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異世界から日本に帰ってきたらなぜか魔法学院に入学 この際遠慮なく能力を発揮したろ  作者: 枕崎 削節


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212 扇動者のクルトワ

遅い時間になって申し訳ありませんでした。

 ダンジョン対策室から連絡があり、魔法学院に戻ってきた桜たちがアライン砦に向かうのは5日後と決定された。


 魔族との戦いに使用された弾薬の補充や生鮮食料品の準備のためにある程度の日数を要するためだ。現在伊勢原駐屯地において、これらの物資の集積が急ピッチで遂行されており、桜がアイテムボックスに収納して異世界に運ぶ手筈となっている。


 それまでの間、桜たちは久しぶりに魔法学院で過ごすこととなっていた。



「それにしても桜ちゃん、学院長はずいぶんあっさりと天狐さんたちが魔法学院で過ごす許可を出しましたね」


「明日香ちゃん、全ては私の人徳のなせる業ですわ。これまで培ってきた信頼が証明されましたね」


 偉そうな態度で明日香ちゃんにドヤ顔を決め込む桜だが、学院長は彼女を信頼して許可を出したわけではない。単に役立ちそうだったから… 種を明かせば、身も蓋もない実に単純な理由であった。より具体的に説明すると、桜という強烈な個性によって眷属とされた大妖怪と人間の共生が成り立つのかという実験でもある。ダンジョンの発生という過去には例のなかった事態を迎えて、地球の歴史は新たな一幕を開いたといえる。その中で妖怪という人でも神でもないモノがどのような働きをするのか、学院長としても興味を持って観察したいという意向があった。


 この件に関しては天狐と玉藻の前がキツネの妖怪であったという点は幸運であったといえよう。そもそもキツネは他者に化けて人を騙すという伝承を誰でも知っているくらい、人間にとっては身近で馴染みのある妖怪であった。もちろん妖怪としてだけではなく神様として稲荷神社に祀られていることもあって、言ってみれば半神半妖の存在である。その辺の事情もあって、学院長は妖怪が戦力として利用可能かという少々危険な実験に踏み切っていた。


 2体の大妖怪は、裏山に自らの妖力を用いて祠を作って住み着いている。朝、桜が呼びに来るまで大人しく祠で寝ているらしい。そして朝ともなると…



「おーい、ポチとタマ。迎えに来ましたよ~」


「主殿、本日は天気も良く、中々に良い朝でございまする」


「ほんにその通りなのじゃ。今日も新たな甘味の味わいに胸が高鳴るのじゃ」


 尻尾を振って祠から出てくるその姿は、どこから見ても正真正銘の飼い犬であった。神社の宮司と巫女のような装束に身を包んではいるが、一皮剝けばキツネうどんとデザートに目が眩んだ桜の忠犬たちである。


 まあそれでも、こうして「主殿」と懐いていれば、桜としても可愛く思えてくるのは人の情。ついつい食べ物をねだる両者に甘い顔を見せてしまう。ペットに対する優しさの10分の1でも頼朝たちに向けるのなら、彼らもさぞかし報われるのではなかろうか?



「食堂でキツネうどんと大福をご馳走してあげるから、付いてくるんですよ。タマは甘い物ばかりじゃなくって、ちゃんとご飯も食べなさい」


「主殿、忝く存じます」


「主殿、そう言われても、妾は甘味がいいのじゃ」


「しっかりご飯も食べないと、大福はお預けにしますよ」


「わかったのじゃ! 白飯も食すのじゃ! お預けは許してほしいのじゃ」


 完全に桜の言いなりであった。それでも天狐と玉藻の前は桜と一緒にいるととっても嬉しそうな表情なので、今のままのペットという立場が幸せなのであろう。不満があれば何か言ってくるだろうと、桜は何も気にせずに鷹揚に構えている。


 こうしてペットを引き連れた桜が学生食堂に姿を現す。はじめのうちは他の生徒たちが「一体何者だ?」という目を向けていたが、見慣れてしまった今では誰も興味を示さない様子だ。これは桜にとってはある意味非常に助かる状況であった。いちいち説明する手間が省ける。だがそもそもの前提として、面と向かって桜に苦情を言ってくる勇気のある生徒は学院内には存在しないのだが…


