表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/46

第27話 約束したって、危ない日はやめる



 冬も。


 少しずつ深くなってきた。


 朝起きれば。


 雪。


 昼になっても。


 雪。


 夜。


 寝る前に窓を見ても。


 やっぱり雪。


「お父さん」


「なんだ?」


「山って」


 フェルナが。


 窓の外を見ながら言った。


「冬はずっと白いの?」


「だいたいな」


「飽きない?」


「俺に聞くな」


「フェルナちょっと飽きた」


「この前まで大喜びだっただろ」


「最初は!」


「贅沢だな」


 とはいえ。


 最近は雪が深すぎて。


 遊べる場所も。


 少し限られている。


「お父さん!」


 フェルナが。


 突然振り返った。


「大きい家作ろう!」


「今あるだろ」


「雪の!」


「雪で?」


「うん!」


 両手を。


 大きく広げる。


「八人入れるくらい!」


「それは結構大変だぞ」


「ラグナいる!」


「何で私が全部やる前提なの?」


「強いから!」


「またそれ!」


「でも作れる?」


 ラグナも。


 少し興味があるらしい。


「まあ」


 外を見る。


 今日は。


 風も弱い。


「明日も天気がよかったらな」


「ほんと!?」


「ああ」


「約束!?」


「天気がよかったら」


「約束!」


「条件を消すな」


「やったああ!」


 聞いていない。


     ◇


 その夜。


 雪が。


 強くなった。


 ごうううう。


 風まで。


 家の壁を揺らす。


「…………」


 俺は。


 寝る前に。


 窓の外を見る。


 白い。


 何も見えない。


「明日は無理だな」


「なにが?」


 後ろ。


 セレス。


「雪の家」


「ああ」


「できない?」


「このままならな」


「…………」


 セレスも。


 外を見る。


「危ない?」


「ああ」


「じゃあやめる?」


「もちろん」


「フェルナ」


「怒るかな」


「……たぶん」


「先に言っとくか」


     ◇


「ええええええええっ!」


 怒った。


「約束した!」


「天気がよかったらって言った」


「でも約束!」


「だから」


「明日作るって言った!」


「条件付きでな」


「約束破るの!?」


 黒い耳が。


 ぺたん。


 尻尾まで。


 しゅんと下がっている。


「破るっていうか」


 俺は。


 窓を指差す。


「外見ろ」


「雪!」


「風も強い」


「でも雪の家!」


「家作る前にお前が雪に埋まる」


「埋まらない!」


「今日の昼でも腰くらいまであっただろ」


「掘る!」


「吹雪の中で?」


「…………」


「前見えないぞ」


「フェルナ夜でも見える!」


「雪で何も見えなくなる」


「…………」


 少し。


 黙る。


「でも」


「ああ」


「約束した」


 今度は。


 小さな声だった。


     ◇


 どうやら。


 遊びができないことより。


 そっちの方が大事らしい。


「フェルナ」


「なに」


「約束って」


「ああ」


「何があっても絶対やることだと思ってる?」


「……うん」


「誰に聞いた?」


「本」


 また本か。


 リシェルが。


 少し気まずそうに。


 本棚を見る。


「約束は守りましょうって」


「ああ」


「書いてあった」


「それは間違ってない」


「じゃあ!」


「でも」


 俺は。


 窓の方を見る。


「明日、雪の家を作るために外へ出て」


「ああ」


「誰か怪我したら?」


「…………」


「それでも約束守ったから偉い?」


「…………」


「雪に埋まって帰れなくなっても?」


「やだ」


「だろ」


 フェルナが。


 口を尖らせる。


「じゃあ約束って」


「ああ」


「守らなくてもいい?」


「そういうことでもない」


「むずかしい!」


「そうだな」


     ◇


「できる約束は守る」


 俺は。


 指を一本立てる。


「うん」


「できなくなったら」


 二本。


「ちゃんと話す」


