Logfile_012:論理的破綻とエスケープ(逃亡)
「ま、待ち伏せなどしていない!誤ったログの解析だ!」
御八代さんはガタッ!とパイプ椅子を蹴立てて立ち上がり、黒縁メガネをずり落とさんばかりの勢いで否定した。その顔は、普段の冷静沈着な『鉄壁のインフラ』とは程遠く、耳の先まで真っ赤に染まっている。
「えー?じゃぁ、なんであんな遠くまでブラックコーヒー買いに来てたんですか?」
あたしは確信を持って、さらに一歩距離を詰めた。
「そ、それは……っ!」
御八代さんは目を泳がせ、脳内の膨大なIT知識をフル稼働させて、極めて不自然な言い訳をひねり出した。
「ネットワークの……ルーティング(経路)確認だ!休憩室のWi-Fiアクセスポイントにパケットロスの兆候が見られたため、物理的な電波強度の実地調査を……そう、実地調査を行っていたに過ぎない!」
「実地調査……缶コーヒーを持ちながら?」
「缶コーヒーは……調査用のダミーペイロード(おもり)だ!!」
(ダミー……なに?)
聞いたこともない横文字にポカンとするあたしをよそに、隣で聞いていた三本木課長が、ついにこらえきれずに机に突っ伏して爆笑し始めた。
「ダハハハハッ!!お前、調査用のおもりって苦しすぎるだろ!腹痛ぇ……っ!」
「黙れ徳大!!俺は至って論理的な説明をしている!」
真っ赤になって普段聞かない口調で怒鳴る御八代さんを見て、あたしは思わずクスッと笑ってしまった。やっぱり、このオジさん面白すぎる。あんなに仕事ができてカッコいいのに、なんでこんなに不器用で、一生懸命理屈をこね回してるんだろう。
「ふふっ。わかりました。そういうことにしておきます」
「そういうこととはなんだ、事実だ!」
「じゃあ、御八代さん」
あたしは書類の要塞の上に両肘をつき、上目遣いで彼を真っ直ぐに見つめた。
「次、また『経路の確認』をするときは、あたしも一緒に調査に行ってもいいですか?休憩室じゃなくて、会社の下にあるカフェのアクセスポイントとか……お休みの日に」
「なっ……!?」
それは、ただのオペレーターからの、明確な『デートの誘い(アタック)』だった。御八代さんは息を飲み、メガネの奥の瞳を限界まで見開いた。そして、数秒間完全にフリーズ(硬直)した後ーー。
「……社外ネットワークへの無許可接続は……セキュリティポリシー違反……にあたる恐れが、ある」
蚊の鳴くような、震える声でそう絞り出すのが精一杯だった。
「えー?じゃあ、課長の許可を取ればいいんですよね?三本木課長、社外調査の許可、おりませんか?」
「ブッ……あー、よかろう。課長権限で特別に承認プロセスを回してやる」
「お前は黙ってろ徳大!!」
御八代さんは頭を抱え、再びパイプ椅子に崩れ落ちた。
(やった……!これ、完全に拒否されてないよね!?)
あたしの渾身のペネトレーションテスト(侵入テスト)は、見事に鉄壁のインフラエンジニアのメインサーバーをダウンさせることに成功したのだった。