 その桜はカウンターに並んでいつものように食事の注文を開始する。



「ハムエッグ定食を2人前と親子丼、それからキツネうどん油揚げマシマシに、焼き魚定食」


「はいよ~、桜ちゃんは本当によく食べるね~」


 食堂のオバちゃんがにこやかに応対してくれる。桜の大量注文は毎度のことなので、一品二品増えたところで何とも思われないのであった。



「ポチは自分でキツネうどんを受け取るんですよ」


「主殿、ご相伴にあずかりまする」


「タマはハムエッグ定食でいいですか?」


「何でもよいのじゃ。主殿、食後の大福をどうか忘れぬよう」


「食べ終わったら売店で買ってあげます。ポチの稲荷寿司も一緒に買いますからね」


「これはますます忝く存じまする」


 トレーに乗った料理を受け取ると、主従はいつも自分たちが座る場所へと向かう。そこではすでに、明日香ちゃんたちが一足お先に朝食を食べている。 



「これは面妖なり! 明日香が白飯の朝餉を食しておるのじゃ。今朝はデザートは召さぬのかえ?」


「タマさん、朝から甘いものを食べていたら、いくら何でも太るじゃないですか~」


「人間は不便なものなのじゃ。妾はこの後主殿から大福をいただけるのじゃ」


「タマさんは、今日も朝から快調に飛ばしていますねぇ~。いくら食べても太らないのはとっても羨ましいですよ~」


「それよりも明日香よ、本日の甘味のお勧めはなんじゃ?」


「今日は木曜日ですから、スペシャルパフェの日ですよ~。お昼になったら一緒に食べましょう」


「楽しみなのじゃ~」


 玉藻の前は今にもヨダレを垂らしそうな表情を浮かべている。本当に日本3大妖怪なのか、こんな調子では大いに疑問が残るぞ。これほどだらしない姿をしていたら、生徒たちがさして気にしなくなるのは当然だろう。ただし怪しさだけは満点であるが…


 それにしても、デザート友の会の結束は固いようだ。玉藻の前もすっかり明日香ちゃんやクルトワと打ち解けており、こうして日々の甘い物に関する情報交換を欠かさないのであった。







   ◇◇◇◇◇








 魔法学院で過ごす日々はあっという間に過ぎていく。桜が学科の授業に出ている間は天狐たちはグランドの隅の木陰でグースカ寝て過ごし、実技の授業では桜のアシスタントとしてEクラスの生徒の鍛錬に手を貸していた。妖術を自在に操ることが可能なので、狐火を飛ばして頼朝たちが避けたり剣で切り裂く練習にはうってつけであった。彼らの魔法防御力アップに大いに貢献してくれている。


 そしていよいよ、再び異世界に出発する日となった。前日には桜が伊勢原駐屯地に赴いて異世界に運び込む物資をアイテムボックスに収納しているので、あとは人員がダンジョン経由で移動すればいいだけとなっている。



「はぁ~… 学院で普通に過ごした日々はあっという間におしまいですか~」


「明日香ちゃん、自衛隊からお手当をもらっている以上は、任務には逆らえませんよ」


 ため息をつく明日香ちゃん、だがそのため息の理由は、異世界に赴くのが面倒というだけではなかった。せっかく仲良くなったデザート友の会のクルトワと、これでお別れだと思うとどうしようもない淋しさに心が沈んでくるのだ。もちろんこれは明日香ちゃんが心の中に仕舞っている本音であって、誰にも打ち明けてはいない。


 ちょうどそこにクルトワがやってくる。今回はいよいよ魔王城への凱旋が目前ということで、レイフェンとフィリップを供に連れている。その表情は、やや緊張気味だ。何しろ無事に魔王城に入れるという保証はどこにもない。下手をすると自分の存在が原因で魔族が二つに分かれて戦争にまで発展する可能性すら秘めている。


 そのような事情で今から体がコチコチになっているクルトワに、桜が声をかける。



「クルトワさん、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。今回はアライン砦にいる魔族たちにクルトワさんが顔見世をするのが目的で、魔王城に向かうのはもうちょっと先になりますから」


「桜ちゃん、ありがとうございます。おかげでちょっと気持ちが楽になりました」


 クルトワはややぎこちない微笑みを返してくる。やはり心のどこかに一抹の不安が残っているのであろう。そこにフィリップからの力強い励ましが寄せられる。



「殿下、どうか心配なさらずとも大丈夫です。殿下は全ての魔族に慕われております」


「フィリップ、ありがとうございます。ここから先はフィリップとレイフェンを大いに頼りにしています」


 魔王の娘にしては相応しくないかもしれない明日香ちゃんと瓜二つのホンワカした性格のクルトワ、そんな彼女の性格が臣下たちの保護欲を掻き立てるのか、その人気は絶大であった。頼りさなが逆にいい具合に働いているのだろう。


