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第70話 寒くなったので冬服を出したら、七人とも大きくなっていました

 朝、戸を開けた瞬間に入ってきた空気が、昨日までとは少し違っていた。


 寒いというほどではない。けれど、裸足のまま外へ出れば土の冷たさがはっきり分かり、吐いた息にもほんの少しだけ白さが混じる。


 山の木々も、いつの間にか色を変え始めていた。


「お父さん、寒い!」


 フェルナが家から飛び出してきて、両腕を自分の体へ巻きつける。


「なら何でそんな勢いで外へ出たんだ」


「寒いか確かめた!」


「分かったなら中へ戻れ」


「うん!」


 走って戻った。


 何をしに来たのか分からない。


 後ろから出てきたセレスは、フェルナほど大げさではなかったものの、腕をさすりながら空を見上げた。


「昨日より寒いね」


「ああ。そろそろ厚い服を出した方がいいな」


「前に着てたの?」


「しまってあるはずだ。昼までに一度全部出してみるか」


 そう答えると、なぜかフェルナが家の中から顔だけ出した。


「服いっぱい出す!?」


「出すだけだぞ」


「宝探し?」


「服探しだ」


「昔の服ある?」


「あると思う」


「見る!」


 どうやら今日は、それだけで一つの遊びになるらしい。


     ◇


 朝の仕事を済ませたあと、俺たちは家の奥にしまってあった箱をいくつか引っ張り出した。


 湿気ないよう乾燥させた草と一緒にしまっていた厚手の服、上着、布、手袋、足を包むもの。七人分ともなれば、それなりの量になる。


「これ誰の?」


 ラグナが一枚の上着を持ち上げた。


「たぶんセレス」


「私?」


 セレスが受け取って広げる。


 確かに、以前セレスが着ていたものだ。色も飾りもほとんどない簡単な作りだが、袖や裾には何度も直した跡が残っている。


「着てみたら?」


 俺が言うと、セレスは今着ている服の上から腕を通した。


 途中までは普通だった。


 だが、最後まで袖を通すと。


「……短い」


 手首がかなり出た。


「ほんとだ!」


 フェルナが寄ってくる。


「セレス姉、大きくなった!」


「服が縮んだんじゃない?」


「多少は縮むかもしれないが、そこまでじゃないな」


 裾も以前より明らかに上へ来ている。


 肩回りも少し窮屈そうだ。


「もう着られない?」


 セレスが聞く。


「そのままならな。袖を足せばまだ使えるかもしれない」


「じゃあ直す?」


「全部確認してから決めよう。セレスだけじゃないだろうし」


 その言葉通りだった。


     ◇


「ラグナ、これ!」


「待て。前を留めろ」


「留まらない!」


「やっぱりか」


 ラグナの上着は、丈より先に胸と肩が問題だった。


 以前は余裕のあった服なのに、今は腕を動かすたび布が引っ張られる。


「ラグナ強くなったから?」


「筋肉だけでそこまで変わる年じゃない。普通に体が大きくなったんだろ」


「強くなった!」


「大きくなったって言ってる」


「大きい方が強い!」


「必ずじゃない」


 本人はかなり嬉しそうなので、もう好きにさせる。


 フェルナは上着そのものより、頭を覆う部分で困った。


「耳!」


 黒い獣耳が途中で引っかかっている。


「前もそこ直しただろ」


「前より狭い!」


「頭も大きくなったんじゃないか?」


「フェルナ頭大きい!?」


「その言い方だと別の意味に聞こえるな」


「どういう意味?」


「気にしなくていい」


 耳を出すために作った穴の位置も、今では少し合わなくなっていた。体だけでなく、顔や頭の形まで少しずつ変わっているのだろう。


 リシェルは袖。


 ミレアは丈。


 ノエルは肩。


 そして。


「ユラ、ぴったり」


 最後に服を着たユラだけは、妙にちょうどよかった。


「本当だ」


 セレスが裾を見る。


「でもそれ、ユラのじゃないよね?」


「違うな」


「誰の?」


 俺は少し考えた。


 布の色。


 直した場所。


 袖口にある小さな縫い跡。


「たぶんセレスの、もっと前のだ」


「私の?」


 セレスが驚いた。


 ユラは自分の服を見る。


 次にセレスを見る。


「セレスの?」


「昔ね。もう覚えてないくらい前」


「ユラ、きていい?」


「もちろん」


 セレスは笑う。


「似合ってるよ」


 ユラは自分の袖を見つめ、それから少しだけ胸を張った。


「セレスのおようふく」


 気に入ったらしい。


     ◇


 そこから。


