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第25話 待っているのも、大事な仕事だ



 冬の食料庫を見て。


 俺は。


 少しだけ困った。


「……肉が減ったな」


 足りないわけではない。


 豆も。


 芋も。


 干した茸もある。


 ただ。


 八人いる。


 冬は長い。


 食べ盛りも多い。


「お父さん」


 背後から。


 セレス。


「どうしたの?」


「肉が少ない」


「なくなる?」


「今すぐじゃない」


「じゃあ?」


「天気いいし、狩りに行ってくる」


 その瞬間。


「フェルナも!」


 どこから聞いていた。


「私も行く!」


 ラグナまで来た。


「私も」


 セレス。


「待て待て」


 さらに。


「お父さん、狩り?」


 ミレア。


「どこまで?」


 リシェル。


「肉?」


 ノエル。


「おとうさんいく?」


 ユラ。


 結局。


 七人集まった。


「全員で来る気か?」


「うん!」


 フェルナ。


「遠いぞ」


「平気!」


「雪も深い」


「平気!」


「獲物が逃げる」


「…………」


 フェルナの耳が。


 ぺたん。


「静かにする」


「できる?」


「できる!」


 ラグナを見る。


「…………」


「なんで私見るの?」


「お前も足音大きい」


「小さく歩く」


「ノエル」


「寒いから行かない」


「一人だけ正しい判断したな」


「でも肉は食べる」


「それも正直だな」


     ◇


「今日は俺一人で行く」


 言った瞬間。


 七人の顔が。


 少し曇った。


「なんで?」


 フェルナ。


「大人数で歩くより、俺一人の方が獲物に気づかれにくい」


「でも」


 ラグナ。


「危ない?」


「山だからな」


「じゃあ私も」


「だから大人数になるだろ」


「二人だけ」


「お前、まだ狩り全部覚えてない」


「…………」


「今度」


 少し考える。


「雪がもう少し落ち着いたら、一人ずつ連れていく」


「ほんと!?」


「話を聞ける奴からな」


 フェルナが。


 口を閉じた。


 ものすごく。


 姿勢まで良くなった。


「今から聞ける」


「今日は留守番」


「…………」


「そんな顔するな」


     ◇


「お父さん」


 セレスが聞く。


「何時に帰る?」


「日が暮れる前」


「絶対?」


「絶対とは言えない」


「…………」


 すぐ。


 顔が曇る。


「獲物が見つからなかったら遅くなるかもしれない」


「ああ」


「雪で歩きにくかったら?」


「遅くなる」


「怪我したら?」


「もっと遅くなるかもな」


「…………」


「でも」


 俺は。


 セレスの頭へ手を置く。


「無茶はしない」


「ほんと?」


「ああ」


 金色の目。


「……ほんと」


「確認された」


「だって」


「心配?」


 セレスが。


 少しだけ迷って。


「うん」


「そうか」


 前なら。


 たぶん。


 言わなかった。


 心配だ。


 寂しい。


 怖い。


 そういう言葉を。


 少しずつ。


 言えるようになってきた。


「じゃあ」


 俺は言う。


「今日のお前らの仕事は」


「ああ」


「待つこと」


「待つだけ?」


 ラグナ。


「待つだけ」


「仕事なの?」


「家を守って」


「ああ」


「暖炉の火を見て」


「ああ」


「昼飯食って」


「うん」


「俺が帰った時に」


 七人を見る。


「全員ちゃんと家にいる」


「…………」


「それが今日の仕事」


 フェルナが。


 手を上げる。


「お父さん探しに行ったら?」


「仕事失敗」


「…………」


「絶対駄目?」


「絶対駄目」


「むぅ」


「何か本当に困ったことが起きたら?」


 セレス。


「まず七人で考える」


「ああ」


「駄目なら?」


「俺が戻るまで危なくないようにする」


「うん」


「火事とかなら?」


「その時は家から出ろ」


「分かった」


「でも」


 リシェルが聞く。


「お父さんが帰らなかったら?」


「…………」


「いつまで待つ?」


