Logfile_004:例外的なドレスコード
年に一度の全社表彰式、当日。
各部署で優秀な成績を収めた社員が表彰される、社内の一大イベントだ。
「おー、ミソラ。今日はすっかり『完璧なプロ仕様』だね」
更衣室の鏡の前でリップを直していると、莉奈が感心したような声を上げた。
今日のあたしは、いつもの派手な巻紙をタイトなシニヨンにまとめ、バチバチのつけまつげも控えめに。服装も、ビシッとした黒のパンツスーツで決めている。
「当然っしょ。トップオペレーター賞をもらうんだから、見た目から『仕事できる女』オーラを出していかないと」
「普段からそれくらい落ち着いてればいいのにね。……でも、ミソラちゃんが真面目な格好すると、本当に隙がないというか、かっこいいよ」
隣で手を洗っていた栞が、ポニーテールを揺らしながら真面目なトーンで褒めてくれた。
「ありがと!よし、気合い入れていこっ!」
ーーー
大ホールの壇上。
スポットライトを浴びながら、あたしは社長から賞状とトロフィーを受け取り、深く一礼した。
『今年度、トップオペレーター賞。カスタマーサポート部、三神ミソラ」
フロアから大きな拍手が沸き起こる。
(よしっ、今年も無事に取れた……!)
誇らしい気持ちで壇上から降り、指定された席へと戻ろうとした時だった。あたしの視界の端に、信じられないものが飛び込んできた。
(……えっ!?御八代さん!?)
インフラ部門の表彰席。そこには、いつものボサボサ髪と季節感ゼロのグレーのカーディガン……ではなく、ダークネイビーのスーツをきっちりと着こなした御八代さんが座っていた。無精髭の跡が少し残る顎のライン。ネクタイを少し窮屈そうに緩める無骨な仕草。普段の気怠げな姿からは想像もつかない、大人の男の『本気のスーツ姿』。
(ヤッッッバ……!!なにあれ、破壊力高すぎでしょ……っ!!)
心臓がドクンッと大きく跳ね上がり、顔が一気に熱くなる。
あたしは膝の震えを必死に抑えながら、すまし顔を装って自分の席に戻るしかなかった。
ーーー
「……おい一也。お前、さっきから姿勢良すぎだろ。ロボットかよ」
隣の席で、三本木が声を殺して笑っていた。御八代は前を向いたまま、微動だにせず低い声で答える。
「……慣れないアーマー(スーツ)を装備しているせいで、可動域が制限されているだけだ。それより徳大、なぜ俺がここにいる。お前が出席するはずだっただろ」
「だから急なトラブル対応(別件)が入ったって言ったろ。……ほら、そんな事より。トップオペレーター賞、三神さんだったな。パンツスーツ姿、ギャップがあっていいじゃねぇか」
三本木の言葉に、御八代の黒縁メガネの奥の瞳が、僅かに揺れた。
(……三神ミソラ。普段の過剰な装飾(ギャル服)を排した、合理的なフォーマル仕様。……視覚的ノイズが減ったはずなのに、なぜ俺の思考リソースはさらに圧迫されているんだ……?)
自身の内側で起きている原因不明のシステム異常に、御八代は誰にも気づかれないよう、小さく息を吐いた。




