた大扉の向こう側から何事か争うような声が響いてくる。



「ハインリッヒ公爵様、エリザベート公爵様、すでに謁見は始まっております。今から中に入るのは、どうかお控えくださいませ」


「火急の用件だ。邪魔をするな」


 謁見の間の中にいる者たちにもはっきりと聞こえる声が、厚い大扉越しにも聞こえてくる。どうやら遅れて参上した人物と衛兵の間で「通せ」「通せない」との押し問答が続いているようであった。だが衛兵は親衛騎士団に所属する騎士であり、その団長であるハインリッヒ公爵にそうそういつまでも抵抗できるはずもない。やがて重厚な扉は押し開かれて、そこには礼装に身を包んだ2名の魔王軍大幹部が登場する。



「な、なんと… ハインリッヒ公爵閣下、行方不明と聞いていたが、まさか生存しておられたか」


「エリザベート元帥閣下とご一緒に姿を見せるとは…」


「一体何がどうなっているのだ?」


 居並ぶ列席者からは驚愕の声が漏れ聞こえてくる。かたやエクバダナの街に賊の討伐に赴いて消息が不明だった親衛騎士団長、もう一方は人族の領地に攻め入ってこの場にいるはずがない魔王軍最高指揮官 ━━この両名が挙って登場するなどという事態は貴族たちの予想をはるかに超えた、まさに斜め上をぶっちぎる展開であった。魔族たちは宰相に文句を言うのも忘れて、突然登場したこの両名に見入っている。


 思わぬ形で一瞬の静寂に包まれた大広間であるが、この両名の登場に最も驚きと焦燥を併せ持っているのは、言わずと知れた宰相自身なのは言うまでもない。



「な、なぜ騎士団長が生きているのだ? なぜ魔王軍元帥が勝手に持ち場を離れて魔王城に姿を現したのだ」


 声にもならない引き攣ったような呟きが、宰相の口から無意識に漏れ出している。だがその声を搔き消すかのように、謁見の間にはハインリッヒの大音声が轟く。



「火急の件で取り急ぎ参じた。皆の者よ、よく聞くがいい」


 ハインリッヒ… いや、フィリップの大声に、さらにしんと静まり返った広間。そこにエリザベスが一歩前に出ては、落ち着いた口調で演説を開始する。



「お集まりになった諸卿に告ぐ。我ら魔族中央軍遠征部隊は、行方不明であったクルトワ殿下の身柄を発見し、本日魔王城へお連れした。殿下はすっかりお元気を取り戻しており、諸卿らにいち早くそのお顔を見せたいと希望なされておられる」


 宰相の表情が一気に変わる。両手のコブシを握りしめて憎しみに満ちた目でフィリップとエリザベスを睨み付けては、その肩を小さく震わせている。だが彼が何か声を発する前に、広間は大勢の歓喜に満ち溢れた声で埋め尽くされた。



「殿下がご無事にお戻りななられただとぉぉぉ」


「元帥閣下、それは真であるか?」


「これは国の一大事であるぞ。早急に殿下に目通りを」


「一刻も早くあの愛らしきお顔を見たいものよ」


 広間はすでに蜂の巣をつついたような騒ぎが開始されており、もはや収拾がつかない様子。そのような喧騒に包まれた謁見の間において、冷静に状況を観察しているのはフィリップとエリザベスであった。両名は誰がこの状況を喜んで、誰が困惑しているのかを可能な限りこの場で見極めようとしている。



「者共、静まれぇぇ! この場は一旦静まるがよい」


 長引くざわめきが一向に収まらない状況に業を煮やしたフィリップが再び大声を発すると、新たな情報を求める貴族たちは一斉にその顔を見遣って期待に満ちた表情を向ける。その様子にニヤリと笑みを漏らしたエリザベス。その表情には多分に致死性の猛毒が含まれているのは言うまでもない。



