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第21話 冬が来る前に、八人分



 風が。


 少し冷たくなった。


 朝。


 家の扉を開けると。


「さむっ!」


 真っ先に外へ飛び出したフェルナが。


 真っ先に戻ってきた。


「寒い!」


「だから上着着ろって言っただろ」


「昨日は平気だった!」


「今日は今日だ」


「山、急に寒くなった!」


「山に文句言うな」


 黒い耳を両手で押さえながら。


 フェルナが暖炉へ走っていく。


「お父さん」


 その後ろから。


 セレスが外を見る。


「もう冬?」


「まだ少し先だな」


「冬って」


「ああ」


「もっと寒い?」


「ずっと寒い」


「…………」


 セレスが。


 家の中を見る。


 七人。


 毛布。


 服。


 薪。


 食料。


「大丈夫?」


「何が?」


「八人」


 なるほど。


「大丈夫にする」


「…………」


「そのために今日は働くぞ」


「何するの?」


 ラグナ。


「冬支度」


「ふゆじたく?」


 ユラ。


「寒くなっても困らないように準備するんだ」


「何する!?」


 フェルナが。


 もう復活している。


「いっぱいある」


「いっぱい!」


「何で嬉しそうなんだ」


「仕事!」


「遊びじゃないぞ」


「でもみんなでやる!」


 まあ。


 それはそうだ。


     ◇


 まず。


 薪。


 去年までは。


 俺一人分。


 今年は。


 八人分。


「…………」


 積んである薪を見る。


 どう考えても。


 足りない。


「お父さん」


 ラグナが横に立つ。


「これ全部?」


「全部使うとは限らない」


「でも足りない?」


「ああ」


「じゃあ取ってくる」


「待て」


「何?」


「木一本抜いてくるなよ」


「…………」


「今やろうとしただろ」


「倒した方が早い」


「早いけど駄目だ」


「なんで?」


「使える木まで全部倒してたら、そのうち山から木がなくなる」


「…………」


 ラグナが。


 山を見る。


「なくなる?」


「切ったらな」


「また生える?」


「生えるけど時間がかかる」


「じゃあ」


 リシェルが。


 いつの間にか横にいる。


「必要な分だけ?」


「そう」


「枯れた木から?」


「そういうのも使う」


「細い枝も?」


「ああ」


「太い木は?」


「必要なら切る。でも全部は切らない」


 リシェルが。


 すぐに覚える。


「使う分だけ取る」


「ああ」


「残す分も決める」


「そうだ」


「どうして?」


「来年も使うから」


「来年」


 その言葉に。


 セレスが。


 少しだけ反応した。


「来年も」


「ああ」


「ここにいる?」


「お前らがいたければな」


「…………」


 少し。


 笑う。


「いる」


「じゃあ来年の分も残せ」


「うん」


     ◇


 薪集めは。


 役割を分けた。


 俺とセレスが。


 使えそうな木を選ぶ。


 ラグナが。


 太い枝を運ぶ。


「お父さん」


「ん?」


「これくらい?」


 どん。


「…………」


「大きい?」


「木そのもの持ってくるな」


「枯れてた」


「そうじゃなくて」


 人の胴ほどある丸太。


 普通に抱えてきた。


「重くないのか?」


「ちょっと」


「…………」


 最近。


 こいつの「ちょっと」が信用できない。


「置いてくれ」


「ここ?」


「ゆっくり」


「分かった」


 どん。


 地面が。


 少し揺れた。


「もっとゆっくり」


「これでも?」


「もっとだ」


「難しい」


「薪割りで練習しただろ」


「…………」


「力があるからって」


「全部強くやらない」


「そう」


 ラグナが。


 今度は。


 小枝を一本拾う。


 そっと。


 置く。


「これなら?」


「極端だな」


     ◇


 フェルナは。


 細い枝集め。


