第73話 雛の世話をしようとしたら、七人ともやり方が違いました
翌朝。
俺が目を覚ました時には。
もう二人いなかった。
セレスでも。
ラグナでもない。
フェルナとノエルだった。
「……まさか」
嫌な予感がして起き上がる。
だが。
家の戸は閉まっている。
外へ出た形跡もない。
すると。
「お父さん」
リシェルが寝床から顔を出した。
「二人なら、さっき起きた」
「どこ行った?」
「物置。でも静かに見るだけって言ってた」
「そうか」
少し安心した。
昨日なら。
卵から雛が出てきた翌朝だ。
気になるのは当然だろう。
俺も服を着て。
外へ出た。
◇
物置の前には。
フェルナとノエルが並んで座っていた。
「何してる?」
小声で聞く。
フェルナが。
振り返る。
顔が。
ものすごく嬉しそうだった。
「増えてる」
「何が?」
聞かなくても分かる。
「ひな」
ノエルが答えた。
「一羽?」
「二羽」
「昨日の二羽と合わせて?」
「四羽」
俺も。
物置の奥を覗く。
母鶏の羽の間から。
昨日より。
小さな頭が増えていた。
一つ。
二つ。
三つ。
奥にも。
もう一ついる。
「夜の間に出たのか」
「たぶん」
「見たかった……」
フェルナが。
本気で残念そうに言う。
「寝てたんだから仕方ないだろ」
「起きてれば見られた!」
「一晩中起きて見るものじゃない」
「でも!」
「今日眠くて何もできなくなるぞ」
フェルナは。
雛を見る。
俺を見る。
「……寝てよかった?」
「よかったよ」
完全には納得していない顔だ。
しかし。
「四羽いるからいい!」
すぐ立ち直った。
◇
他の五人も。
次々に起きてきた。
朝飯より先に。
当然。
物置へ来る。
「四羽!」
ラグナが。
数える。
「昨日二羽だった!」
「夜に二羽生まれたんだって」
フェルナが。
自分が見たかのように説明する。
「見たの?」
「見てない!」
「じゃあ何で自慢してるの?」
セレスに笑われる。
ユラは。
母鶏の下から出てくる雛を。
真剣に見ていた。
「きのうより、ふわふわ」
「ああ。乾いたからな」
「あるく」
「歩くぞ」
昨日。
殻から出た直後は。
立つだけでも大変そうだった。
今は。
小さな足で。
母鶏の周りを動いている。
一羽が。
藁をつつく。
何も食べられない。
それでも。
またつつく。
「ごはん?」
ユラが聞く。
「食べ物探してるのかもしれないな」
「おなかすいた?」
「そろそろ食べるようになる」
その言葉で。
七人の顔が変わった。
「ご飯!」
フェルナ。
「水!」
セレス。
「持ってくる!」
ラグナ。
「何食べる!?」
リシェル。
「待て待て待て」
一気に動き始めた七人を止める。
「雛四羽に七人で世話したら、世話される方が大変だ」
全員。
止まった。
◇
「じゃあ誰がする?」
セレスが聞く。
「まず俺が準備する。見て覚えろ」
「七人、何もしない?」
ラグナが不満そうだ。
「あとで頼むことはあるよ」
「今は?」
「邪魔しない」
「昨日と同じ!」
「生まれたばかりなんだから、昨日と似たところもある」
「もっとしたい」
「気持ちは分かる」
俺は。
物置の少し空いている場所へ。
浅い水入れを用意する。
深いものは使わない。
「どうして少ない?」
リシェルが聞く。
「小さいからな。深いところへ入ったら危ない」
「泳げない?」
「鶏だからな」
「ノエルより?」
「比べる相手がおかしい」
ノエルは。
水入れをじっと見る。
「倒れない?」
「そこを見るのは大事だな」
軽すぎる器では。
母鶏が動かしただけで倒れるかもしれない。
置く場所も。
巣の真横ではなく。
少しだけ離す。
「遠い」
ユラが言う。
「歩いて行ける」
「ちかくじゃだめ?」
「卵のところへ水をこぼしたくない」
まだ。
孵っていない卵が残っている。
母鶏も。
完全には巣を離れていない。
「まだ生まれる?」
セレスが聞く。
「分からん」
昨日と。
