Logfile_013:デプロイ前のチューニング
「……というわけで、明日の『実地調査』なんだけど、服はどうするべきか」
金曜日の夜。あたしは自室のベッドに寝転がりながら、スマホの画面に向かって真剣に問いかけていた。画面分割されたビデオ通話の向こうには、すっぴんでパック中の莉奈と、お風呂上りで黒髪を下ろしている栞がいる。
『いや、実地調査って言い張ってるのあのオジさんだけだからね?普通に休日のデートでしょ』
莉奈が呆れたようにツッコミを入れる。
『でも、ミソラちゃん。この前の表彰式のスーツ姿、御八代さんにすごく褒められたんでしょ?だったら、いつもより落ち着いた服装の方が好感度高いんじゃないかな』
栞の的確な分析に、あたしは唸った。
「だよねぇ。御八代さん、あたしの普段のギャル服のこと『ノイズが多い』って言ってたし。かと言って、休日のカフェにスーツで行くのも変だし……」
クローゼットを睨みつける。御八代さんの処理能力(思考リソース)を圧迫しすぎない程度にノイズを減らしつつ、でも休日の女の子らしさはしっかりアピールしたい。
「よし。少し大人しめのニットワンピに、メイクもナチュラル寄りにチューニングする!隙を見せて一気に攻め落とす作戦!」
『ミソラ、完全に狩る側の目になってるよ……』
ーーー
同じ頃。居酒屋のカウンター席で、一人のインフラエンジニアがジョッキを握りしめたままフリーズしていた。
「……徳大。明日の社外ネットワーク接続だが、適切なアーマー(服装)の規定が見当たらない。俺のクローゼットには、グレーのカーディガンか、スーツの二択しかないんだが」
深刻な顔で相談してくる御八代に、三本木は焼き鳥を吹き出しそうになった。
「お前、マジで言ってんの?45歳にもなって休日の私服ゼロってどういうバグだよ」
「バグではない、合理化だ。休日は自宅サーバーのメンテナンスと技術書の読書しかしない。外出用の装甲など必要なかった」
「あーもう、わかったわかった。明日、午前中に駅前の紳士服店に寄れ。俺が適当なジャケットとシャツを見立ててやる。そのまま着て行け」
「……助かる。このままでは、セキュリティ要件を満たさない脆弱な姿で攻撃に晒されるところだった」
「お前、本当にそれデートだと思ってねぇな……」
三本木は呆れてジョッキを煽ったが、当の御八代は悲壮な決意を固めた目で、虚空の『未知の脅威』を睨みつけていた。