 難しいことを聞く。


「今夜中に帰らなかったら」


 少し考える。


「明るくなってから考えろ」


「探しに行く?」


「場所が分からないなら下手に動くな」


「じゃあ?」


「俺がどっちに行ったか」


 地図代わりに。


 床へ指で線を描く。


「今日は北側の森」


「ここ?」


「そう」


「戻る道は?」


「この沢沿い」


「…………」


「でも」


 俺は念を押す。


「今日中に戻るつもりだ」


「うん」


「まずそこを信じろ」


     ◇


 弓。


 矢。


 解体用の刃物。


 縄。


 防寒具。


 準備をする。


「お父さん」


 ミレア。


「怪我した時の布」


「ああ」


「持った?」


「持った」


「薬草は?」


「持った」


「水」


「持った」


 リシェル。


「火を起こすもの」


「ある」


 ラグナ。


「剣」


「狩りに剣は邪魔だ」


「じゃあ斧」


「もっと邪魔だ」


 フェルナ。


「熊!」


「探さない」


「いたら?」


「避けられるなら避ける」


「戦わない?」


「肉が欲しいだけで熊と命懸けする必要ないだろ」


「…………」


「必要なものだけ取る」


 リシェルが言った。


「そう」


「冬だからって全部狩らない」


「ああ」


「来年もいるから」


「よく覚えてるな」


「うん」


 ノエルが。


 俺の荷物へ。


 何かを入れた。


「ん?」


「これ」


 見る。


 干した木苺。


 一個。


「くれるのか?」


「途中でお腹すいたら」


「お前のだろ」


「一個だけ」


「ありがとう」


「帰ったら返して」


「食ったら返せないぞ」


「じゃあ帰ったら新しいの」


「結局増やす気か」


「うん」


     ◇


「じゃあ行ってくる」


「…………」


 七人。


 玄関。


 並んでいる。


「そんな顔するな」


「何時?」


 セレス。


「日が沈む前」


「遅れたら?」


「慌てない」


「怪我したら?」


「無理しない」


「熊いたら?」


 フェルナ。


「避ける」


「大きい鹿!」


 ラグナ。


「狙えそうなら狙う」


「毒の茸」


 ユラ。


「食わない」


「木苺」


 ノエル。


「見つけたら考える」


「持って帰って」


「肉より優先しない」


「…………」


「何で一番悲しそうなんだ」


「お父さん」


 最後。


 ユラ。


「なに?」


「かえってくる?」


「ああ」


「ほんと?」


「ああ」


「おやすみのまえ?」


「そのつもりだ」


「…………」


 小指を出してきた。


「何だ?」


「やくそく」


「誰に教わった?」


「フェルナ」


「フェルナ?」


「本で見た!」


 リシェルじゃなくて。


 フェルナだった。


「指をこうして約束するんだって!」


「そうなのか?」


「たぶん!」


「たぶんなのか」


 まあいい。


 ユラの小さな指へ。


 俺の小指を絡める。


「帰る」


「うん」


「約束」


「やくそく」


     ◇


 俺が山へ入って。


 しばらく。


 家の中は。


 静かだった。


「…………」


「…………」


「…………」


 七人。


 何となく。


 窓の外を見る。


「まだ?」


 フェルナ。


「出てからそんな経ってない」


 セレス。


「どれくらい?」


「……分からない」


「リシェル!」


「そんなすぐ帰らない」


「どれくらい!?」


「昼より後」


「今は?」


「朝」


「…………」


 フェルナが。


 床へ転がった。


「長い!」


「まだ始まったばっかり」


 ラグナ。


「じゃあ何する?」


「仕事」


 セレス。


「何?」


「暖炉」


「火ある」


「薪」


「ある」


「昼ごはん」


「まだ」


「掃除」


「…………」


 フェルナが。


 目を逸らす。


「雪遊び」


「駄目」


「家の前だけ!」


「お父さん、全員家にいるって言った」


「外も家!」


「違う」


「じゃあ玄関!」


「寒いから閉めて」


「むぅ」


     ◇


「何かする」


 ラグナが立った。


