二
○城北大学・正門前(回想)
季節は秋、城北大学の正門前。
正門付近には、「第二十回城北秋期祭」という学園祭の看板やポスターが、至る所に掲示されている。
学園祭が開催中である為、城北大学の学生だけでなく、様々な年代の人々が辺りを行き交っている。
その中の一人が、二人の友人と共に行動している、カジュアルな私服姿の明日実(17)。
明日実(M)「そして、高三の秋……受験する予定の城北大学の学園祭を、大学見学を兼ねて見物に行った時、僕は運命の出会いをした」
正門を通り、大学の敷地内に入って行く、明日実と友人達。
○同・キャンパス内(回想)
露店が建ち並ぶ通りは、人々でごった返している。
カラフルな沢山の、わたあめの袋を抱えたメイド服の今日子(18)が、明日実と友人達の前を通り過ぎる。
人混みの中で人に押され、スカートのポケットに挿してあった財布が落ちるが、気付かず歩き去る今日子。
今日子が向かう先には、「5」という数字が記されている校舎……五号棟。
明日実、財布に気付いて拾う。
明日実「届けて来る」
そう友人達に言い残し、今日子の後を追う明日実。
× × ×
賑わう通りから離れた、五号棟の裏。
ベンチやテーブルなどが常設してあり、学生達が食事をしたりしている、休憩所の様な場所。
テーブルの上に袋を並べ、ベンチに腰掛ける今日子。
五号棟の裏に姿を現し、辺りを見回して、今日子を探し出す明日実。
明日実「(嬉しそうに)あ、いたいた」
今日子に歩み寄る明日実。
明日実「あの……これ、落しましたよ」
財布を今日子に差し出す、明日実。
今日子「(驚いて)え、財布?」
今日子、立ち上がってポケットを確認、財布が無いのに気付く。
今日子「(嬉しそうに)あ……有難う! わざわざ追い駆けて、届けてくれたんだ!」
頷く明日実。
財布を受け取って、中身を素早く確認してからポケットに戻すと、今日子はテーブルの上に並べた、わたあめの袋の一つを手に取り、明日実に手渡す。
今日子「これ、お礼……受け取って!」
わたあめの袋を受け取る明日実。アニメキャラのイラストと「わたあめ」というロゴが、プリントしてある柔らかな袋。
明日実、テーブルの上に並ぶ、大量のわたあめの袋に目をやる。
明日実「友達の分とかを、まとめ買いしてるんだったら、僕が貰っちゃまずいんじゃないの?」
今日子「大丈夫、別に友達のとかじゃなくて、全部あたしが食べようと思って、買った奴だから」
明日実「(驚いて)これ……全部一人で食べる気?」
今日子「(頷いて)好きなのよ、わたあめ」
今日子、わたあめの袋を手に取り、開封する。
明日実「(呆れて)いや、幾ら好きでも、程度ってものがあるでしょ、流石に。こんなに食べたら、太るんじゃない?」
今日子「(拗ねて)女の子が甘い物食べる時に、太るとか言う男の子は、モテないよ」
明日実「――別にいいけど、もてなくても。どうせ暫くは、受験勉強ばっかだし」
明日実、わたあめの袋を開封する。
今日子「受験生なんだ。でも、受験勉強ばっかの割りには、うちの大学の学園祭に、遊びに来る余裕はあるんだね」
明日実「遊びに来たんじゃなくて、見学に来たんだ。来年、ここ受験する予定だから」
今日子「そうなの。じゃあ、後輩になるかもしれないんだね」
袋から取り出した棒付きのわたあめに、齧り付く今日子。
明日実「まぁ、受かればだけど」
明日実も、わたあめに齧り付く。
そんな明日実を見ていた今日子、何かに気付いたかの様な表情を浮かべる。そして、じっと明日実の顔を見詰める。
明日実「(訝しげに)何?」
今日子「(慌てて)あ、いや……良く見たら君の顔、知ってる人に似てるなと思って」
明日実「知ってる人って?」
今日子「あたしの爺ちゃん」
噴き出す明日実。
明日実「(不愉快そうに)爺ちゃんって、高校生を年寄りに似てるとか、酷いな」
今日子「君が老けてるって意味で言ったんじゃなくて、何となく顔立ちが似てるって意味だったんだけど。君……老けてるどころか、どちらかといえば童顔だし」
今日子、気まずそうに弁解を続ける。
今日子「悪気は無いんだ、気に障ったのなら謝るよ」
明日実「別に、謝る程の事でも無いけど……」
明日実、わたあめを齧る。
× × ×
わたあめを食べつつ、談笑を続ける二人。
× × ×
何時の間にか、わたあめの袋は全て空。
今日子「(幸せそうに)あー美味しかった!」
