とっておきの部屋
アレクシスの本領発揮の回です
「私は見たのでございますよ、伯爵様」
セリーヌと名乗る女は、必死にエピナスチン伯爵へ訴えていた。
「以前勤めていた邸宅のメイドが、立派な馬車に乗って帰るのを」
「それはどこの屋敷の話だ?」
伯爵の息子アンドルが問いただす。
「侯爵様の妹君がお嫁に入られたプロムフェナク伯爵家でございます。そこで働いていたメイドです」
セリーヌは涙を浮かべながら続けた。
「あのメイドは盗みを働いて追い出されたのでございます。
それなのに、自分は伯爵の娘だと侯爵様に吹き込み、まんまと養女に収まったのでございます」
「証拠はあるのか?」
「ございます。
当時出入りしていた商人達が証言してくださるでしょう」
セリーヌは具体的な名前をいくつも挙げた。
伯爵は腕を組む。
「プロムフェナク伯爵家は借金を抱えたまま没落したと聞いている。
娘が一人いたはずだ。その娘を侯爵が引き取ったとも聞いている」
「きっと入れ替わったのでございます。
本物のお嬢様を追い出し、メイドがお嬢様のふりをしたのです」
伯爵とアンドルは顔を見合わせた。
リリアーナは才媛として知られている。
国王夫妻の信頼も厚く、近頃では王太子妃候補の一人とも噂されていた。
「信じ難いな」
伯爵はセリーヌを見据える。
「他人の空似ではないのか?」
「そんなはずございません!」
セリーヌは声を震わせる。
「私があの娘の顔を忘れるはずがないのです」
そこへ伯爵夫人が現れた。
「あなた。ここまで必死に訴えているのですもの。
一応調べてみるべきではありませんか?」
「そうだな」
伯爵は渋々うなずいた。
「だが、虚偽だった場合は覚悟してもらうぞ」
「もちろんでございます」
しかしセリーヌはまったく動じなかった。
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聞き込みに出たのはアンドルだった。
商店街の人々を一軒一軒訪ねて歩く。
「確かによく買い物に来ていたよ」
皆そう言う。
「でもメイドには見えなかったな」
「気品があった」
「立ち居振る舞いが洗練されていた」
証言はおおむね一致していた。
「ある時から突然、その子が全部を取り仕切るようになったんだ」
「若いのに大変そうだったよ」
「一日中働いていたな」
「よく倒れなかったものだ」
だが――
誰も名前を知らなかった。
結局、アンドルはそのまま父へ報告するしかなかった。
すると夫人が言った。
「ほらご覧なさい。
やはりメイドが娘になりすましているのですわ」
そしてその話は、夫人の口からあっという間に社交界へ広がっていった。
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その噂を聞き、侯爵夫人は激怒して帰宅した。
「とんでもない噂が広まっております!」
応接間へ入るなり叫ぶ。
「私の口から『あの子は間違いなく主人の実の姪です』と説明いたしましたが……」
夫人は拳を握る。
「どうやらエピナスチン伯爵夫人が吹聴しているようです」
侯爵はため息をついた。
「リリアの手柄だな」
「手柄?」
「セリーという女がエピナスチン伯爵夫人を騙しているのだろう」
侯爵は首をかしげる。
「いったい何が目的なのやら」
その後、侯爵は騎士や侍女、侍従を集めた。
「変な女が、リリアは私の姪ではないと言いふらしている」
皆の表情が険しくなる。
「もしかすると、リリア本人に接触してくるかもしれぬ。
十分気を付けてくれ」
全員が真剣な顔でうなずいた。
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そして――
ある日。
その女は本当にやって来た。
「お嬢様の昔からの知り合いでございます。
どうか面会を……」
門番が目を細める。
「ほう。どのようなお知り合いで?」
「『セリーが来た』とお伝えくださればわかりますわ」
自信満々だった。
門番から報告を受けたアレクは笑った。
「あちらから来たか。
少しからかってやるか」
幸いリリアは王城へ出かけていた。
「妹は留守だ。
私が用件を聞こう」
「いえ、お嬢様と直接お話したいのです」
「そうか」
アレクはうなずいた。
「では中で待つといい。
ちょうど良い部屋がある」
執事が前へ出る。
「こちらへどうぞ」
階段を下りていく。
後ろには護衛が二人。
「地下室にお部屋があるのですか?」
セリーが首をかしげる。
「ああ」
アレクがにっこり笑った。
「とっておきの部屋だ」
そして牢の前で立ち止まる。
執事が鍵を開ける。
護衛二人が同時に動いた。
セリーを持ち上げ、そのまま牢の中へ放り込む。
ガシャン。
執事が鍵をかけた。
「良い部屋だろう?」
アレクは満面の笑みだった。
「そなたにぴったりだ」
そして静かに続ける。
「妹はもう昔の妹ではない。
強くなった。
国王陛下にも剣の腕を認められている」
クスリと笑う。
「『セリーを見つけたら叩き斬る』と、毎日訓練していたよ」
セリーの顔色が変わった。
「まさか自分から来るとはな。
探す手間が省けた」
「何を誤解されているのです!」
セリーは叫ぶ。
「私は本物のお嬢様を守っているのです!」
「ほう?」
アレクが身を乗り出す。
「では、本物のお嬢様はどこにいる?」
「私がお預かりしております!
大切に育ててまいりました!」
アレクは吹き出しそうになる。
侯爵の調査で、農家の娘を買い取ったことはすでに判明していたからだ。
「その娘が本物だという証拠は?」
「この指輪です!」
セリーは胸元から指輪を取り出した。
「奥様が大切になさっていた品です!」
アレクは受け取る。
「本物かどうか、侯爵に見てもらう。預からせてもらう」
アレクはセリーからその指輪を取り上げた。
そしてアレクは、その指輪を手に取り、じっくりと眺めた。
「まったく、盗人猛々しいとは、そなたの事だな。」
アレクはニヤリと笑った。
「これは、元々侯爵家の物。伯爵家に貸し出していたのだ。返してもらう」
セリーの顔が怒りに震える
「返しなさい。私がもらったのよ!私の物よ!」
「おやー?夫人から預かったのではなかったのか??」
アレクは指輪をセリーからの目の前に近づけながら言った。
「裏に、名前が彫ってあるのだよ。私の母上の名前だ。なぜ、そなたがそれをもっているのかな?」
「ま、まさか、そんなはずはないわ。鏡台に入っていたのを拝借したのに・・・・」
セリーの顔が真っ青になっていた
アレクは満足そうに笑った
(名前など入っておらぬ。ひっかかった)
「そうか。勝手にそなたが取ったわけだな。
そなたら、ちゃんと記録を取っておけ。そして、後で証言しろ。」
「かしこまりましてございます」
執事と護衛が同時に答えた。
アレクは踵を返す。
「我々は食事に行こう」
そして最後に振り返った。
「妹には残り物ばかり食べさせていたそうだな。
そなたも同じ生活をしてもらう」
にっこり笑う。
「家事をやらなくて済むだけ感謝しろ」
そう言って三人は階段を上がっていった。
「覚えておきなさいよ!」
セリーの叫び声が地下に響く。
だが、誰一人として気に留める者はいなかった。
セリー、いろいろな意味で自ら墓穴を掘りました(笑)
アレクシスの策士ぶりをお楽しみいただけましたでしょうか?
お読みいただきありがとうございます




