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第39話 七人でいる日は、やっぱり少しうるさい



 七人それぞれとの。


 二人の日が終わった翌朝。


「今日は!」


 フェルナが。


 朝飯の途中で立ち上がった。


「八人の日!」


「毎日八人の日だろ」


「違う!」


「何が違うんだ」


「ずっと二人の日だった!」


「一日に二人だけで出かけてただけだ」


「でも今日は誰も独り占めしない!」


「独り占めって言うな」


「じゃあ」


 ラグナが手を上げる。


「みんなでどっか行く?」


「行く!」


「ノエルも」


「わたしも!」


 ユラ。


 セレスとミレアまで。


 少し期待した顔をしている。


 リシェルだけは。


「どこ?」


 と、先に行き先を聞いた。


「まだ決めてない!」


 フェルナが答える。


「フェルナが決めるの?」


「みんなで決める!」


「じゃあ、まだ決まってない」


「そう!」


「何でそんなに自信満々なの」


 セレスが呆れる。


     ◇


「みんなで行くなら」


 俺は考えた。


「沢の上の草原でも行くか」


「草原!」


「何ある!?」


 フェルナが聞く。


「草」


「それだけ!?」


「草原だからな」


「花は?」


 ミレア。


「今なら少し咲いてる」


「行きたい」


「虫いる?」


 ノエル。


「たくさん」


「行く」


「走れる?」


 ラグナ。


「広いからな」


「行く!」


「おべんとう?」


 ユラ。


「ああ」


「行く!」


「全員決まったな」


「リシェルは?」


 セレスが聞く。


「行く」


「理由は?」


「みんな行くから」


「それでいいの?」


「今日は八人の日だから」


 フェルナが。


 嬉しそうに。


「そう!」


 と叫んだ。


     ◇


 弁当を作る。


 水を持つ。


 必要な道具を確認する。


 その間。


 七人が。


 まあ。


 うるさい。


「フェルナ、それ自分の袋!」


「こっち大きい!」


「それ父さんの!」


「じゃあいっぱい入る!」


「勝手に入れるな!」


「ラグナ、食べ物増やしすぎ!」


「お腹減る!」


「まだ家出てない」


「ノエル、虫入れる箱持ってかないの」


「見るだけ」


「じゃあ何で箱あるの?」


「もし抜け殻あったら」


「ユラ、水筒逆さ!」


「こぼれてない」


「今からこぼれる!」


「リシェル、何書いてるの?」


「持っていくもの」


「もう全部入れたよ?」


「確認」


「ミレア、それ何?」


「布」


「何に使うの?」


「座る時」


「セレス!」


「なに!?」


「みんなうるさい!」


「一番うるさいのフェルナ!」


「違う!」


 俺は。


 入口で。


 しばらく見ていた。


「…………」


「お父さん?」


 ユラが気づいた。


「どうしたの?」


「いや」


「なに?」


「二人の日って静かだったんだなと思って」


「ひどい!」


 七人から。


 一斉に抗議された。


     ◇


 森へ入る。


 今日は。


 誰か一人と並ぶ日ではない。


 先頭にフェルナ。


 その後ろにラグナ。


 途中でノエルが止まり。


 ミレアがそれを待ち。


 セレスが全体を見る。


 ユラは俺の近く。


 リシェルは少し後ろ。


「フェルナ!」


 俺が呼ぶ。


「なにー!?」


「遠く行くな!」


「行ってない!」


「声が遠い!」


「聞こえてるから大丈夫!」


「そういう話じゃない!」


 すると。


「フェルナ!」


 セレスまで呼ぶ。


「戻って!」


「はーい!」


 素直に戻ってくる。


「俺の時より聞くな」


「セレス姉怒ると長い」


「聞こえてるよ」


「ほら!」


     ◇


「あ」


 ノエルが止まる。


「これ」


 木の根元。


 小さな白い花。


「昨日なかった」


「昨日ここ来たの?」


 ラグナ。


「来てない」


「じゃあ分からないじゃん」


「この前なかった」


「いつ?」


「覚えてない」


「それ分かるの?」


「分かる」


 ラグナが。


 俺を見る。


「お父さん分かる?」


「分からん」


「ほら!」


