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侯爵家に引き取られた令嬢は王妃陛下の通訳になる  作者: 鶴見 日向子


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15/20

「仕事中ですので」

レオンとアンドルの新地開拓

そして、リリアの伝説がまた加わります

レオンはプロムフェナク侯爵として領地へ赴いた。


もちろん、アンドルも一緒である。


そして、アレクシスの家は侯爵家から公爵家へと格上げされていた。


「懐かしいが……手を入れねばならぬな」


荒れ果てた邸宅を見上げ、レオンはため息をついた。


国家から再建のための補助金は出ていたものの、放置されていた年月は長い。


「これは、いくら金があっても足りないな」


まずは自分たちの住む場所だけを整える。


侍女や侍従を雇う余裕はまだない。


「最初は領地の現状把握だ。町を見て回ろう」


レオンとアンドルは町へ下りた。


しかし、人影はまばらだった。


「人がいる気配がないな。これは大変だ」


レオンは苦笑した。


「笑い事ではありません!」


アンドルは青ざめる。


「借金がないだけマシだ」


そう言って、二人は領内をくまなく歩き回った。


やがて広い草原へたどり着く。


「ふむ。ここは牛や馬を飼うのによさそうだな」


風に揺れる牧草を見ながら、レオンが言う。


「しばらく酪農をやるぞ」


「……はあ?」


アンドルの目が丸くなった。


その後、レオンは公爵家を訪れた。


「騎士を五人ほど貸してくれないか」


事情を聞いたアレクは目を輝かせた。


「面白そうですね。私も参加します」


「いや、公爵家嫡男が何を言っている」


「力仕事なら得意ですよ」


結局、騎士たち総出で木を伐り、柵を作ることになった。


途中からエピナスチン伯爵家からも応援が入り、広大な牧場が完成する。


さらに人員募集の張り紙を出した。


かつて領地を去った人々も、


「新しい領主が何か始めたらしい」


と聞きつけて少しずつ戻ってきた。


公爵家から資金を借り、牛や馬を大量に購入する。


良質な牧草のおかげで家畜は順調に育った。


牛乳からはバターやチーズを作り、肉牛も出荷する。


さらに葡萄畑を開き、葡萄酒造りにも着手した。


「すぐには利益にならないがな。ここは葡萄に向いた土地だ」


レオンは満足そうに畑を眺めた。


そうして数年が過ぎた。


プロムフェナク侯爵領は見違えるほど豊かになっていた。


一方、公爵家もまた繁栄していた。


海外との取引では、リリアが大活躍していた。


アレクとリリアは互いに忙しく、顔を合わせる時間も減っていた。


かつて周囲を騒がせた「二人の結婚話」は、もはや過去の話になっている。


二人とも異性と食事をしている姿が目撃されるようになっていたからだ。


ある日、公爵がリリアに尋ねた。


「リリアーナ、今は誰と付き合っているのだ?」


「デルマルク子爵家のご子息ですわ」


リリアは楽しそうに答えた。


「やめろ! あれは女たらしで有名だぞ!」


公爵は思わず叫ぶ。


しかしリリアは涼しい顔だった。


「だから面白いのですわ」


「面白い?」


「何とかして私を落とそうと必死なのですよ。あの自信満々なところが実に愉快です」


公爵は頭を抱えた。


「この前など、『私に剣で勝てたら口づけを許しましょう』と言いましたの」


「それで?」


公爵は恐る恐る尋ねた。


「当然、負かしましたわ」


リリアはにっこり微笑む。


「あんなひょろひょろした方が私に勝てるわけありませんもの」


「……そうか」


「その代わり、負けたら私の言うことを何でも聞く約束でした」


リリアは楽しそうだった。


「友人の令嬢たちが、過去に彼の被害に遭ったそうでして」


公爵の背筋に嫌な予感が走る。


「彼女たちの前で土下座していただきましたわ」


「……」


「皆さま大変喜ばれていました」


リリアは満面の笑みである。


「彼女たち、思いきり背中を踏みつけていましたわ」


公爵は遠い目になった。


「それは本当に付き合っていると言うのか?」


「接触があるのだから、付き合っているのでしょう?」


