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侯爵家に引き取られた令嬢は王妃陛下の通訳になる  作者: 鶴見 日向子


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16/20

「もう守る必要はない」

ちょっと短いので、次の話と同時公開にします

王太子の実母も来ていた。


彼女は母国で、子連れの男性と再婚していた。


「この国は一夫一妻の国と聞いて嫁いで参りました。ところが違っていました。騙されたと思い、私は息子を置いて母国へ帰ったのです。息子を引き取って育ててくださった国王夫妻には感謝しております」


たどたどしいながらも、彼女はこの国の言葉を話していた。そのため、リリアの通訳はほとんど必要なかった。


しかし、その後の話は別だった。


「実は、夫の連れ子の娘を連れて参りました。あの子は私の息子に一目惚れしたそうなのです。義理の妹になりますが、血のつながりはありません。ただ、一夫多妻になるのであれば、やめさせたいと思っております」


夫も同意した。


「私は一夫多妻など認められません。妻を悲しませた王弟殿下のことも許せないのです」


それを聞きながら、リリアは慌てて通訳した。


「我が国は一夫一妻制でございます。王太子殿下が妻以外の女性に手を出すことはございません」


(亡き王弟殿下に、王太子殿下以外の子供が二人もいるなんて、絶対に訳せないわ……!)


リリアは内心で冷や汗を流した。


連れてこられた少女は、金髪の愛らしい娘だった。


彼女はたどたどしいこの国の言葉で王太子に挨拶をした。


「私を……妻に迎えてくれませんか?」


そこから先は言葉が続かず、リリアが代わりに通訳する。


どうやら、以前から何度か会う機会があり、血のつながりはないのに妹のように可愛がってくれた王太子に惹かれたらしい。


それを聞いた王太子は頭をかいた。


「気持ちには応えたいが、言葉の壁は大きいな」


「でしたら、私が言葉を教えます。その上達具合を見て決められてはいかがでしょう?」


「リリアが協力してくれるなら……」


リリアがその言葉を両親に伝えると、二人は安心したように頷いた。


そしてリリアの手を握り、


「どうかよろしく頼む」


と言い残して帰国していった。


「よろしくね。少しずつ覚えていけばいいわ」


リリアはシャーロットに母国語で優しく語りかけた。


王太子の婚約者は、いずれ自分の姉妹のような存在になる。


リリアは熱心に言葉を教えた。


もともと母親がこの国の言葉を話せたこともあり、シャーロットの上達は驚くほど早かった。


そうして王太子の結婚が決まったのである。


聡明で愛らしい少女だった。


「今度こそ、血のつながりを心配せずに済む娘に巡り会えた」


王太子は心から喜んでいた。


「国内だと、どこに異母兄弟がいるかわからないからな。海外なら安心だ」


冗談めかして言う王太子に、周囲は何とも言えない顔をした。


しかし、王太子自身は真剣だった。


やがて彼はリリアから彼女の国の言葉を学ぶようになり、シャーロットと二人だけで会話できるようになった。


異国の言葉で交わされる二人の会話は、とても楽しそうだった。


一方、レオンの婚約も決まっていた。


相手は娼館で共に下働きをしていた少女だった。


顔に傷があり、娼婦にはなれず下働きをしていた女性である。


だが、とても明るく優しかった。


「彼女がいたから耐えられた。ずっと探していたのだ。そして見つけた。だからすぐに求婚した」


確かに顔の傷は目につく。


だが、それがなければ誰もが美しいと認める女性だった。


「顔などどうでもいい。私は彼女の人柄に惹かれたのだ。身分も関係ない。価値観が同じであることの方が大切だ」


その傷は、


「男に身を売るくらいなら」


と、自らつけたものだという。


「私はその傷も含めて彼女を受け入れる。家族として祝福してほしい」


少女は真っ赤になって俯いた。


その姿はとても微笑ましかった。


アレクもアンドルも心から祝福した。


リリアからも祝いの手紙が届いた。


「あとはそなた達だな。アレクはまだリリアと一緒になる気はないのか?」


レオンが尋ねる。


「今はそれどころではありませんよ。王太子妃に言葉を教えている最中ですから」


アレクは苦笑した。


「それに、あの女たらしの子爵子息を海外へ送り出したとか……私の手には余るかもしれません」


レオンは声を立てて笑った。


「なんだか妹というより、雲の上の人間になってしまった気がするよ」


アレクは窓の外を見た。


「もう、私が守る必要はない。自分の足でしっかり立っている」


嬉しいことのはずだった。


それでも、どこか寂しかった。


そんなある日。


エピナスチン伯爵から知らせが届く。


『夫人危篤』


アンドルは即座に言った。


「私には関係ない人です」


レオンも複雑だった。


産みの母らしいが、セリーの言いなりになっていた人物でもある。


しかし、レオンの妻ジャンヌは静かに言った。


「お二人が行かれないのであれば、私一人でお見舞いに参ります」


二人は驚いた。


「いや、そなたが行けば嫌な思いをするかもしれない」


アンドルは慌てて止めた。


だがジャンヌは首を振った。


「言われても構いません。ただ、本当はどのような方だったのか知りたいのです」


レオンとアンドルは顔を見合わせた。


「わかった。そなた一人では行かせない。三人で行こう」


こうして三人はエピナスチン伯爵領へ向かったのであった。


王太子殿下にもやっと、妻ができました。


お読みいただきありがとうございます

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