 服の確認は、いつの間にか誰が昔何を着ていたかを当てる遊びになった。


「これはフェルナ!」


 ラグナが自信満々に言う。


「何で分かるの?」


「ここ破れてる!」


「それだけで!?」


「フェルナいっぱい動くから!」


「ラグナだって破る!」


「ラグナはこっち!」


 別の服を持ち上げる。


 肘のところに大きな補修跡がある。


「何でそれラグナ?」


 セレスが聞く。


「いっぱい破れてる!」


「結局同じじゃない」


「でもラグナの気がする!」


 俺が確認すると。


「それはラグナだな」


「ほら!」


「何で分かったんだ……」


「ラグナだから!」


 理由になっていない。


 けれど。


 姉妹というのは。


 案外そういうもので分かるのかもしれない。


 ノエルは。


 服の大きさではなく、袖口の汚れ方を見ていた。


「これはリシェル」


「どうして?」


「ここ」


 指差した先には、薄い黒い跡がある。


「字を書くやつ?」


 リシェルが近づく。


「たぶん」


「あ」


 本人も覚えているらしい。


「昔、書いてる途中で手についたの、そのまま服触った」


「洗っても残ったやつか」


「うん」


 リシェルは。


 少し恥ずかしそうに。


 それでも嬉しそうに、その服を受け取った。


     ◇


「お父さん」


 ミレアが俺を呼んだ。


「何だ?」


「これは?」


 小さな上着だった。


 他のものより。


 ずっと小さい。


「誰の?」


 聞かれて。


 俺はすぐには答えられなかった。


 見覚えはある。


 かなり古い。


 縫い方も。


 今よりずっと下手だ。


「ああ」


 思い出した。


「それ、たぶん最初の頃に作ったやつだ」


「誰の?」


「……誰だったかな」


「分からない?」


「七人分一気に作ってた頃だからな」


 当時。


 家には。


 突然七人の子供が増えた。


 着ているものも。


 体の大きさも。


 種族も違う。


 使える布を集め。


 足りなければ古い服をほどき。


 夜まで縫って。


 朝になったらまた直した。


 一人分ずつ。


 きれいに覚えている余裕なんてなかった。


「これ」


 セレスが服の裏側を見る。


「ここに印ある」


 小さな糸が。


 三本だけ。


 並んで縫われている。


「あ」


 思い出した。


「ミレアだ」


「私?」


「ああ。最初の頃、お前らの服が分からなくなるから、糸の数を変えてた時があった」


「三本が私?」


「たしかな」


「七人分あった?」


「一本から七本まで」


 七人が。


 一斉に自分の昔の服を裏返し始めた。


「フェルナ何本!?」


「待て待て、全部に残ってるとは限らんぞ」


 昔の話だ。


 服を直すたび印まで縫い直していたわけではない。


 それでも。


 何着かには残っていた。


「五本!」


 ノエルが見つける。


「それ私?」


「たぶんな」


「ラグナ二本!」


「じゃあ二番目?」


「違うよ。順番に意味はない」


「何で二本?」


 ラグナが聞く。


「俺が適当に決めたから」


「もっと強そうなのがよかった!」


「糸の本数に強さなんてない」


 フェルナは四本。


 リシェルにも残っている。


 セレスの古い服には一本。


 ユラのものには七本。


「七!」


 ユラが嬉しそうに指で数える。


「いっぱい!」


「一番多いな」


「ユラ、いちばん?」


「糸がな」


 何でも一番になりたがる姉たちとは違い。


 ユラはそれだけで満足らしい。


     ◇


 服の山は。


 少しずつ三つに分かれた。


 そのまま着られるもの。


 直せば着られるもの。


 もう小さすぎて、どう直しても着られないもの。


「これは?」


 フェルナが自分の昔の服を持つ。


「もう無理だな」


「直したら?」


「布を足せば服の形にはできるけど、新しく作った方が早い」


「じゃあどうする?」


「使えるところは別のものに使う」


「何に?」


「雑巾とか」


「えっ」


 フェルナが固まった。


「嫌なのか?」


「これ、フェルナの服」


「今は着られないだろ」


「でもフェルナの」


「だから?」


「雑巾……?」


 どうやら。


 想像していなかったらしい。


 ラグナまで。


 自分の古い服を胸へ抱えた。


「ラグナのも?」


「着られないものはな」


「これ、いっぱい直した!」


「だから布もだいぶ傷んでる」


「雑巾……」


