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第三話 ミッドウェー島攻撃!

「全艦、対空戦闘用意ッ! 角田機動部隊、ミッドウェー島攻撃隊を発進させよ!」

川田聯合艦隊司令長官の怒号のような号令が、3番ボックス席のテーブルの上に響き渡った。 マップに置かれた艦隊ユニットの空母『龍驤』『隼鷹』『瑞鳳』の甲板から、零戦20機や九九式艦爆15機と九七式艦攻30機が次々と「発進」し、ミッドウェー島へと向かって飛翔していく。軽空母だけに攻撃数は決して多くはない。


「よし、ここまでは完全に予定通りだ! さらに戦艦主力部隊……『大和』『武蔵』『長門』『陸奥』は全速で前進! ミッドウェー島への艦砲射撃体勢に入れ!」

川田はパンッと威勢よく手を叩き、鼻息を荒くした。史実では一度も叶わなかった「戦艦群による大口径砲の島嶼射撃」を再現しようと、眼鏡の奥の目をギラギラと輝かせている。


しかし、セリカとレナが対峙するテーブルの「北方海域」に目を向けた途端、川田の表情に影が差した。『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』から伸びる索敵機を指でつつきながら、川田は苛立ちを隠せない様子で舌打ちをする。

「……おかしいな。南雲機動部隊の二段索敵網からは、未だに何ひとつ引っかかってこん。この辺りに米機動部隊がいていいはずなんだ……! 一体どこへ消えたんだ!?」

川田が首をかしげている横で、米機動部隊司令官役のセリカが、ふっと妖艶で冷ややかな微笑を浮かべた。その手元にあるユニット群は、川田の予想を遥かに超えた「西方海域」……すなわち、無防備に前進してくる日本の輸送船団の目と鼻の先に位置していた。


◇


「……目標、ミッドウェー島。第二次世界大戦中のレーダー技術ですが、米軍はすでにCXAMレーダーを島内に配備し、早期警戒網を構築しておりますわ」

セリカが優雅に指先でミッドウェー島の上空を指し示した。

「日本軍攻撃隊の接近を事前に察知した米軍は、即座にF4FワイルドキャットおよびF2Aバッファロー戦闘機を上空へ緊急発進(スクランブル)。待ち伏せ体勢を完了しております」

「ぐぬっ……! だが角田艦隊の零戦隊が敵直衛を押し潰すはずだ!」

「それだけではありませんわ、ご主人様」

セリカは静かに人差し指を立てた。

「黎明の霧を突いて飛翔する米軍のカタリナ飛行艇が、雲の切れ間に日本艦隊の大群を捉えましたわ。……『敵角田機動部隊発見。続いて戦艦主力部隊、および後方に多数の輸送船団を発見!』……相次いで打電される緊急打電。これで、我が米機動部隊は南雲艦隊以外の日本軍の全貌を完全に把握いたしました」

セリカは隣のレナへと視線を送った。 「レナさん。手筈通りに……敵の輸送船団を叩いてください。私は角田機動部隊を攻撃いたしますわ」

「了解です、セリカ提督!」 レナが満面の笑みでビシッと敬礼してみせる。すっかりシミュレーションに没頭しているレナは、手元の空母『ヨークタウン』のユニットから、艦爆隊と艦攻隊を一斉に押し出した。

「空母エンタープライズ、ホーネット攻撃隊、発進! ターゲット、角田機動部隊!」 「空母ヨークタウンより、輸送船団攻撃隊発進……!」

セリカとレナの二方向からの同時手数が、盤面を急激に締め上げていく。


◇


「なっ……何だとぉぉっ!?」

慌てふためいたのは、当然ながら川田だった。 ミッドウェー島からの陸上攻撃機(B-17やTBFアベンジャー)が角田艦隊へ襲いかかると同時に、波間を縫って現れた『エンタープライズとホーネット』の艦載機群が、五月雨式に襲いかかってきたのだ。

「バ、バカな! 攻撃が切れ目なく続いていく……! おかしい、島からの攻撃機にしては機数が多すぎるんじゃないか!?」

川田の額から汗が吹き出す。 輸送船団の頭上には、護衛として直衛に当たっていた空母『瑞鳳』の零戦隊が、必死に護衛の傘を開いていた。しかし、上空から舞い降りてきたのは無数の米軍艦載機——SBDドーントレス急降下爆撃機とTBDデバステーター艦攻の群れだった。

「ひ、船団の上空にいるのは島からの機体じゃない……敵の艦載機だ! しかも、なんだこの数は!?」

いくら熟練のパイロットが操る優秀な零戦といえども、セリカとレナが繰り出す圧倒的な機動部隊艦載機の数量の前に、完全に防空キャパシティをオーバーしていた。零戦が1機、また1機と米軍機を撃墜するものの、網の目を潜り抜けた爆撃機群が、無防備な輸送船群へと次々とダイブしていく。

チュドン! チュドン! と、川田が自ら効果音を出しながら、テーブルの上の「輸送船」のユニットを裏返していく。

「輸送船『清洋丸』被弾! 陸軍部隊を乗せた大型輸送船が次々と炎上していく……! くそっ、上陸部隊には陸軍一木支隊5000人と海軍陸戦隊が搭乗していたというのに……その3分の1を海上で失うなんて……!」

