第71話 セレスの昔の上着を汚して、ユラは泣きました
冬服を出した翌朝、ユラは昨日から着ている上着を脱ごうとしなかった。
もともとは、ずっと昔にセレスが着ていたものだ。ユラの体には今ちょうどよく、袖を通すたびに自分の腕を眺めては、どこか誇らしそうな顔をしている。
「朝飯の時くらい脱いでもいいんじゃないか?」
「さむい」
「火があるから寒くないだろ」
「ちょっとさむい」
「昨日までは平気だったじゃないか」
そう言うと、ユラは上着の前を両手で押さえた。
「これ、きる」
「気に入ったのか?」
「うん。セレスの」
向かいに座っていたセレスが笑う。
「今はユラのだよ」
「でも、まえ、セレス」
「そうだね。昔は私が着てた」
そのやり取りを聞いていたフェルナが、自分の服を見下ろした。
「フェルナのお下がりも誰か着る?」
「大きさが合えばな」
「ユラ?」
「たぶん今のユラには大きい」
「じゃあ未来のユラ!」
「その頃には別の服があるんじゃない?」
リシェルが言うと、フェルナは少し残念そうな顔をした。どうやら自分の服も誰かに着てもらいたくなったらしい。
昨日までなら、古い服など着られなくなれば布として使うだけのものだった。ところが、一着の上着がセレスからユラへ渡ったことで、七人にとっては急に別の意味を持ち始めたようだった。
◇
朝飯のあとは、冬支度の続きをすることになった。
昨日出した服の中には、そのままでは使えないものがいくつもある。袖を足すもの、縫い目を直すもの、紐を付け替えるもの。急に全部を終わらせる必要はないが、本格的に寒くなる前には使える状態にしておきたい。
俺とセレスが裁縫を始め、リシェルとミレアも自分でできるところを手伝う。ラグナとフェルナには薪を家の近くへ運んでもらい、ノエルは乾かしている冬用の敷物の様子を見ることになった。
ユラはというと、最初から俺の横に座っていた。
「ユラもする」
「昨日針を使ったからって、今日は全部できるわけじゃないぞ」
「できるところする」
「じゃあ、この糸をこっちへ通してみるか」
「うん」
昨日よりは手つきがいい。
針穴へ糸を通すのには苦労していたが、失敗するたび俺の顔を見ることも減っている。三度目でようやく通ると、ユラは声を上げず、得意そうに俺へ見せた。
「できた」
「できたな」
「ユラ、じょうず?」
「昨日より上手い」
それで十分嬉しいらしい。
セレスも隣から覗き込み、「ほんとだ。昨日より早かったね」と褒めた。
ユラは上着の袖口まで嬉しそうに撫でる。
「これも、セレスがした?」
「その服?」
「うん」
「どうだったかな。まだ小さかったから、お父さんがほとんど直したと思うよ」
「セレス、できなかった?」
「昔はね」
ユラは少し驚いた。
「セレスも?」
「私だって最初から何でもできたわけじゃないよ」
「いま、できる」
「今は前よりね」
セレスはそう言って、手元の上着へ針を通す。確かに、今では俺が見ていなくても簡単な補修くらいなら任せられる。
ユラはしばらくその指先を見たあと、自分が通したばかりの糸を見つめた。
たぶん、未来の自分と今のセレスを重ねているのだろう。
◇
昼前になり、薪を運び終えたラグナとフェルナが戻ってきた。
「終わった!」
「ちゃんと崩れないように置いたか?」
「置いた!」
「ラグナが確認した!」
「フェルナも確認した!」
二人とも鼻の頭が少し赤い。外は朝より日が出ているものの、風は冷たくなっていた。
「じゃあ手を洗ってこい。昼飯にする」
「今日お芋?」
「昨日も食っただろ」
「まだある!」
「あるけど、毎食芋だけにする気か?」
「できる!」
「しない」