同じ答え。
だが。
今日は。
誰も「いつ?」とは聞かなかった。
◇
餌も。
大人の鶏へそのまま渡しているものとは。
少し変える。
「細かい」
ラグナが言う。
「ああ」
「大きいの食べられない?」
「口が小さいだろ」
ラグナが。
雛と。
自分の手を見比べる。
「ラグナならいっぱい食べられる」
「知ってる」
「大きいから?」
「それだけじゃないと思うけどな」
「じゃあ強いから!」
「食事量を強さにするな」
フェルナが。
細かくした餌を見つめる。
「これ、フェルナが小さくする!」
「今日は俺がやったから、次から頼むこともある」
「速くできる!」
「粉にするなよ」
「必要なだけ!」
「最近便利に使うな、その言葉」
「合ってる!」
間違ってはいない。
◇
準備したものを置いて。
しばらく離れて見る。
母鶏が。
先に動いた。
雛を呼ぶような。
小さな声を出す。
すると。
四羽が。
ばらばらだったのに。
母鶏の近くへ集まっていく。
「呼んだ」
ノエルが言う。
「ああ」
「言葉分かる?」
「俺には分からんけど、雛には分かるんじゃないか」
「何て言った?」
フェルナが聞く。
「だから分からん」
「『ご飯だよ』?」
「そうかもしれない」
「『こっち来て』?」
「それもありそうだな」
「『フェルナたち見てる』?」
「それだったら離れた方がいいな」
七人が。
一斉に少し下がった。
本当に。
以前より話が早い。
◇
一羽が。
餌をつついた。
「食べた!」
小声だが。
七人全員。
同時に反応した。
「もう一羽!」
「水行った!」
「飲める?」
「嘴入れた!」
「顔濡れた!」
「大丈夫!?」
「落ち着け」
俺が一番。
雛ではなく七人を見ていた。
世話されている雛より。
世話したがっている娘たちの方が。
よほど目を離せない。
◇
朝飯の時間。
誰も物置から離れたがらなかった。
昨日と同じだ。
「今日は交代で見たら?」
ミレアが言った。
「交代?」
セレスが聞く。
「全員ずっと見なくてもいいから」
なるほど。
「誰か一人見てる?」
「見張る必要はないぞ」
「でも見たい」
「それなら好きな奴が見るくらいでいい」
「当番!」
リシェルが言った。
「いや、仕事にしなくても――」
「七人で順番決める!」
もう始まった。
「最初ノエル!」
フェルナ。
「何で?」
「一番よく見えるから!」
「フェルナも見たい」
「じゃあフェルナ二番!」
「ラグナ三番!」
「待て」
俺は。
一度止める。
「見たい奴が見ればいい。見たくない時まで当番だから座る必要はないぞ」
「でも誰もいなくなったら?」
セレスが聞く。
「母鶏がいる」
「あ」
「お前らが親じゃないよ」
七人が。
母鶏を見る。
母鶏は。
こちらなど気にせず。
雛を自分の羽の近くへ集めていた。
「お母さんいる」
ユラが言う。
「ああ」
「ユラたち、いらない?」
少し。
寂しそうだった。
「いらないんじゃなくて、お前らが全部やらなくていいってこと」
「ちょっとする?」
「できることならな」
「じゃあする」
それでいいらしい。
◇
朝飯のあと。
七人は。
本当にばらばらになった。
セレスは。
まず物置の周りを見た。
隙間。
倒れそうなもの。
尖った木片。
雛が歩き始めた時に。
危ない場所がないかを確認している。
「お父さん」
「何だ?」
「この隙間、入ったら出られないかも」
古い箱と壁の間。
確かに。
雛なら入りそうだ。
「塞いどくか」
「これ置いていい?」
「いいよ」
板を一枚使い。
通れないようにする。
セレスは。
雛そのものに。
一度も触らなかった。
「触らなくていいのか?」
「触りたい」
「じゃあ何で?」
「先にこっち」
隙間を見る。
「危ないところあったら嫌だから」
「そうか」
いかにも。
セレスらしい。
◇
ラグナは。
最初。
何をしていいか分からなかった。
「ラグナが守る!」
「何から?」
俺が聞く。
止まる。