「でもノエルには分かるんだろ」


「うん」


 ノエルは。


 花を見ながら頷く。


「じゃあいいか」


 ラグナも。


 すぐ納得した。


 前なら。


 もう少し。


 どっちが正しいかで揉めたかもしれない。


     ◇


 沢を越え。


 緩い坂を上る。


「まだ?」


 フェルナ。


「もう少し」


「まだ?」


「さっき聞いただろ」


「もう少しってどれくらい?」


「少し」


「分かんない!」


「歩けば着く」


「それ一番分かんない!」


 後ろから。


 ミレアが笑った。


「フェルナ、待てるようになったんじゃなかったの?」


「待てる!」


「じゃあ待って」


「歩きながら待つ!」


「それでいいでしょ」


 セレス。


「でも聞く!」


「聞くのは止めないんだ」


     ◇


 やがて。


 木々が途切れる。


 視界が開いた。


「わあ!」


 七人の声。


 山の斜面に。


 広い草地。


 春の柔らかい草。


 ところどころに。


 黄色。


 白。


 薄紫。


 小さな花が咲いている。


「広い!」


 ラグナが走る。


「転ぶなよ!」


「平気!」


 フェルナも続く。


「競争!」


「する!」


「待て、お前ら!」


 もう遅い。


 二人は。


 草原を。


 一気に駆けていく。


「セレス姉」


 ミレアが言う。


「止めなくていいの?」


「ここなら崖ないし」


「穴は?」


「父さん?」


「大きいのはない」


「じゃあいい」


 セレスも。


 最近。


 止める基準が少し変わった。


 何でも止めるんじゃなく。


 本当に危ないかどうか。


 考えるようになった。


     ◇


「お父さん」


 ユラが。


 俺の手を掴む。


「はな」


「ああ」


「いっぱい」


「そうだな」


「つんでいい?」


「少しだけな」


「なんで?」


「全部取ったら、来年減るかもしれない」


「…………」


「見るだけのも残しとけ」


「ノエルみたい?」


「そうだな」


「わかった」


 ユラは。


 花を選ぶ。


 一本。


 また一本。


「これは?」


「いいぞ」


「これは?」


「それはまだ小さい」


「じゃあやめる」


 すぐ隣。


 ノエルは。


 花ではなく。


 葉の裏を見ていた。


「何いる?」


 ユラが聞く。


「卵」


「たまご?」


「虫の」


「…………」


 一歩下がった。


「見ない?」


「見る」


 戻った。


「でもさわらない」


「うん」


     ◇


 リシェルは。


 少し離れた場所で。


 草原を見渡している。


「何考えてる?」


 俺が聞く。


「家からここまで」


「ああ」


「どれくらい歩いたか」


「時間?」


「距離」


「測るのか?」


「だいたい」


「何のため?」


「また来る時」


「道覚えればいいだろ」


「別の道もあるかもしれない」


「なるほど」


「あと」


 草の流れを見る。


「風が強い」


「ああ」


「家の近くと違う」


「木が少ないからな」


「もしここに家作ったら」


「作るのか?」


「考えるだけ」


「はいはい」


「屋根、強くしないと駄目」


「そうだな」


「雪も多い?」


「冬は積もる」


「じゃあ住みにくい」


「結論早いな」


「今のところ」


「あとで変わる?」


「考えたら」


 相変わらずだった。


     ◇


 昼。


 八人で。


 布を敷いて座る。


「お腹減った!」


 ラグナ。


「走るからだ」


「フェルナも!」


「減った!」


「お前ら同じ量な」


「ラグナの方がいっぱい走った!」


「フェルナの方が速かった!」


「量の話どこ行った」


 握り飯を配る。


「お父さん」


 ミレアが。


 俺の隣へ座る。


「ここ、いいね」


「ああ」


「静か」


「…………」


 その瞬間。


「ラグナそれフェルナの!」


「同じだろ!」


「大きさ違う!」


「一緒!」


「返して!」


「こら!」


 セレスの声。


 ミレアが。


 草原を見る。


「……場所は静か」


「人がうるさいな」


「うん」


 二人で笑った。


     ◇


 飯を食べ終わる。


 すると。