「何でそんなに悲しそうなんだ」


 俺にとっては。


 古くなった布を。


 最後まで使うだけの話だ。


 服として使えなくなったら。


 別のものへ使う。


 それも無理になれば。


 火を起こす時に使うこともある。


 物は。


 いつか使えなくなる。


 だが。


 七人には。


 少し違って見えているらしい。


     ◇


「捨てるの?」


 セレスが聞く。


「今すぐ全部じゃないよ」


「でも最後は?」


「使えなくなったらな」


 少し。


 静かになる。


「服なくなったら」


 リシェルが言った。


「昔着てたの、分からなくなる?」


「服がなくても、お前が着てたことまでなくなるわけじゃないぞ」


「でも見られない」


「まあな」


 七人は。


 それぞれ古い服を見る。


 何度も洗ったせいで。


 色が薄くなっている。


 破れた場所を。


 違う布で直したものもある。


 俺が縫ったもの。


 セレスが縫い方を覚えてから手伝ったもの。


 リシェルが初めて自分で直して、糸が少し曲がったもの。


 フェルナが木へ引っかけた跡。


 ラグナが力を入れすぎて裂いた跡。


 どれも。


 きれいな服ではない。


 新品でもない。


 だが。


 七人にとっては。


 それだけではないようだった。


「残したい?」


 俺が聞く。


 セレスが頷く。


「全部じゃなくていいけど」


「じゃあ全部残す必要はないな」


「いいの?」


「お前らの服だろ。置く場所に困らない範囲なら、好きにすればいい」


 フェルナがすぐに。


「これ残す!」


 と一着抱えた。


「一人で全部選ぶなよ」


「フェルナの!」


「そういう意味じゃない。残したい服が増えすぎたら箱いっぱいになるぞ」


 七人が。


 服の山を見る。


 少し冷静になった。


     ◇


「小さく切ったら?」


 言ったのはミレアだった。


「切る?」


 セレスが聞く。


「全部残すんじゃなくて、好きなところだけ」


 ミレアは自分の昔の服を広げ。


 袖の端を指差した。


「ここ」


「そこだけ残すの?」


「うん」


「残りは?」


「使う」


 俺は。


 少し考えた。


「それなら場所は取らないな」


 リシェルも。


 すぐ意味を理解したらしい。


「一着から一枚ずつ?」


「それなら、あとで何の服か分からなくならない?」


 セレスが言う。


「板に書く」


「また記録」


「こういう時のためでしょ」


「まあ、そうだね」


 話が進んでいく。


 すると。


 ユラが首を傾げた。


「きったら、おようふく、なくなる」


「そうだね」


「いや?」


 ミレアが聞く。


 ユラは。


 自分が今着ている。


 昔セレスが着ていた上着を見る。


「これは、きらない」


「それはまだ着られるから切らないよ」


「よかった」


 服には。


 まだ次の役目が残っている。


     ◇


「切った布、どうする?」


 ラグナが聞いた。


「箱?」


「なくしそう」


 ノエルが言う。


「板に貼る?」


「布は剥がれるかも」


「じゃあ袋!」


 フェルナが言う。


「袋の中に布?」


「いっぱい入れる!」


「それだと見えないよ」


 七人が。


 また悩み始めた。


 俺は。


 裁縫道具を取り出しながら。


「つなげるか?」


 と言った。


「何を?」


「布」


「どうやって?」


「縫えばいい」


 小さな布を。


 一枚ずつ。


 端でつないでいく。


 すぐに大きなものにはならない。


 だが。


 これからも。


 服は小さくなる。


 破れる。


 使えなくなる。


 その中で。


 残したい部分だけを足していけばいい。


「何になる?」


 セレスが聞く。


「大きくなれば膝掛けくらいにはなるかもな」


「八人入る?」


「膝掛けに八人は入らないだろ」


「大きくしたら?」


「何年かかるんだ」


「でも服、いっぱいある!」


 フェルナが服の山を見た。


「全部切る気か?」


「駄目?」


「まだ使えるものまで切るな」


「じゃあ使えないの!」


「それなら好きにしろ」


 こうして。


 予定になかった仕事が一つ増えた。


     ◇


 最初に切る服を選んだのは。


 セレスだった。


「これにする」


 選んだのは。


 袖口を何度も直した古い上着。


「本当にいい?」


「うん。もう着られないし」


「どこ残す?」


