Logfile_027:オーバーヒートと論理の破綻
「ぷくくっ……あははははっ!!」
少し離れた洗い場で、一部始終を見ていた莉奈と栞が腹を抱えて笑っていた。
「見たミソラ?あの御八代さんの顔!『若いもん同士』って言われた瞬間の、あの般若みたいな目!」
「もう、最高すぎる……!自分でセッティングしたくせに、完全に自爆してるじゃん」
あたしも洗い物をしながら、笑いが止まらなかった。
「栞の言う通りだったね。親心なんてただの強がり。あんなの、どう見ても『男の嫉妬』でしょ」
「うん。御八代さんのシステムの中で、いよいよ論理的な矛盾が臨界点に達してるみたいだね」
栞がスポンジを握りながら、名探偵のように頷く。
ーーー
その頃、喫煙所の裏手。
御八代一也は、自販機で買った冷たい缶コーヒーを額に押し当てて、荒い息を吐いていた。
「……どうした一也。随分と『親心』に溢れたBBQだったな?」
様子を見に来た三本木が、ニヤニヤしながら煙草に火をつける。
「……黙れ」
「神楽坂のやつ、マジでビビってたぞ。普段あんなに理性的でクールな御八代さんが、俺が三神さんと喋るたびに親の仇みたいな目で睨んでくるって」
御八代は力なくその場にしゃがみ込んだ。
「……わかっている。俺は今、最悪のエラーを起こしている」
頭を抱え、苦悶の表情を浮かべる。
「神楽坂は正しい。年齢的にも、スペック的にも、三神ミソラと釣り合うのはあいつだ。俺が介入すべきじゃない。俺の感情は、単なる保護者としての親心で……」
「まだ言うか。お前、さっき三神さんが神楽坂にタレ拭かれそうになった時、本気で神楽坂の腕へし折りそうな顔してたぞ。親心が聞いて呆れるわ」
三本木の容赦ない指摘に、御八代は返す言葉もなかった。
(そうだ。徳大の言う通りだ。……神楽坂が彼女に触れようとした瞬間、俺の頭の中を埋め尽くしたのは、保護者としての使命感などではない)
『触るな。彼女に、触れるな』という、ドス黒く、身勝手で、醜い独占欲。
(……俺は、親心という名前のダミーファイルに、自分の『恋心』を隠蔽していただけだ)
45歳のインフラエンジニアは、秋の冷たい風の中で、ついに己のシステムの完全な敗北(バグの正体)を認めざるを得なくなっていた。