「さて、諸卿らの様子を窺うには、殿下のご帰還を只今知ったかのようであるが、その点はいかがであろうか?」


「たった今、元帥閣下から聞き及んだばかり」


「あまりに寝耳に水であったために、我らも相当に狼狽してしまったようだ。まことに恥ずかしき限り」


 貴族たちから上がる声に言質を取ったとばかりに、エリザベスの表情には更なる毒が注ぎ込まれる。



「これは異なこと。確か午前中の内に親衛騎士団から使いを出して、宰相閣下には殿下のご帰還の第一報を入れたはずだが… ハインリッヒ、相違ないな?」


「騎士団のオーノス副団長を遣わして、宰相閣下には間違いなくご報告申し上げたはず。何しろ事が事ゆえに、一刻も早く報告せねばなるまいと急いだ次第」


「宰相閣下、騎士団は確かに貴公に報告したはずであるが、このような一大事をなぜこの場に列席される一同に明かさなかったのだ? これほど喜ばしい話であるならば、一も二もなくまずは皆に伝えて然るべきであろう」


 やや芝居がかっているフィリップとエリザベスの遣り取りであるが、クルトワ帰還の情報を巡って宰相が何らかの理由で隠蔽を目論んでいたという印象を諸侯に与えていた。もちろんこれも、美鈴によって書かれた宰相の印象を悪化させるためのシナリオに沿った発言だ。


 だが宰相もさるもので、ここまで一方的に追い詰められたようでも、まだ反撃を試みようとする。



「殿下のご帰還につきましては、私も不確かなお話として聞き及んでおります」


「騎士団からの正式な報告であり、不確かな話には相当しないはずだが」


「確かに騎士団からの使者殿から話は承りましたが、宰相の立場としてこの場に集う諸卿に公にするには、私自身が納得するまで真偽を確かめねばなりますまい」


「ほう、殿下の御身をお守りする親衛騎士団を信用ならぬと申すのか」


「そうは申してはおりませぬ。何事も手順を踏んで慎重に運ぶのが、陛下から下命されました宰相の立場ゆえ」


 巧みに言を弄しては、追及の矛先を躱していく宰相。どうやらこの場で追い詰めるのは困難と判断したエリザベスは、フィリップに目で合図を送る。



「さて、この場にご列席の諸卿よ。現在クルトワ殿下はプリナム宮でお疲れを休めておられる。だが殿下のたってのご希望により本日三の刻にプリナム宮の広間において、非公式な面会を執り行う予定である。殿下の無事なお顔が見たいと希望される方々は、当該の時刻までにプリナム宮に召されよ。我らからの話は以上である」


 これだけ伝えると、フィリップとエリザベスは颯爽とした姿で広間を出ていく。


 すでに宰相からの伝達事項はすべて終えており、列席者の9割方はいそいそと広間を後にする。非公式とはいえクルトワの無事な姿を一目でも見られるとあって、彼らは第一級の礼装に衣装を改めて参加するつもりのようであった。その表情は、歓喜に打ち震えている。まるで競争のように、一刻も早くプリナム宮に向かうと誰もが固く誓っているかのようだ。


 謁見の間に取り残されているのは、宰相と彼の少数の取り巻きに過ぎない。その取り巻きですら、宰相の権力基盤に揺るぎが生じている事態を敏感に感じ取って、どのようにクルトワを奉じる勢力に鞍替えしようかと頭の中で算段を始める始末であった。






   ◇◇◇◇◇





「大魔王様、只今戻りました」


「フィリップとエリザベス、ご苦労様でした。宰相はどのような顔をしていましたか?」


「中々に見物でした。泡を食っている様子が、手に取るようにわかりましたぞ」


「そう、ここから先どのような動きを見せるのか、楽しみになってきたわね」


 プリナム宮の応接室に謁見の間での役目を終えた両者が戻ってくると、美鈴は笑顔で出迎える。二人の報告は、美鈴に作戦の経過が順調であると思わせるには十分な内容であった。その隣では、聡史が目を閉じて何かを考えこんでいるが、その脳内でどのような思考が巡らされているのかは周囲にはわからない。


 3時から予定されている謁見に備えて、すでにクルトワはドレスに着替えるために一旦彼女の私室に戻って不在だ。魔法学院の制服とは違ったドレス姿の高貴な一面を見せてくれるに違いない。