リリアは不思議そうに首を傾げる。


公爵は何も言えなかった。


この娘は、一生結婚に向いていないのではないか。


そんな気さえしてくる。


しかし、この武勇伝は社交界中に広まった。


その結果――


リリアへの求婚者はきれいさっぱり消えた。


代わりに、


彼女は令嬢たちから


「悪徳貴族退治の英雄」


として崇拝されるようになったのである。


信頼厚き公爵家令嬢のおかげで、商売はさらに信用を得て、大きくなっていった。


ある日のことだった。


その日は国王主催の、海外からの来賓をもてなすパーティが開かれていた。


アレクシス、レオン、アンドルをはじめ、多くの貴族たちが集まっている。


その中でも三人はひときわ目立っていた。


揃って顔立ちが整い、背も高い。

しかも身分も高い。


当然、女性たちから熱い視線を向けられていた。


だが、それ以上に注目を集めていた人物がいた。


リリアーナである。


彼女は主賓である海外の貴族令嬢の通訳として付き添っていた。


令嬢はとてもふくよかで、頬も腰回りもぷるぷるとしている。


その国では、ふくよかな女性こそが美人の証だった。


対するリリアーナは、ごく普通の体格である。


男性たちは遠巻きにリリアを見る。


「あれが噂の……」


その視線には憧れではなく、どこか畏怖が混じっていた。


一方で令嬢たちは次々とリリアーナの元へ集まり、主賓へ挨拶をしていた。


リリアは忙しく通訳を続ける。


そんな中、なぜか男性の声が混じった。


「おお、今日もなんという美しさ。まるで空に輝く星々の瞬きのようだ」


リリアはそれを通訳する。


「そなたは私の女神だ。どうか今日こそ私の愛を受け取ってほしい」


それも通訳する。


すると令嬢の目が感動で潤んだ。


そして勢いよく声の主に駆け寄り、抱きついた。


デルマルク子爵家の子息だった。


「うおおおお!! なんでこんなふくよかな女性が私に抱きつくのだ!」


悲鳴が会場中に響く。


だが、たくましい腕と柔らかな腹部に挟み込まれ、抜け出せない。


令嬢が早口でまくし立てる。


リリアは必死に聞き取り、通訳した。


「こんなに素敵な誉め言葉をいただいたのは初めてです。感激しました。ぜひ我が国へ婿養子として来てください、とのことです」


リリアは淡々と通訳した。


「なんでそうなるのだ! 私はそなたに向けて言ったのだ!」


子爵子息が叫ぶ。


「仕事中に個人的なお話をされても困ります。こちらは言葉を訳すだけで精一杯なのです」


リリアは顔色ひとつ変えない。


令嬢はさらに何か言った。


「身分は関係ないそうです。我が国へ連れて帰り、ふくよかにして差し上げたいとおっしゃっています」


そこへ令嬢の両親がやって来た。


「痩せていて少々貧相だが、我が国に来れば立派になるだろう。ぜひご両親に挨拶したいそうです」


リリアはにこやかに続ける。


「どなたか、子爵ご夫妻をお呼びいただけますか?」


やがて子爵夫妻が現れた。


「本当にこんなバカ息子でよろしいのですか?」


父親が開口一番そう言った。


「女性関係の問題ばかり起こして、どれだけ謝罪と慰謝料を払ったことか……」


母親も続く。


「引き取ってくださるのなら、ありがたいくらいです」


もちろんリリアは表現をやわらかくして通訳した。


そのまま訳したら国際問題になりかねない。


そして国王の許可も下りた。


デルマルク子息は海外へ婿入りすることになったのである。


「頑張って言葉を覚えてくださいね~」


リリアが笑顔で手を振る。


「なんでだああああ!!」


子爵子息の悲鳴が再び響いた。


だが翌日には、令嬢に引きずられるようにして帰国の途についた。


こうして女性たちの敵は消えたのである。


アレク、レオン、アンドルは、その一部始終をぽかんと眺めていた。


「リリアを怒らせると怖いのだな……」


三人は心の底からそう思った。


そして、


――絶対に怒らせないようにしよう。


固く誓ったのであった。


子爵ご子息さん、さようなら~~(笑)


お読みいただきありがとうございます

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