Logfile_032:スーパーユーザーへの昇格
「……御八代さん」
あたしは彼の胸に顔を埋めたまま、嬉しさで胸が熱くなるのを感じていた。
「俺は、面倒くさい男だぞ。理屈っぽいし、休日は出かけないし、気の利いたコマンド(言葉)一つ入力できない」
抱きしめる力を少しだけ緩め、御八代さんが自嘲気味に呟く。
「知ってます。でも、なんだかんだ休日は一緒にカフェに行ってくれましたよね」
「……あれは三本木に脅されたからだ」
「あたしが神楽坂くんにタレを拭かれそうになった時、トング握りつぶして怒ってましたよね」
「……あれはただのセキュリティインシデントの警告で……」
「まだ言い訳するんですか?」
あたしが胸ぐらを軽く引っ張って上目遣いで睨むと、彼は観念したように息を吐き、あたしの頭に、ポンと大きな手を乗せた。
「……すまない。俺のシステム要件(性格)は、そう簡単に書き換えられないらしい。だが……君が俺の人生にアクセスすることを、俺の全権限をもって許可する」
(アクセスを許可する。……つまり、付き合ってくれるってことだよね!?)
回りくどすぎる告白の言葉に、あたしは吹き出しそうになりながらも、最高の笑顔で頷いた。
「はい!管理者権限、しかと受け取りました!」
ーーー
サーバー室から出てきたあたしたちを待ち構えていたのは、腕を組んでニヤニヤしている三本木課長だった。
「おー、随分と長時間の『空気の入れ替え』だったな。で、どっちのサーバーがダウンしたんだ?」
「……徳大。うるさい。業務に戻れ」
御八代さんは耳の先まで真っ赤にしながら、早足に自席へと向かう。でも、その足取りはどこか軽く、いつも猫背気味の背筋がピンと伸びているように見えた。
「三神さん、よくあの面倒くさいファイアウォールぶち抜いたな。あいつ、さっきまで神楽坂からの相談で本気で死にそうな顔してたんだぜ」
「ふふっ、あたしを誰だと思ってるんですか。どんなクレーマー(理屈)も笑顔で論破する。トップオペレーターですよ」
「違いねぇ。……あいつのこと、よろしく頼むわ」
「はいっ!任せてください!」
御八代さんの同期の悪友から粋なエールを受け取り、あたしはスキップしそうな足取りでカスタマーサポート部のフロアへと帰還した。