「お父さん!」


 フェルナが立つ。


「遊ぼ!」


「何する?」


「追いかけっこ!」


「七人でやれ」


「八人の日!」


「そういう時だけ便利に使うな」


「お父さんも!」


「嫌だ」


「なんで!」


「飯食ったばかりだからだ」


「じゃあ少し待つ!」


「待てるのか?」


「うん!」


「どれくらい?」


「…………」


 フェルナが。


 草の上に座る。


「これくらい?」


「早い」


「もう?」


「早い」


「まだ?」


「早い」


「待つの難しい!」


 ラグナまで。


「もういい?」


「お前はまだ何も言ってないだろ」


     ◇


 しばらく休んで。


 結局。


 追いかけっこをすることになった。


「お父さんが鬼!」


「何でだ」


「一番強いから!」


「追いかけっこに強さ関係あるか?」


「速い!」


「ラグナより?」


「たぶん!」


「じゃあ勝負!」


「話聞け!」


 始まった。


 七人が散る。


 広い草原。


 危険な場所もない。


 俺も。


 少しくらい。


 本気で追ってやる。


「フェルナ!」


「きゃあああ!」


「待て!」


「待たない!」


 方向を変える。


 ラグナ。


「来た!」


「逃げろ!」


「勝負!」


「逃げる遊びだぞ!」


「捕まえに行く!」


 逆に突っ込んできた。


「お前は何でそうなる!」


     ◇


 ノエルは。


 草に伏せていた。


「見えてるぞ」


「…………」


「ノエル」


「草と同じ」


「全然違う」


「惜しい」


「どこがだ」


 頭を軽く触る。


「捕まえた」


「次もっと隠れる」


「それはエル……じゃないな」


 危ない。


 俺の頭の中で。


 どこか知らない名前が浮かびかけた。


「何?」


「何でもない」


「変なお父さん」


「忘れろ」


     ◇


 ミレアは。


 走らず。


 俺が近づくのを待っていた。


「逃げないのか?」


「疲れた」


「始まったばかりだぞ」


「みんな速いから」


「じゃあ捕まえるぞ」


「うん」


 頭に手を置く。


「捕まった」


「悔しくない?」


「別に」


「そうか」


「でも」


 俺が離れようとすると。


 服の端を掴まれた。


「何だ?」


「少し休んでから行って」


「鬼が休んだらみんな有利だな」


「いいでしょ」


「まあいいか」


     ◇


 セレスは。


 妹たちを見ながら逃げる。


「セレス!」


「はい!」


「自分の遊びに集中しろ!」


「だってユラ転びそう!」


「俺が見る!」


「でも!」


「今日は俺もいる!」


「…………」


 一瞬。


 迷う。


 その間に。


 頭を触る。


「捕まえた」


「あ!」


「油断したな」


「ずるい!」


「遊びながら姉やるからだ」


「だって」


「今日は少し任せろ」


「…………分かった」


 そう言って。


 セレスは。


 今度こそ。


 本気で走り出した。


「お父さん遅い!」


「言ったな!」


 速かった。


     ◇


 ユラは。


 俺が近づくと。


 逃げた。


 三歩。


 四歩。


 五歩。


「わっ」


 草に足を取られる。


 すぐ。


 俺が抱える。


「捕まえた」


「ころんでない」


「転ぶ前に捕まえたからな」


「もういっかい」


「まだ終わってない」


「じゃあおろして」


「はいはい」


 地面へ下ろす。


「今度はちゃんと逃げろ」


「うん!」


 走り出す。


 今度は。


 少しゆっくり。


 足元を見ていた。


     ◇


 リシェルだけ。


 見当たらない。


「…………」


 どこだ。


 木はない。


 隠れる場所も少ない。


「リシェル!」


 返事なし。


 よく見る。


 草原の端。


 大きな岩。


 その影。


「見つけた」


「早い」


「そこしか隠れる場所ないぞ」


「だから」


 リシェルが出てくる。


「みんなが走ってる間に移動した」


「考えたな」


「でも見つかった」


「ああ」


 頭を触る。


「次は?」


「もっと考える」


「遊びまで考えすぎるなよ」


「楽しいからいい」


     ◇


 最後。


 残ったのは。


