02
ち、違うんだ、こんなに遅れたのもふろむそふとうぇあってやつのせいなんだ!!ダクソ2の白霊やるのが楽しすぎただけなんだ……だから、だから俺は悪くねぇっ!(迫真)
いや、冗談抜きでスマン。
ダクソ2を抜きにしても新生活中は…ね?
――第3節 魔力の適性について――
第2節においては、魔力の容量と才能の関係について述べた。 しかしそれらが比例しているのは『基本的』であるというだけで、例外がないわけではない。 時に、ある属性の魔術が正しく使えないというものもいる。 これは『魔力特性』と呼ばれており、本人の魔力の性質によって決定される。 大抵の人間は純粋な魔力を持っている。 しかしこの魔力特性のある魔力を持つ人間は、魔術行使にその特性の影響を受ける。 時には悪性の性質を持つ者もおり、使用魔術に何らかの悪影響がある人間もいる。 しかし、この魔力特性を持つ人間が他の純粋な魔力を持つ人間に劣るかと言えば、それは大きな間違いである。 魔力特性の持ち主は、その特性を利用し多大な恩恵を受けるのだ。 威力の増大はもちろんのこと、魔力消費の低下や常人には成し得ぬ応用を行えることもある。 なお、如何な特性を持っていようと無属性魔術は使用可能である。
特性の有無についての診断法は既に確立されており……
「ふむ……」
そう一言呟いて、少し古みがかかった本を捲る。 今見ているのは基礎魔術論理、という前世でいう国語辞典並の分厚さの本だ。 学園の指定教本にされるだけあってわかりやすい記載がされている。 真剣に読み直してみれば、なるほどと思えるような事柄がいくつもあった。
記憶を取り戻す前のアンジェリカ……いや、記憶を取り戻す前が自分であると認めたくないので、ここは子豚と訳そう。 子豚は学問が嫌いな性質であったらしく、この教本も有用であるというのに授業で流し読みした程度であった。 故にこそ、才能のない魔術を用いようとして失敗していたようだ。
この子豚が豚体系になった理由の一つには、両親の才能に比べて自分の才能がなさすぎるという劣等感からくるストレスがある。 ようするに、ストレスからくる過食症というやつだろう。 まあ過食症といってもあの太り具合は些か尋常ではなかったが。
「お嬢様、本日のご予定は?」
そう聞いてくるのはメイドのサーシャだ。 最近は行動の改善もあって、比較的良い信頼関係を築けていると思う。 私は良い主人であろうと心がけているいるし、彼女もメイドの本分を大きく超えるようなことはしない。 それでも、日常的な会話だけでも彼女の態度が軟化したことがよくわかる。 少なくとも、他のメイドよりずっと親しいのは確かであると思えるくらいには。
「そうだな。 読書はきりのいいところで終わらせて、後は魔術の訓練だ」
「食前の運動はどうなさいますか?」
「無論、するさ。 ただ、時間を忘れて訓練しているかもしれん。 昼食の準備が始まったら呼びかけてほしい」
「はい、かしこまりました。 お嬢様、あまり御無理はなさらぬように」
「ん、わかっている」
下がっていくサーシャを後目に、教本の続きを読んでいく。 しかし、魔術の法則などは解き明かされているようだが、肝心の魔術行使についてはどの項目を読んでもイメージが大事であるとしか記載されていない。 要するに、『考えるな、感じろ』ということだろうか。
だが、前回の訓練では魔術が暴発してしまっている。 いや、正確に言うなら反転だろうか。 指定した方向に発動する魔術が自分に降りかかるのだ。 水の魔術は自分を水浸しにしたし、風は扇風機代わりになるある意味便利な結果となってしまった。 土は試していないし、火は一度使用しただけでそれ以降は使っていない……というのもこれを暴発させてしまうと、土なら最悪『*いしのなかにいる*』なんて状態になるかもしれないし、火なんてものは火炙りになる可能性とてある。 というよりむしろなりかけた。 咄嗟に防御魔術であるレジストを発動させていなければ火傷を負っていただろう。
この通り魔術が致命的な状態である自分であるが、身体強化などの発動方向を指定する必要がないものは特に問題なく使えた。 さらに、魔術をレジストで受け止めたとき、魔術そのものを反射する特性があることもわかった。 むしろ魔術が反転するのはこの特性のせいではないかと仮説を立てている。 教本上の先ほどの記述で仮説が確信にかなり近づいた。
さて、ここで話は変わるが攻撃系の魔術は大体が放出系のものだ。 自分の体の一部――大体の人間は手の平――に魔力を貯め、属性を変換し、発動方向を指定し放出する。 これが一連の発動段階だ。これとは別に範囲指定の魔術もあるが、それは割愛しておく。 ともかく、攻撃魔法の殆どが自爆技になるこの体質のせいで、魔法を主流においた戦いというものができないのが私だ。
では、そんな私が魔術の何を訓練するのか。 レジストの反射を利用した魔術の発動?いいや、違う。 そんな訓練は効率的ではないし、魔術の発動に防御魔法で反射するという無駄なステップを踏んでいるため純粋な魔術師に大きく劣ることになる。 ならば特殊な性質を持ったレジストの訓練か? それも違う。 いつか必要だろうが今ではない。 答えは……魔力総量の底上げだ。