「……敵!」
「今はいないぞ」
「来たら!」
「来た時は頼む」
「じゃあ今は?」
「何か見つけろ」
それから。
本当に。
物置の前へ立った。
腕を組み。
周りを見る。
しばらくして。
「何も来ない」
「いいことだろ」
「守れない」
「守る相手に危険が来ない方がいいんだよ」
「でもラグナ何もしない」
「それでいい時もある」
「また!」
不満そうだ。
そこで。
一羽の雛が。
少しだけ。
母鶏から離れた。
ラグナの目が輝く。
「出た!」
「追うなよ」
「追わない!」
雛は。
三歩ほど歩き。
藁をつつき。
すぐ母鶏の方へ戻った。
「……戻った」
「戻ったな」
「ラグナ何もできなかった」
「何もする必要なかった」
ラグナは。
少し考えて。
「守れた?」
「危なくなかったからな」
「じゃあ守ってない?」
「今日は平和だった、でいいんじゃないか」
それは。
まだ少し難しいらしい。
◇
フェルナは。
雛が動くたび。
一緒に動く。
右へ行けば右。
左へ行けば左。
「フェルナ」
「何?」
「雛より動いてるぞ」
「だって動く!」
「見るだけなら座ってても見えるだろ」
「近くで見たい!」
「近づきすぎるなよ」
「分かってる!」
言った直後。
雛が一羽。
急に向きを変えた。
「わっ」
フェルナも。
反射的に同じ方向へ動く。
止まる。
「……追わない」
「偉い」
「走れるのに」
「雛相手に速さを競うな」
「大きくなったら?」
「鶏とも競うな」
本人は。
かなり楽しそうだった。
◇
リシェルは。
当然。
板を持ってきた。
「何書くんだ?」
「何食べたか」
「毎回書く気か?」
「最初だけ」
「それならいいけど」
「水飲んだ。餌食べた。歩いた」
「全部雛なら普通にやるぞ」
「でも初めて見た」
そう言われると。
止める理由もない。
「大きさも書く?」
「測るために捕まえるのはやめとけ」
「じゃあ見た感じ」
「それなら好きにしろ」
リシェルは。
少し離れた場所で。
雛を見る。
板を見る。
また雛を見る。
「全部同じじゃない」
「何が?」
「大きさ」
言われて見る。
確かに。
少しだけ違う。
昨日最初に生まれた雛は。
今日の朝生まれたものより。
ほんの少し。
しっかりして見える。
「生まれた時間違うから?」
「それもあるかもな」
「明日も違う?」
「見てみればいい」
リシェルは。
また何か書き足した。
◇
ミレアは。
何もしなかった。
本当に。
何もしない。
物置の入口から。
少し離れたところへ座る。
「見ないのか?」
「見てる」
「遠くない?」
「近いと、お母さん嫌かもしれないから」
「ああ」
ミレアは。
雛を見るより。
母鶏を見ていることの方が多かった。
「疲れないのかな」
「誰が?」
「お母さん」
「卵温めてたから?」
「うん」
「疲れてるかもしれないな」
「でも離れない」
「そうだな」
しばらく。
二人で見る。
「お父さんも、あんな感じだった?」
「俺?」
「私たち小さい時」
「七人とも卵から出てきたわけじゃないぞ」
「そうじゃなくて」
ミレアが笑う。
「ずっといた?」
「まあ、家にはいたよ」
「疲れた?」
「疲れた時もある」
「離れたかった?」
「仕事で離れることはあったけどな」
「そうじゃなくて」
また。
少し考える。
「七人いるの、やめたくなった?」
不意の質問だった。
「ないな」
答えるまで。
ほとんど時間はかからなかった。
「大変だと思ったことはあるよ」
「うん」
「でも、やめるとは別だろ」
「そっか」
ミレアは。
母鶏を見る。
「同じかは分からないけど」
「鶏に聞かないと分からんな」
「うん」
◇
ノエルは。
四羽の違いを。
もう見つけ始めていた。
「この子、色違う」
「どれ?」
「右」
「俺には似て見える」
「背中、少し濃い」
近くで見る。
言われれば。
確かに。
ほんの少し違う。
「こっちは足が少し薄い」
「もう見分けてるのか」
