Logfile_019:エラーコードの再定義(親心)
「……徳大。結論から言うと、俺のシステムは正常だった」
週の半ば。終業後のインフラチームのデスクで、御八代一也は深く息を吐き出しながら、悪友である三本木に向かって堂々と宣言した。手元には、ここ数日の自分の心拍数や思考リソースの低下データをまとめた、無駄に精密なグラフ(手書き)が置かれている。
「は?お前、月曜日の朝に『完全に汚染された』とか言って頭抱えてただろ」
「あれは一時的なパニックによる誤診だ」
御八代は黒縁メガネをくいっと押し上げ、極めて論理的なトーンで語り始めた。
「冷静に考えてみろ。俺は45歳、彼女は25歳。20歳差という年齢差は、俺のメインロジックにおいて『恋愛対象』として定義するにはあまりにも非現実的だ。そんな致命的なバグを、俺の堅牢なシステムが許容するはずがない」
「お、おう……?で、その結論は?」
「俺が彼女に対して抱いていた胸の過熱や、物理的な危険から守ろうとする行動。……あれは『親心(メンターシップ』だ」
「……は?」
「彼女はコールセンターにおいて、極めて高いSLA(サービス品質保証)を維持している優秀なノードだ。未来ある若手に対する『保護者』および『技術メンター』としての庇護欲。それが過剰に働き、システム側が『恋』というエラーコードを誤って出力していたに過ぎない!」
見事なまでの論理的飛躍と現実逃避。三本木はしばしポカンとした後、耐えきれずに机をバンバンと叩いて爆笑した。
「ダハハハハッ!!お前、無理ありすぎだろ!20歳下だから『これは親心だ』って自分に言い聞かせて、理屈で恋心をねじ伏せようとしてんのか!腹痛ぇ……っ!」
「黙れ!これは最も合理的かつ安全なルーティングだ!明日からは『適切な管理者(保護者)』として彼女に接し、この無駄なシステム負荷を完全に鎮静化させてみせる!」
(これでいい……これなら、俺の職人としてのロジックは破綻しない!)
御八代は、新たなファイアウォール(親心)を構築できたことに、一人で深く安堵していた。




