「今か?遅い!!」
クライマックスでございます
リリアは王太子妃への語学指導の役目を終え、公爵家へ戻っていた。
その後はひたすら公爵家の仕事を手伝い、アレクシスもまた、公爵家嫡男としての務めに追われる日々を送っていた。
そんなある日。
二人は王太子主催のパーティへ招かれた。
着飾ったリリアをエスコートするアレクの姿は、実に凛々しかった。
会場に入ると、それぞれが関係者との挨拶に回るため、自然と別行動になる。
その時だった。
王太子妃の母国から来ていた王族の男性がリリアに声をかけた。
大柄な体格をした、見るからに武人といった男である。
「今日は着飾っているのだな」
母国語でそう話しかけられ、リリアは通訳を頼まれたのだと思った。
ところが次の瞬間、その男はいきなりリリアの手首を掴んだ。
そして、そのまま別の方向へ歩き出す。
「離してください!」
必死に振りほどこうとするが、男の力は強い。
しかも相手は来賓であり王族だ。
リリアも手荒な真似はできなかった。
踏ん張り、抵抗する。
それでも引きずられるように連れて行かれてしまう。
怖い。
助けを呼びたいのに声が出ない。
その時――
「リリアから手を放せ!」
怒声が響いた。
アレクだった。
アレクは男の腕を掴み、その手首をひねり上げる。
リリアはようやく解放され、その場へ座り込んだ。
男が怒鳴る。
「何をする!」
それに対し、アレクは相手の国の言葉で返した。
「私の大切な女性だ。そなたが誰であろうと、無体な真似は許さない」
会場がざわつく。
人だかりができ始めた。
「来賓とはいえ、私の大切な女性に乱暴を働いたことは許さん!」
周囲の貴族たちは何が起きているのかわからない。
「おい、何を話しているのだ?」
「あの公爵家嫡男が怒っているぞ」
「本ばかり読んでいる軟弱者かと思っていたが……」
男は鼻で笑った。
「たかが通訳ではないか。何をしようと私の勝手だ」
どうやら以前からリリアに目をつけていたらしい。
「王族の手が付くのだ。光栄に思え」
そう言って、アレクを見下ろすように笑った。
体格だけ見れば、圧倒的にアレクが不利だった。
アレクの瞳に怒りの炎が宿る。
次の瞬間には、男の顎へ鋭い蹴りが叩き込まれていた。
男がよろめきながら腰の剣へ手を伸ばす。
アレクはその腕を蹴り払った。
さらに急所を膝で蹴り上げ、そのまま顎へ頭突きを叩き込む。
巨体が大きな音を立てて床へ倒れた。
アレクはその頭を踏みつける。
「よくも私の大切なリリアに手を出そうとしたな!」
その時になってようやく、レオンとアンドルが駆けつけた。
「やめろ! アレク!」
「やり過ぎだ!」
二人の声で、アレクは我に返った。
慌ててリリアの元へ駆け寄る。
「大丈夫か?」
手袋を外した手首には、男の指の跡が赤く残っていた。
すでに腫れ始めている。
「誰か! 冷たい濡れ布を持ってきてくれ!」
アレクが叫ぶ。
その瞬間、リリアの張り詰めていたものが切れた。
「こ、こわかったぁ……」
リリアはアレクへしがみつき、大声で泣き出した。
「間に合ってよかった……無事でよかった……」
アレクは強く抱きしめる。
「目を離してすまなかった」
何度も頭を撫でた。
「もう大丈夫だ。
これからも、ずっと私がそなたを守る」
リリアはアレクの胸へ顔を押しつけた。
「お兄様以外の男に触れられるのは嫌……
お兄様以外とは……」
その言葉に、アレクは苦笑する。
「私も、そなた以外の女性には触れたくない。
そなたじゃないと駄目だ」
二人は見つめ合う。
そして――
自然と唇を重ねた。
◇ ◇ ◇
「取り込み中、邪魔して悪いが……」
レオンが頭をかきながら声をかけた。
「ほら、冷たい布だ。リリアの手首を冷やしてやれ」
二人は慌てて離れた。
顔は揃って真っ赤である。
アレクは受け取った布をリリアの手首へそっと当てた。
「痛かったであろう」
優しく腫れた部分をさする。
一方、その少し離れた場所では大騒ぎになっていた。
アレクに叩きのめされた大男の周囲を、医師や侍従たちが取り囲んでいる。
「我が主は顎が折れているようでして、話ができません。
いったい何があったのでしょうか?」
男の侍従らしき人物がアレクへ問いかけた。
「あの男がリリアを部屋へ連れ込もうとした」
アレクは自分の国の言葉で答える。
「見ろ。この手首の跡を」
それをリリアが通訳した。
そして自分からも事情を説明する。
侍従の顔色が変わった。
「しかし、足蹴りは良くないぞ」
聞き慣れた声が響く。
現れたのは王太子夫妻だった。
国王も一緒である。
「私の体格では、足技を使わねば太刀打ちできないと判断しました」
アレクは真顔で答えた。
「まあ、確かに相手は大男だ」
国王は頷く。
「だが、急所を蹴り上げ、顎を砕くのはやり過ぎであろう」
深々とため息をついた。
すると、王太子妃が割って入った。
「いい気味でございます」
その顔はどこか楽しそうだった。
「あの方は王族ではありますが、常習犯です。
皆、王族だからと見て見ぬふりをしておりました。
私は何度、泣いている侍女たちを見たことでしょう」
周囲が静まり返る。
王太子妃は次々と侍従へ指示を飛ばした。
大男は担架へ乗せられ、運ばれていく。
あまりの重さに担架の布が今にも破れそうだった。
アレクとリリアは肩を寄せ合いながら、その様子を見送っていた。
だが突然、アレクが我に返る。
「しまった!」
そして勢いよく立ち上がった。
「国賓である王族に大怪我を負わせてしまいました!
申し訳ございません!」
その場へ跪き、深々と頭を下げる。
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「今か!?」
国王が叫んだ。
「遅い!!」
王太子が叫ぶ。
「遅すぎる!」
レオンが叫ぶ。
「気付くのが遅い!」
アンドルも叫ぶ。
さらに駆けつけた公爵まで、
「もっと早く気付かんか!」
と怒鳴った。
アレクは頭を下げたまま固まる。
リリアはそんな彼を見て、思わず吹き出した。
先ほどまで泣いていたのが嘘のようだった。
アレクが「大切な女性」と叫んだのは外国語だったのでとっさに「妹」という単語が出てこなかったという裏設定
しかし、リリアからしたら胸キュンです
チャッピーに校正されてしまいましたが、「急所」を最初「股〇」と書きました。
そこだけでノックダウンできたのでは・・・・と思う私
「それでは、簡単すぎます」とチャッピー
チャッピー意外にひどい
お読みいただきましてありがとうございます




