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オジさんに恋した三神さん ~45歳の鉄壁インフラエンジニアは、25歳ギャルからの恋心を「システム障害」と言い張って認めない~  作者: Jin-生-Kaiki
要件定義1:恋心は『システム障害(バグ)』!?鉄壁の防壁とギャルによる侵入テスト

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Logfile_003:不器用すぎるモニタリング

 「お疲れ、ミソラ。今日も相変わらずノーミスでさばくねぇ」


 隣の席の莉奈が、ペットボトルの水を煽りながら言った。


 「当然っしょ。プロなんだから」


 「さすが、今年もトップオペレーター賞の最有力候補。……で、そのプロフェッショナルな三神さん。さっきから『アレ』、気付いてる?」


 莉奈が呆れたように指し示したのは、フロアの斜め前方にあるインフラチームのエリアだった。

視線を向けると、そこにはバインダーを持った御八代さんが立っていた。しかし、その黒縁メガネの奥の鋭い視線は、サーバーラックではなく、完全に『あたしのデスク周辺』に固定されていた。


 「えっ……ウソ。御八代さん、こっち見てる……!?」


 「見てるなんてもんじゃないよ。さっきから5分おきにこっちチラ見して、バインダーに何か書き込んでるんだけど。怖っ」


 あたしがバッチリ目を合わせても、御八代さんは視線を逸らすどころか、眉間にシワを寄せてさらにジッとこちらを凝視してくる。


 「……もしかして、ミソラちゃん、何かセキュリティポリシー違反でもしたんじゃない?」


 後ろの席から栞が真面目な顔で問いかけてくる。


 「してないしてない!あたし、ログアウトも画面ロックも完璧だもん!」


 「でも、あの『鉄壁のインフラ』が、特定のオペレーターをあんなにガン見するなんて、何か業務上の重大なエラーを疑われているとしか……」


 栞の客観的すぎる推測に冷や汗が出そうになったけれど、それ以上に胸の奥でキュンキュンと警報が鳴り響く。


 (業務上のエラー確認だとしても……あんな真剣な顔で見つめられるなんて、ヤバいっ)

 「……よし。見られてるなら、こっちから行くしかないっしょ!」


 「えっ、ちょっとミソラ!?」


 莉奈の制止を振り切り、あたしは引き出しから先日のインシデントがあった際の『追加報告書』を引っ張り出すと、意気揚々と立ち上がった。


 ーーー


 「御八代さーん!お疲れ様ですっ!」


 インフラチームのデスクに突撃すると、御八代さんがピタリと足を止めた。


 「……三神さん。何かトラブルですか」


 「いえっ、先日のデータベースロックの件で、追加の報告書を持ってきました!」


 クリアファイルに入れた書類を差し出すと、御八代さんはそれを受け取ろうと手を伸ばしてーー、ふと、その動きを止めた。


 「……」


 彼は書類ではなく、あたしの顔、そして手元を、まるでスキャンするかのようにジッと見つめてきた。距離して、わずか数十センチ。いつもなら即座に「書類はトレイに置いてください」と一蹴するはずの彼が、なぜかそのまま動かない。


 「あ、あの……御八代さん?」


 「……三神さん。そのまま、あと一歩前に出てもらえますか」


 「えっ!?」


 「検証です。少しだけ動かないでください」


 御八代さんは真顔のまま、さらに一歩距離を縮めてきた。

あたしの心臓がドクンッと大きく跳ねる。真剣な瞳が、至近距離であたしを捉えていた。


 (ヤバいヤバいヤバい!何の検証!?)


 あたしが限界突破しそうになっていると、御八代さんは小さく息を吐き、手元のバインダーに目を落としてボソリと呟いた。


 「……やはり、距離に反比例して思考リソースの低下が顕著になる。脈拍の上昇も確認。……局地的な高負荷状態だ。」


 「え?脈拍?負荷?」


 「いえ。こちらの問題です。報告書、確かに受け取りました。ご苦労様です」


 御八代さんは何事もなかったかのようにバインダーに書類を挟むと、クルリと背を向けて自席へと戻っていった。


 ーーー


 「おい、一也。お前さっきから何やってんの」


 三神ミソラが去った直後。三本木がパイプ椅子を回してきた。御八代は周囲に他の社員が居ない事を確認し、深くため息をついてメガネを外した。


 「……徳大。やっぱり駄目だ。あの女のデータ収集は危険すぎる」


 「はっ?危険って何がだよ」


 「至近距離でテストしてみたんだが、俺のシステムが完全にフリーズしかけた。思考の処理速度が通常の半分以下に落ちる。あんなバグ、長年エンジニアやってて初めてだ」


 頭を抱える同期を見て、三本木は腹を抱えて笑いそうになるのを必死でこらえた。


 「だから、それただ惚れてるだけだっての!20も下の子に真っ赤になってどうすんだよ!」


 「真っ赤になどなっていない。ただのオーバーヒートだ」


 「それを世間じゃ照れてるって言うんだよ!」


 御八代は忌々しそうに舌打ちをすると、再びメガネをかけ直した。


 「……これ以上、無闇な接触は避ける。ログからの間接的な監視に切り替えて、原因の切り分けを行うしかーー」


 「あ、そうそう。接触避けるって言ってたとこ悪いんだけどさ」


 三本木が、わざとらしくパンッと手を叩いた。


 「来週の全社表彰式、俺の代わりにインフラチームの代表として出席してくれ。俺、その日どうしても外せない別件が入っちまってさ」


 「……は?冗談じゃない、俺は現場から離れる気はないぞ。お前が行け」

 

 「課長命令。スーツ、ちゃんとクリーニング出しとけよ?ーーあ、今年のトップオペレーター賞、三神さんらしいぜ」


 ニヤリと笑う悪友の言葉に、御八代のタイピングの手が、ピタリと止まった。














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