「ご主人様、悲鳴を上げている暇はありませんわ」 セリカが追い打ちをかけるように、冷徹な声で宣告する。

「『エンタープライズとホーネット』の雷撃隊および爆撃隊が、手薄になった角田機動部隊の空母群へ突入いたします」

「ひえぇっ! 南雲艦隊! 南雲艦隊は何をやっているんだ! 急いでミッドウェー北方から南下させろ! 急げ、間に合えぇぇっ!」

川田は必死の手つきで、北方で手持ち無沙汰に浮いていた南雲艦隊のユニット群を南へと急行させた。しかし、広大な太平洋の距離は容易には縮まらない。


その激戦の最中、ミッドウェー島近海へと到達した日本の主力戦艦部隊から、ついに地鳴りのような巨砲の発射音が響き渡った。

『主砲、放てーっ!』

『大和』の46センチ砲をはじめとする戦艦群の凄絶な艦砲射撃が開始される。ミッドウェー島の陸上陣地や飛行場は、巨大な砲弾の雨によって文字通り「地面を掘り返した」ようになり、凄まじい爆煙の中で全滅・壊滅状態へと追い込まれた。ミッドウェー島の基地機能を完全に削ぎ落とすことには成功したのだ。

しかし、その代償はあまりにも大きすぎた。


「……角田機動部隊、被害報告」 セリカが淡々と、しかし残酷に判定を下していく。

「旗艦、空母『龍驤』……右舷に魚雷2本、飛行甲板に爆弾2発を被弾。浸水が激しく、大破炎上。航行不能ですわ」

「なぁっ! 龍驤がっ!?」

「さらに空母『瑞鳳』……魚雷1本と爆弾2発を食らい、同じく大破。航空発着能力を完全に喪失いたしました」

「瑞鳳までぇぇっ!?」

川田は頭を抱えてソファーに崩れ落ちた。 日本軍の機動部隊は、南雲艦隊が到着する前に航空戦力の過半を一気に削ぎ落とされてしまったのだ。残された空母は『隼鷹』ただ一隻。孤立無援となった『隼鷹』の航空隊が、空を覆いつくす米軍機を相手に、たった一隻で狂おしいほどの奮戦を続けるという惨状に陥っていた。

「あ、ああ……! 龍驤と瑞鳳がやられるなんて……! だが、まだ隼鷹がいる! 南雲の本隊が到着すれば反撃できるはずだぁぁっ!」

盤上の戦いが最高潮に達し、川田の熱狂と悲鳴が店内に響き渡っていた、まさにその時だった。


◇


静まり返っていた店内の空気が、ふと異様な冷気を孕んで凍りついた。

『Bullet & Lace』の開店以来、ずっと奥のボックス席のソファーで、酒も飲まずにただ静かに目をつむり、眠り続けていた一人の客がいた。名を「工藤」という。常連客の間でも「いつも寝ている謎の客」として知られていた男だ。

その工藤が、不意にパチリと目を開けた。

いつもぼんやりとしていたその瞳には、氷のように研ぎ澄まされた鋭い光が宿っていた。工藤が店内をゆっくりと見渡すと、カウンター近くに着席していたある男と、バチッと視線が交差した。

工藤と目が合った瞬間、清水は「ちっ・・・」とあからさまに不快で嫌そうな顔を浮かべた。そして手にしていたグラスの酒を一気に口の中へ煽り込むと、すぐにテーブルに代金を置き、そそくさと立ち上がって店を出て行ってしまった。

工藤もまた、何事もなかったかのような滑らかな手つきで代金をテーブルに置くと、チェックを済ませて清水の後を追うように店を出た。

秋葉原のビルの前に出たところで、清水は足早に歩み去ろうとしていた。だが、背後からスッと距離を詰めた工藤が、静かだが逃げ場のない声をかける。

「・・・・清水さん。ちょっと話を聞かせて」

「くっ・・・・!」

清水が振り返りざまに身構えようとした瞬間、工藤は問答無用でその腕を捻り上げると、ビルの裏路地にひっそりと停められていた黒塗りの乗用車へと、清水の身体を迅速に押し込んだ。

バタン、と重厚なドアの音が夜の路地に響き、車は静かに闇の中へと走り去っていった。

その一連の出来事を、ビルの入り口で「OPEN」の看板の横に立ち、チラシ配りと客引きをしていたキャストのスズが、目を丸くして一部始終を目撃していた。


(えっ・・・ええっ!?何今の・・・!?)


スズは青ざめた顔で急いでエレベーターに乗り込み、2階の店内へと駆け戻った。

「ゆ、ユキさん!ユキさん大変っ!」

カウンターでドリンクを作っていたチーフのユキのもとへ息を切らして飛び込む。

「どうしたのスズちゃん、そんなに慌てて?」

「い、今の!さっきまで寝てた居眠りの工藤さんが、他のお客さんを外の路地の黒塗りの車に押し込んで、連れ去っちゃいました!」

「えっ!?」

ユキが驚きで目を開く。

「えっ!じゃあ、あのいつも寝てた居眠りご主人様(工藤)は、スパイか何かしら!?」

「わかりませんっ!でも、すっごく手馴れてて恐ろしい顔してました・・・・!」

人知れずに蠢く怪しい陰謀と、公安警察による密かな極秘捜査。いつも居眠りしていた工藤の正体は、マークしていた要注意人物・清水を追い続ける公安警察の捜査官だったのだ。

しかし、そんなビル外の異様なドラマなど知る由もなくーー。


◇


3番ボックス席では、盤上の熱い「新ミッドウェイ作戦」の戦いが、何事もなかったかのように続いていた。

「傷ついた隼鷹を護衛しつつ、ついに南下を果たした南雲中将の第一航空艦隊……対する我が米機動部隊。ミッドウェーの空と海で、本当の艦隊決戦が始まりますわ」


店内の動揺をよそに、オタクの情熱とミステリアスなキャストの深い知識が交錯する『Bullet & Lace』の夜は、第四話「反撃」の激闘へと向かって、さらに深く更けていくのだった。



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