そんな話をしながら昼食を作っていると、フェルナがユラの上着に気づいた。
「まだ着てる!」
「うん」
「ずっと着る?」
「うん」
「寝る時も?」
ユラが考える。
「きる」
「寝る時は脱げ」
俺が止めると、不満そうな顔をされた。
「どうして?」
「寝にくいし、皺になる。それに汚れたら洗うんだから、その時は脱がないといけない」
そこで。
ユラの顔が変わった。
「よごれる?」
「服なんだから汚れることもあるよ」
「これも?」
「そりゃな」
ユラは袖を見る。
急に心配そうになった。
「セレスのなのに?」
セレスがすぐ訂正する。
「今はユラのだよ」
「でも、セレスのだった」
「そうだけど」
「よごしていい?」
「着てたら汚れるよ」
セレス自身は何でもないことのように答えたが、ユラは納得できないらしい。
その後、昼飯を食べる時も上着の袖を何度も確認していた。
◇
午後。
ユラの様子が明らかに変わった。
外へ出ようとしない。
「ユラ、行かない?」
フェルナが誘う。
「いかない」
「何で?」
「ここいる」
「遊ばない?」
「あとで」
珍しい。
普段ならフェルナについて走ることはなくても、姉たちが家の近くで遊んでいれば見に行くくらいはする。
「眠いのか?」
俺が聞いても首を横へ振る。
「じゃあ好きにしろ」
無理に遊ばせるものでもない。
俺は冬服の補修を続けた。
しばらくして、今度はリシェルが水を汲みに行こうとする。
「ユラ、一緒に来る?」
「いかない」
「いつも来るのに」
「きょうはいかない」
「寒いから?」
「ちがう」
リシェルは少し考えたが、それ以上は聞かずに出ていった。
さらに時間が経つ。
ユラは座ったまま。
何度も上着を撫でている。
ようやく。
俺にも分かった。
「ユラ」
「なに?」
「服、汚したくないのか?」
ぴたりと手が止まった。
返事はない。
「だから外へ行かない?」
「……うん」
「脱いで行けばいいだろ」
「いや」
「何で?」
「きる」
難しい。
着たい。
でも汚したくない。
その二つを同時に叶えようとして、何もしないことにしたらしい。
「その服、ずっと家の中だけで着るのか?」
「うん」
「それでもいいけどな」
「いい?」
「ああ。ユラの服なんだから、どう着るかはある程度ユラが決めていい」
少し安心した顔になった。
ただ。
「でも、服は汚れても直したり洗ったりできるぞ」
「きれいになる?」
「汚れによるな。落ちない汚れもある」
また顔が曇る。
正直に言いすぎたかもしれない。
けれど、絶対元通りになると言う方がおかしい。
「破れることもあるしな」
「……やぶれる?」
「今まで何回も直してあるだろ」
袖や裾には、昔俺が縫った跡が残っている。
ユラはそれを見つめた。
「セレス、やぶった?」
「たぶんな」
「セレス……」
「別に悪いことじゃないぞ」
「でも、やぶった」
「服なんて着て動けば破れることもある」
ユラは。
ますます上着を大事そうに抱え込んだ。
どうやら俺の説明は、完全に逆効果だった。
◇
夕方前。
事件は起きた。
外へ出ないと決めたはずのユラが、戸口のところでノエルと話していた。
「鶏、出てきた?」
「一回」
「たまごは?」
「まだ」
「みる」
卵だけは見たかったらしい。
「上着そのままで行くのか?」
俺が聞くと、ユラは迷った。
それでも。
「いく」
「走らなければ、そんなに汚れないよ」
セレスが言う。
「うん」
ユラは慎重に。
本当に慎重に外へ出た。
普段なら気にもしない地面の泥を避ける。
木の枝からも離れる。
物置へ着き、入口から鶏を見る。
「まだ」
「まだだね」
ノエルが答える。
二人で少しだけ眺め。
家へ戻ろうとした。
その時だった。
風が吹いた。