「お父さん!」


「なんだ!」


「いっぱい!」


 両腕。


 枝だらけ。


「前見えてるか?」


「見えない!」


「減らせ!」


「でもいっぱい持てる!」


「木にぶつかるぞ」


「大丈夫!」


 ごつん。


「いたい!」


「言っただろ!」


「木がいた!」


「木は悪くない!」


 枝が。


 全部落ちる。


「…………」


 フェルナが。


 地面を見る。


「最初から」


「何だ」


「二回に分ければよかった」


「そうだな」


「お父さん」


「ん?」


「いっぱいできるのと、いっぱいやるの違う?」


 俺は。


 少し考える。


「違うな」


「できても?」


「ああ」


「やらない方がいい時ある?」


「ある」


「…………」


「今みたいにな」


 落ちた枝。


「…………」


「分かった」


「じゃあ半分」


「うん」


 素直に。


 半分だけ抱える。


 三歩。


 五歩。


「お父さん!」


「今度は何だ」


「前見える!」


「最初からそうしろ」


     ◇


 ミレアとノエルとユラは。


 家の近く。


 小さな枝や。


 松ぼっくりを集める。


「これ?」


 ユラが。


 松ぼっくりを見せる。


「ああ。火をつける時に使える」


「これも?」


「使える」


「これ!」


「それ石」


「つかわない?」


「薪にはならない」


「じゃあこっち」


「それ茸」


「…………」


「知らない茸は触るな」


 ぱっ。


 すぐ手を離した。


「えらい」


「お父さんいった」


「ああ」


「知らないの、たべない」


「触らない方がいいのもある」


「うん」


 ミレアが。


 ユラの隣で。


 一つずつ。


 確認している。


「これは?」


「大丈夫」


「これは?」


「大丈夫」


「これは?」


「……俺にも分からん」


「じゃあ?」


「置いとけ」


「うん」


 分からないなら。


 触らない。


 それでいい。


     ◇


 昼前。


 薪の山は。


 朝の倍近くになっていた。


「いっぱい!」


 フェルナが胸を張る。


「まだ足りない」


「ええっ!?」


「冬長いからな」


「ずっと寒い?」


「ああ」


「毎日?」


「だいたい」


「外遊べる?」


「雪が降ったら遊べるぞ」


「ゆき?」


 七人。


 揃って。


 こっちを見る。


「知らないのか」


「なに?」


 ラグナ。


「空から白いものが降ってくる」


「白い?」


「冷たい」


「食べられる?」


 ノエル。


「積極的に食うものじゃない」


「甘い?」


「甘くない」


「じゃあいい」


「判断が早い」


「いっぱい降る?」


 フェルナ。


「ああ」


「山全部白くなる?」


「降ればな」


「…………」


 目が。


 輝いた。


「見たい!」


「そのうち嫌でも見る」


「遊ぶ!」


「寒いぞ」


「遊ぶ!」


「滑るぞ」


「遊ぶ!」


「転ぶぞ」


「いつも転ぶ!」


「威張るな」


     ◇


 午後は。


 家の隙間を塞いだ。


 古い家だ。


 風が入る場所がある。


「ここ」


 リシェルが。


 壁際に手を当てる。


「冷たい」


「風入ってるな」


「どうする?」


「埋める」


 布。


 藁。


 木片。


 使えるものを詰める。


「全部塞ぐ?」


「全部じゃない」


「なんで?」


「空気が入れ替わらないと困る」


「寒いのに?」


「暖炉使うからな」


「火?」


「ああ」


「火があると空気なくなる?」


「少しずつ使う」


「…………」


 リシェルが。


 また。


 考え込む。


「見えないのに?」


「ああ」


「空気って減る?」


「そうだ」


「…………」


「本取ってくる」


「今は作業しろ」


「後で?」


「後で」


「分かった」


     ◇


 セレスとミレアには。


 毛布の確認。


「破れてる」


 セレス。


「どこ?」