魔力が最も伸びるの時期がいつであるかは、決まって幼年期・青年期であるとされている。 その理由は未だ解明されていないが、体の成長に伴い魔力を生成する器官が急成長する、というのが定説のようだ。 この成長期に魔力を多く使えば使うほど、それに見合った魔力総量を得ることができるのだ。
しかし、幼年期・青年期の魔術行使には痛みが伴う。 それは魔力生成を司る器官が未発達であるからとされているが、これも明らかにはされていない。 ただ、激しい痛みであればあるほど、魔力総量が多くなっていくことが確認されているらしい。 ちなみに、この事実が明らかになった後の一時期、自分の子供を優秀にするために魔術行使を無理やり行わせるという事案が多発した。 その結果、あまりの痛みに子供が自ら命を絶った・発狂して二度と元に戻らなかったという事件が次々に発生。 それ以降親が子に魔術訓練を強要することは禁じられた。
魔力生成器官の成長時期は人によって違うらしいが、少し前までの私はピークだと思われる。 証拠にほんの少しの魔術行使で体中に激痛が走ったからだ。 加えて体の発熱、間接痛とくれば前世におけるインフルエンザをも超える体調不良状態となる。 そんな苦しみも、自分の成長を思うなら耐えられるというものである。
しかし、最近はそこまで大きい負担はかからなくなってきている。 精々が風邪に全身打撲を足した程度のものだろうか。 まあ、精々などと言っても辛いことに変わりはないが。
「すぅ……ふぅ……」
軽く息を吸って、吐く。 頭の天辺から足の指先まで、奔流のように激しく魔力を纏わせていく。 魔力操作だけでは魔力は成長しない。 魔術を行使し、魔力を『消費』することによる負荷によって成長が促がされる。 訓練初期の頃は魔力を使い果たせばそれで終わっていたが、今は使えど使えど底を見せることがない。 故に、少しでも多くの魔力を使うことを目標にする。
「身体強化」
体中に湧き上がる力と全能感、それと相対するような痛みと熱。 それに耐えながら、さらに同じ魔術を重ね掛けしていく―――
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―――お嬢様、お時間です。
「……ん、わかった。 少し待ってくれ」
魔術の行使とその痛みに耐えることに集中していた意識が、サーシャの一言で戻ってくる。 目を開いた先にいるのは、心底不安そうな顔をしたサーシャ。 魔術訓練の後はいつもこのような顔をしている。 自惚れかもしれないが、心配してくれているのだろう。
「運動着の用意は?」
「はい、ここに」
そう言った後、間髪を入れずに服を着せかえてくれる。 本来は命令なく着替えを手伝うなど常識外れにもほどがあるのだが、私はそんなことは気にしない。 彼女にもそれを伝えているし、『私』が始まってから半年が経つ頃にはこれくらいのことは当たり前になっていた。 こんな簡単な着衣は手伝ってもらうのも気が引けるくらいなのだが。 「メイドとしてこれくらいはしないとタダ働き同然です、させてください」と言われると流石に断れない。 ただ……
「お嬢様、服を新調したのですが、着心地はいかがでしょうか」
「動きやすくて良い服だ。 それより、また新しくしたのか? 使い回しでも問題ないと……」
「いえ!厚かましいかもしれませんが、お嬢様は常に新しい服を着衣すべきです。 こんなにもお美しいのですから」
「そ、そうか。 ありがとうサーシャ。 それと、少し息が荒いようだが大丈夫か?」
「そうでしょうか、そんなことはないと思うのですが……」
着替えを無駄に新しくしたり、やけに肌を触ろうとしたり、最終的には鼻息が荒くなっているような気がするのは、私だけだろうか。 意識しなければわからない程度であるが、呼気吸気ともに強めになっている……気がする。
「では、行こうか」
「はい、かしこまりました。 お供致します。」
書斎から出て、中庭のほうへと歩を進める。 幾つかある客室を超えたところで、階段が見えた。 ふと、そちらの方へ目を向ける。若干の木洩れ日が差し込む屈折階段。
私が前世の記憶を取り戻した場所。 「私」の出発点であり、かと言ってここを神聖視する程の感慨は湧いてこない、そんな場所。 それでも、この家のどこよりも自分にとって特別なのは確かだろう。
「お嬢様、どうかなさいましたか?」
サーシャが問いかけてくるが、流石に馬鹿正直に答えるわけにはいかない。
「私が頭を打ったのも、ここだと思ってな」
ここで頭を打たなければ、今の私はなかっただろう。 きっと、今頃は学校に行ってふんぞり返っている筈だった。自分の愚かさにも気付かず、猿にも劣る知性で罪のない人々に害を与える。 自虐的かもしれないが、ここで頭を打って本当に良かったと心から思う。
「さて、時間の浪費は罪だ。 行くぞ、サーシャ」
「……はい」
4ヶ月後に、ロムフェロー学園への復学が決まっているのだ。 その時までに、今以上の実力を付けなければならない。 問題児として名を連ねていた以上、今までの悪評を払拭するほどの力と公正さを掲げる必要があるのだから。
メイドの本分を大きく超えるようなことはしない(超えないとは言ってない)