 フェルナとラグナ。


 なぜか。


 二人とも。


 逃げるどころか。


 並んで立っていた。


「何してる?」


「作戦!」


「どんな?」


「秘密!」


「聞いた俺が悪かった」


「ラグナ!」


「うん!」


 二人が。


 左右へ分かれた。


 なるほど。


 俺がどちらかを追えば。


 片方が逃げる。


「お父さん!」


 フェルナ。


「こっち!」


「こっち!」


 ラグナ。


「鬼を呼ぶなよ」


 二人とも。


 全力。


 なら。


「…………」


 俺は。


 追わなかった。


「え?」


「来ない!」


 二人が止まる。


「お前ら」


「なに!?」


「止まったな」


「あ」


 真ん中へ。


 一気に走る。


「逃げろ!」


「わあ!」


 二人。


 慌てて走り出す。


 だが。


 遅い。


 フェルナの頭。


「一人」


「きゃあ!」


 ラグナの頭。


「二人」


「なんでえええ!」


 草原に。


 悲鳴が響いた。


     ◇


 帰る頃には。


 七人とも。


 かなり疲れていた。


「お父さん」


 フェルナが。


 俺の背中を見る。


「何だ?」


「おんぶ」


「歩け」


「疲れた」


「走りすぎだ」


「八人の日なのに」


「それ関係ない」


「ユラは?」


 見る。


 ユラは。


 俺の手を握っている。


「歩いてるぞ」


「じゃあフェルナも」


「歩け」


「むう」


 ラグナも。


 少しふらふらしている。


「ラグナもおんぶ」


「お前まで言うな」


「じゃあ」


 セレスが。


 笑いながら言った。


「二人で支え合って歩けば?」


「それ!」


 フェルナが。


 ラグナの肩へ腕を回す。


「重い!」


「ラグナも!」


「じゃあこう!」


 二人で。


 肩を組む。


「歩きにくい!」


「そっち速い!」


「フェルナが遅い!」


「やっぱ別!」


「何してるんだ」


     ◇


 家へ戻る。


 夕飯を食べる。


 風呂代わりに体を拭く。


 そして。


 寝る頃。


「お父さん」


 セレスが。


 小さく言った。


「今日は楽しかった?」


「ああ」


「二人の日より?」


 それを聞いて。


 フェルナも。


 ラグナも。


 ノエルも。


 ユラも。


 リシェルも。


 ミレアも。


 こちらを見る。


「また比べるのか?」


「ちょっと気になる」


「そうだな」


 俺は。


 七人を見る。


「二人の日も楽しい」


「うん」


「今日も楽しい」


「どっちが一番?」


 フェルナ。


「だから一番はない」


「また!」


「一人ずつ見る時間も欲しい」


「ああ」


「八人で騒ぐ時間も欲しい」


「…………」


「両方あればいいだろ」


 七人が。


 顔を見合わせる。


「じゃあ」


 ミレアが。


 少し笑う。


「今日は八人の日でよかった?」


「ああ」


 俺が答えるより早く。


「よかった!」


 フェルナが叫んだ。


「ラグナも!」


「ノエルも」


「わたしも」


「私も」


「うん」


「楽しかった」


 結局。


 全員。


 同じ答えだった。


     ◇


 七人。


 一人ずつ見ると。


 それぞれ違う。


 でも。


 七人揃うと。


 また別の顔になる。


 騒がしくて。


 喧嘩して。


 誰かが走り。


 誰かが止め。


 誰かが見つけ。


 誰かが考え。


 誰かが俺の袖を掴む。


 静かな二人の日を知ったからこそ。


 余計に分かる。


 やっぱり。


 七人揃った我が家は。


「お父さん!」


「今度は何だ!」


「フェルナが布団取った!」


「取ってない!」


「ラグナが蹴った!」


「寝てた!」


「まだ寝てないでしょ!」


「ユラこっちおいで」


「ノエルの場所ない」


「少し詰めて」


「リシェル、そこで考えないで寝て」


「もう寝る」


「お父さん!」


「はいはい!」


 ――かなり。


 うるさい。


 それでも。


 この騒がしさが。


 俺には。


 一番よく知っている。


 家の音だった。


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