046 式典
シマニエク市の領主の館の前の広場に、階段状の舞台が設けられていた。
その頂上には、館から持ち出した、豪勢な椅子が用意されている。玉座と呼ぶには威厳が足りないが、式典のために新たに設える余裕はなかったのである。広場には周辺の小領主たちが正装で整列しており、その外側に見物人の民衆の姿もある。広場に面した建物の二階から見ている民もいるようだった。
「神々から選ばれし、リナリア王国女王。最高神祇官にして、人民の守護者。ユウリ陛下」
司会を委ねられた者が、緊張した声で仰々しい称号を読み上げたのを合図に、金村有里が壇上に姿を見せた。綺羅びやかな衣装ではなく、鮎沢女子高校の制服を選んだのは、異なる習俗の衣装を身にまとうことで、異界から来た女王という印象を強めるためだ。
それに、華やかさは有里自身の持つ美しさだけで十分だった。彼女の覇気が周囲を満たし、誰もが彼女に目を奪われ、息を飲む。
有里は正面を向いて人々を見下ろすと、大仰に椅子に座る。
メレーゲ子爵の名が呼ばれる。
彼女は舞台の下に進み出ると、膝を折って女王への忠誠を誓う。次にニルバス・レイエンが同じく忠誠を誓い、それから各々の領主たちが順に跪く。その多くは今回の戦で女王軍に参加した領主たちだが、中立を選んだ者も今回は加わっている。
そればかりか、シマニエク伯爵についたが赦された者の顔もあった。
多数の領主たちの誓約が終わり、
「異界より女王に付き従いし二人の臣、
モリコ・オオクラ
アヤノ・ヒナタ
両名とも、前へ」
文乃たちの名前が呼ばれて、二人は進み出る。
舞台の下から、一瞬だけ有里を見上げる。彼女は威厳たっぷりに仮の玉座に座っていた。彼女はもはや、自分が玉座の主であることを疑ってはいない。守子が躊躇いなく跪くのが、文乃の視界の端に写った。
──私も跪いていいのだろうか?
そんな疑念が、文乃の脳裏を過る。
文乃は生徒会の一員で、文乃にとって有里は女王でなく生徒会長なのだから。
だが、心折れかけた彼女を煽り、女王として立たせたのは文乃だ。
有里がこの国を、この世界を征服するならば、文乃も責任を追わねばならない。
文乃は膝を折る。あくまでも、責任の取り方として。
そして、
「神々の選びし、女王の騎士トモエ・トウドウ」
その名が呼ばれると、広場の対面から騎士が姿を見せる。
巴絵は、メレーゲから借りた軍装に身を包んでいた。
腰には、戦場で数多の敵を斬った剣。赤い瞳は、壇上の有里しか見ていない。
彼女はもはや女子高生ではなく、一人の騎士だった。
巴絵は先に跪いている文乃と守子の間を抜け、二人の数歩前で膝をつく。
「我ら三人、女王陛下への絶対の忠誠を誓約します」
その日、女王ユウリはリナリア王国全土の諸侯に帰順を命じた。
歴史書が、この日をどう書くのかは、文乃にはわからない。
ただ一つ言えることがある。
跪く三人の臣下を見下ろす女王の青い瞳を、文乃は生涯忘れることはないだろう。
第一部完結です。評価、感想などいただけると嬉しいです。
明日以降は第二部に入ります。
ストックが続く限りは毎日更新の予定ですので、引き続きお楽しみください。