 すでに使用人たちは大広間に大勢の貴族たちを収容する準備に取り掛かっており、大忙しで動き回っている。ある者は床をピカピカに磨き上げ、またある者は花瓶に新しい花を生けたりと、てんてこ舞いではあるが、その表情はこの宮殿の主がようやく戻ってきた喜びに活気づいていた。





   ◇◇◇◇◇





 所変わって、こちらはクルトワの私室。現在女官たちが十人掛かりでドレスへと着替えさせている最中だ。



「クルトワ殿下、今一度息をお止めください」


「無理です。これ以上止めたら死んじゃいます」


 総掛かりで何とかクルトワにドレスを着せようと悪戦苦闘する女官たち。ウエストを締め付けるコルセットのひもを背中側で限界まで締め上げて、1ミリでもサイズを縮めようと額に汗している最中だ。そしてこの拷問のような仕打ちを受けているクルトワは、あまりの辛さに涙目になりながら悲鳴を上げている。


 その原因とは… ダンジョンから救助された時点ではほっそりとした儚げな印象であったクルトワだが、レイフェンとフィリップによる厳しい訓練によってどんどんレベルが上昇し、体の至る部分に筋肉が付いた。そして人間でも魔族でも、激しい運動をこなすと大量のカロリーを消費する。その消費を埋め合わせるためには、必要なカロリーを摂取する必要がある。


 元々深窓の令嬢であり魔王城で何不自由なく過ごしていたクルトワは、かつてはほとんど体を動かさなくて、周囲が心配するほど食が細かった。だが日本にやってきて、ナズディア王国よりもはるかに洗練された料理に出会ったら、それはもう食べる食べる。食べまくる。ただでさえ鬼教官の訓練でお腹が減るところにもってきて、こんな美味しい食事が食べ放題なのだから、クルトワの食欲は一気に昂進していった。


 それだけならば、ダンジョンでの活動に必要なカロリーやレベル上昇に伴う筋肉の形成に当てられるので問題はないはずだ。だがクルトワはそれだけではなかった。明日香ちゃんに誘われるままにデザート友の会に入会してしまったのだ。これはもう運の尽きである。ただでさえ筋肉がついて一回り大きくなった体に、デザートのドカ食いで付いてしまった贅肉のカタマリ… これはアウトだろう。もちろん師匠である明日香山親方ほど深刻ではないものの、そろそろ真剣にダイエットを考える必要がある限界までクルトワは到達している。後戻りするのは今しかないぞ!


 そんな現在のクルトワに、かつて深窓の令嬢として過ごしていた頃の小学校高学年サイズのドレスなど入るはずがない。いくらコルセットで締め付けても無理であった。そもそも腕が太くなっているので、袖に手を通すことすら不可能なのだ。仮に無理に着せたとしても、ちょっと体に力が入れば某ケ〇シロウのように上半身にまとう服が一瞬で破けて吹き飛んでいきかねない。


 これには女官たちも涙を呑んで諦めるしかなかった。ハンカチを噛んでグギギと無念さを滲ませている。中にはお針子に発破をかけて、早急に新しいドレスを仕立てようと採寸を始める者も出る始末であった。


 こうしたすったもんだの挙句に、ようやくクルトワは先程まで着ていた魔法学院の制服に戻って安心した表情を浮かべる。もう体を締め付ける地獄のような責苦は存在しない。光彩が開きかかった青白い表情で、ソファーに崩れるように座り込むのであった。


 それにしても、息ができないくらいに締め付けられたコルセットから解放されてホッとしているお姫様なんて、なんだかものすごく残念な気がする…





   ◇◇◇◇◇





「クルトワ殿下、よくぞご無事でお戻りになられました」


「こうして殿下のお元気なお顔を拝見させていただいて、無上の喜びでございます」


「殿下と共にあらんことを」


 プリナム宮では、クルトワと貴族たちによる非公式な面会が開かれている。だが非公式と銘打っているものの、この大広間をぎっしりと埋め尽くす魔族たちの数は数えられないほどに上っており、片膝をついた姿勢で壇上を見上げる。彼らは豪奢な椅子に腰を下ろすクルトワの姿を目の当たりにして、心から忠誠を尽くす思いを新たにしている。