「なんで?」


「待ってる相手がいるから」


「…………」


「勝手にやめて」


「ああ」


「何も言わないのは駄目」


「うん」


「それから」


 三本。


「危ないのに、約束したからって無理するのも駄目」


「…………」


 ラグナが。


 手を上げる。


「たとえば」


「ああ」


「お父さんが狩りから帰るって言った日」


「うん」


「帰り道が崩れてたら?」


「別の道を探す」


「それも危なかったら?」


「安全なところで夜を越すかもしれない」


「約束破る?」


「予定より遅くはなるな」


「でも」


 セレスが続ける。


「帰るため?」


「ああ」


「無理して崖から落ちるより?」


「そっちの方がいいだろ」


「…………」


 七人。


 少し考えている。


「じゃあ」


 ミレア。


「約束より」


「ああ」


「大事なこともある?」


「ある」


「何?」


「命とか」


「…………」


「約束守るために死んだら」


 肩をすくめる。


「次の約束できないだろ」


「それはやだ」


 ユラが。


 すぐ言った。


「おとうさん、しなない」


「そのつもりだ」


「やくそく?」


「できるだけ長生きする」


「ぜったい?」


「絶対は言えない」


「…………」


 頬を膨らませる。


「でも」


 俺は。


 小さな頭を撫でる。


「自分から無茶して死ぬようなことはしない」


「ほんと?」


「ああ」


「やくそく」


「それなら約束」


 ユラが。


 少し安心した。


     ◇


「じゃあ」


 フェルナが。


 まだ納得しきれない顔で聞く。


「明日の雪の家は?」


「中止」


「…………」


「天気がよくなったら作る」


「いつ?」


「分からない」


「明後日?」


「天気次第」


「その次?」


「天気次第」


「ずっと雪だったら?」


「春まで無理かもな」


「えええええ!」


「その代わり」


「なに!?」


「明日は家の中で遊ぶ」


「何する!?」


 復活が早い。


「まだ決めてない」


「今決める!」


「もう寝る時間だ」


「じゃあ寝ながら考える!」


「それは勝手にしろ」


     ◇


 翌朝。


 外は。


 予想通り。


 吹雪だった。


 扉を少し開ける。


 ぶわっ。


「うわっ!」


 雪が。


 一気に入ってくる。


「閉めろ!」


 ばたん。


「…………」


 フェルナが。


 真っ白になった。


「どうだった?」


 ラグナ。


「…………」


 頭。


 耳。


 肩。


 全部雪。


「無理」


「だろ」


 フェルナが。


 ぶるぶる。


 頭を振る。


 雪が飛ぶ。


「家の中でやる!」


「何を?」


「雪の家!」


「雪を持ち込むな!」


「じゃあ家の家!」


「何だそれ」


「家の中に家!」


「…………」


 意味は分からない。


 だが。


 リシェルが。


 毛布を見た。


「できる」


「何が?」


「椅子と毛布」


「…………」


「ああ」


 なるほど。


     ◇


 椅子。


 机。


 毛布。


 縄。


 それを。


 居間へ集める。


「ここ!」


 フェルナ。


「もっと高く!」


「椅子の上に椅子乗せるな」


「なんで!」


「倒れる」


「ラグナ押さえる!」


「ずっと?」


「…………」


「遊ぶために一日椅子持ってるのか?」


「嫌」


「だろ」


「じゃあ低くする」


 リシェルが。


 椅子と机の位置を。


 何度も変える。


「ここに毛布」


「ああ」


「反対側も」


「うん」


「入口」


「小さい」


 ラグナ。


「フェルナなら入る」


「ラグナ入れない!」


「大きくする?」


 ミレア。


「でも毛布足りない」


「もう一枚使うか」


 俺が。


 古い毛布を持ってくる。


「お父さん!」


「なんだ」


「それ使っていいの!?」


「破くなよ」


「やった!」


     ◇


 しばらくして。


 居間の真ん中に。


 妙なものが完成した。


「できた!」


 毛布の家。


 高さは。


