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字数が少なくないか心配(*´ω`*)

 『学園』とは……小国と大国が入り乱れるリサルティア大陸において、平民・貴族問わずに教育を行う総合教育機関のこと。 平等を謳い、すべての人間に知識を与えると豪語している。 が、昨今は貴族による平民への差別や、更に大きなものでは異種差別。 様々な問題が浮き上がっており、設立当時の理念は形骸化を辿る一方である。


 これが私の知るロムフェロー学園の情報だ。 ほんの数日前まで通っていた学園だが、現時点において学べることはあまりない。 算術は学びなおすほど高度なものを教えているわけではないし、語学もそこまで出来ないわけではない。 学校の問題児であったことを考えると、教師陣が真面目に指導してくれるかもわからない。 真剣に指導しろ、などと厚顔無恥に振舞うのも心苦しい。


 幸い、我が家は権威ある侯爵家だ。 何部屋にも分けるほど本が保管されているし、家臣団もいる。 知識は本を読めば得られるし、実践的なことは家臣団に付き合ってもらえば身に付くだろう。 それ以前の問題としてこの肥りきった醜悪な体系を普通にまで戻すことが先決だ。 そのためにも無駄な時間の多い学園には通えない。 幸い学園に年齢制限はない。 それこそ冒険者になるためにカリキュラムを取りに来る壮年の男性だっている。


 学園の卒業は、この剣と魔法が主流の世界におけるある種の箔付けでしかない。 いつかは必要であろうが、それは今でなくとも構わないというのが私の私見だ。 それ以上に、この醜悪な体を不特定多数の他者に見られることが屈辱的だ。 今はハリボテでしかないプライドであるが、こればかりは譲れない。


とはいったものの、休学には親の同意がいる。まずは話を通さねばなるまい。


 そこまで考えたところで部屋にメイドが入ってきた。 名前はサーシャで、ついこの前私のお付きになったメイドである。 ……因みに、前任のメイドは私の我儘ぶりに辟易して辞職したらしい。 全くもって申し訳ない。


「お、お嬢様……気が付かれたのですか?」


 と声をかけてくるサーシャ。 あまりの憤怒に頭に血が上って気絶していたのだったか。 起き上がったのは数時間前だが、自分の現状を整理したり姿見を見て愕然としたり忙しかったので家臣に伝えてはいなかった。 気を利かせて今しがた起きた、と言おうとしたが……どういった口調で言うべきか迷ってしまう。 気色の悪いお嬢様の出来そこないのような喋り方は、正直もう使いたくない。 そうやって迷っていると、サーシャが顔を青くして謝りだした。


「も、申し訳ございませんお嬢様! 御呼びかけもせずに部屋に入ってしまって……」


「いや、構わん。一週間も寝込んだ上に、立て続けに倒れていれば起きていないと思うのも詮方ないことだ」


 思わず即答すると、サーシャはその目を白黒させた。 罵倒されるとでも思っていたのだろう。 事実、アンジェリカ・フォン・アルセシュタインという人間は、何かあれば子犬のようにキャンキャン吠える喧しい人種であった。 それが起き抜けにいきなり殊勝な言葉を吐いているのだ。 驚きもするだろう。


「サーシャ、父上と母上はどこに?」


「は、はい。 今はちょうど朝食の時間で、ラスター様もマレーネ様も食堂におられます。」


 両親がいるのは食堂か、2人ともいるなら話が早い。 座っていた椅子から立ち上がって扉の前まで歩く。 サーシャの目の前まできたが、目を瞑って下を向いている。 やはりアンジェリカという人間は、奉公人である彼女にとっては恐怖の対象なのだろう。 ビクビクと震えているのが一目でわかる。


「……罰は特にない。 怖がらなくても何もしない」


 その一言に、彼女は何を感じたのか。 瞑っていた目を開けて、こちらをまじまじと見つめている。 その瞳は、純粋に私を心配しているように見えた。


「あの、お嬢様。 お加減はよろしいのですか?」


「サーシャ、お前のその質問は私の頭の傷についてか? それとも頭の中身についてか?」


 そう問うと、彼女はまたも顔を青くして答え始めた。


「いえ、そのような無礼なことは決して……」


「別に責めているわけではない。 どちらへの問いであろうと答えるつもりだったからな。 頭は特に異常はない。 頭痛がするわけでもないし、むしろ澄み切っている。 調子がいい、と言い換えても過言ではない」