「まだ全部じゃない」
「十分すごいよ」
ノエルは。
褒められても。
大きく喜びはしない。
ただ。
少しだけ口元が緩んだ。
「名前つけるなら分かる方がいい」
「名前つける気なのか」
「みんなつけたいって」
「全部?」
「たぶん」
そのうち。
鶏小屋が名前だらけになりそうだ。
◇
そして。
ユラは。
雛へ。
ひたすら話しかけていた。
「ユラだよ」
雛は。
返事をしない。
「こっち、セレス」
セレスは離れたところで板を置いている。
「ラグナ」
ラグナは外を見張っている。
「フェルナ」
雛が一羽。
餌をつつく。
「きいてる?」
「たぶん聞いてない」
俺が言うと。
「きいてる」
「そうか?」
「うん」
「じゃあ好きにしろ」
「リシェル。ミレア。ノエル」
七人全員を紹介する。
最後に。
俺を見る。
「おとうさん」
「俺も紹介するのか?」
「する」
雛へ向き直る。
「おとうさん」
それだけ。
「俺の名前は?」
「おとうさん」
「雛から見ても?」
「うん」
「何でだよ」
ユラの中では。
完全にそれが名前になっているらしい。
◇
昼前。
問題が一つ起きた。
一羽の雛が。
他の三羽より。
動きが少ない。
「お父さん」
最初に気づいたのは。
やっぱりノエルだった。
「この子、さっきから出てこない」
「どれ?」
「朝に生まれた方」
見る。
母鶏の下にいる。
少しだけ顔は見える。
「生まれたばかりだから疲れてるんじゃないか」
「大丈夫?」
「今のところは何とも言えないな」
「水飲んでない」
「餌は?」
「まだ」
七人が。
集まる。
「飲ませる?」
セレス。
「餌持ってく?」
リシェル。
「出す?」
ラグナ。
「触って見る?」
フェルナ。
昨日と。
似た空気になった。
俺は。
すぐには答えない。
「まず見よう」
「また待つ?」
「少しだけな」
ノエルが。
じっと見る。
「お母さんの下にいる」
「それなら温かいだろ」
「うん」
「呼ばれたら?」
「動く」
「なら、今すぐどうこうしなくてもいいかもしれない」
分からない。
だから。
また。
少し見る。
◇
母鶏が。
餌の方へ動いた。
三羽が。
ついていく。
一羽だけ。
少し遅れる。
だが。
出てきた。
「あ」
ノエル。
雛は。
ふらつきながら。
数歩歩く。
母鶏が。
声を出す。
また歩く。
「動いた」
セレスが。
ほっと息を吐く。
「水」
雛は。
水入れの近くまで行った。
嘴を入れる。
一度。
上を向く。
「飲んだ」
ノエルが言った。
誰も。
大声を出さなかった。
ただ。
七人全員。
少し笑った。
「大丈夫?」
ユラが聞く。
「まだ分からん」
「でも飲んだ」
「ああ」
「じゃあ、よかった?」
「今はな」
「うん」
今日は。
それで十分だった。
◇
昼飯の席で。
七人の意見は。
見事に違っていた。
「危ないところなくすの大事」
セレス。
「守る!」
ラグナ。
「一緒に動く!」
「動きすぎ」
セレスにすぐ言われるフェルナ。
「何したか書く」
リシェル。
「静かにいる」
ミレア。
「違うところ見る」
ノエル。
「おはなしする」
ユラ。
「……全部違うな」
俺が言うと。
七人が顔を見合わせた。
「どれが正しい?」
リシェルが聞く。
「別に一つじゃなくてもいいだろ」
「でも世話」
「必要な世話ができてれば、その周りでどうするかは好きにすればいいよ」
「ラグナの守るも?」
「物置の前で一日中立つ必要はないけどな」
「必要な時!」
「それなら頼む」
「フェルナの一緒に動くは?」
「雛を追い回さなければ」
「追わない!」
「ユラの話は?」
「雛が嫌がってなければ好きにしろ」
「おとうさんも?」
「何が?」
「おはなし」
「俺はいいよ」
「どうして?」
「雛と何話すんだ」
「きょうのごはん」
「俺が雛に?」
「うん」
「嫌だよ」
全員が笑った。
◇
午後。
残っていた卵の一つにも。
小さな割れ目ができた。
「また!」
