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002 生徒会

 現実の生徒会に、漫画やアニメのような権限はない。生徒を退学にしたり、教師をひれ伏させたりなど不可能である。


 とは言っても、少なくともこの鮎沢女子高校においては、権限の全くない、教師の小間使いというわけでもない。たとえば、文化祭や体育祭のようなイベントは生徒会主催ということになっており、その企画と運営は生徒会長を中心に行われる。教師の監督は受けるものの、それなりに広い裁量を任されていると言ってよい。


 そして、生徒会の最大の権限というものが存在する。


「ゲーム制作部のこの金額はどういうこと……?」


 眼の前の書類を前に、鮎沢女子高校生徒会長・金村有里は絶句した。去年より、一桁多い要求である。


「LLMモデルをチューンしたうえでゲームに組み込みたいから、そのために高性能なGPUを積んだマシンを買いたいそうですよ。裏にびっしり書いてあります」


 書記を務める日向文乃ひなたあやのが指摘する。有里は用紙をひっくり返すと、小さな文字が枠内を埋め尽くすように書かれている。有里はげんなりして文乃に問う。


「これ、全部読んだほうがいい?」


「私は全部読みましたけど、会長は読まなくていいです。技術的には平凡で、アイデアとしては控えめに言っても十二番煎じくらいだと思うので、貴重な予算を割く理由としては弱いです。やりたいならクラウドサービスを上手く使ってくださいとしか」


 二年生トップの成績を誇る優等生らしい博識で、文乃がばっさりと切り捨てた。


 生徒会最大の権限、それは部活動などへの予算配分案の作成である。


「学校から部活動の予算総額増を勝ち取ったのが裏目に出たね」


 髪を明るく染め、制服を大胆にアレンジした少女――生徒会・会計の大蔵守子おおくらもりこに言われて、有里は苦笑いする。


 例年、学校は進学実績重視で、部活動予算を出し渋ってきた。昨年度、いくつかの運動部を中心としたグループに要請され、生徒会長たる有里が学校と交渉に当たったのである。実際に予算増を勝ち取ったわけだが、それが校内に知れ渡った結果、どこの部活もダメ元で増額を申請してくるという元々の傾向が更に強まってしまったのである。予算だけでなく、増額理由を精査する生徒会の負担も増加だ。


「とりあえず、文乃と相談して、予算つけないと今後の活動に支障が出そうな要求には優先して割り振ってみたよ。で、残りがこれだけ」


 守子は有里に、手にしていたパソコンの画面を見せる。エクセルにまとめられた予算の配分状況と、まだ配分されていない予算の残り金額が表示されている。


「さすが仕事が速い。うーん……意外と残ってないね……」


「学校側が予算を渋ってたつけを一気に払ってるようなものだから」


「ま、それもそっか」


 守子の言葉に納得しつつ、有里は表に目を凝らす。


「残りはバレー部とソフト部で分けよっか。玲奈、あなたの立会いのもと、両方の部長に話し合ってもらって。なるべく内密に」


 庶務の広田玲奈は元バスケ部の体育会系である。運動部を中心にあちこちに顔が効き、交渉ごとも上手いため、怪我をして部活をやめたタイミングで生徒会に引っ張り込んで、校内の揉め事なんかの折衝に当たってもらっている。今回も、彼女に任せるのがいいだろう。


 玲奈は目を見開く。


「いいの?」


「何が?」


「いや、選挙で応援してもらったから予算増やしたみたいに思われるのは嫌なんじゃないかと思って」


「ああ、そういうこと」


 昨年、有里に部活動予算の増加を学校側に求めるように要請してきたのは、バレー部とソフトボール部の部員たちだった。有里はそれを公約の一つに生徒会長選挙に臨み、彼女たちは票集めに奔走した。有里の二期目は有力視されていたとはいえ、大学への推薦狙いの候補によって毎年激しく争われる生徒会長選挙に圧勝できたのは、間違いなく彼女たちのおかげだ。そしてそのことは、校内で周知の事実だった。


 ゆえに、有里がその二つの部活へ余った予算を割り当てたならば、選挙応援に対する論功行賞とみなされるのは必然と言えた。


「ホントは、予算増を受けれてない部活全部で話し合うべきなんだけどね」


 そう前置きしてから、有里は言う。


「そもそも予算総額が増えたのは、彼女たちが私にはたらきかけたのがきっかけでしょう。そして、彼女たちが頑張って票を集めて、私が選挙で圧勝した。選挙の結果が圧勝だったからこそ、学校との交渉も上手くいった。生徒の意志をはっきり示したことになるからね。予算総額の増加は、彼女たちが勝ち取ったもの。自分たちで動けば、その成果を得られるんだって、はっきりと示すべきだと思うの。そうした意識が生徒に広がれば、生徒の自治っていう生徒会の意義をより果たすことができるでしょ」


 玲奈はなるほどねと頷いたあと、


「でも、予算増やせなかった部活からは恨まれると思うけど」


「まあ、それはしかたないでしょ。それに、予算増えなかった人たちは来年はもっとはたらきかけを強めるでしょうし」


 有里がおどけて言うと、守子が口を挟んだ。


「それ、来年の生徒会の負担がめちゃくちゃ増えるよ?」


「そこは次期生徒会長に期待だね」


 有里は後輩である文乃にちらりと視線を送るが、彼女はその視線の意味を理解しなかったようだ。その気があるかどうかも怪しい。文乃はいたって真面目な表情で言う。


「生徒会長候補が予算でばかり票を釣るようになっては困りものだと思いますが」


「それだって、テキトーな空気で決まるよりはマシでしょ」


 そんな会話に割り込む、よく通る声が一つ。


「私は来年の心配より、来週の代議員会の心配をしたほうがいいと思うけど」


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