物置の横へ立ててあった空の小さな籠が倒れ、地面を転がる。
「あ」
ユラの足元へ向かう。
避ければいい。
それだけだった。
だが。
ユラは籠に驚いて一歩下がった。
そこには。
昨日掘った畑から運んできた土が、少しだけ残っていた。
足が滑る。
「ユラ」
ノエルが手を伸ばしたが、間に合わない。
ユラは尻もちをついた。
怪我をするような転び方ではなかった。
「大丈夫か?」
俺もすぐ近くにいたので声をかける。
ユラは。
返事をしない。
「どこか痛い?」
セレスも駆け寄る。
それでも答えない。
そして。
ユラは自分の袖を見た。
茶色い泥が。
べったりついていた。
◇
「……よごれた」
「それくらいなら洗えば――」
「よごれた」
声が震えている。
「ユラ、怪我は?」
「セレスの……」
「ユラ」
「セレスの、おようふく……」
次の瞬間。
大粒の涙が落ちた。
「よごしちゃった……」
泣き始めた。
転んでも。
痛くて泣いているわけではない。
服だ。
「ユラ、大丈夫だよ」
セレスがしゃがみ込む。
「洗えば――」
「ごめんなさい……」
「何で謝るの?」
「セレスの、よごした……」
「だから、今はユラのだよ」
「でも……セレスのだった……」
泣きながら袖を隠そうとする。
その手まで土で汚れていた。
セレスは困った顔をした。
少し離れたところでは。
他の姉妹も集まっている。
誰も笑わない。
フェルナでさえ。
泥くらい大丈夫とは言わなかった。
◇
セレスはしばらくユラを見ていた。
それから。
「ねえ、ユラ」
「……なに」
「その服、私が着てた時も汚したよ」
ユラが泣いた顔を上げる。
「ほんと?」
「たぶん、いっぱい」
「おぼえてる?」
「全部は覚えてない。でも、外で遊んだし、転んだこともあるし、お父さんに洗ってもらったこともある」
「これ?」
「その服だったかは分からないけどね」
セレスは袖の補修跡を指先で触る。
「ここだって、たぶん私が何かして破ったから、お父さんが直したんだと思う」
「セレス、やぶった?」
「うん」
「わるいこと?」
「わざとじゃないよ」
「じゃあ?」
セレスは少し考えた。
「着てた」
「きてた?」
「服だから、着てた。遊んだり、仕事したり、転んだりしてた。だから汚れたり破れたりしたんだと思う」
ユラは。
泥のついた袖を見る。
「でも、きれいだった」
「昨日見つけた時?」
「うん」
「お父さんが洗って、しまってくれてたからだよ」
そこで俺を見る。
「そうだよね?」
「ああ。しまう前には洗った」
「じゃあ、ユラのも洗える」
「この程度ならたぶん落ちるよ」
「ほんと?」
「やってみないと分からないけどな」
また余計な一言だったらしい。
セレスが俺を見た。
「お父さん」
「嘘つくよりいいだろ」
「そうだけど」
ユラは。
まだ涙を浮かべながら。
「おちなかったら?」
と聞いた。
◇
今度は。
俺より先にセレスが答えた。
「そのまま着ればいいよ」
「よごれたまま?」
「うん」
「いいの?」
「ユラが嫌じゃなければ」
「でも……」
「その汚れは、今日ユラが転んだところでしょ」
「うん」
「じゃあ今度、昔の服を出した時に見たら、『ここで転んだ』って思い出すかもしれないよ」
ユラが。
黙る。
昨日。
七人が選んだ布。
きれいなところばかりではなかった。
セレスは破れた場所。
ラグナも大きく裂けた跡。
フェルナは耳の穴。
リシェルは字を書く時につけた汚れ。
ミレアやノエルは昔の目印。
ユラ自身も。
初めて針を持った時の。
不格好な補修跡を選んだ。
「ユラ」
リシェルが近くから言った。
「私が残した布も汚れてるよ」
「くろいやつ?」
