Logfile2_038:クライアント・サーバ型の弊害(課金システム)
その週の金曜日の夜。
「一週間の業務終了お疲れ様会」と称して、あたしと御八代さんは会社から少し離れた、落ち着いた和食の個室居酒屋に来ていた。
「はぁ~、今週はクレーム対応多くて疲れましたー!御八代さんも、夜間メンテお疲れ様でした!」
「ああ。君も高負荷なトラフィックの処理、ご苦労だった」
お互いにビールで乾杯し、美味しいお刺身や天ぷらをつつく。
直接会って話せば、LINEの文面みたいな無機質さは微塵も感じない。御八代さんは不器用だけど、あたしの仕事の愚痴も真剣に聞いてくれるし、疲れた顔を見せればさりげなくお冷を頼んでくれたりする。
やっぱり、このオジさんと一緒にいる時間は最高に幸せだ。
二時間ほど経ち、やがてお会計の時間になった。
御八代さんがスッと伝票を手に取り、店員さんにクレジットカードを渡す。
「あ、御八代さん!あたしも半分出します!」
あたしが慌ててお財布を取り出そうとすると、彼はピシャリと手で制した。
「不要だ。ここは俺が決済を完了させる」
「でも、初デートの時のご飯もカフェ代も、全部御八代さんが払ってくれたじゃないですか。いつもいつも払ってもらうのは申し訳ないです!」
すると、御八代さんは黒縁メガネを押し上げ、極めて論理的な顔で言い放った。
「三神さん。俺と君とでは、勤続年数によるベースの報酬スペックが全く違う。俺が全額リソースを提供した方が、全体としての資金効率が良い」
「資金効率って……」
「それに、君の限られた予算は、もっと自分の服や化粧品、友人との交際費に割り当てるべきだ。俺に対する課金は不要だよ」
「……」
その言葉に、あたしは少しだけムッとしてしまった。
言っていることは正論かもしれない。20歳も年上の男性からすれば、25歳の彼女に財布を出させるなんて格好つかないという見栄もあるのだろう。優しさから言ってくれているのも、頭ではわかっている。
でも、それってなんだか。
『対等な恋人』というより、『保護者と子供』みたいじゃないか。
「……御八代さんから見たら、あたしはいつまで経っても、守られてお小遣いもらうだけの『子供』なんですか?」
「なっ、そんなつもりで言ったわけでは……!」
「いいえ。御八代さんはいつもそうです」
あたしは、お財布を両手でギュッと握りしめたまま彼を睨みつけた。
「LINEも上司への業務報告みたいだし、デートのお金も全部出してくれて。あたしを甘やかしてくれるのは嬉しいけど、それって……ただの『接待』みたいで、寂しいです」
「せっ、接待……」
「あたしは、御八代さんのお客さんじゃありません。恋人です。美味しいものを食べたら、二人で『美味しかったね』って言い合いながら、一緒にお金を払いたいんです」
あたしが俯き加減でそう告げると、御八代さんはクレジットカードとレシートを受け取ったまま、完全にフリーズしてしまった。
システムエラーを告げるかのように、彼の口がわずかにパクパクと動いている。
少し言い過ぎちゃったかな……と反省しつつも、このモヤモヤは最初に解決しておかないと、絶対に後を引くと思ったのだ。
気まずい沈黙が流れる中、あたしたちは居酒屋を後にし、秋の夜風が吹く外へと歩き出した。