 正面の一段高い壇上に座るクルトワを中心に、その手前には左右に分かれてフィリップとエリザベスが帯剣姿で仁王立ちしており、その脇にはフード付きのマントを目深に被って顔を隠した魔法使い風の者たちが合計四人で護衛として立っている。親衛騎士団長と魔族軍最高指揮官が自ら魔王の娘の護衛役を務めるなどといった事態は、ナズディア王国史上稀な出来事であり、それだけクルトワの身辺に気を使っている様子が窺える… というのは実は表向きの事象であって、実は正体不明のこの四人こそが最強の警護役であるという事実には、この場に居並ぶ魔族たちの誰一人として気付くことはなかった。


 そして魔族たちが待ちかねた、クルトワの言葉を聞く段に移る。



「我が父に忠誠を誓う家臣の皆ひゃん」


 冒頭のセリフをクルトワは思いっ切り嚙んだ。微妙な空気が流れる中で、壇の下に立つフード付きマントの二人が小声で囁き合う。



「桜ちゃん、クルトワさんがいきなりセリフを噛みましたよ」


「心配はしていましたが、まさかいきなり噛むとは恐ろしい子です」


 その囁きの主はもちろん桜と明日香ちゃんであった。さらに二人は周囲に気取られぬように続ける。



「でもなんだか広間にいる魔族の方々は、反応が薄いですよ~」


 クルトワは何も初っ端からギャグをかまそうとしたわけではない。だが明日香ちゃんの目で見る限り、魔族たちが笑いを堪えたり、クルトワに冷たい視線を送ったりする気配が全くない。



「明日香ちゃん、よく見てください。全員が『また始まったか』という表情でほっこりしていますよ」


「そう言われてみればそうですね~」


「おそらく毎度のお約束なんですよ。何しろクルトワさんですからね」


「ああ、確かにクルトワさんなら毎回多少のやらかしは当然ですよね。でもいい感じに広間に漂っていた緊張感が解けてきましたよ~」


 明日香ちゃん指摘の通り、クルトワの天然の芸風によって魔族たちは緊張を解いていたように見受けられる。だが…



(キタァァァァ!)


(やはり殿下はお変わりがない)


(まさか第一声にボケを放り込むとは、お姿が見えぬ間に相当腕を上げましたな)


(腹筋が崩壊せぬように努めるのも、家臣としてのたしなみ。各々がた、くれぐれも油断召されるなよ)


(殿下のボケが続くと、堪え切れる自信がござらんぞ)


 家臣一同は、意外と必死であった。クルトワがどのようにボケようとも、平然と受け流す血の滲むような努力をこれまで重ねてきており、絶対に顔には出さぬように努めているらしい。


 当のクルトワは、「またやってしまたぁぁぁ」とばかりに顔を真っ赤にして頭を抱えて絶賛パニックの真っ最中… 居並ぶ魔族たちは両手を握りしめて心の中で「殿下、頑張れ」と応援している。ドジっ子キャラの地下アイドルと、その取り巻き集団という構図が大広間に出来上がっている。


 先程まで宮殿の謁見の間で開かれていた会議とは別次元のユルユルな感じ… 血気盛んな魔族にとっては、束の間の安らぎを与える存在こそがクルトワなのだ。



「え~… 皆さん、ご心配をおかけしましたが、こうして無事に戻ってまいりました。いえ、むしろ以前よりもずいぶん強くなって帰ってきましたよ。ええ、フィリップたちが『身を守るためには強くなってください』などと言って、私を死にそうなくらいにシゴくんですよ」


 なぜかクルトワが愚痴りだしている。魔法学院での日々がよほど堪えたのだろうか? その割には皮下脂肪をたっぷりと蓄えているようだが。しかしここまでクルトワがぶっちゃけると、家臣一同の中にはプッと吹き出す者まで現れる。どうやらツカミは完璧なようだ。


 クルトワもいきなりセリフを噛んだショックから立ち直って、場が適度に温まってきたという手応えを感じている。



「それではここで、私を助けて導いてくださった偉大なるお方をご紹介いたします。それではご入場ください」


 広間の大扉が左右に大きく開かれると、そこにはやはりフード付きのマントを目深に被った人物が姿を現す。クルトワは壇上から降りて、エリザベスの横で跪いてその人物を迎える。


