Logfile_028:意識的なパケットロス(無視)
BBQ大会明けの月曜日。
社内の空気はどこか和やかで、あちこちで休日の思い出話に花が咲いていた。
「おはようございます、御八代さん!」
あたしはいつものように、自販機で買った缶コーヒーを持ってインフラチームのデスクへ向かった。
「……ッ!」
あたしの声を聞いた瞬間、御八代さんはビクッと肩を震わせ、タイピングしていた手をピタリと止めた。
(あれ?反応が違う……)
先週までの彼なら、ここで「三神さん。睡眠時間は足りているか?」といけしゃあしゃあと保護者ヅラをしてきたはずだ。しかし、今日の御八代さんは、モニターを凝視したまま、全くこちらを見ようとしない。それどころか、キーボードに乗せた無骨な指先が微かに震えている。
「あの、御八代さん?コーヒー、置いておきますね」
「…………あ、ああ。所定の場所に、置いておいてくれ」
声がひっくり返りそうになるのを必死で抑えているのが丸わかりだった。横顔しか見えないけれど、その耳の先から首筋にかけて、茹でダコみたいに真っ赤になっている。
(……ウケる。完全に『あたしを女として意識しまくってる男』の反応じゃん!)
BBQでの嫉妬の嵐を経て、ついに自分の気持ち(恋心)をごまかせなくなったのだ。理屈っぽい鉄壁のインフラエンジニアが、ただの『恋するピュアなオジさん』に成り下がっている。その事実がたまらなく愛おしくて、あたしは思わず意地悪な笑みを浮かべた。
「御八代さん、昨日のBBQ、お肉焼いてくれてありがとうございました。……あたしのこと、ずっと隣で『監視』しててくれましたもんね?」
「っ~~~!!」
『監視(嫉妬)』というワードに、御八代さんの喉の奥から「ヒュッ」という変な音が漏れた。隣の席で三本木課長が肩を震わせて笑いを堪えている。
あたしは「それじゃ、お仕事頑張ってくださいね」と甘い声を残し、意気揚々と自席へと戻った。




