006 転移
「嘘でしょ……」
真っ白な身体の三羽の菟。三対の赤目がこちらをまっすぐに見つめている。まるで、付いてこいと言っているかのように。
有里の記憶の中の菟そのものと言っていいくらいに、あのときの菟そっくりだった。
有里の隣で、巴絵も目を見開いている。
「人生の転機ってやつかもね」
と守子が冗談を言った、そのときだった。
菟たちの目が、光ったような気がしたのだ。
そして、次の瞬間に、ゆらりと、地面が揺れた。
「地震……?」
玲奈が口走った直後、陽の光が弱まったかのように辺りが暗くなる。それに驚く間もなく、揺れはますます大きくなり、赤い光が足元の地面から湧き上がるように吹き出して、渦を巻き、五人を取り囲む。
五人はとっさに寄り添いあって、身の安全を図っていた。
やがて、ゆっくりと揺れが収まっていく。五人を取り囲んでいた光が消え失せ、陽の光が元の強さを取り戻す。
「何だったの、い──」
何だったの、今のは。
有里はそう言葉にしようとしたのだが、言葉は喉の途中に引っかかってしまった。
目に映った周囲の様子が、明らかにおかしかったから。
その場所は、さっきまでいた三菟神社の境内ではなかった。
木々に囲まれているのは同じだが、社殿も、狛犬も、あの菟の像もない。有里たちの立つ場所を中心に木々の生えていない、開けた空間ができているだけで、あとは何もなかった。周囲を囲む木々も、三菟神社のそれとは種類が違うように見える。
そもそも、三菟神社を囲む林にこんな太く立派な木々は生えていない。
「どこ、ここ……?」
その言葉を最初に口にできたのは、玲奈だった。
続いて守子がスマホを取り出し、うげっと声を上げる。
「圏外なんだけど……」
守子がこちらにスマホを見せてくる。画面にははっきりと圏外のマークが。
「どこか別の場所にテレポートした、ということでしょうか。信じがたいですけど」
と文乃があくまでも冷静に、今の状況を言い表した。守子は頷いて、
「信じがたいけど、信じるしかないよね」
守子は有里に問う。
「で、どうする?」
森の中である。
下手に動いて迷うことにもなりかねない。じっと座っていて誰かに見つけてもらえる可能性も低そうだ。有里はうーんと少し考えて、結論を出す。
「とりあえず、二組に分かれて周囲を確認しようか。それで、いますぐ森を抜けて大丈夫そうか判断しましょう。日暮れまでの時間も考慮すると、ここで野宿も選択肢だね」
文乃が不安げに言う。
「簡単に抜けられる森だといいんですけど……」
それに対して、守子が冗談めかして言う。
「そもそも日本なの? ここ」
「あ〜、確かに。外国だったら厄介かもね」
玲奈が半分呻くように言った。気づいたら知らない場所に飛ばされているなんて異常事態なのだ。何が起きてもおかしくはない。
「スマホが圏外なんですから、その可能性は十分ありますよね」
文乃が指摘し、全員が押し黙る。
「君たち、心配するスケールを間違えてると思うよ」
ずっと黙っていた巴絵が急に口を挟んだ。
「どういうこと?」
有里の問いに、巴絵は黙って空を指す。つられて有里たちは空を見上げ、すぐに絶句した。
そこにあったのは、昼間の白い月だった。半月で、夕方に出ているのはおかしなことではない。
ただ、明らかにおかしいのは、その数だ。
空には大小二つの月が、まるで兄弟のように並んで、有里たちを見下ろしていた。
「ここは地球じゃないってことさ」
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