Logfile_015:予期せぬパケット受信
休日のカフェは程よく混雑していたが、運よく窓際の対面席に座る事が出来た。
あたしが甘いパンケーキとカフェラテを頼む向かいで、御八代さんはブラックコーヒーを注文すると、なんと本当に小さめのノートPCをカバンから取り出した。
「えっ、御八代さん。本当に調査するんですか?」
「当然だ。ダミーの理由で承認プロセスを回すほど、僕は不真面目ではない」
カタカタカタッ、と凄まじい速度で黒い画面に文字を打ち込み始める。
本当にPing(通信確認)を打ってルーターの応答速度を計測しているらしい。
(マジで調査してる……!この人、ブレなさすぎでしょ!)
でも、タイピングする無骨な指先と、真剣な表情をこんな至近距離で独り占めできるなんて、オジさん愛好家のあたしにとっては最高の特等席だ。やがて、あたしの前にホイップクリームたっぷりのパンッケーキが運ばれてきた。
「ん~っ!美味しい!……あ、御八代さんも一口食べます?」
「不要だ。僕は業務中(調査中)に糖分は摂取しない」
画面から目を離さずに断る御八代さん。あたしは小さく息を吸い込むと、フォークにパンケーキとクリームを少し乗せ、ノートPCと彼の顔の間にスッと差し出した。
「はい、あーん」
「……なっ!?」
御八代さんのタイピングの手が、ピタッと止まった。至近距離に突き付けられた甘いペイロード(パンケーキ)と、あたしの笑顔。
「あ、あーん、だと?馬鹿な、そんな未承認の直接プロトコル……受け付けられるわけが……っ」
「美味しいですよ?ほら、調査で頭使ってるんだから、当分補給しないとエラー出ちゃいますよ」
あたしが小首を傾げて促すと、御八代さんは顔を真っ赤にしてフリーズした。周囲の客の目もある。ここで意地を張って騒ぎにするのは、彼の合理主義に反するはずだ。
「……っ、今回限りの、例外処理だ……!」
御八代さんは震える声でそう宣言すると、身を乗り出し、あたしのフォークからパンケーキをパクリと口に含んだ。
「ど、どうですか?」
「……異常に、甘い。……だが、レスポンスとしては……悪くない」
口元を手の甲で隠しながら、彼がボソリと呟く。その耳の先は、以前休憩室で見た時よりも、さらに鮮やかな赤に染まっていた。
(……勝った!!)
鉄壁のインフラエンジニアの口に、パンケーキ(物理)と、あたしの想い(パケット)をねじ込むことに成功した瞬間。
確実に、彼の中の何かが書き換わろうとしているのを、あたしは感じ取っていた。