明日実「(呆れ顔で)あれだけの量のわたあめを、ホントに全部、一人で食べ尽くすとは……」
今日子「だから言ったでしょ、全部一人で食べるんだって」
メールの着信音が鳴る。鳴ったのは今日子の携帯電話。
今日子、携帯電話のメールを確認する。
今日子「(残念そうに)呼び出しだわ。そろそろ行かないと」
明日実「呼び出しって、彼氏とか?」
今日子「(笑いながら)いないよ、そんなの。文芸部の連中からの呼び出し。あたしが入ってる文芸部、学園祭で喫茶店やってるんだけど、あたしの休憩時間が、そろそろ終わりになるから、喫茶店の方に戻って来いだって」
今日子、立ち上がる。
今日子「君のお陰で、楽しい休憩時間を過ごせたよ。(はにかんで)初対面の男の子と、こんなに楽しく話せたのって、初めて」
明日実も、立ち上がる。
明日実「(照れて)それは、僕も……」
見詰め合う二人、流れる微妙な空気。
その空気を破るかの様に、明日実の携帯電話、メールの着信音を響かせる。
今日子「(悪戯っぽく)彼女から?」
明日実「いないよ、そんなの」
明日実、素早くメールの件名を確認。
明日実「一緒に学園祭見学に来た友達。講堂の前で待ってるから、早く来いって」
今日子「(残念そうに)そっか、じゃあ……これでお別れかな」
明日実「そうだね」
また、見詰め合う二人。沈黙が流れる。
明日実(M)「出会ったばかりの筈なのに、不思議なくらいに気が合い、話が弾んだ僕達は、あの時……このまま離れ難い気分になっていたのだ」
今日子「(不満そうに)こういう時に、『そうだね』なんて言う、せっかくの出会いを生かせないタイプだから、君……彼女いないんじゃないの?」
明日実「(照れた様に)じゃあ、何て言えばいいのさ?」
今日子「(照れた様に)それは、その……あたしも君も、ケータイを手にしている訳だから、メアドやら番号やら交換しようとか、そんな感じの事」
明日実「(恥ずかしそうに)じゃあ、メアドと番号、交換する?」
恥ずかしげに頷く、今日子。明日実と今日子、恥ずかしげに携帯電話を操作し、赤外線通信でメールアドレスと番号を交換する。
互いの携帯電話のモニターに、互いの名前やメールアドレスなどが表示される。
明日実の携帯電話のモニターに、「佐野今日子」という名と、メールアドレスなどが表示されている。
明日実(M)「今日子という名は、珍しくは無い。だから、その時の僕は……何も気付きはしなかった……今日子とは違って」
今日子の携帯電話のモニターに、「御蔵明日実」という名前などが、表示されている。
モニターに表示された名を見て、驚きの表情を浮かべている、今日子。
今日子「(戸惑いつつ)明日実君って、何処住んでるの?」
明日実「紫藍町だけど……」
今日子、やっぱり……と言わんばかりの、何かに確信を得た表情。
明日実「(訝しげに)それが、どうかした?」
今日子「(少し慌てて誤魔化す様に)あ、いや……ウチから近い所に住んでるなら、また会って話せるかなーと思って」
明日実「今日子さんは、何処に?」
今日子「ここの近くのマンションで、一人暮らし。父さんが投資目的で買ったけど、借り手がいないマンションが城北大学の近くにあったんで、有り難い事に家賃タダでね」
直後、再びメールの着信音が鳴る。鳴ったのは今日子の携帯電話。
今日子、携帯電話のメールを確認する。
今日子「(残念そうに)また呼び出されちゃった。そろそろ行かないと」
名残惜しそうに踵を返しつつ、今日子は明日実に手を振る。
今日子「良かったら、三号棟二階の文芸喫茶に来て。この可愛いメイド服姿で、サービスしてあげるから!」
明日実「それ、文芸喫茶というより、メイド喫茶じゃないの?」
明日実も手を振り、去り行く今日子を見送る。
明日実(M)「こうして、僕と今日子は出会った。いや……正確には、再会したと言うべきなのだろうけど」
(F・O)
○明日実と今日子の交際イメージ(回想)
次第に親しくなっていく、明日実と今日子のイメージの連続。
明日実(M)「その後、僕は受験勉強の合間などに、今日子とメールを交わしたり、電話で話したりする様になり……」
それぞれの自室で、携帯電話で会話する明日実と今日子のイメージ。
明日実(M)「程無く、休日には勉強を教わるという名目で、実際に会って遊ぶ様になる程に、親しくなっていった」