 俺の腰くらい。


「八人入る?」


 ユラ。


「無理じゃないか?」


「入る!」


 フェルナが。


 まず潜る。


「フェルナ!」


「いる!」


 ラグナ。


「入る」


「狭い!」


「詰めて!」


 セレス。


 ミレア。


 リシェル。


 ノエル。


 ユラ。


 全員。


 入る。


「…………」


 毛布が。


 膨らんでいる。


「お父さん!」


「なんだ」


「入って!」


「無理だろ」


「八人の家!」


「七人で限界だ」


「約束!」


「してない!」


「家族みんな!」


「それも約束じゃない!」


 中から。


「おとうさん!」


 ユラ。


「ここ!」


「…………」


 仕方なく。


 入口へ。


 這う。


「狭い」


「もっと!」


「頭つかえる」


「お父さん大きい!」


「お前らが小さいんだ」


 何とか。


 上半身だけ入る。


「足!」


 フェルナ。


「外」


「全部!」


「無理」


「曲げて!」


「俺をどう収納するつもりだ!」


     ◇


 結局。


 椅子を。


 もう二脚追加。


 毛布も増やした。


「できた!」


「今度こそ」


 八人。


 何とか入った。


「…………」


 暗い。


 狭い。


 暖かい。


「お父さん」


 ノエル。


「ん?」


「ここで食べる」


「何を」


「木苺」


「こぼすなよ」


「うん」


「お父さん」


 リシェル。


「この形」


「ああ」


「支え増やした方が広くできる」


「遊びながら改良するな」


「でも次もっと大きく」


「家そのもの作る気か」


「お父さん」


 ミレア。


「外の音」


「ああ」


 ごうううう。


 風。


 雪。


 窓の向こう。


 吹雪。


「すごいね」


「ああ」


「でも」


 毛布の中を見る。


「ここ暖かい」


「八人いるからな」


「狭いから?」


「それも」


     ◇


「お父さん」


 セレスが。


 隣で聞く。


「もし」


「ああ」


「昨日、フェルナが泣いて」


「うん」


「それでも作るって言ったら?」


「外で?」


「うん」


「止める」


「嫌われても?」


「止める」


「…………」


「どうした?」


「約束って」


 少し考える。


「相手が喜ぶためだけのものじゃない?」


「違うと思うぞ」


「嫌がっても?」


「危ないならな」


「…………」


「お父さんが」


 ラグナ。


「駄目って言う時」


「ああ」


「私たちが嫌でも?」


「嫌われる覚悟はする」


「…………」


「でも」


 俺は。


 七人を見る。


「危ないことを『約束したから』ってやらせる方が嫌だ」


 少し。


 静かになる。


「フェルナ」


「なに?」


「昨日、怒った?」


「怒った」


「今も?」


 外。


 吹雪。


 見る。


「…………怒ってない」


「何で?」


「外無理」


「だろ」


「でも」


 フェルナが。


 毛布の天井を見る。


「こっちも楽しい」


「ならよかった」


「雪の家も作る!」


「晴れたらな」


「うん!」


 今度は。


 ちゃんと条件まで。


 聞いた。


     ◇


 昼。


 毛布の家の中で。


 飯を食いたい。


 という話になった。


「スープは駄目」


「なんで!」


「こぼす」


「こぼさない!」


「八人がこの狭さで器持ったら絶対誰かやる」


「誰?」


「フェルナ」


「なんで!」


「お前」


 ラグナ。


「ラグナまで!」


「じゃあパン」


 セレス。


「それならいい」


「肉も?」


「皿使わないなら」


「木苺」


 ノエル。


「お前は聞く前から持ってるな」


「うん」


 結局。


 簡単な昼飯を。


 毛布の中へ運んだ。


「いただきます!」


 八人。


 狭い。


 フェルナの尻尾が。


 俺の膝に乗っている。


 ラグナの肩が。


 セレスへ当たっている。


 ユラは。


 当然のように。


 俺の隣。


「おとうさん」


「なんだ?」


「ここ、おうち?」


