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085 友人

 スダーフ男爵の討伐戦は女王軍の圧倒的な勝利に終わり、女王は拠点であるシマニエク市に凱旋した。神々に仕える神官を害した悪党を成敗して戻ってきたのだ。民衆は歓呼してこれを迎えた。


 スダーフの首は市中に晒され、罪人として人々の罵声を受けた。適当な理由をつけて投石を禁じたのは、有里なりの配慮だったのかもしれない。


 女王はスダーフ男爵の領地を全て没収し、大神殿が権利を主張していた土地については、大神殿の訴えを認めた。スダーフ男爵の暴挙は、横領した土地を奪い返されることを恐れてのものだということにされた。


「賢明なご判断、ありがとうございます。大神殿に間違いなく伝達いたします」


 土地を大神殿に引き渡す旨を記した文書を受け取ったミゼリアが、女王に礼の言葉を述べる。


「今回は悪意に晒され、不幸なことになってしまいましたが、大神殿とはこれからもよい関係を築きたいと思っています」


 女王が言うと、ミゼリアは穏やかに一礼し、


「承知しております。必ずやお伝えいたします」


 と応えた。文乃はミゼリアが理性的に振る舞ってくれていることに安堵した。


 彼女に陰謀の全てを話したわけではない。だが、ミゼリアはキリアスの真の動機を知っているわけだから、彼女はおおよその事情を察していることだろう。彼女が姉と慕う女性の名誉を大きく傷つけることになってしまった。


 彼女の心中は、必ずしも単純ではないだろう。


 公式の会談を終えてから、文乃はミゼリアに声をかけた。


「この度は、その、なんと申し上げていいか」


 謝罪の言葉を述べようかとも思ったが、そういうわけにもいかない立場だ。言葉を探しても、いい言葉が見つからない。


「あねさまの最期の願いはエンザルト様の名誉を守ることでした。それは達成されたのですから、アヤノ様が気に病む必要はありません」


 ミゼリアは穏やかに応え、それから、


「それと、無理をなさってはいけませんよ。アヤノ様、あなたは今回の企み、本心では反対だったのではありませんか?」


 と問うてきた。文乃はすぐに返すことができず、事実上の肯定となってしまう。ごまかすのは諦めて、文乃は言う。


「今回は、元を正せば私の失態です。私が土地の経緯をきちんと調べておけば、土地争いにはもっと早く手を打てたのです。そういうわけで、強く反対するわけにはいかず、黙認に近い形になりました」


 ミゼリアは手を胸に当てながら


「お辛いのであれば、お話をお聞きしますよ。神官として」


 文乃は首を左右に振る。


「今回は別の手立てを用意していますので。また、本当に思い悩んだときに頼らせてください、ミゼリア様」


 文乃は目の前の神官を信頼できると思っている。だからこそ、彼女の直接絡む案件で彼女の力を借りたくはなかった。彼女を余計に傷つける必要はない。


「ところで、」


 と、ミゼリアが何かもじもじとしているので、文乃はどうしたのかと問うた。ミゼリアからの申し出は、思わぬものだった。


「その、同い年なのですし、ミゼリアと呼んでいただけませんか?」


 文乃は思う。彼女は父を失い、姉を失った。今、彼女が欲しているのは、一人で生きていくための友ではあるまいか。彼女と友人になっておくことは、女王の政府としても、文乃個人としても喜ばしいことだった。文乃はにっこりと笑って、


「承知し……」


 思わず出かけた丁寧すぎる言い回しを切って、少しくだけた言い方に直す。


「わかりました、ミゼリア。私のこともアヤノと呼んでください」


「はい、アヤノ。よろしくお願いします」


 二人が握手を交わすと、後ろから声がした。


「それなら私もアヤノと呼んでよろしいですか?」


「なんであなたが割って入ってくるんですか、ジルト殿」


 軽薄な笑みを浮かべた美少年を、文乃は思い切り睨みつける。ジルトは意にも介せずに文乃の隣にやってきて、文乃の空いている左手を握る。


「私もあなたと友人になりたいのですが」


「……私としては、もうなっているようなものです」


 ぽかんとするジルトに思わず笑いそうになる。


 一緒に祭りを回った仲だ。友人ではあるだろう。それ以上の仲になるつもりは今のところ全くないが。


 ミゼリアが、そんな会話にきらきらとした目を向けていることに気がついた。文乃はしまったと思いつつも、半ば諦めのようにその言葉を待った。


「やっぱり二人ともそういう仲なのですか?」


「違います」


 文乃はこちらの世界での新たな友人に恵まれたのだろう。少々騒がしく、面倒臭いけれど。


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