「何を?」


 ミレア。


「薪」


「もうある」


「じゃあ割る」


「お父さんいない時に斧使わない方がいい」


 セレス。


「…………」


「じゃあ」


 ラグナが。


 悩む。


「何もない」


「待つのが仕事」


 リシェルが。


 本を開きながら言う。


「本読みながらでもできる」


「ずるい」


「何が?」


「リシェル待つの得意」


「そう?」


「本あるから!」


 フェルナ。


「フェルナ何もない!」


「くまは?」


 ミレア。


「…………」


 木彫りの熊を見る。


「くまと待つ!」


「それでいいんじゃない?」


 セレスが笑った。


     ◇


 昼。


「お父さん遅い」


 フェルナ。


「昼過ぎるって言ってた」


 セレス。


「まだ昼」


「でも」


「帰ってくるまで何回言うつもり?」


「いっぱい」


「…………」


 昼飯は。


 昨日のスープ。


 パン。


 干し肉を少し。


「お父さんの分」


 ミレアが。


 鍋を見た。


「残す?」


「帰ったら食べる」


 セレス。


「いっぱい?」


 ノエル。


「普通」


「お腹すいて帰る」


「じゃあ少し多め」


「木苺も」


「それはノエルがあげるんでしょ」


「…………」


「嫌なの?」


「一個なら」


「じゃあ一個」


     ◇


 午後。


 風が。


 少し強くなった。


 窓。


 白い雪が。


 横に流れる。


「…………」


 セレスが。


 外を見る。


「雪」


 ラグナも来る。


「大丈夫かな」


「お父さん?」


「うん」


 フェルナの耳も。


 下がる。


「探しに行く?」


「駄目」


 セレス。


 即答。


「でも」


「お父さん言った」


「ああ」


「今日の仕事」


「…………」


「待つこと」


「でも何かあったら?」


「まだ何も分からない」


 セレス自身も。


 不安そうだ。


 それでも。


「勝手に行ったら」


「ああ」


「お父さんが帰ってきた時、私たちいない」


「…………」


「そっちの方が困る」


 ラグナが。


 少し考えて。


「そうだね」


「じゃあ待つ」


 ミレア。


「うん」


「待つ」


 フェルナも。


 窓から離れた。


     ◇


 それでも。


 時間が経つほど。


 七人は。


 何度も。


 外を見た。


「まだ」


「まだ」


「まだ」


「フェルナ」


「なに」


「窓曇ってる」


「…………」


 吐いた息で。


 真っ白だった。


「見えない!」


「拭いて」


「うん!」


 ノエルまで。


 今日は本を読むリシェルの横ではなく。


 窓の近く。


「お父さん」


「まだ」


「分かってる」


「じゃあ何?」


「言っただけ」


 ユラは。


 玄関の前。


 座っている。


「ユラ」


 ミレア。


「寒いよ」


「ここにいる」


「なんで?」


「おとうさんくる」


「来たら音するよ」


「いちばんにみる」


「…………」


 ミレアも。


 隣へ座った。


「じゃあ私も」


「うん」


     ◇


 日が。


 少しずつ。


 傾き始めた。


「…………」


 セレスの顔から。


 笑いが消えた。


「お父さん」


 ラグナ。


「まだ」


「ああ」


「探しに」


「まだ駄目」


「でも」


「約束は日が沈む前」


 外を見る。


 まだ。


 山の向こうに。


 日がある。


「まだ」


 自分へ言い聞かせるように。


「帰ってくる時間」


 その時。


 フェルナの耳が。


 ぴくっ。


「…………」


「フェルナ?」


「しっ」


 立ち上がる。


 耳を。


 扉へ向ける。


「音」


「何?」


「雪」


「風じゃなくて?」


「違う」


 ぴく。


 ぴく。


「歩いてる」


「…………!」


 七人。


 一斉に。


 扉を見る。


「お父さん?」


 ユラ。


「分かんない」


 フェルナが。


 目を閉じる。


「重い」


「何が?」


「歩く音」


「あっ」


 急に。


 黒い尻尾が。


 ぶん!