「うん。昔、字を書くの失敗してつけたやつ」
「きれいじゃない」
「でも残したかった」
「どうして?」
「覚えてたから」
ラグナも。
「ラグナのは破れてる!」
「知ってる」
「でも好き!」
「フェルナのも穴ある!」
「それは耳の穴だろ」
「穴は穴!」
少しずつ。
いつもの声が戻ってきた。
◇
ユラは。
自分の袖をもう一度見た。
泥。
泣いたせいで。
そこへ少し涙まで落ちている。
「これも、のこす?」
「まだ残すほど古くないだろ」
俺が言うと。
フェルナが笑った。
「ユラ、今から昔にする!?」
「できないよ」
セレスも笑う。
ユラは。
ようやく少しだけ口元を緩めた。
「……あらう」
「じゃあ脱ぐか」
「うん」
今度は。
素直に上着を脱いだ。
セレスが受け取ろうとしたが。
ユラは手放さない。
「ユラする」
「洗うの?」
「うん」
「一人で?」
「セレス、てつだう?」
セレスは。
少し驚いたあと。
「手伝うよ」
と答えた。
「いる?」
「いる」
昨日の。
セレスとラグナの話を思い出したらしい。
まず聞く。
必要なら頼る。
それが。
こんなところでも出てきた。
◇
水は冷たいので。
少し温める。
汚れたところへいきなり強く擦りつけるのではなく、先に泥を落とす。
「こう?」
「もう少し優しく」
セレスが教える。
「強くしたら?」
「布が傷むかも」
「必要なだけ」
「そう。必要なだけ」
ラグナが横から反応した。
「ラグナのやつ!」
「誰の言葉でもないよ」
ユラは。
真剣だった。
水へ浸し。
少しずつ。
泥を落とす。
一度では消えない。
「まだある」
「もう一回」
「うん」
何度か繰り返すと。
茶色かった跡は。
かなり薄くなった。
完全に同じ色ではない。
濡れているせいもある。
「きれいになった?」
ユラが聞く。
「乾かさないと分からないな」
今度は。
その答えでも泣かなかった。
「じゃあ、まつ」
「今日は待つものが多いな」
物置の卵も。
洗った上着も。
すぐには答えが出ない。
◇
上着を干す。
ユラは。
その前へ座った。
「そこでずっと見てるのか?」
「うん」
「乾くまでかなりかかるぞ」
「まつ」
ノエルが物置から戻ってくる。
「卵もまだ」
「こっちもまだ」
ユラが上着を指差す。
「一緒」
「だいぶ違うけどな」
俺の言葉は。
二人とも聞いていない。
「どっち先?」
ノエルが聞く。
「おようふく」
「たぶん」
「ひなは?」
「もっとあと」
妙な競争になった。
◇
夕飯の頃。
上着はまだ少し湿っていた。
「今日着られない?」
「無理だな」
「夜まで?」
「火の近くへ置けば乾くかもしれないけど、近づけすぎるなよ」
「ユラ、さむい」
「別の服あるだろ」
昨日出した冬服の中から。
別の一枚を着せる。
それでも。
ユラは何度も洗った上着を見る。
「そんなに好きか?」
「うん」
「セレスのだったから?」
少し考えて。
「それも」
「他には?」
「ユラのだから」
昨日までは。
セレスの昔の服。
それが一番大きかった。
けれど。
今日。
自分で着て。
自分で転んで。
自分で汚して。
自分で洗った。
少しずつ。
本当にユラの服になり始めたのかもしれない。
◇
夕飯の途中。
セレスがユラへ聞いた。
「明日、乾いたらどうする?」
「きる」
「外も?」
ユラの手が止まった。
考える。
長い。
全員が答えを待つ。
「……きる」
「汚れるかもよ?」
「うん」
「転ぶかも」
「ころばない」
「それは分からないよ」
ユラは。
少し困った顔をした。
「じゃあ……ころぶかも」
「それでも着る?」
また考えた。
「きる」
「そっか」
セレスが笑う。
「じゃあいっぱい着て」
「セレス、いい?」