「家の中の家だな」


「ユラのおうち?」


「みんなの」


「…………」


「どうした?」


「おとうさんも?」


「ああ」


「じゃあいい」


 パンを食べる。


 満足らしい。


     ◇


 午後。


 毛布の家は。


 さらに改造された。


「ここ本置く!」


 リシェル。


「重くするな」


「一冊だけ」


「ここ木苺!」


 ノエル。


「食料庫にするな」


「ここ剣!」


 ラグナ。


「木剣持ち込むな」


「ここ、くま!」


 フェルナ。


「それは好きにしろ」


 木彫りの熊だけ。


 正式に。


 毛布の家へ引っ越した。


「くまの家!」


「いつから熊の家になった」


「みんなの!」


「ならいい」


     ◇


 夕方。


「そろそろ片づけるぞ」


「えええええ!」


「夕飯作れない」


「この中で!」


「火使えないだろ」


「…………」


「それに椅子戻す」


「明日また作る!」


「それはいい」


「約束!?」


 フェルナ。


「明日も家の仕事が終わって」


「ああ」


「毛布使っていいならな」


「……条件いっぱい」


「大事だぞ」


「分かった!」


 七人で。


 毛布を畳む。


 椅子を戻す。


 縄。


 机。


「遊んだ後は片づける」


 セレス。


「うん」


 フェルナも。


 今日は文句を言わない。


     ◇


 夜。


 外の風は。


 少しだけ。


 弱くなっていた。


「お父さん」


 ラグナ。


「なんだ?」


「約束」


「ああ」


「できなくなった時は」


「話す」


「勝手に消えない」


「ああ」


「危ない時は」


「やめることもある」


「相手が怒っても?」


「ああ」


「…………」


「でも」


 ミレアが続ける。


「別にできる方法があったら?」


「それを考える」


「今日みたいに?」


「そうだな」


 フェルナ。


「外の雪の家はできなかった」


「ああ」


「でも中の家できた」


「ああ」


「じゃあ」


 少し考えて。


「約束、半分守った?」


「違う」


「違うの!?」


「雪の家はまだ守ってない」


「…………」


「晴れたら作るんだろ?」


「うん!」


「ならまだ途中だ」


「…………」


 フェルナが。


 にっと笑う。


「忘れないでね!」


「お前が絶対忘れさせないだろ」


「うん!」


     ◇


「おとうさん」


 ユラ。


「なんだ?」


「おとうさんとのやくそく」


「ああ」


「いっぱいある?」


「少しはな」


「ユラ、わすれた」


「俺も全部覚えてない」


「いいの?」


「大事なのは覚えてる」


「なに?」


「お前らを勝手に追い出さない」


「…………」


「困ったら助ける」


「うん」


「帰るって言ったら、帰るようにする」


「うん」


「それから」


「うん」


「無茶して死なない」


「それ!」


「覚えてたか」


「うん!」


「なら俺も覚えてる」


 ユラが。


 満足そうに。


 毛布へ潜った。


     ◇


 約束は。


 守った方がいい。


 当たり前だ。


 でも。


 約束したから。


 危ないことまで。


 無理にやる必要はない。


 できなくなったなら。


 ちゃんと話す。


 謝る必要があるなら。


 謝る。


 別の方法があるなら。


 一緒に考える。


 それでいい。


 少なくとも。


 我が家では。


「約束したから死んでもやる」


 なんて。


 教えるつもりはなかった。


 ……もっとも。


 翌朝。


 吹雪が止んだ瞬間。


「お父さん!」


「まだ朝だぞ」


「晴れた!」


「…………」


「雪の家!」


「朝飯」


「食べる!」


「着替え」


「する!」


「歯」


「磨く!」


「仕事」


「全部やる!」


 フェルナは。


 約束の方を。


 一つも。


 忘れていなかった。


 どうやら。


 今日の俺は。


 八人入れる雪の家を作るまで。


 逃げられそうになかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