004 生徒会の放課後
「えぇっと。皆さんのおかげで無事、予算案が代議員会で可決・成立しました。とりあえず、お疲れ様でした」
夕方の生徒会室で、有里の言葉に生徒会執行部メンバーたちが拍手をする。
有里は続けて、
「これからも予算の執行や行事の運営、その他雑事などで皆さんの力を借りることになると思います。よろしくお願いします」
「任せてください、有里かいちょー」
ふざけたノリで返事をしたのは守子だ。その他のメンバーも思い思いに頷いて、有里への協力の意志を示す。守子は、さて、と手を打って。
「有里の堅苦しい挨拶が終わったことだし、打ち上げに行きましょう!」
こうした提案をするのはいつも守子だ。会長である有里が自ら提案してもいいのだが、彼女が先に言い出すので、有里にはその必要はなかった。それに、そういう場を仕切るのは彼女のほうが得意なので、有里は打ち上げの仕切りは彼女にいつも任せている。
「いつものファミレスでいい?」
もっとも、いつもファミレスでわいわいやるだけなので、段取りも何も必要がないのだが。
おっけー、とみんなが同意したのを確認し、守子は問う。
「有里、例のお参りも行く?」
「当然」
「じゃあ、いつも通り、みんなで神社に寄ってから、そのままファミレス行くってことで。しゅっぱーつ」
守子の音頭で生徒会執行部の面々は生徒会室を出る。五人の前を歩くのは、有里と巴絵というのが五人の中に自然に生まれた習慣だ。
巴絵が有里をからかう。
「ゲーム制作部に噛みつかれたときはひやっとしたね」
「言わないで」
「まあ、『選挙で応援してもらったからバレー部とソフト部を優遇したんだろう』って図星突かれて、屁理屈で斬り伏せたのはさすがだけどさ」
巴絵の言う屁理屈とは、この前に有里が披露した持論のことである。
「私はあれを屁理屈だなんて思ってないけど」
「そうだろうね。君はそういう人だ」
含みのある言い方に、有里は思わず言い返す。
「どういう意味よ?」
有里の視線の先で、巴絵の整った横顔が、甘い笑みを浮かべる。巴絵の腕がさっと有里の肩を抱き寄せる。
「君が美しいってことさ」
輪をかけて甘ったるい声音で、巴絵が囁いた。
「……私はそんなのでごまかされないからね?」
「ごまかしたつもりはないんだけどな」
全く悪びれた様子のない巴絵に、有里は刺すような視線を送るが、巴絵は動じることなく、むしろ有里の肩を引き寄せる始末である。
「まったく、もう。私以外の女の子にこういうことしないように」
「何それ、独占欲?」
「アホか。私は耐性あるからいいけど、他の子ならコロっと落ちるからね、これ」
「私は有里を落としたいんだけどな」
「嘘つけ。ばーか」
巴絵はときどきこういう冗談を口にするし、有里はいつもそれを適当にあしらっている。それは幼馴染同士のじゃれあいにすぎないはずなのだが、傍目にはそうは映らないらしく、
「私、生徒会に入って半年ですけど、未だにあのイチャイチャに慣れないんですが……。あれってどういう目で見ればいいんですか?」
文乃が隣を歩く守子に尋ねる。
「目の保養にするのが正しい。正統派美少女と王子様系美少女がイチャイチャする光景、日本だと、宝塚とここでしか見れないよ。しかもこっちは無料」
冗談めかして答える守子に玲奈が呆れて言う。
「それは守子の趣味でしょ……。イチャイチャしてるのを止める必要もないし、生暖かい目で見ればいいと思うけど」
文乃はなるほど、と頷いて、
「では、お二人のイチャイチャは目の保養にします」
とまっすぐな視線を二人に送ることにしたようだった。その会話を聞いていた有里が振り返り、
「イチャイチャ言うな! 巴絵がベタベタしてくるだけだから!」
と釘を刺すが、その肩に回った巴絵の腕のせいで説得力がゼロだ。文乃たちが吹き出すのを見て、有里はますます顔を赤くする。有里はぱしりと巴絵の腕を払い落とし、
「ほら、神社着いたから、お参りするよ!」
と神社へと続く階段を登り始める。
三菟神社は、この街の中の小高い丘の上にある、歴史はあるが大きくはない神社である。入り口の鳥居は多くの車の行き交う道路の傍にあるが、神社の敷地になっている丘には木々が茂っているため、この階段を登り始めると、街中から隔絶された別世界のようにも思える。有里はそんなこの神社の雰囲気が好きだった。
階段の中ほどを過ぎたところで、玲奈が有里に向けて言う。
「そういえば、まだ文乃は知らないんじゃないか」
「あ〜、確かにまだ話してないかも」
聞いていた文乃本人が首を傾げる。
「何がです?」
「有里たちの不思議体験」
玲奈が言うと、文乃が胡散臭いとばかりに顔をしかめて、
「何ですか、それ?」
「ほら、いつも打ち上げするファミレスに行くならここって遠回りでしょ。このあたりに神社なら学校のすぐ隣にももう一社あるのに、わざわざこっちに来るのには理由があるわけよ」
「私的には、わざわざこっちに来ることよりも、そもそも会長が事あるごとにお参りしたがること自体が変だと思ってたんですよね。会長って神様に縋ったりなんてせずに、何でも自分の力で勝ち取る人じゃないですか」
文乃の指摘に応えたのは、巴絵だった。
「流石、有里のいいところがわかってきてるね」
「半年もいっしょにいれば、当然です」
巴絵に褒められたのが嬉しいのか、文乃は少しだけ頬を染め、仕切り直しとばかりに問う。
「で、不思議体験とやらは何なんですか?」
「あれ、気になるんだ。さっきは何それ胡散臭、って顔してたのに」
守子がからかうと、文乃がむっとして言う。
「ここで聞かなかったら気になって眠れなくなりそうです」
そりゃそうかと守子が笑い、
「話してあげなよ」
と有里に促す。
「あれは、昔々、私が小学校一年生だったころのことでした」