 と揺れた。


「お父さん!」


「ほんと!?」


「うん!」


 フェルナが。


 扉へ飛びつく。


「開ける!」


「待って!」


 セレス。


「何で!?」


「本当にお父さんか確認!」


「フェルナ分かる!」


「それでも!」


 扉越し。


 どさっ。


 何かが置かれる音。


 そして。


「開けてくれ」


 聞き慣れた声。


「お父さん!」


     ◇


 扉が。


 勢いよく開く。


「ただい――」


「お父さん!」


「うおっ」


 最初。


 フェルナ。


「帰った!」


「見れば分かる」


 次。


 ラグナ。


「遅い!」


「まだ日暮れてないぞ」


「でも遅い!」


 ミレア。


「怪我してない?」


「してない」


 リシェル。


「雪強かった?」


「途中だけな」


 ノエル。


「木苺」


「肉より先に聞くな」


 そして。


「おとうさん!」


 ユラが。


 両腕を広げる。


「だっこ!」


「荷物置かせてくれ」


「いま!」


「はいはい」


 抱き上げる。


 首に。


 ぎゅっと。


 しがみつく。


「かえってきた」


「ああ」


「やくそく」


「守っただろ」


「うん」


 最後。


 セレス。


「おかえり」


「ああ。ただいま」


「ほんとに」


「ん?」


「帰ってきた」


「帰るって言っただろ」


「……うん」


 笑う。


 でも。


 目元が。


 少しだけ赤い。


     ◇


「それで!」


 フェルナが。


 俺の荷物を見る。


「何!?」


「鹿」


「鹿!?」


「少し大きかったから全部は運べない。必要な分だけ持ってきた」


「残りは?」


「山の獣が食う」


「もったいなくない?」


「俺たちだけの山じゃないからな」


「…………」


「全部持ち帰って腐らせる方がもったいない」


「そっか」


 ラグナが。


 肉を見る。


「重かった?」


「結構な」


「私なら全部持てる」


「そうだろうけど」


「今度一緒なら全部?」


「必要な分だけだ」


「…………」


「持てるから全部取る、じゃない」


「あっ」


「覚えてるか?」


「使う分だけ」


「そう」


「残す分も決める」


 リシェル。


「ああ」


 ちゃんと。


 覚えている。


     ◇


「お父さん」


 ミレア。


「座って」


「何で?」


「疲れてる」


「まあ」


「セレス姉」


「……ほんと」


「また確認するのか」


「今日はする」


「そうか」


 椅子へ。


 座らされる。


「ごはん!」


 ユラ。


「お父さんのある!」


「本当か?」


「残した」


 セレス。


「温めるね」


「ありがとう」


「木苺も」


 ノエル。


「本当に?」


「一個」


「覚えてたか」


「うん」


「じゃあありがたくもらう」


「…………」


「何だ」


「帰りに見つけた?」


「木苺?」


「うん」


「雪の下にあるわけないだろ」


「……そっか」


「期待してたのか」


「ちょっと」


     ◇


 温かいスープ。


 パン。


 残してくれた肉。


 木苺一個。


「うまい」


「ほんと?」


 セレス。


「ああ」


「待ってた」


「聞いた」


「誰から?」


「全員の顔」


「…………」


「心配した?」


 聞くと。


 フェルナ。


「した!」


 ラグナ。


「ちょっと」


 ミレア。


「いっぱい」


 リシェル。


「予定より遅いと思った」


 ノエル。


「お腹すいた」


「お前は自分だろ」


「お父さんも」


「そういうことか」


 ユラ。


「いっぱい」


「そうか」


 最後。


 セレス。


「……した」


「ごめんな」


「なんで謝るの?」


「思ったより鹿を追った」


「無茶した?」


「してない」


「ほんと?」


「ああ」


「…………ほんと」


「だから確認するなって」


 セレスが。


 少し笑った。


     ◇


「でも」


 俺は。


 七人を見る。