ゲームセンターやカラオケで遊んだり、ファーストフードで食事したりする、楽しげな明日実と今日子のイメージ。
明日実(M)「出会った時に感じた離れ難さが、正しかった事を証明するかの様に、恋愛方面に関しては、共に奥手であった僕と今日子の仲は、深まり続けたのだ」
○城北大学・講堂前(回想)
古びた講堂の前には、桜並木。
季節は春、咲き誇る桜並木が風に吹かれ、桃色の花弁が散る。
講堂の前の掲示板に、「合格者発表」と書かれた紙が、掲示されている。
掲示板の前、多数の受験生達が集まっている。その中の一人が、明日実(18)。
紙を凝視し、自分の番号を探していた明日実の顔が、ぱあっと明るくなる。
喜びの表情を浮かべつつ、人混みを掻き分け、桜の木の前で待っていた今日子(19)の元に、駆け付ける明日実。
喜びの余り、思わず今日子に抱き付いてしまう明日実。
今日子、少し驚きつつも、嫌がりはせずに、明日実を抱き締める。
今日子「(照れて)合格、おめでとう」
明日実「(照れて)あ……ごめん、つい……嬉しくて」
抱き付いてしまった事に今更気付き、今日子の体から、手を離す明日実。
今日子「いいよ、別に……離さなくても」
今日子は、明日実を抱き締めたまま。
照れながら頷き、再び今日子を抱き締める明日実。
騒がしい合格発表の場で、慣れぬ感じに抱き締め合う、初心な二人。
風に舞う、桜の花弁。
明日実(M)「そして、城北大学に合格した日、僕と今日子は正式に交際を始めた。友達から恋人に、僕達の関係は深まったのだ」
桜の花弁舞い散る中、幸せそうに互いを抱き締め合う、明日実と今日子。
(F・O)
○城北大学・キャンパス(回想)
春のキャンパス内、至る所にサークルや部がテーブルや立て看板を設置している、祭の様に賑やかな様相。
様々なサークルや部が、新入生の勧誘活動を行っている。
今日子に手を引かれ、賑やかなキャンパス内を歩く明日実。
今日子、「文芸部」という立て看板を出しているテーブルの所に、明日実を連れて行く。
出迎えた文芸部員の学生に、差し出された入部届けに、サインする明日実。
× × ×
五月ごろの、既に落ち着いた感じのキャンパス内。
あちらこちらに、集っている学生達。
そのグループの一つが、今日子や他の文芸部員の学生達と共に、楽しげにキャンパス内を歩く明日実達。
○メゾン城北・外観(回想)
古びたマンションの外観。「メゾン城北」と書かれたプレートが、雨に濡れている。
マンションの周囲の植え込みに植えられている、紫陽花の花も、雨に濡れている。
傘を差し、歩いて来る今日子。
わたあめなどの菓子が詰まったコンビニの袋を、今日子は手に提げている。
紫陽花越しに見える、マンション一階の部屋のドアの近くには、「御蔵明日実」と書かれた表札。
そのドアの前に辿り着くと、傘を畳んで呼び鈴を押す今日子。
ドアを開け、出迎える明日実。
○同・明日実の部屋(回想)
ワンルームマンションの、明日実の部屋。
テーブルの上に並べられた、コーヒーカップやお菓子。
楽しげに話している、明日実と今日子。
今日子の手には、わたあめ。
○海水浴場(回想)
夏の強い日差しに照らされた、田舎町の海水浴場。
水際で水をかけ合って遊ぶ、明日実と今日子。
× × ×
浜辺の、オールドスタイルな海の家。
壁にかけられた日めくり式カレンダーの日付は、八月七日。
桟敷席で向かい合わせに座り、カキ氷を食べている明日実と今日子。
勢い良くカキ氷を食べていた今日子、顔を顰めて、頭を抱え込む様にこめかみを押さえる。
そんな今日子の様子を見て、からかう様に笑う明日実。
不愉快そうに身を乗り出し、握り拳を明日実のこめかみに、グリグリと押し付ける今日子。
痛がり、顔を顰める明日実。
そんな明日実の目の前には、揺れる今日子の胸。
身を乗り出したせいで、今日子の胸が明日実の顔に近付いてしまったのだ。
つい、目線が揺れる胸に引き寄せられてしまう明日実、頬を赤らめる。
そんな明日実の目線と表情の変化に気付き、頬を染めつつ左手で胸を隠し、右手の指先で、明日実の額を小突く今日子。
○葵屋・外観(夜・回想)
星空の下、古びた民宿……葵屋の外観。
潮風に、木々の枝葉がざわめいている。
○同・昴の間(夜・回想)
明日実と今日子が宿泊している、和室。
和服姿の仲居が扉の前で、お辞儀。
浴衣姿で直立していた明日実と今日子、慌てた様子で仲居にお辞儀を返す。
