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オジさんに恋した三神さん ~45歳の鉄壁インフラエンジニアは、25歳ギャルからの恋心を「システム障害」と言い張って認めない~  作者: Jin-生-Kaiki
要件定義3:運用フェーズとピアツーピアの確立

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Logfile2_039:P2P(ピアツーピア)への移行


 帰り道の夜道。

 あたしたちは、少し気まずい沈黙を保ったまま駅へと歩いていた。


 少し言い過ぎちゃったかな、と反省しつつも、このモヤモヤは最初に解決しておかないと、絶対に後を引くとおもったのだ。


 「……三神さん。先ほどはすまなかった」


 ぽつりと、隣を歩く御八代さんが立ち止まり、口を開いた。


 「俺は……これまでの人生において、誰かと対等に歩むという経験が著しく欠如している。特に君とは年齢差があるため、無意識のうちに『俺がホスト(管理者)として、クライアント(君)にサービスを提供する』という、階層的なネットワーク構造を構築してしまっていたようだ」


 (また難しいIT用語……。でも、言いたいことはなんとなくわかる)


 要するに、頼れる大人の男としてリードしなきゃいけないって、一人で背負い込んじゃってたんだ。

 

 御八代さんは真っ直ぐにあたしを見下ろした。


 「君の言う通りだ。恋人という関係は、一方がリソースを供給し続ける『クライアント・サーバ型』であってはならない。互いに対等にデータをやり取りする、『ピアツーピア(P2P)』のモデルであるべきだった」


 「ぴあつーぴあ……」


 「これからは、食事の費用も、君が負担にならない範囲でシェア(割り勘)をしよう。その方が、君も気兼ねなく俺を食事に誘えるだろうからな」


 その不器用だけど真摯な提案に、あたしの胸のつかえがスッと取れていくのがわかった。


 「……はい!あたし、御八代さんにおいしいもの奢ってあげるために、これからもトップオペレーターのボーナス死守しますからね!」


 「それは頼もしいな」


 御八代さんはフッと柔らかく笑うと、少し恥ずかしそうにポケットからスマホを取り出した。


 「それと……非同期通信(LINE)の件だが。俺にはスタンプという文化のログが存在しない。……だから、君が適切なパッケージ(おススメのスタンプ)を、俺の端末にインストールしてくれないか」


 「えっ……!」


 「意味のない雑談も……少しずつだが、学習モデルを回していく努力をする。だから、見捨てずにデバッグ(指導)に付き合って欲しい」


 (……もう、本当にこのオジさんは!)


 年齢も、価値観も、コミュニケーションの取り方も全然違う。


 だけどこの人は、いつだってあたしの気持ちを理解して、自分自身のシステム(価値観)をアップデートしようと努力してくれるのだ。


 「仕方ないなぁ。じゃあ、まずは可愛いうさぎのスタンプをダウンロードさせてあげますね!1日1回は絶対送ること!いいですか?」


 「あ、ああ……善処する……」


 秋の夜風の中、並んで歩く距離が、さっきよりも少しだけ近い。

あたしたちは一つのエラーを乗り越え、また少しだけ『対等な恋人』に近づくことができた。


 駅のホームで彼と別れた帰り道。

スマホの画面には、さっそく御八代さんから送られてきた『うさぎがお辞儀をしているスタンプ』が表示されていた。


 (ふふっ、本当に不器用なんだから)


 画面を見つめていると、ふと、もっと彼の素顔を知りたくなってくる。

会社では鉄壁のインフラエンジニア。でも、休日はあのグレーのカーディガン姿で、家でどんなふうにすごしているんだろう?


 対等な関係になったなら、いつか彼の「プライベートな空間(ホーム環境)」も見て見たいなーー


 ーーなんて。


 少しずつ広がっていく彼との未来に思いを馳せながら、あたしはうさぎのスタンプに、ハートのスタンプを一つだけ返した。


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