Logfile_018:管理者権限の移行
午後の休憩時間。
あたしは、自販機で買った缶コーヒーを二つ持ち、インフラチームのデスクへと向かった。御八代さんは相変わらず、モニターを睨み続けていたが、あたしが近づく気配に気づくと、ビクッと肩を揺らした。
「お疲れ様です、御八代さん」
「……ッ、三神、さん」
彼の方に回り込むと、御八代さんじゃ明らかに目を合わせまいと、不自然なほど画面に顔を近づけていた。
「昨日は、ありがとうございました。実地調査、すごく楽しかったです」
「……僕は業務の一環としてパケットロスを計測したに過ぎない。君が楽しんだのなら、それは副次的なバグ……いや、結果だ」
「ふふっ。はい、そういうことにしておきます」
あたしは持っていた二つの缶コーヒーのブラックの方を、そっと彼のデスクの端に置いた。
「……これは?」
「昨日の『物理的保護(手首掴み)』のお礼です。すごく、かっこよかったです」
「っ!!」
御八代さんのタイピングの手がピタリと止まり、耳の先が一瞬にして赤く染まった。図星を突かれたオジさんの反応が可愛すぎて、あたしは思わず口元を緩める。
「あの、御八代さん」
「……なんだ」
「既存のログ解析が終わったら、今度は『調査』じゃなくて、本当の『デート』……付き合ってくれますか?」
逃げ道を塞ぐ、ど直球のコマンド入力。御八代さんは息を飲み、キーボードの上で指を震わせた。断ることも、言い訳のロジックを組み立てることもできず、ただ限界までオーバーヒートした頭で必死に言葉を探している。
やがて、彼は観念したように深いため息をつき、極めて小さな声で呟いた。
「……既存のログ解析と、僕のシステムの修復には……膨大な時間がかかる」
「はい」
「だから……次のフェーズ(デート)への移行は、すぐには……承認できない。スケジュールは……未定だ」
(未定。つまり、『絶対に行かない』とは言わなかった……!)
あたしは心の中でガッツポーズを決め、とびきりの笑顔で彼に告げた。
「はい!じゃあ、首を長ーくして、次のアップデート(お誘い)待ってますね!」
完璧なトップオペレーターと、理屈っぽい鉄壁のインフラエンジニア。
あたしたちの不器用なすれ違いは、ついに明確な『恋』のフェーズへと、そのシステムを書き換えようとしていた。
ーーーーーはずだった……
【新章:親心バグと世代間ルーティング編】へ
オジさんに恋した三神さん
ここまでお読み頂きありがとうございます。
書いていて自分でも癖が強いなぁとか思いながら…
読者の皆様も思う所があったり、
あー!みたいな共感とか感じてもらえたら嬉しいなと。
こちらの作品、気に入って頂けましたら幸いでございます。
まだまだ、三神ミソラと御八代一也のドタバタは続きますので、
是非最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
また、応援やご意見なども頂ければ真摯に受け止めて今後の作品に活かさせて頂きます。
では、新章もお楽しみに!