 リシェルが聞く。


 セレスは。


 少し考えてから。


 補修してある場所を指した。


「ここ」


「きれいなところじゃないの?」


 フェルナが聞く。


「こっちの方が覚えてるから」


 昔。


 妹たちの薪を運ぼうとして。


 一度に抱えすぎ。


 枝へ引っかけて裂いたことがあったらしい。


「セレス姉もいっぱい持ってた?」


 ラグナが笑う。


「昔はね」


「ラグナみたい!」


「そうかも」


 今では。


 妹たちへ「無理しなくていい」と言うセレスにも。


 そういう頃があった。


「じゃあここ」


 四角く切る。


 古い縫い跡が。


 そのまま残った。


     ◇


 ラグナは。


 一番大きく裂けた跡を選んだ。


「これ!」


「やっぱりそこか」


「ラグナが破った!」


「自慢することじゃないよ」


 セレスが笑う。


「でも今は破らない!」


「たまに破るだろ」


「前より!」


「それはそう」


 フェルナは。


 黒い布の端。


 小さな穴が二つ並んだ部分を選んだ。


「耳のところ?」


 ノエルが聞く。


「うん!」


「今より小さい」


「耳が?」


「穴」


「フェルナの耳、大きくなった!」


 本人は。


 なぜか嬉しいらしい。


 リシェルは。


 薄く汚れた袖口。


 昔、字を書く時につけた跡。


 ミレアは。


 三本の糸が残っている部分。


「最初の印?」


「うん」


 ノエルは。


 五本の印が残った古い布。


 そしてユラは。


 なかなか決められなかった。


「どれ残す?」


 セレスが聞く。


 ユラは。


 何着かある小さな服を順番に触る。


 最後に。


 一枚を持ち上げた。


「これ」


 裾のところに。


 かなり不格好な補修跡がある。


「ああ」


 俺には覚えがあった。


「それ、ユラが初めて自分で針を持った時のやつだな」


「ユラが?」


「ほとんど俺が手伝ったけどな」


 針を持つだけで怖がり。


 布を一度刺すたびに。


 俺の顔を見ていた。


「おとうさんとした?」


「ああ」


 ユラは。


 迷わなくなった。


「これにする」


     ◇


 七枚。


 色も。


 形も。


 布の厚さも違う。


「どう並べる?」


 リシェルが聞く。


「好きに並べろ」


「順番ある?」


「ない」


「お姉ちゃん順?」


 セレスが提案する。


「嫌!」


 フェルナがすぐに言った。


「何で?」


「フェルナ真ん中がいい!」


「じゃあ私も真ん中!」


 ラグナまで言う。


「真ん中一個しかないよ」


「二個にする!」


「七枚だから一個だよ」


「じゃあ大きくする!」


「布の数は増えない」


 また始まった。


「丸にする?」


 ミレアが言う。


「丸?」


「真ん中なし」


 全員が。


 一瞬考える。


「それ!」


 フェルナが飛びついた。


「みんな隣!」


 七枚では。


 きれいな丸にはならない。


 だが。


 円になるよう並べることくらいはできる。


 真ん中には。


 別の布を入れればいい。


「真ん中何にする?」


 ラグナが聞く。


 七人の視線が。


 なぜか俺へ向いた。


「何だよ」


「お父さん」


「俺?」


「お父さんの服!」


「何で俺のまで切るんだ」


「八人!」


 フェルナが言う。


「七人のじゃなくて、家族のにする!」


 そういうことらしい。


     ◇


「使えない服なら一着くらいあるだろ」


 七人に押され。


 俺も古い箱を探すことになった。


 自分の服は。


 七人ほど残していない。


 着られなくなれば。


 直す。


 それでも駄目なら。


 別の用途に使っていた。


 だから。


 ちょうどいいものは。


 すぐには見つからなかった。


「ない?」


 ユラが不安そうに聞く。


「待て。たしか……」


 箱の底。


 古い布の下。


 一着だけ。


 かなり擦り切れた上着が残っていた。


「あった」


「お父さんの!?」


「ああ」


 七人が集まる。


「昔の?」


「そうだな」


「七人来る前?」


 セレスが聞く。


 俺は。


 少し記憶を探る。


「たぶん」


 その言葉で。


 七人の反応が変わった。


「七人いない時のお父さんの服?」


 フェルナが。


 いつもより静かに聞く。


「ああ」


「切っていいの?」


「もう着ないよ」


 随分前から。