 そこまで一息に言い終え、歩を進める。 食堂へと向かっていく私の斜め後ろを歩いてついてくるサーシャ。 話しかけてこないのは、それ以上は不躾であると思ったからか。 それとも機嫌を損ねたくないと思っただけなのか。 以降会話はなく、足音だけが廊下に響き渡った。 


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 食堂へ着いたアンジェリカは、両親からの心配の言葉受け取った。 が、挨拶もそこそこに学園を休学したい旨を伝えた。 無論、はいそうですかといくわけもない。


「本気で言っているのかい? アンジェ」


そう言ってラスター・フォン・アルセシュタインは困り顔をした。 彼はこのアルセシュタイン侯爵家の当主であり、目の前にいるアンジェリカの父親でもある。 娘を溺愛するラスターとて、貴族の間では卒業が基本となっている学園。 それを休学する、という娘の我儘には素直に頷けないでいた。


「アンジェ、我儘ばかり言ってはだめよ? それにどうしたの、その言葉遣いは。 あまり粗暴な物言いはだめだと、この前言ったでしょう? 」


 アンジェリカを諭すように声をかける彼女はマレーネ。アンジェリカの母親である。 優しい声ではあるが、それが自分の娘が母親を見縊る原因になっていたことに、彼女は気づいていなかった。


 そうした否定的な言葉に、アンジェリカは一切怯むことなく言い返す。


「父上、母上。 私はこの醜悪な容姿が、さも当然のように衆目に晒されるのがもう我慢なりません」


 その一言に、2人は驚愕した。 今まで自分の姿を美しいと言って憚らなかった(実際には酷い姿であるが)自分たちの娘が、己を醜悪と言い切ったのである。


 2人の驚愕をよそに、アンジェリカは続けて言い放つ。


「私は先日頭を打ったことで、目が覚めました。 自分が如何に恥知らずで愚かであるかを悟ったのです。同時にこの容姿がどれほど醜いかも理解しました。 今はこの肥えきった身体から無駄肉をそぎ落とすことに専念したいのです」


 いつもの様子とは全く違う娘の態度に、2人は困惑することしか出来なかった。 彼女はなし崩しに休学の話を通し、さっと朝食を食べて――いつもと比べて控えめな量であった――部屋へと戻っていってしまった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 それからの彼女の生活態度は一変する。 食事は一日三食まで、間食は一切せずに野菜を多めに食した。

 また、一日の殆どを運動と勉学に費やすようになる。 当初、家族や家臣は人が変わったように真面目になったアンジェを見て目を丸くしていたが、そういった日常が続けば慣れてしまうものだ。 半年以上続くそれは、最早アルセシュタイン家の日常風景となりつつあった。


 そして……


「―――――幾分、見れる顔にはなったか。 どう思う、サーシャ」


「はい。 とてもお美しいです、お嬢様」


「世辞は要らないのだがな。 まあ、いい」 


 9ヶ月の苦心の末、アンジェは肥えた体を絞ることに成功していた。 脂肪が溜まってむくんでいた顔は少女らしいみずみずしさを取り戻し、子を孕んだかのように肉付いていた腹はそれを感じさせないほどに細くなっている。


 そして何より、その美貌は筆舌に尽くし難いものであった。 母の容貌と父の凛々しさを併せ持ったその姿は、一目見れば十人中十二人が振り返るであろう。 しかし、そんな恵まれた容姿をもつ本人は―――


―――痩せたおかげでマシにはなったが、元の顔がこれではな。 なぜあの二人からこんな微妙な顔つきの人間が生まれてくるのだ。 ……全くもって解せん―――


 若干、いやかなりの障害を患っていた。 精神的なものが原因であり、自分の姿であると認識したものを根本的に醜いと感じてしまうものだ。 もとの美少女といえる姿と合わさって『微妙である』と感じるだけに留まっている。 無論、本人はそんな障害を持っていることには気付いていない。 故に、家族や家臣たちからの純粋な称賛を世辞として認識してしまうのだ。


 この障害の原因は、もしかしなくても前世を思い出した後に自分の姿を認識した際の精神的ショックからであった。 しかし当人以外には認識できない事柄であるため、この勘違いは長らく続くことになる。


 ……そして、この勘違いが何れ悲劇とも呼べぬ喜劇を生み出すことに、まだだれも気付いてはいなかった。

小ネタ?劇場


十人中十二人が振り返る……

十人十人が振り返り、内2人は二度見する。

つまり、計十二人が振り返っていることになる(謎理論)


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