「ここ」


 小さな穴。


「縫えるか?」


「やってみる」


「分からなかったら呼べ」


「うん」


 ミレアも。


 針を持つ。


「私も」


「指刺すなよ」


「気をつける」


「刺したら?」


「洗う」


「それから?」


「小さかったら布」


「大きかったら?」


「お父さんに言う」


「ミレアの力は?」


「必要なら使う」


「よし」


 ちゃんと。


 覚えている。


     ◇


「お父さん」


 少しして。


 セレスが。


 縫い終えた毛布を持ってきた。


「できた」


「見せて」


 縫い目。


 少し曲がっている。


「どう?」


「使える」


「下手?」


「最初ならこんなもんだ」


「お父さんならもっと上手い」


「何回もやってるからな」


「…………」


「気になる?」


「ちょっと」


「じゃあ次は今日より上手くやれ」


「できなかったら?」


「また次」


「…………」


 セレスが。


 笑う。


「そればっかり」


「大体のことはそうだ」


     ◇


 夕方。


 食料庫。


 そこが。


 一番大変だった。


「これだけ?」


 ラグナ。


「今のところな」


 干し肉。


 豆。


 芋。


 根菜。


 乾燥させた茸。


 木の実。


 保存した果物。


 塩。


 八人分。


「足りる?」


 セレス。


「冬全部は無理だな」


「じゃあどうする?」


「まだ採れるうちに集める」


「狩りも?」


「ああ」


「手伝う!」


 ラグナ。


「狩りはまだ俺と一緒だ」


「なんで?」


「危ないから」


「私強い」


「強いから危なくないとは限らない」


「…………」


「知らない場所で」


「ああ」


「知らない獣が出たら?」


「まず見る」


「そう」


「襲ってきたら?」


「自分守る」


「そう」


「倒していい?」


「逃げられないならな」


「食べる?」


「食える獣なら」


「分かった」


 フェルナが。


 手を上げる。


「熊!」


「駄目」


「まだ何も言ってない!」


「熊だろ」


「熊!」


「駄目」


「なんで!」


「お前が熊好きなの、もう十分分かった」


     ◇


 食料を。


 一つずつ。


 数えていく。


 すると。


 ノエルが。


 保存してある木苺の瓶を見つけた。


「…………」


「ノエル」


「見てるだけ」


「手、伸びてるぞ」


「確認」


「何の」


「冬の量」


「じゃあ蓋開ける必要ない」


「…………」


 手が止まる。


「これ」


「ああ」


「冬まで残す?」


「できればな」


「じゃあ」


 少し考えて。


 手を引っ込めた。


「食べない」


「珍しい」


「冬なくなると困る」


「そうだな」


「今日食べたら」


「ああ」


「今日嬉しい」


「うん」


「残したら」


「ああ」


「冬のノエル嬉しい」


「……よく分かってるじゃないか」


「うん」


「じゃあ今日は?」


「一個だけ」


「結局食うのか」


「今のノエルも大事」


「都合いいな!」


 でも。


 一個だけなら。


 まあいい。


     ◇


 日が沈む頃。


 家の前には。


 薪。


 家の中には。


 繕った毛布。


 塞いだ壁。


 整理した食料。


「つかれた!」


 フェルナが。


 床に大の字。


「今日は結構やったからな」


「お腹すいた!」


「それはいつもだろ」


「今日いっぱい働いたからもっと!」


「飯の量は急に倍にならない」


「ええー!」


 ラグナも。


 椅子に座る。


「冬って」


「ああ」


「大変」


「そうだな」


「でも」


 薪の山を見る。


「ちょっと楽しい」


「なんで?」


「みんなで準備するから」


 ミレアも頷く。


「私も」


「ユラも!」


「ノエルも」


「木苺あるからだろ」


「それも」


 リシェルは。


 既に今日知ったことを。


 紙へ書いている。


「冬は」


