自由に
すみません、投稿が少し遅れました。
広場を出た後にシリルに連れて行かれた店の串焼きは絶品だった。
炭で焼いた脂の滴る肉は日本の地鶏に似た味で、適度に歯ごたえがある。塩と香草の塩梅も絶妙だった。
「これ、多分ピッコリをすり込んでいるよね。こういう使い方もあるんだ」
ヒルダが塩焼きの肉を味わいながら調理法を検分する横で、シリルが「お祝いですから」と言って少々お高いコカトリスの肉に店秘蔵の果実酒まで注文してくれる。
三人は御馳走と懸案が無事済んだ解放感を思う存分味わった。
空腹も大分収まった頃、さやは果実酒片手に鳥の皮をパリパリに焼いたものを摘まみながら、シリルにバルコニーでの一件を聞いてみた。
「ねえシリル、アリアの特別な事情って、あのAランクヒーラーなの?」
シリルはうなずいて説明した。
「三か月前、聖女殿がサンクアロー王国の王太子との婚儀を望んでいると、彼女のガーディアンが協会に連絡してきました。王太子妃になれば、当然彼女はこのアリアを拠点とすることになります。そうなれば闇祓いもアリア及びサンクアロー王国が最優先となる。Aランクヒーラーが自国の闇を祓ってくれるなら、他のヒーラーにこだわる必要は無い訳ですよ。この情報は協会のガーディアンと調査員には知らされていたのですが、本決りになるまでは緘口令が敷かれていたので、サヤさんにも話すことが出来ませんでした」
「なる程ねえ。道理でこの都がキレイなわけだ。王太子様に惚れ込んだAランクヒーラー様に念入りに祓って貰えるなら、そりゃ闇も無くなるわ」
ヒルダは腑に落ちたようだが、さやの方はかなり納得出来ない。
「——Aランクヒーラーがどこで暮らすかなんて、凄く大事なことじゃないの? だって、ヒーラーの数はとても少ないんでしょう? こう、もっと闇祓いが必要な所を重点的に回れるような所で暮らすべきだとか、協会は考えないの?」
するとヒルダがいささか困惑顔で言った。
「記憶が無いとそんな考え方になるんだねえ。あたしなんか、ヒーラー様ってのはそんな風に生きるものだって思ってるからなあ。まあ協会に登録しないでその国専属にでもなれば、そりゃ自由ってわけには行かないだろうけど。でもそんな事はその国の王族でもなければあり得ないしね」
さやはハッとした。
(そうか、ヒーラーにはほぼ無制限の自由が許されていたんだ……)
自分が魅力的だと思ったヒーラーの自由さは、当然パトリシアにも許されているのだ。
誰と結婚しようが、どこで暮らそうが、彼女の〝自由〟だ。
「まあ、それでも協会側も彼女に頼んで、少なくとも本決まりになるまでは発表しないようにして貰ったんですよ。依頼者が不安を抱くことが無いよう、彼女に来ている依頼を公表前に他のヒーラー殿に振り分ける必要がありましたから」
「…………どうして」
「は?」
けげんな顔をするシリルにさやは自分の疑問をぶつけた。
「どうしてヒーラーはそこまで自由でいられるの? 世界にいるヒーラーがこれだけ少ないのなら、ヒーラーの自由を全て奪ってでも効率的に闇を祓わせようと、協会はどうして考えないの?」
シリルはまじまじとさやを見つめて尋ねた。
「自由でいる事が、お嫌ですか?」
「そうじゃない! あたし個人としては大歓迎よ! ……だけど、それは正しい事なの? 世界全体の事を考えたら、改めるべきじゃないの?」
〝ヒーラー様、どうか世界全体の事をお考え下さい〟
さやの心には、今でもアデラ検査官の言葉が残っている。
彼女がその後しでかした事を考えれば、果たして彼女自身が自国以外の事を考えていたかは非常に怪しい。ただ、あの言葉自体は正しかったのではないかと考えてしまうのだ。
さやが煩悶していると、シリルがこう言った。
「サヤさん、シナ村での闇祓いを為した時、あなたは能力が発現してまだ数カ月だった。本来ならそれだけの潜在能力があったとしても、能力が発現してから核を祓うに至るまでには相当な期間が、それこそ数年は必要とされます。にも関わらずあなたはあの教会に潜む百以上の核を見事に祓ってのけた。それは、あなたがヒルダさんを始めとするシナ村の人々に強いシンパシーを抱いていたからでしょう。いわばあなたの〝私心〟がシナ村を救ったと共に、あなたの核を祓う能力も信じられない程の早さで引き出した」
「…………」
「闇祓い能力はあなたの様に、そのヒーラー殿の〝意欲〟で非常に大きく左右されます。我々は、協会はこう考えているのです。ヒーラー殿にその御意思を無視した闇祓いを強いるよりも、何ものにも強要されずにヒーラー殿がその思いのままに闇祓いを為す方が、余程多くの闇が祓われるのだと。それは聖女殿も同じです。例え闇祓いがサンクアロー王国に限定されるのだとしても、聖女殿が意欲的に祓われる闇は、祓う場所を強制された時に比べて遥かに多いでしょう。サヤさん、世界全体の事を考えるからこそ、協会は出来る限りヒーラー殿の自由意思を尊重するのですよ」
シリルはサヤに微笑んだ。
「そして、あなたがそうした事をお考えなら、その思いのままに行動なさって下さい。あなたは自由で、私はあなたの願いを補佐するガーディアンなのだから」
明日も20時頃更新の予定です。
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