 いまだ表情が硬いクルトワに、今度はフィリップに続いてレイフェンが口を開く。



「姫様、大魔王様もご一緒ですから、どうかご安心を。全ては大魔王様がうまく取り計らってくださるに違いありません」


「そうでしたね。お姿をしばらく目にしていないせいで、ついつい忘れておりました。大魔王様がいらっしゃれば、全ては解決したも同然ですね」


 これクルトワ、魔族にとって神にも等しい美鈴の存在を忘れるんじゃない! こんなウッカリしているところが、明日香ちゃんとそっくりと指摘されてしまう理由だぞ。


 ともあれクルトワたち三人は、ワゴン車に乗り込んでいく。もう1台には桜とペットたちに明日香ちゃんとカレンが乗って、魔法学院を出発するのであった。







   ◇◇◇◇◇







 秩父ダンジョンを経由して再び異世界へと渡った桜たち、クルトワにとっては久方ぶりの自分が生まれた世界であった。



「日本とはずいぶん空気が違います。こうして比べてみると、この世界のほうが空気が澄んでいるんですね」


「日本は車や工場がいっぱいありますからねぇ~。排気ガスなんかで空気が悪いんですよ」


 しょっちゅう日本と異世界を行き来してる桜にとっては当たり前でも、久しぶりのクルトワにとっては驚きだったようだ。本当なら空気中の魔素が日本よりも濃い点に真っ先に気付いてもらいたいが、魔法スキルがないクルトワにとっては感じ取りにくかったのかもしれない。そんなクルトワにレイフェンが提案する。



「私めが砦に先触れをしてまいりましょう。姫様のご到着を伝えてまする」


「レイフェン、手間を掛けますが、どうかお願いします」


 ダンジョンを出てしばらく進んで砦を遠巻きに見る場所に一行は一旦待機して、レイフェン一人が歩いていく。10分も歩くと、砦の門番をしている魔族の警備隊の目前に彼は到着した。



「クルトワ殿下のお越しだ。責任者に伝えよ」


「もしやマンスール閣下でいらっしゃいますか?」


「そうだ。殿下をアライン砦にお連れしてまいった。火急に出迎えの用意をいたせ。殿下をお待たせするではないぞ」


「大至急元帥閣下にお伝えいたします」


 一人の門番が血相を変えて奥に駆け出していく。レイフェンはその姿を見送りながら、しばらくその場で待っている。すると、砦の建物の内部から数人の人影がこちらに向かってくる様子が目に映る。その人影の主はもちろんエリザベス大公であった。彼女は足早にレイフェンに駆け寄ると、真剣な表情で話し掛けてくる。



「マンスールよ、久しいな。無事に生きておったか」


「3回ほど死にましたが、こうして生きておりまする」


「して、クルトワ殿下は何処にあられる?」


「あちらでお待ちいただいております」


 レイフェンが指をさす方向には、確かに数人の人影が寄り集まっている。その姿を確認した元帥の動きは迅速であった。



「兵共全員を広場に整列させろ。殿下のお越しを余さず告知して、恙無く出迎えの準備をいたせ。それから一人は、大魔王様の元に知らせよ」


「かしこまりました」


 エリザベス元帥直属の幹部たちが慌てて散っていく。3千人以上にも及ぶ部隊全員を広場に集めて整列させなければならないのだから、これは一仕事であった。何しろ時間が掛かれば掛かる程殿下を待たせなければならないため、幹部たちは血相を変えて砦の各所に伝令を送っている。


