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侯爵家に引き取られた令嬢は王妃陛下の通訳になる  作者: 鶴見 日向子


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14/20

「もう少し時間をください」

レオンの処遇が決まります

国王夫妻と王太子、侯爵、そして重臣たちは、レオンの処遇について話し合っていた。


「前侯爵の隠し子という形にして、まずは侯爵の養子に迎える。その後、途絶えたエピナスチン伯爵家を継がせるのはどうだろうか」


国王が言う。


「よろしいかと存じます。あの領地は、きちんと治めれば豊かになるはずです」


侯爵がうなずいた。


かつて借金のかたとして取り上げられた領地だったが、不正な契約であったため、現在は侯爵家の管理下に置かれている。


「では、伯爵領を侯爵領へ格上げし、レオンに継がせよう。それでよいな?」


「ご本人が承諾されるのであれば」


こうして方針は決まった。


その知らせは、アレクとリリアにも届けられた。


「やった! レオンがお兄様になるのですね!」


リリアは大喜びだった。


長い間、自分を陰から支えてくれた恩人である。


さらに、自分と同じ王弟の血を引く腹違いの兄だと知り、リリアは涙を浮かべた。


「本当のお兄様だったのですね……」


「まさか、リリアも王弟の娘だったとは……」


レオンも複雑な表情を浮かべる。


「弟もできたのですよ。頼りにしています、兄上」


アレクが笑った。


もともと信頼していた護衛だっただけに、三人とも自然に受け入れることができた。


そしてレオンは、新たなエピナスチン侯爵として、かつての伯爵領へ向かうことになった。


「兄上、時間があれば遊びに行きますからね!」


アレクが手を振る。


「いや、私の本当の兄上なのだ。取るな!」


アンドルが不満そうに言う。


その言葉に皆が笑った。


一方、元エピナスチン伯爵夫人は事情を考慮され、釈放されていた。


しかし、アンドルは許さなかった。


「王弟殿下が妻にすると言ったのです……」


母は涙ながらに訴える。


だがアンドルの目は冷たいままだった。


「婚約者がいると知りながら誘いに乗ったのは、あなたです。


王弟殿下の婚約者の気持ちを考えたことはあったのですか?