扉を開け、部屋を出て行く仲居。
二人っきりになった明日実と今日子の目線が、部屋の中央に敷かれた布団に移る。
布団はフロア用のダブルが一組だけ、枕が二つ並んでいる。
躊躇いがちに、顔を見合わせる二人。
すぐ、目線を逸らす二人の頬は、赤い。
× × ×
照明が落ちている室内、窓から射し込む月明かりのせいで、真っ暗では無い。
布団の中には、行儀良く並んで、仰向けに寝転んでいる明日実と今日子。
二人共、目は開いたまま。
ちらりと、今日子の方を見る明日実。
今日子も、明日実の方を見ている。
少しの間、見詰め合う二人。
意を決した明日実、もぞもぞと布団の中で動き出し、布団を被ったまま、今日子に覆い被さる様に、四つん這いになる。
そのまま、明日実は意思を確認するかの様に、今日子と見詰め合う。
こくりと、はにかみながら頷く今日子。
明日実、一度……深く今日子と唇を重ねてから、浴衣に手をかける。
肌蹴る今日子の胸元、月明かりに照らされた、日に焼けた肌が、艶かしい。
× × ×
月明かりに照らされた室内。
情事の事後である為、布団は乱れている。
明日実と今日子の髪も、乱れている。
満足げに寝息を立てている、明日実。
明日実(M)「他の恋人達同様に、僕と今日子の関係も、巡る季節と共に深まり続けた。僕と今日子は、祖父が言っていたところの、好き合った上で、情を通じた男女同士になったのだ」
そんな明日実の隣で、明日実の寝顔を見詰めている今日子、何か思い煩っているかの様な、翳のある表情を浮かべている。
その思い煩いを振り払う様に、軽く頭を左右に振ってから、明日実に抱き付く様に身を寄せる今日子。
布団から出ている明日実の手に、今日子は手を伸ばして握り締め、目を瞑る。
月明かりの中、身を寄せ合って眠っている、明日実と今日子。
明日実(M)「幸せの最中にいた僕は、その頃……今日子が思い煩っていた事にすら、気付けずにいた」
(F・O)
○城北大学・正門前(回想)
季節は秋、城北大学の正門前。
正門付近には、「第二十一回城北秋期祭」という学園祭の看板やポスターが、至る所に掲示されている。
学園祭が開催中である為、城北大学の学生だけでなく、様々な年代の人々が、辺りを行き交っている。
○同・三号棟・文芸喫茶メイドと執事(回想)
教室が喫茶店に改装されている。
女子部員がメイド服、男子部員が執事服で客をもてなす、文芸喫茶とは名ばかりの喫茶店。
執事服の明日実はウェイター、メイド服の今日子はウェイトレスとして、他の部員達と共に、忙しなく働いている。
机で作られたカウンターの奥にいる、コック姿の御法川千鶴(21)が、明日実と今日子に声をかける。
千鶴「御蔵と佐野、交代の時間だよー!」
明日実と今日子、顔を見合わせ目配せ。
○同・キャンパス内(回想)
賑わっている、露店が並んでいる通り。
わたあめを売る露店の前に立っている、明日実と今日子。
カラフルなわたあめの袋を、両手一杯に持たされている明日実。
店員に金を支払う今日子、楽しそう。
× × ×
賑わう通りから離れた、五号棟の裏。
ベンチやテーブルなどが常設してあり、学生達が食事をしたりしている、休憩所の様な場所。
テーブルの上に広げられた、沢山のわたあめの袋。
ベンチに並んで座っている、明日実と今日子。
ポリ袋を開封し、わたあめに齧り付く、幸せそうな今日子。
隣に座る明日実も、わたあめを同様に食べ始める。
今日子「(感慨深げに)もう一年経つんだね、あたし達が出会ってから……」
わたあめを食べながら、頷く明日実。
吹き抜ける強い秋風に、舞い散る落ち葉。
秋風に身を震わせる、今日子。
明日実、今日子を抱き寄せる。
今日子、嬉しそうに頬を染める。
幸せそうな二人、わたあめを食べる合間に、軽く唇を重ねる。
今日子「ね、お祝いしようよ……出会ってから一周年記念の」
明日実「(頷いて)でも、バイト代入る前で、金欠なんだ……今」
今日子「ウチでやればいいじゃない。わたあめとか買ってさ」
明日実「普通、そこはケーキとかでしょ、わたあめじゃなくて」
今日子「ケーキも買うけど、わたあめ好きなんだもん」
明日実「(不思議そうに)何で、そんなにわたあめ好きなの?」
今日子、意味有り気な目で、明日実を見詰める。
今日子「――想い出の御菓子なんだ、子供の頃の」
そう答えると、幸せそうな顔で、わたあめを食べる今日子。