フェルナが。
すぐに座る。
だが。
朝までとは。
少し違った。
「今度はずっと見ない」
「いいのか?」
「お仕事して、あとで見る」
「見逃すぞ?」
わざと聞いてみる。
フェルナは。
かなり迷った。
「……見逃しても、生まれる」
「ああ」
「じゃああとで見る!」
そう言って。
立ち上がった。
成長したなと思った直後。
「ノエル! 生まれそうになったら呼んで!」
「私も仕事する」
「じゃあ誰!?」
「誰もいなくていいだろ」
「ああ!」
まだ途中だった。
◇
その日の夕方。
五羽目が生まれた。
今度は。
誰も最初から最後までは見ていなかった。
薪を運び。
服を直し。
夕飯の準備をして。
途中でノエルが物置を覗いた時。
「増えてる」
それで気づいた。
「見逃した!」
フェルナは。
やっぱり悔しがった。
しかし。
物置まで走りかけ。
途中で速度を落とした。
静かに入る。
「いた……」
小さな声で言う。
新しい雛は。
母鶏の下へ。
ほとんど隠れていた。
「見えない」
「そのうち出てくるよ」
セレスが言う。
「明日?」
「今日かもしれない」
「じゃあ待つ」
フェルナは。
その場へ座らず。
「夕飯できたら来る」
と戻っていった。
◇
夜。
五羽の雛。
まだ残る卵。
全部がどうなるかは。
分からない。
けれど。
七人は。
昨日までとは。
少し違う。
最初は。
生まれる瞬間を。
全部見たかった。
ずっとそばにいたかった。
何かしたかった。
今日は。
それぞれが。
できることを見つけた。
危ないところを見る。
守る。
一緒に喜ぶ。
記録する。
静かに見守る。
小さな違いに気づく。
話しかける。
どれも。
同じではない。
それでも。
母鶏と雛が。
困らない範囲なら。
同じにする必要もない。
◇
「お父さん」
寝る前。
セレスが聞いた。
「何だ?」
「私たちが小さい時も、七人で違った?」
「そりゃ違ったよ」
「誰が一番大変だった?」
すぐ。
七人が静かになる。
「何でそこで順位つけるんだ」
「気になる」
「フェルナ!」
本人が先に言った。
「何で自分なんだよ」
「いっぱい動くから!」
「昔からな」
「やっぱり!」
「一番とは言ってない」
「じゃあラグナ?」
「ラグナいい子だった!」
「今もいい子だろ」
「そう!」
話が進まない。
「七人とも違う大変さがあったよ」
俺は。
そう答えた。
「泣く理由も違ったし、食べる量も違った。寝る時間も違った。怖がるものも違った」
「お父さん、全部同じにしなかった?」
リシェルが聞く。
「できなかったんだよ」
「できなかった?」
「ああ。同じにしても合わなかったからな」
七人が。
少し黙る。
「じゃあ」
ミレアが言った。
「今日と同じ?」
「何が?」
「雛を、みんな違う見方してた」
「ああ」
「私たちも?」
「たぶんな」
ミレアは。
少し嬉しそうに笑った。
◇
五羽の雛は。
同じ日に。
同じように育つわけではない。
早く歩く奴も。
よく食べる奴も。
少し遅い奴もいる。
七人も。
そうだった。
同じ家で。
同じ飯を食い。
同じ俺を父親と呼んでも。
全員が。
同じやり方で育ったわけではない。
七人を同じにしたのではなく。
違う七人が。
同じ家で育った。
今では。
その七人が。
五羽の小さな雛を見ながら。
それぞれ違うことに気づいている。
物置の入口には。
まだ。
『しずかに』
『さわらない』
と書いた板がある。
けれど。
その二つだけだった約束も。
少しずつ増えていくのだろう。
近づきすぎない。
危ないものを置かない。
必要な水と餌を切らさない。
変わったことがあれば。
誰かに伝える。
そして。
何でも自分たちがやろうとしない。
明日の朝も。
きっと七人は。
物置へ行く。
でも。
今日までとは。
少し違う。
雛が何羽になったかだけではなく。
それぞれが。
昨日と何か変わったかを。
自分の目で見るために。