そして、婚約者だった父上の気持ちは?」


母は何も答えられない。


「私はもう、あなたを母とは呼びません」


アンドルは静かに言った。


「もし父上があなたを家に戻すなら、私が家を出ます。


跡継ぎなら養子を取ればいい。


実は他にも隠し子がいるのではありませんか?」


そう言い残し、アンドルは家を出た。


そして真っ先に向かった先は、レオンのもとだった。


「将来の執事として、私を雇ってください!」


レオンは思わず笑った。


「人手は欲しいが、即決はできないな」


「では見習いでも構いません!」


二人のやり取りに、周囲も思わず笑顔になる。


その後、レオンはぽつりと言った。


「前侯爵様には感謝している。


だが、複雑でもある」


前侯爵は確かに本を届けてくれた。


勉強する機会も与えてくれた。


しかし、その一方で娘ばかりを気にかけ、跡継ぎである現侯爵には冷たかった。


恩人であることは間違いない。


だが、手放しで称賛できるわけでもなかった。


「血の繋がりとは何なのであろうな」


レオンがつぶやく。


アレクは静かに答えた。


「父には母がいた。母にも父がいた。


そして亡くなった妹が、天国から見守ってくれていると思う。


きっと妹がリリアを我が家へ導いてくれたのだ」


しばらく沈黙が流れた。


やがてアンドルが口を開く。


「もう過去は忘れましょう。


未来の糧にするのです。


残念だった、で終わらせないために」


アレクもうなずく。


「肉親の絆は血筋だけではない。


どれだけ同じ苦労を共に乗り越えたかだと思う」


そして、ふとレオンがアレクを見た。


「リリアには幸せになってほしい」


「そうですね」


「そのことだが――兄として言わせてもらう」


レオンがにやりと笑った。


「そなたは、リリアが一番苦しい時に寄り添い、支えてきた。


我々以上に、あの子を理解している」


アレクは嫌な予感がした。


「そなたがリリアを娶るのが一番よいと思う」


「は?」


アレクの思考が止まる。


「兄からの願いだ」


「い、いや、その……父上や母上のお考えもありますし、国王陛下のお許しも――」


珍しくアレクが慌てた。


レオンは楽しそうに笑う。


「夫人にとっても良い話だ。本当の娘になるのだから」


「勝手に決めないでください!」


アレクは真っ赤になって叫んだ。


「王太子殿下は腹違いの兄。


私も腹違いの兄


アンドルは家を飛び出して無職だ。


他に釣り合う相手がおるか?」


「リリアの気持ちを聞かないと!」


「では、リリアが良いと言えば問題ないのだな?」


レオンの目が楽しそうに細められる。


アレクは言葉に詰まった。


「本当の兄弟になれる日を楽しみにしている」


そう言い残し、レオンはアンドルと共に領地へ旅立っていった。


◇ ◇ ◇


アレクは考え込んだ。


「いとこ同士の結婚など、貴族では珍しくないからな……」


では、他にふさわしい相手がいるだろうか。


そう考えてみたが、誰も思い浮かばなかった。


リリアほど賢く、よく働き、人柄も良い女性を、アレクは他に知らなかったのである。


試しに王太子へ相談してみた。


すると王太子は目を潤ませながら言った。


「兄弟になろうではないか。そなたになら妹を任せられる」


そして、さらに続ける。


「血の繋がりさえなければ……。だが、そなたなら許す。幸せにしてやってくれ」


国王夫妻も大賛成だった。


「侯爵家なら何の問題もない」


国王は満足そうにうなずく。


「そちの代になったら、公爵家へ昇格させるつもりだ。


セリーという極悪人を捕らえ、さらに王弟の忘れ形見を長年守り続けてきた。その功績は大きい」


話はどんどん大きくなっていった。


そして確実に、周囲から外堀が埋められている。


だが、アレクには何かが引っかかっていた。


ある日、アレクはリリアに尋ねた。


「リリア。そなたは私と結婚する気があるのか?」


リリアはしばらく考え込んだ。


「以前、執事さんに『ずっとこの家にいてください』と言われました。


私はお嫁に行かず、このまま独身で侯爵家に仕えるつもりだったのです」


アレクは思わず額を押さえた。


「私と結婚すれば、ここにずっといられるぞ。


仕事も続けられるし、侯爵家の跡継ぎも作れる。


もちろん仕事も大事だが、跡継ぎを残すことも大切な役目だ」


自分でも思った。


――これは求婚なのか、それとも就職の斡旋なのか。


だんだんわからなくなってくる。


「リリアは、私のことをどう思っているのだ?」


貴族の結婚は、家同士で決まることが多い。


本人の気持ちなど、ほとんど考慮されない。


それでもアレクは、どうしても聞かなければならない気がしていた。


リリアは素直に答えた。


「好きです」


アレクの胸が少し高鳴る。


だが、次の言葉で力が抜けた。


「前から言っております。嫌いではありません」


「嫌いでなければいい……のか?」


アレクは遠い目になった。


そして、さらに尋ねる。


「その『好き』は、レオンに対するものより強いのか?」


リリアは目をぱちくりさせた。


「わかりません……。


レオンは恩人ですし、アンドル様も嫌いではありません」


アレクは深く息を吐いた。


そして決心する。


「もう少し時間をかけよう」


リリアが首を傾げる。


「もしかしたら、そなたが本当に好きだと思える男が現れるかもしれない。


私も、そなたはかわいいと思う。


だが、今のところ『妻』として見られる自信がない」


アレクは正直に言った。


「今の私にとって、そなたは『かわいい妹』だ。


いとこという血のつながり、それが影響している気がする」


こうして二人は、結論を先送りにすることにした。


その知らせが周囲へ伝わる。


婚約決定だと信じ込んでいた人々の落胆は大きかった。


国王夫妻。


侯爵夫妻。


執事。


騎士団。


そしてなぜか王太子まで。


「期待させておいて裏切るとは!」


アレクは四方八方から責められた。


それでも彼は頭を下げる。


「もう少し時間をください」


そう言うしかなかったのである。

期待させておいて・・・・(笑)

お読みいただきありがとうございます

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