 セレスが。


 ぽつり。


「毎年来る?」


「ああ」


「来年も?」


「来る」


「その次も?」


「来るな」


「…………」


 少し考えて。


「じゃあ」


 七人を見る。


「毎年、みんなで準備する?」


「お前らが家にいるうちはな」


「…………」


「嫌か?」


「ううん」


 セレスが。


 笑った。


「来年はもっと上手くできる」


「そうだな」


「再来年は?」


「もっと楽になるかもな」


「じゃあ」


 フェルナが飛び起きる。


「十年後は一瞬!?」


「それはない」


     ◇


 夕飯の後。


 外へ出る。


 冷たい風。


「さむい!」


 またフェルナ。


「上着着たか?」


「着た!」


「じゃあ我慢しろ」


「お父さん寒くない?」


「寒い」


「大人も?」


「大人も寒い」


「ラグナは?」


「ちょっと」


「セレス姉!」


「寒い」


「ノエル!」


「帰りたい」


「早い!」


 ユラは。


 俺の手を握っている。


「おとうさん」


「ん?」


「ふゆ」


「ああ」


「こわい?」


「ちゃんと準備すれば大丈夫だ」


「…………」


「今日やっただろ」


「まき」


「ああ」


「もうふ」


「ああ」


「ごはん」


「ああ」


「おうちのあな」


「塞いだな」


「じゃあだいじょうぶ?」


「まだ準備はいるけどな」


「みんなで?」


「みんなで」


「…………」


 ユラが。


 俺の手を。


 ぎゅっと握る。


「じゃあ、だいじょうぶ」


「そうか」


     ◇


 その夜。


 七人を寝かせる。


「お父さん」


 セレスが。


 灯りを消す前に呼んだ。


「なんだ?」


「今日」


「ああ」


「お父さん一人だったら」


「うん」


「全部一人でやってた?」


「去年まではな」


「大変だった?」


「まあ、それなりに」


「今年は?」


 俺は。


 少し考える。


「仕事は増えた」


「…………」


 セレスの顔が。


 少し曇る。


「でも」


 続ける。


「手も七倍増えた」


「七倍?」


「ああ」


「ユラも?」


「もちろん」


 ユラが。


 毛布から顔を出す。


「ユラもて?」


「ああ」


「ちいさいのに?」


「松ぼっくりいっぱい拾っただろ」


「うん!」


「じゃあ一人分だ」


「ふふ」


「だから」


 七人を見る。


「八人分の冬だけど」


「ああ」


「一人で冬を越すより、たぶん楽しいぞ」


 しばらく。


 誰も何も言わなかった。


 やがて。


「お父さん」


 ラグナ。


「来年はもっと薪運べる」


「木一本はやめろ」


「……半分」


「そういう問題じゃない」


「フェルナも!」


「お前は前が見える量にしろ」


「分かった!」


「ミレアは毛布もっと上手く縫う」


「私は保存の方法調べる」


 リシェル。


「木苺増やす」


 ノエル。


「それは春から考えよう」


「ユラも!」


「何する?」


「まつぼっくり!」


「頼む」


 そして。


 セレスが。


「私は」


「ああ」


「みんなが何するか、ちゃんと見る」


「お前らしいな」


「うん」


 灯りを消す。


 真っ暗な部屋。


 外では。


 冷たい風が。


 木々を揺らしていた。


 冬は。


 まだ来ていない。


 これから。


 もっと寒くなる。


 雪も降る。


 食料も。


 薪も。


 今まで以上に必要になる。


 八人になった分。


 準備するものは。


 何倍にも増えた。


 でも。


 働く手も増えた。


 笑う声も増えた。


 食卓を囲む人数も増えた。


 今年の冬は。


 去年より。


 ずっと忙しくなりそうだ。


 そして。


 たぶん。


 ずっと賑やかになる。


 それなら。


 悪くない。


 八人分の冬を。


 八人で迎えればいいのだから。


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