 使っていない。


 それなのに残っていたのは。


 たぶん。


 たまたまだ。


「どこ切る?」


 ミレアが聞く。


「好きなところでいい」


「お父さんが決めて」


「俺?」


「自分のだから」


 セレスも頷く。


 仕方なく。


 上着を見る。


 胸。


 袖。


 裾。


 どこでもいい。


 そう思ったが。


 一箇所だけ。


 他より色が薄くなっている場所があった。


 左の肩。


「じゃあここ」


「何かある?」


 リシェルが聞く。


「昔、薪を背負う時に一番擦れてた」


「それだけ?」


「それだけ」


 七人が。


 少し笑った。


「お父さんらしい」


「何が?」


「好きなところじゃなくて、いっぱい使ったところ選ぶ」


 セレスに言われた。


 そういうものだろうか。


     ◇


 七人の布を。


 俺の布の周りへ並べる。


 形は。


 かなり不格好だ。


 色も合っていない。


 きれいでもない。


 だが。


「これがいい」


 ミレアが言う。


「まだ縫ってないぞ」


「並べただけでも」


「うん」


 ノエルも見ている。


「全部違う」


「そりゃ服が違うからな」


「でも一個になる」


 なるほど。


 そういう見方もあるらしい。


 縫うのは。


 全員でやることになった。


 といっても。


 ユラやフェルナへ全部任せるわけにはいかない。


 俺とセレスが中心。


 リシェルとミレアも。


 できるところを少し。


 ラグナは。


 針を持つ指へ力を入れすぎた。


「曲がった!」


「針に力はいらないって」


「細い!」


「だからだ」


「難しい!」


「今日はよく聞くな」


 フェルナは。


 縫う速度だけ上げようとして。


 糸を絡ませた。


「止まった!」


「速ければいいわけじゃない」


「あれ?」


「どっかで聞いたな」


「棒!」


 覚えていた。


 ノエルは。


 他人が縫うところを見る方が好きらしい。


「ここ、ずれてる」


「本当だ」


「こっちも」


「よく見えるな」


 そしてユラは。


 針を一回通すたび。


 やっぱり俺を見る。


「できた」


「ああ」


「つぎ?」


「そこから戻す」


「こう?」


「そう」


「できた」


 昔と。


 あまり変わっていない。


 でも。


 今日は。


 俺が手を添えなくても。


 自分で針を持てている。


     ◇


 夕方になる頃。


 八枚の布は。


 ようやく一つにつながった。


 まだ。


 膝掛けと呼べるほど大きくない。


 両手で広げられる程度。


「小さい」


 ラグナが言う。


「八枚しかないからな」


「もっといる!」


「これから増やすんだろ」


「明日増やす?」


「明日急に服が小さくなってたら困る」


「じゃあいつ?」


「そのうち」


 フェルナが。


 つながった布を持ち上げる。


「これ、大きくなる?」


「お前らがまた服を着られなくなったらな」


「じゃあフェルナたちが大きくなったら、これも大きくなる!」


「そういうことになるな」


「すごい!」


 俺も。


 その言葉で初めて気づいた。


 七人が育つたび。


 少しずつ布が増える。


 布が増えるたび。


 この小さなものも。


 少しずつ大きくなる。


「どこまで大きくする?」


 セレスが聞く。


「好きなところまで」


「八人で使えるくらい?」


「相当いるぞ」


「じゃあそれ」


「本気か?」


「うん」


 他の六人も。


 当然のように頷いた。


     ◇


 夕飯の前。


 冬服の整理を。


 ようやく終えた。


 そのまま着られるもの。


 直して着るもの。


 妹へ渡すもの。


 別の用途へ使うもの。


 そして。


 小さな一部だけ。


 あの布へ残すもの。


「これ、ユラの」


 ユラは。


 セレスの昔の上着を着たまま。


 袖を見ている。


「今はな」


 セレスが答える。


「前は私の」


「つぎは?」


「ユラが着られなくなったら?」


「うん」


「誰か着られる子がいれば、その子」


「いなかったら?」


「直すか、別のものにする」


「きる?」


「残したかったら少しね」


 ユラは。


 考える。


「じゃあ、なくならない?」


 セレスは。


 すぐには答えなかった。


 代わりに。


 つながった布を見る。


「同じ形ではなくなるかもしれない」


