Logfile_005:プロトコルの適合
表彰式が終わり、ホールからの退出時。
あたしは混雑に紛れて、真っ直ぐにインフラチームの集まりへと向かった。このチャンス、逃すわけにはいかない!
「御八代さん!」
声をかけると、三本木課長と話していた御八代さんがこちらを振り返った。スーツ姿を至近距離で見ると、さらに破壊力が跳ね上がる。胸板の厚さがスーツの上からでもわかって、変な声が出そうになった。
「……三神さんか。先ほどは、表彰おめでとうございます」
「ありがとうございます!御八代さんも、インフラ部門の表彰おめでとうございます。……あの、スーツ姿、すごく新鮮ですね。すっごくかっこいいです!」
勇気を出して、直球で伝えてみる。しかし、御八代さんは誉め言葉には一切動じず、あたしのパンツスーツ姿を上から下までスッと一瞥した。
「そちらこそ。普段のノイズが多い服装とは違い、今日は非常に合理的な装いですね」
(ノ、ノイズが多い服装って……普段のあたしの服のこと!?)
相変わらずの無愛想な言い回しに少しムッとしそうになったが、御八代さんは黒縁メガネの奥の瞳で、あたしを真っ直ぐに射抜いた。
「それに」
低く、真剣な声音が響く。
「今年のあなたの対応ログ、少しだけ拝見しました。平均処理時間、顧客満足度、エスカレーションの正確性。……どれをとっても、完璧なプロトコルだ。トップを取るだけのことはある、見事な運用スキルでした」
「……っ」
顔が一気に熱くなった。外見だけじゃない。オジさん好きという変な趣味でもない。
あたしが一番誇りを持っている『仕事のスキル』を、誰よりも尊敬する職人のこの人に、客観的な事実として評価されたのだ。ただのデータの羅列。彼にとっては数値の確認に過ぎないのかもしれない。でも、その『見事だった』というたった一言が、あたしの胸の奥を激しく揺さぶった。
「……ありがとうございます。あたし、プロですから」
感極まりそうになるのを必死に堪え、とびきりの笑顔でそう返した。
すると御八代さんはなぜかハッとしたように目を瞬かせ、サッと口元を隠すように顔を背けた。
「……失礼。少し、会場が暑いな。僕は先に戻る」
早足に立ち去っていく広い背中。
(どうしよう……。あたし、もう完全に抜け出せないかも)
完璧なオペレーターと、鉄壁のインフラエンジニア。
交わるはずのない二つのプロトコルは、少しずつ、確実にお互いのシステムを書き換え始めていた。