「だから今はユラの服だよ」
「でも、セレスのだった」
「うん」
「セレス、いやじゃない?」
セレスは。
昔の自分の上着を見る。
「嫌じゃないよ」
「よごれても?」
「うん」
「やぶれても?」
「直せるなら直せばいいし、直せなくなるまで着たなら、それだけいっぱい使ったってことだから」
それは。
どこか。
俺が言いそうなことだった。
「お父さん」
フェルナが俺を見る。
「何だ?」
「セレス、お父さんみたいなこと言った!」
「そうか?」
「言った!」
「じゃあセレス、お父さん?」
「違うよ」
「お母さん?」
「もっと違う!」
セレスが慌てた。
全員が笑った。
ユラまで。
今度は普通に笑っていた。
◇
夜。
寝る頃には。
上着はほとんど乾いていた。
「まだ少し湿ってるから明日の朝まで置いとけ」
「うん」
今日は。
別の服で寝床へ入る。
ユラは。
何度も上着を見たが。
取りに行こうとはしなかった。
「お父さん」
「何だ?」
「おようふく、よごれてもだいじ?」
「大事かってことか?」
「うん」
「汚れたら大事じゃなくなるのか?」
「……ならない」
「じゃあそういうことだろ」
「やぶれたら?」
「直せるなら直す」
「なおらなかったら?」
「布として使うこともできる」
「ちょっと、のこす?」
「残したければな」
「じゃあ、なくならない?」
昨日も。
似たことを聞かれた気がする。
「形は変わるかもしれないよ」
「かたち」
「上着じゃなくなる日も来る」
「でも?」
「ユラが着てたことは変わらない」
少し。
静かになる。
「セレスがきてたことも?」
「ああ」
「ふたりの?」
「そうなるな」
ユラは。
満足したのか。
布団の中へ潜った。
◇
翌朝。
俺が起きると。
ユラは。
もう上着の前にいた。
触る。
袖。
裾。
背中。
「かわいた」
「そうだな」
「ここ」
昨日の泥がついた場所。
かなりきれいになっている。
けれど。
よく見れば。
薄く跡が残っていた。
「まだちょっとある」
「ああ」
俺は。
何と言うか迷った。
だが。
ユラは泣かなかった。
むしろ。
指でその場所を撫でてから。
「きのう、ころんだところ」
と言った。
「そうだな」
「ユラの?」
「ああ」
「セレスのと、ユラの」
「そうだな」
上着を着る。
前を留める。
袖を伸ばす。
「お父さん」
「何だ?」
「そと、いってくる」
「転ぶなよ」
言ってから。
昨日の話を思い出す。
「いや、転んでも怪我しないように気をつけろ」
「うん!」
戸を開ける。
外では。
もうフェルナが待っていた。
「ユラ! 行く!?」
「いく!」
「走る!?」
「はしらない!」
「じゃあ歩く!」
二人で出ていく。
ユラは。
昨日までのように。
泥だけを見て歩いてはいなかった。
姉の隣を歩き。
時々上着を見る。
それでも。
足を止めない。
◇
大事なものは。
しまっておけば。
きれいなまま残る。
誰も触らず。
誰も着なければ。
破れることも。
汚れることも少ない。
けれど。
服は。
着るためにある。
昨日まで。
セレスの思い出だった上着には。
今日から。
ユラの思い出も増えていく。
泥の跡。
自分で洗ったこと。
泣いたこと。
姉に大丈夫だと言ってもらったこと。
いつか。
また小さくなった時。
あの布へ一部を縫い足す日が来るかもしれない。
その時。
ユラは。
どの場所を残したいと言うのだろう。
昨日までなら。
セレスの昔の縫い跡を選んだかもしれない。
今なら。
自分が初めて汚した袖を。
選ぶかもしれない。
物は。
使えば古くなる。
けれど。
古くなることと。
大事でなくなることは。
どうやら。
同じではないらしい。




