Logfile_025:セッションハイジャックの危機
「三神さん、お肉焼けましたよ!はい、これ一番美味しそうなところ!」
「わぁ、ありがとー!神楽坂くん、お肉焼くの上手だね!」
秋晴れのキャンプ場。バーベキューの煙が立ち込める中、あたしは神楽坂くんのお皿から、こんがり焼けたカルビを受け取った。
「そ、そうですか?キャンプとか結構好きで、学生時代からよく幹事やってたんで。……あ、三神さん、口元にタレついてますよ」
「えっ、嘘?どこどこ?」
「右の端です。あ、僕が拭きますね」
神楽坂くんがウェットティッシュを取り出し、あたしの顔に手を伸ばそうとした、その瞬間だった。
「……待て。その物理的接触は許可していない」
地を這うような低い声とともに、あたしたちの間に、ぬっと黒い影が割り込んできた。アウトドア用のハットを深く被り、なぜか手にはぐにゃりと曲がったトングを握りしめている男ーー御八代さんだ。
「お、御八代さん!?」
「神楽坂。食品を扱う環境下での他者への直接的な粘膜付近への接触は、重大なセキュリティインシデント(衛生上の問題)を引き起こす可能性がある。ティッシュは本人の手に渡せ。俺が直接ルーティングする」
御八代さんは神楽坂くんの手からウェットティッシュをひったくると、それをあたしの手にバシッと押し付けた。
「え、あ、すみません!気が利かなくて……」
純粋な神楽坂くんは、インフラの神様である御八代さんに怒られたと思ってシュンとしてしまう。
「別にいいじゃないですか。神楽坂くんは親切でやってくれようとしたんですから」
あたしがわざと神楽坂くんを庇うように言うと、御八代さんの黒縁メガネの奥の瞳が、ギラっと危険な光を放った。
「……親切という名の不要なパケットだ。第一、君も君だ三神さん。いくらオフサイト(社外)のイベントとはいえ、その肩が大きく露出したアーマー(服)は、外部からの不審なアクセス(視線)を過剰に集める。若気の至りとはいえ、防御力が低すぎる」
「はぁ?可愛い服着て何が悪いんですか!保護者みたいなこと言わないでください!」
「保護者として当然の指摘だ!俺は君たちのメンターとしてーー」
「おっさーん、お前それ完全に『娘の彼氏に難癖つける面倒くさい父親』の構図だぞー」
後ろから三本木課長がヤジを飛ばすが、御八代さんはそれを「ノイズだ!」と一蹴し、あたしと神楽坂くんの間に、ドカッとパイプ椅子を置いて陣取ってしまった。




