Logfile_007:トラフィック解析と待ち伏せ
「お疲れ様です、三神です。……はい、本日のご案内は以上となります」
午前のピークタイムを乗り切り、あたしはヘッドセットを外して大きく背伸びをした。フロアの空気は少し落ち着き、何人かのオペレーターが昼休憩のために席を立ち始めている。
「ふぅー、今日の午前中は重めの案件多かったね。ミソラ、休憩行く?」
隣の席で、莉奈が青色のインナーカラーを揺らしながらポーチを手に取った。
「行く行く!もう糖分が足りない。自販機でカフェオレ買ってくる!」
「あたしも行く。今日はお弁当じゃなくてパンの気分だから」
後ろの席から栞も合流し、あたしたち三人は連れ立ってフロアの端にある休憩室へと向かった。
ーーー
「……対象ノード(三神ミソラ)の通信トラフィックがゼロになった。ステータスは『離席中』に変更されたな」
インフラチームのデスク。
御八代一也は、手元のサブモニターに表示されたコールセンターの稼働状況ログを睨みつけながら、低く呟いた。
「過去3日間の行動アルゴリズムから推測するに、彼女がこの時間帯に取る行動は『フロア奥の休憩室での飲料購入』である確率が87%……。よし、これより能動的な負荷テスト(待ち伏せ)に移行する」
ガタッ、とパイプ椅子を鳴らして立ち上がった御八代の腕を、三本木が慌てて掴んだ。
「おいやめろ一也!お前それ、ログの権限悪用したただのストーカーだからな!?通報されたら一発で懲戒だぞ!」
「馬鹿を言うな。俺は社内ネットワークのトラフィックを監視し、予見的なトラブルシューティングを行おうとしているだけだ。極めて論理的かつ健全なエンジニア業務の一環だ」
「どこがだ!単に好きな子が休憩行くタイミングを見計らって偶然を装おうとしてるだけの中学生だろ!」
同期の正論過ぎるツッコミを、「ノイズだ」と一蹴し、御八代はグレーのカーディガンを翻して歩き出した。
(三神ミソラ。この前は不意打ち(スーツ姿への賛辞)で俺のシステムがフリーズしたが、今回は違う。あらかじめ心のファイアウォールを構築した上で接触し、エラーの原因となるお前のパラメーターを特定してやる……!)
45歳の職人エンジニアは、壮大な勘違いとIT理論を胸に秘め、いざ、決戦の休憩室へと向かった。