「ちゃんと待てたな」


「…………」


「誰も探しに来なかった」


「行きたかった!」


 フェルナ。


「でも行かなかった」


「うん」


「えらい」


「…………!」


 耳が。


 ぴん。


「もう一回!」


「えらい」


「やった!」


「ラグナも」


「……うん」


「ミレアも」


「うん」


「リシェルも」


「うん」


「ノエルも」


「木苺一個あげた」


「それもな」


「ユラも」


「まった!」


「ああ」


「セレスも」


「…………うん」


 七人。


 嬉しそうだ。


「待ってるだけなのに?」


 ラグナが聞く。


「ああ」


「何もしてない」


「しただろ」


「何を?」


「俺を信じて」


「ああ」


「家で待った」


「…………」


「それが今日の仕事だった」


 セレスが。


 ゆっくり頷いた。


     ◇


 夜。


 食料庫には。


 今日持ち帰った肉が。


 きれいに並んだ。


「これでしばらく大丈夫だ」


「次!」


 フェルナ。


「私行く!」


「話聞ける奴から」


「今日聞いた!」


「今日だけじゃない」


「明日も聞く!」


「狩りは明日行かない」


「なんで!」


「必要な分取ったから」


「…………」


「狩りしたいから狩るんじゃない」


「ああ」


「必要だから狩る」


「…………」


「覚えろ」


「分かった」


 少し残念そうだが。


 ちゃんと頷いた。


     ◇


 寝る時間。


「お父さん」


 セレス。


「なんだ?」


「今日」


「ああ」


「待ってるの」


「うん」


「難しかった」


「そうか」


「何かした方が楽だった」


「そういうこともある」


「助けに行くとか」


「ああ」


「探すとか」


「うん」


「でも」


 セレスが。


 毛布を握る。


「行かない方がいい時もある?」


「ある」


「何もしないみたいでも?」


「ああ」


「…………」


「相手を信じて待つのも」


 俺は言った。


「たまには必要だ」


「もし間違えたら?」


「その時考える」


「……またそれ」


「先の全部なんて分からないからな」


「うん」


「でも今日は」


 七人を見る。


「待つのが正解だった」


「うん」


     ◇


「おとうさん」


 ユラ。


「なんだ?」


「つぎも」


「ああ」


「かえってくる?」


「もちろん」


「やくそく?」


「帰るつもりで出る」


「…………」


「絶対って言わないの?」


 セレスが。


 代わりに聞いた。


「ああ」


「どうして?」


「絶対なんて」


 少し考える。


「山じゃ約束できないからな」


「…………」


「でも」


 俺は続ける。


「帰るために無茶しない」


「うん」


「困ったら戻る」


「うん」


「危ないと思ったら獲物は諦める」


「うん」


「それなら約束できる」


 セレスが。


 少し笑った。


「分かった」


     ◇


 子供に。


 待てと言うのは。


 簡単だ。


 でも。


 待つ側は。


 帰ってくるか分からない時間を。


 ずっと過ごす。


 今日。


 七人は。


 それを初めて知ったのだろう。


 そして俺も。


 少し考えた。


 何でも。


 自分でやることだけが。


 大事なわけじゃない。


 手を出さない。


 動かない。


 信じて待つ。


 それが。


 一番難しい時だってある。


 いつか。


 こいつらが大きくなって。


 この山を出る日が来たら。


 今度は。


 俺が。


 待つ側になるのかもしれない。


「…………」


 まあ。


 まだ先の話だ。


「お父さん!」


 フェルナ。


「なんだ!」


「明日雪で鹿作る!」


「本物狩った翌日に何で雪で作るんだ!」


「大きいやつ!」


「勝手にしろ!」


 まだ。


 当分。


 こいつらは。


 ここにいる。


 今は。


 それで十分だった。


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