Logfile2_037:非同期通信のプロトコル(LINEの頻度)
あのサーバー室でのドタバタな告白と、初めての休日デートを乗り越え、あたし、三神ミソラ(25)と御八代一也(45)は、めでたく正式な恋人同士となった。
……なったのだが、迎えた月曜日の昼休み。あたしは社内食堂でスマホの画面を睨みつけながら、深いため息をついていた。
「どうしたのミソラ。初デートも大成功して、ラブラブ絶好調なんじゃないの?」
向かいの席で、莉奈が唐揚げ定食を頬張りながら呆れたように聞いてくる。
「デート自体は最高だったよ!でもね、その後の『通信』に致命的なエラーが発生してるの……」
あたしはスマホの画面を、莉奈と栞に向けた。
『(ミソラ)おはようございます!今日もいい天気ですね♡昨日は楽しかったです!』
『(御八代)おはよう。昨日の実地検証は有意義だった。天気パラメーターも良好だ。本日の業務もよろしく頼む』
『(ミソラ)今日のお昼はオムライスにしました!御八代さんは?』
『(御八代)こちらは社内食堂のB定食だ。栄養価のバランスは適正値内に収まっている』
「……なにこれ。上司への業務連絡?」
莉奈がドン引きした顔で呟く。栞も苦笑いしながら首を横に振った。
「御八代さん、絵文字やスタンプを一切使わないし、何より返信が『要件の回答』だけで終わっちゃうんだよね」
「そう!あたしはもっと、『オムライスいいなー』とか『午後も頑張ろうね』みたいな、意味のない雑談のキャッチボールがしたいのに!」
あたしが机に突っ伏すと、栞が冷静に分析を始めた。
「御八代さんの世代……というか、理屈っぽいエンジニア気質の人にとって、LINEみたいな非同期通信ツールは『情報伝達の手段』に過ぎないんだと思うよ。ミソラちゃんみたいに『感情や時間を共有するツール』って認識してないから、キャッチボールが続かないんだよね」
(情報伝達の手段……!確かに、あのオジさんの文字、無機質なログデータにしか見えない!)
「でも、恋人同士ならもっと繋がってる感が欲しいじゃん……。これじゃ、ただの業務報告だよぉ」
25歳のデジタルネイティブ世代と、45歳のレガシーエンジニア。交際が始まって早々、あたしたちは『通信プロトコル』の不一致という、年の差の壁にぶつかっていたのだった。