 広間の空気が一瞬にして変わった。それまではクルトワを中心とした幼稚園のお遊戯会を見守る保護者たちのような微笑ましい空間だったのが、尋常ではないプレッシャーに身を押し潰されそうな重厚なムードに包まれている。その人物は広間の中央を遠慮なしに通っては、壇上のもう一つの椅子に腰を下ろす。



「クルトワよ、我の隣に着座を許可する」


「ありがたきご配慮、心から感謝いたします」


 ドテッ


「キャッ」


 今度はクルトワが壇にけつまずいてコケた。車に轢かれたカエルのように、頭から突っ込んでベッタリと床にへばり付いている。



「桜ちゃん、クルトワさんのコケ方は、芸術点が高いですよ~」


「明日香ちゃん、今のは素でコケていますからね。やはり天然物には敵いません」


 桜と明日香ちゃんはのんびりと囁き合っているが、魔族たちはそれどころではない。頭から押し潰されそうな圧力を必死に耐え忍ぶという絶妙なタイミングでボケを放り込まれて、死にそうな表情を浮かべている。「こんな重大な場面でボケるな」という苦情が、後からクルトワの元に大挙して押し寄せるかもしれない。


 多少のトラブルはあったものの、広間の壇上にはフードを被った謎の人物と、再びやらかして顔を真っ赤にしているクルトワが並んで腰掛ける事態となる。一体どうなっているのかと魔族たちが固唾を飲んで見守る中で、その人物はゆっくりとフードを取り去って漆黒のドレスに包まれたその正体を披露した。同時に強大な魔力がこもった銀色の相貌で、魔族たちをひと睨みする。



「我は故あってダンジョンに幽閉されておったクルトワを助けた。こうして縁あって魔族の者共の前に身罷っておる。さて、何の挨拶もないままに話しておっても埒が明かぬであろう。しからば名乗るとしようか。我こそが暗黒と深淵の支配者、大魔王なり」


「「「「「「「ははあ~」」」」」」」


 広間に集う魔族全員が床にひれ伏した。この瞬間、美鈴は宮廷に集う貴族たちの大半をその支配下に収めるのであった。



「我がしもべたちに伝える。魔王城は只今よりこの大魔王が支配する。異存がある者はこの場におるのか?」


「「「「「「「大魔王様の仰せのままに」」」」」」


 貴族たちは、騎士団と同様に美鈴の威光に逆らう術はなかった。皆がこの場にいる存在こそが大魔王だという、その魂の奥底から湧き上がる思いに従わざるを得ない。


 ここで、仮の玉座の手前に控えているエリザベスが恭しい態度で意見を求める。



「大魔王様、この場におります貴族は皆大魔王様にひれ伏しております。さて、残った宰相を含めた不逞の輩たちはいかがいたしましょうか?」


「所詮は魔王の威光を借る小者に過ぎぬ。明日にでもその化けの皮を剥がしてくれる」


「それでは明日の午後一番に、宮殿において大魔王様の謁見の儀を執り行いましょう」


「良いぞ、そなたに任せるゆえに、しっかりと準備を頼んだ。殊にその宰相とやらには、必ず出席いたすように手配いたせ」


「承知いたしました。諸卿に次ぐ。明日の謁見によってナズディア王国の歴史が変わる。くれぐれも見逃さぬように、心して大魔王様に拝謁せよ」


「「「「「「「御意にございます」」」」」」」


 こうしてこの日の非公式なクルトワとの面会は、大魔王様ご登場という、何も知らぬ貴族たちにとっては思いがけない形で終了する。



 その夜、聡史たちが寝泊まりするプリナム宮には、お約束通りに不審な侵入者が闇に紛れて入り込んでくるのであった。

いよいよ魔王城を牛耳る宰相との対決か…… この続きは出来上がり次第投稿します。どうぞお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
[一言] 作品全体から漂う緩さとシリアスな部分はそのまま明日香ちゃんと桜…というよりも聡史の対比なのだろうか? 思ったより明日香ちゃんは重要人物なのだろうか
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