「かたち?」


「服じゃなくなる。でも、少し残る」


「ユラの?」


「うん。私のでもあったやつ」


 ユラは。


 納得したように。


 上着を両手で抱いた。


     ◇


 夜。


 予想より冷えたので。


 七人は今日出した厚い服を。


 さっそく着ていた。


 袖を足す必要があるものは。


 明日から直す。


 今夜は。


 使えるものだけ。


 そして。


 八枚の布を縫い合わせた小さなものは。


 リシェルが記録板の近くへ置いた。


「そこに置くの?」


 俺が聞く。


「忘れないところ」


「なくさないならいいけど」


「名前いる?」


 フェルナが聞く。


「何の?」


「これ!」


「まだ何にもなってないぞ」


「なる途中!」


 なる途中。


 それなら。


 名前がなくても困らない気がする。


「大きくなってからでいいんじゃないか?」


「忘れる!」


「何を?」


「名前つけるの!」


「じゃあ今つけろ」


 また。


 七人で相談が始まった。


「八人の布!」


「そのまま」


「おうちの布」


「家じゃないよ」


「思い出?」


「難しい」


「大きくなるやつ!」


「長い」


 なかなか決まらない。


 俺は。


 先に布団へ入ることにした。


     ◇


 しばらくして。


 部屋が静かになった。


「名前決まったか?」


 暗闇で聞く。


「決まらなかった」


 セレスが答えた。


「なら別にいいだろ」


「うん」


「何かになってから決めればいい」


「お父さん」


「何だ?」


「今日の服」


「ああ」


「私、本当にあんなに小さかった?」


「もっと小さい時もあったよ」


「覚えてる?」


「全部じゃないけどな」


「ラグナも?」


「小さかった」


「フェルナも?」


「小さかった」


「リシェルも?」


「七人ともだよ」


 少し間が空く。


「お父さんは?」


「何が?」


「大きくなった?」


「俺はもうそんなに変わらない」


「ずるい!」


 フェルナが言った。


「何がずるいんだ」


「服ずっと着られる!」


「俺だって破れたり古くなったりするよ」


「でも小さくならない!」


「それはな」


 また少し。


 笑い声が起きる。


     ◇


「お父さん」


 今度はユラ。


「何だ?」


「ユラ、おおきくなる?」


「ああ」


「これ、ちいさくなる?」


 たぶん。


 セレスの上着のことだ。


「そのうちな」


「いつ?」


「分からない」


「まだきる」


「着られる間は着ればいい」


「ちいさくなったら?」


「次を作る」


「おとうさんが?」


「お前も手伝えばいい」


「できる?」


「今日針使ってただろ」


「できた」


「なら前より手伝える」


 ユラは。


 しばらく黙る。


「じゃあ、いい」


 何がいいのか。


 聞かなくても。


 たぶん分かった。


 小さくなる服は。


 なくなるものではない。


 次が必要になったということだ。


     ◇


 七人を拾った頃。


 俺が考えていたのは。


 今日着るものがあるか。


 夜に寒くないか。


 破れていないか。


 それくらいだった。


 すぐに大きくなるからと。


 少し余裕を持たせて作った服もある。


 それが。


 いつの間にか。


 本当に小さくなっている。


 毎日見ていると。


 分からない。


 昨日と今日で。


 急に背が伸びるわけではない。


 朝起きたら。


 突然腕が長くなっているわけでもない。


 けれど。


 前の季節の服を着せれば。


 分かる。


 袖が足りない。


 裾が短い。


 肩が窮屈。


 耳の穴の位置まで変わった。


 七人は。


 ちゃんと。


 少しずつ大きくなっている。


 物置では。


 鶏がまだ卵を温めている。


 畑には。


 次へ残した芋がある。


 そして家の中には。


 八枚の古い布を縫い合わせた。


 まだ何になるのか決まっていないものが一つ。


 これから。


 七人が大きくなるたびに。


 そこへ新しい布が増えるらしい。


 いつか。


 本当に八人で使えるほど大きくなった時。


 七人は。


 どれくらい大きくなっているのだろう。


 そんなことを考えながら。


 俺は。


 七人分の寝息を聞いていた。

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