 その間、エリザベス元帥はレイフェンと連れ立ってクルトワの元へと向かう。



「クルトワ殿下、お久しぶりにございます」


「エリザベート元帥、元気そうで何よりです」


「殿下、ただいま私めは、大魔王様よりエリザベス大公の名をいただいておりまする」


「そうでしたか。美鈴様から賜った名前は中々素敵な響きですね。それでは改めてエリザベス大公、どうかよろしくお願いします」


「殿下の御身を責任もって魔王城まで送り届けまする」


 このような挨拶が終わると、元帥の先導で一行はアライン砦へと向かう。すでに広場では部隊ごとに隊列を整えており、今か今かとクルトワの到着を待っていた。


 クルトワの一行が砦の門を潜ると、兵士たちの前に立つ幹部がキリッとした声で命じる。



「クルトワ殿下に礼!」


 3千人にも及ぶ魔族の兵たちが、背筋を伸ばして一斉に右コブシを胸に当てる忠誠の姿勢をとっている。ことにクルトワを見たことなどなかった下級兵士たちは、その本人がこうして目の前を歩く姿に感激でいっぱいの表情であった。中には「クルトワの親衛隊になる」と聞かされていても懐疑的な兵士もいたのだが、こうして眼前にあるその可憐な姿を見て間違いなく全員が心の底からの忠誠を誓っている。



 エリザベート元帥が先導する一行は、直後にクルトワとレイフェンたちが続き、やや離れて桜たちが歩く。集団が整列する兵員の正面にやってくると、足を止めて目を煌めかせてこちらを見ている兵士たちに向き直る。そこにエリザベート元帥のよく通る声が響く。



「兵士たちよ、いよいよ魔王城に凱旋する日がやってまいった。このアライン砦にクルトワ殿下をお迎えする栄誉にあずかり、只今から全軍は殿下の親衛隊となる。どのような苦難があろうとも、最後までクルトワ殿下を守り通せ。皆の者、クルトワ殿下に忠誠の歓呼を挙げよ!」


「「「「「「「「「「ウラァァァァァ!」」」」」」」」」」


 三千人にも及ぶ一糸乱れぬ声が砦の内部に響き渡り、魔族の兵たちは上から下までどのような階級にも関係なく声の限りに叫んでいる。そしていつまでも鳴りやまない忠誠の叫び声は、いつしかクルトワへの称賛に変わってゆく。



「クルトワ殿下に永遠の忠誠を!」


「殿下に栄光あれ!」


「クルトワ殿下、万歳!」


 様々な声に溢れた砦の内部、魔族たちは自衛隊による手痛い敗戦で自らの力を疑い自信を失っていた。そこにクルトワが姿を現したものだから、全員が心の拠り所を取り戻したかのような晴れやかな表情をしている。このような歓喜に満ち溢れた表情は、先日の敗北以降、終ぞ下々の兵士たちには見られなかった態度であった。


 やがて留まる所を知らぬ勢いの歓呼に対してエリザベート元帥が両手で静まるように制すると、その音はピタリと止む。彼らが待ち望んでいるのは、もちろんクルトワの生の言葉であった。その声を一言でも聞きたいがために、あれだけ熱狂的な歓声を上げていた兵士たちは、その口を固く結んで待っている。



「クルトワ殿下、兵士にどうか一言お言葉を」


「えっ、私が何か喋るのですか… ちょっと待ってください、まだ心の準備ができていません」


 魔王城で過ごしていた頃はまだ幼いと判断されて、あまり大勢の目に触れる機会が少なかったクルトワは、三千人の兵士を目前にして何を喋ればいいのかと完全に目を泳がせている。不安な表情でレイフェンやフィリップを頼ろうとするが、彼らはこれも良い経験だとばかりに何もアドバイスする気はないようだ。オロオロし始めるクルトワ、だがそこに颯爽と救いの神が登場する。



「クルトワさん、こういう時にはたった一言でいいんですよ。ゴニョゴニョゴニョ」


 桜がクルトワの耳元で何か囁いている。そしてクルトワは桜に向かって大きく頷くと、一歩前に出て胸いっぱいに息を吸い込んで、一番大きな声を張り上げる。



「我に従え! ナズディア王国の新たな道を切り開くのだ」


「ウラァァァァァ!」


 再び兵士たちの熱狂的な声が上がった。たったこれだけの短い言葉で、クルトワは兵士たちに受け入れられたようだ。



「さ、桜ちゃん… なんだか全員がすごい声で叫んでいますが、本当に大丈夫でしょうか?」


「問題ありません。どうやら魔族たちも基本的に脳筋が多いようですから、クルトワさんは絶対に支持されますよ」


 こうしていつまでも響く歓呼の声と、桜のドヤ顔だけが広場に残されるのであった。

魔族の軍勢三千人を引き連れて、いよいよクルトワが魔王城に向かいます。でもその前に…… この続きは2、3日後に投稿いたします。どうぞお楽しみに!


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